愛人を切れないのなら離婚してくださいと言ったら子供のように駄々をこねられて困っています

永江寧々

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番外編

奇跡を産み落とすまで

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「ダーメだダメだ! ベッドにいてくれ!」

 妊娠してからトリスタンは過保護すぎるほど過保護になった。
 安定期までは重たい物や忙しくはしない。公務も控えめにして安静にしていること。医者にそう言われてから公務が激減した。
理由はもちろん夫のせい。だが、ユーフェミアはうるさくは言えなかった。これが最初で最後の妊娠かもしれない、いや、きっとこれが最初で最後。年齢的なこともあるし、もう一度妊娠というのはリスクが高すぎる。これはきっと神様が起こしてくれた奇跡だと二人は思っていた。
 安定期までは絶対安静と言われているが、トリスタンの過保護さは異常で「動いてはダメだ」「ベッドの上で過ごすんだ」「移動したい時は僕が運ぶ」とジッとしているよう言われる。これにはラモーナもエリオットも呆れていたが、大事なことだと納得している部分もあった。毎日忙しい日々を送っているのだから休暇だと思えばいいと言われるも日頃から忙しくしていたからこそゆっくりすると言うことがいまいちわからないでいる。
 各国や国民からの祝福の手紙への返信ぐらいは許されそうだと机に向かって手紙の返信を書く。しかし、トリスタンが様子を見にきたことでバレて怒られてしまう。

「手紙の返信が一通や二通なら許す。でもそうじゃないだろう!何通あると思っているんだ!何百通という手紙に目を通すだけで疲れてしまうのに!」
「暇なんです」
「じゃあ僕が絵本を読んであげよう。お腹の子に読み聞かせも兼ねてな」と言ってベッドに腰掛け、ユーフェミアに隣に腰掛けるようにベッドを叩く。

 本当に絵本を読み聞かせるトリスタンだが、あまりの下手さに笑ってしまう。

「読み聞かせるならもっと上手にしないとお腹の子が混乱しますよ」と言って手本を見せるように絵本を読み聞かせる。

 施設に行って読み聞かせることが多いためユーフェミアは慣れている。
 絵本の読み聞かせをするユーフェミアを見てエリオットもラモーナも優しい顔になる。

「――王さまと王妃さまは幸せに暮らしました。おしまい」

 優しい声で終わりを告げて隣を見るとトリスタンはいつの間にか眠っていた。

「大きな子供ですね」
「本当にね」

 ラモーナの言葉に笑うユーフェミアは飾り枕に預けていた体を下へとズラして横になる。

「少し寝るわ」
「はい」

 そう言って寄り添うユーフェミアに小さな返事をしたラモーナは2人に毛布をかけてエリオットと共に部屋を出て行った。

「安定期に入るまで大変そうですね」
「安定期に入るまでだといいけどな」

 エリオットの予想は当たった。
 安定期を過ぎてもトリスタンの言動は変わらなかった。

「ダメだダメだダメだダメだ!もしものことがあったらどうするつもりだ!」

 ずっとこう。安定期は過ぎ、医師からは「少しぐらい運動も必要だから散歩してくださいね」と言われているのにトリスタンはそれさえも許さない。
 彼が言う「もしものこと」をユーフェミアも心配していないわけではない。
 だが、医師から運動も必要だと言われれば動かないわけにはいかないのだ。
 しかし、それをトリスタンに伝えれば確実に医師はクビになる。

「もしものことがあったら責任取れるのか!?」と詰め寄るのは間違いない。
 医師が言うのだから間違いないと言っても、一度は裏切られているため簡単には信用しなくなってしまった。
 あまりにもしつこいため「何があってもこの子は産みますから」と言ったら異常なほど怒られたことがあり、ユーフェミアは言い返すに言い返せなくなっている。

「僕が言っているのは君のことだ!」

 大声で怒られて驚いた。

「この子にはもちろん生まれてきてほしい。それは心から願っている。長年願い続けてきた妊娠だからな。だが、僕はもしもがあった時、君の命を優先する」

 トリスタンがそう言うのはわかっていたつもりだ。彼は1人では生きていけない。子供がいるからと父親として立派に背中を見せて生きていくことはできないだろう。だが、ユーフェミアはお腹の子に生まれてきてほしいと思ってしまう。自分が命をかけてでも産みたいと。

「今あるこの命が奇跡だと言うことはわかっている。もう二度とないかもしれない。だが、僕たちには既に狂おしいほどに愛しい我が子がいる。この子だけではない。だから、もしもの時は君の命を優先する」
「陛下……」
「わかってくれるな?」
「……もちろんです」

 それ以来、ユーフェミアはどう返事をすればいいのかわからず、返事に困っている。

「散歩はさせてください」
「ユーフェミアユーフェミアユーフェミア」

 首を振りながら言うトリスタンにユーフェミアも首を振る。

「散歩にはラモーナもエリオットも一緒です」
「そうです!ユーフェミア様が転ばれた時は私が下敷きになりますからご心配なく!陛下はどうぞお仕事に専念してください!」
「俺も何があろうとお守りします」
「エリオットが触れることが腹が立つ」
「護衛騎士なのですから触れることぐらいあります」
「ダメだ!」
「もうっ!公務に戻ってください!」

 ユーフェミアが妊娠してからトリスタンの仕事が進まないとブラッドリーが嘆いていた。
 どう過ごしているか心配でたまらないと貧乏ゆすりをする陛下に王族の品性はカケラも見えないと言うものだからユーフェミアもなんとかして安心させたいのだが、これがまた難しい。
 突き放すように言えばガーンッと音にしてショックを受け、執務室に戻ってからは泣きっぱなしで公務が進まないらしい。
 それでも散歩に行かなければならないという責任感がある以上はトリスタンの心配を聞き入れているわけにはいかないと部屋を出た。

「エリオット卿の言う通りでしたね」
「陛下は心配性だからな」
「気持ちはわかるんだけど……オーバーよね」
「素晴らしい奇跡ですから陛下のお気持ちもわかります」
「それは同じなんだけど……生まれるまでベッドの上で生活しろなんて過保護通り越して狂気よ」
「あはは……」

 それにはさすがに擁護できずラモーナの顔にも苦笑が滲む。

「それだけ楽しみにしていると言うことですよ」
「女の子だったらうるさいわよ……」
「結婚相手なんて絶対に見つけないでしょうね」
「結婚なんてまだ早い!結婚相手は僕が見つける!」
「僕より良い男じゃなきゃダメだ!」
「ッ!……やめて……」

 続いたラモーナの真似にユーフェミアが笑いを堪える。
 もしトリスタンがラモーナと同じことを言えばきっとその場にいた者たちはこう思うだろう。

(ツッコミ待ちだろうか?)と。

 トリスタンは自分のことをよくわかっている。自分を美青年だとは思っていないし、背が高いとも思ってはいない。けして顔が整っていないわけではないのだが、レオンハルトやルーク達と並ぶとわかってしまう。キラキラがないこと。

「侮辱でしかないぞ、ラモーナ」
「ユーフェミア様も笑ったじゃないですか!」
「ユーフェミア様は妻だからいいんだ。お前は使用人だろう。首をはねられるぞ」
「その時はエリオット卿も一緒ですからね!」
「なんで俺まで一緒なんだ!俺は何も言ってないじゃないか!」
「笑ってたでしょ!」
「笑ってない!」
「はいはい、そこまで。私が笑ったからいけないの。ごめんなさい」

 パンパンッと手を叩いて言い合いをやめさせると庭のベンチに腰掛けて大きく息を吐き出した。

「世の中の母親は偉いわ。命を宿して産むんだから」

 ずっと願っていた懐妊は想像していたよりもずっと大変で気苦労が多い。口にこそ出さないものの、いつも「大丈夫だろうか」と心配している。これを十ヶ月も続けるのだから世の母親は素晴らしいと絶賛したくなった。

「ラモーナもいつか母になるのよ」
「私は老婆になってもユーフェミア様のお傍で使用人をしていたいです」
「ラモーナが老婆になった頃、私は何歳なの?」

 想像して笑ってしまうユーフェミアにラモーナも笑う。

「エリオット卿も一緒ですよね?」
「は?」
「だって、ユーフェミア様が亡くなられるまで護衛騎士でいるつもりでしょう?」
「まあ、そうだな」
「もう、2人ともそんなこと言わないで家族を持ちなさい」
「「いやです」」

 2人揃っての拒否にユーフェミアは苦笑する。
 慕ってくれているのは嬉しい。でも2人には2人の人生があって、今はまだ若いからそう思えているが歳をとれば考えることも出てくる。しかし、強要はできない。結婚しないのも2人の人生なのだから。

「ユーフェミア~!」

 声が聞こえる方に顔を向けると執務室の窓から身を乗り出して手を振るトリスタンが見えた。
 立ち上がって下まで移動するユーフェミアに何度も手を振る。

「散歩はどうだ?転んでいないか?お腹は痛くないか?疲れていないか?」
「陛下の質問攻めに疲れます」
「ああ、そうか。じゃあやめよう。散歩は楽しいか?」
「とても。お日様が気持ちいいです」
「そうか。僕はこれから昼休憩に入る。一緒にそこでランチなんてどうだ?」
「二時間経ったら昼休憩にしましょうね」
「う~!」

 ランチには二時間早い。
 しれっと昼休憩などと言うトリスタンに笑顔で返せば地団駄を踏んでいるのだろうトリスタンが揺れる。

「ユーフェミア、愛しているぞ」
「わたくしもです、陛下」
「無理だけはしないようにな。気持ちいいからといって長く歩き過ぎないように」
「心得ております」
「うむ、ならよいのだ」

 物分かりがいい大人な一面もちゃんと持っているのがまたユーフェミアをクスッと笑わせる。
 子供なだけではないし、大人な時ばかりでもない。
 きっとまだ成長する。彼なら子供のレベルに合わせて遊んでやるだろうし、時に親としての背中も見せるだろう。

「テレンスはもう起きましたか?」
「まだ眠っている。さっき少し目を覚ましたが、すぐに寝てしまった。起きたら連れて行く」
「はい」

 トリスタンはいつもテレンスのベビーベッドを執務室に置いている。
 テレンスは長男だから今のうちから親の背中を見せておくのだと意味のわからないことを言い出した時は「ああ、本当にどうしたものか」と思ったユーフェミアだが、テレンスは生まれてくるお腹の子よりも長い時間をトリスタンと過ごすことになる。
 トリスタンが王として学んできたように、トリスタンも王として親としてテレンスに王とは何かを教えていくのだ。
 それが楽しみであり心配でもある。

「テレンス殿下、本当に美しいですよね」
「狙うなよ」
「テレンス殿下が私に惚れるかもしれないじゃないですか!」
「お前みたいな芋っぽい女に惚れるわけないだろ」
「はあ!? メイドと王子の恋物語は少なくないんですからね!」
「実際にはありえないから物語として売れるんだろ。ありふれた日常の物語なら誰も買わない」
「ぐぅっ!」

 言い合えるほど仲のいい2人がくっつけばいいのにとユーフェミアはいつも思うが、2人の間にそういう感情は一切ないらしく、ユーフェミアの希望で終わる。
 仲の良い2人を見ているのが好きだった。

 結局、トリスタンの過保護は出産まで続いた。

 出産時

 助産師の指示に従って必死に踏ん張るユーフェミアに声をかけるも怒鳴り散らされる。

「トリスタン! 今すぐ向こうへ行かないと蹴飛ばすわよ!」
「で、でも初めての出産だし! 僕が傍にいた方が安心するんじゃ……」
「さっさと行って!離婚されたいの!?」
「行きます!」

 愛人を作った理由を話した時でさえ見せなかった鬼の形相。
 余裕がないユーフェミアの大声と口調にここで従わなければ間違いなく離婚されると慌てて廊下へと出ていった。
 ドアの側にはエリオットが立っていて、産まれる瞬間を今か今かと待っている。

「僕は夫なのに……」
「出産というのは命懸けですから」
「だからこそ夫である僕が傍にいる方がいいんじゃないか」
「経験したことのない痛みと感覚に襲われている最中に頑張れと言われると相手を殺したくなるぐらい腹が立つそうです」
「そ、そんなに……?」
「命懸けで頑張っている最中に頑張れと言われると腹が立つと。助産師の言葉だけで十分なのでしょう」
「夫なのに……」

 夫という立場は絶対ではないことをトリスタンは知らない。両親の仲が良く、父を蔑ろにしなかった母。それなのに自分は一番大切な出産というシーンで外へ放り出された。
 だからこそ「夫」という言葉を頻繁に使って自分の立場を再確認しようとしている。

「出産中の顔を見られたくないというのもあるそうですね」
「なぜだ? ユーフェミアはいつだって美しいぞ」
「それはそうですが、踏ん張っている顔というのは普段絶対に人には見せない顔ですし」
「ずっと見ていたが、彼女はいつもと変わらず美しかった。子を産もうと懸命になっているユーフェミアの光り輝く顔は聖母のようだった」

 エリオットは正直、トリスタンが好きではない。幼稚な言動でユーフェミアを悲しませ困らせてきた張本人。全てユーフェミアのためだったと言っても悲しませていた事実は変わらない。どれほどの苦痛と悲しみを抱えてきたか、トリスタンは知らないのだ。
 傍で見てきたエリオットからすればトリスタンは夫という地位を上手く利用して事態を丸く収めたようにしか思えないでいた。
 だが、この無償の愛だけは尊敬している。歯を食いしばって汗をかき、顔を歪めている姿さえも聖母のように美しいと、光り輝いていたと言うのはさすがだと。

「早く出てきてー!」
「ッ! ユーフェミア頑張れ!」

 怒声にも似た叫び声に慌てて振り返ったトリスタンがドアに両手をついてユーフェミアの声に負けんばかりの大声で応援する。

「うるさいッ!!!!!!!」

 ドア越しでさえもうるさいと怒鳴るユーフェミアにトリスタンは眉を下げる。

「中に入って手を握っていたいのに……」
「追い出された以上は待っていましょう」
「僕が護衛騎士と同じ場所で待たされるなんて……」

 結局、産声が聞こえるまでトリスタンは中に入ることは許されず、エリオットと同じ場所で立ち尽くしていた。

「陛下、女の子ですよ!」
「ユーフェミア!」

 産声が聞こえて部屋に飛び込んできたトリスタンに助産師が生まれたての赤ん坊を見せるもトリスタンは前を通り過ぎて真っ先にユーフェミアに駆け寄った。

「ユーフェミア! 大丈夫か!?」
「ええ……大丈夫です」
「ああ、君が無事でよかった。本当によかった」

 疲れ果てた顔を見せるユーフェミアだが、駆け寄ってきたトリスタンに笑顔を向けるとトリスタンは汗まみれのユーフェミアの顔に頬を寄せる。ユーフェミアは嫌そうな顔をするが、トリスタンは気にしない。

「娘を抱いてあげてください」
「ああっ、そうだった!」

 ユーフェミアの言葉で振り返ると助産師がすぐ傍で生まれたばかりの娘を抱えて待っていた。

「僕たちの娘だ……。また愛おしい我が子が増えたんだな。息子に娘……こんな幸せがあっていいのだろうか……」

 娘を抱いたトリスタンの瞳から大粒の涙が溢れる。
 テレンスを迎えた時もそうだった。嬉しいと笑ったり愛おしいと泣いたり――

「よく頑張ってくれたな、ユーフェミア。僕たちの子を産んでくれてありがとう」

 何度も感謝を口にするトリスタンの顔が子供のように歪んでいくのを見てユーフェミアは笑う。
 笑うのもしんどいが、トリスタンを見ていると自然と笑みが溢れる。

「殿下をお連れしました」
「テレンス、お前の妹だぞ」

 ユーフェミアの声に怯えてはいけないからとラモーナに任せていたテレンスが到着した。エリオットが迎えにいったのだろう。

「ユーフェミア様……お、お疲れ様でございました」

 トリスタンはマリアをユーフェミアの傍に寝かせてからテレンスを受け取り、手ぶらになったラモーナはベッドの側に膝をついてユーフェミアの手を両手で握って声を震わせながら涙を流して言葉をかける。
 今まで、ユーフェミアはずっと、子供がいる女性は子供を産んだ「だけ」と言って自分を慰めていた。だが、こうして経験すると「だけ」とは到底言えないほどの事件であることを知った。出産経験を“尊い“と言っていた国民や施設の女性たちの言葉の意味をようやく理解したユーフェミアは疲労感や達成感を全身で味わえていることが幸せだった。

「ありがとう、ラモーナ。これからもたくさんお世話かけると思うわ」
「もちろんです! そうしていただかなければ困ります!」
「エリオット、来て」
「……はい」

 エリオットの中に不安があった。エリオットにとって人生を、命をかけるのはユーフェミアの護衛。しかし、前に言われた「我が子の護衛」という言葉を思い出し、女の子が生まれた今、それを頼まれるのではないかという不安。
 ユーフェミアの命令なら聞くしかない。お願いでもエリオットは承諾するだろう。本当はユーフェミアの傍を離れたくはないが、自分は騎士に他ならない。意見できる立場ではないのだ。

「あなたにもこれからたくさんお世話になると思うの。テレンス、そしてこの子――」
「マリアだ」

 そうだと思ったと笑ってしまう。

「マリアのこと、ラモーナと一緒にお願いね」
「もちろんです」

 テレンスがベッドに乗せられ、赤ん坊を興味津々な様子で見ている。この2人を守ることも騎士としての自分の役目なのだと胸に刻んで頷いた。
 信頼は裏切りたくない。

「護衛から外れるということではないからね? わたくしが公務の時は一緒に行ってくれると助かります」

 ユーフェミアもエリオットの気持ちはわかっている。外したからといって不真面目になるような責任感のない男ではない。
 しかし、2人はまだ護衛など必要ない。世話をする使用人がいればそれで。
 それでもあと4年か5年もすれば護衛が必要になる。エリオットに頼むのが一番安心できるが、どうすべきかと悩んでいた。

「陛下、これよりマリア王女のお清めをさせていただきますので、ご退室願います」
「わかった。ユーフェミア、本当にありがとう。今日はゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます」
「明日、迎えに来るからな」
「はい」

 出産直後の疲れた身体でずっと夫の相手をさせるわけにはいかないと助産師が気を利かせて声をかけた。
 テレンスを抱き上げ、ユーフェミアの頬にキスをして部屋を出て行った。
 トリスタンが来てくれたのは嬉しい。だが、今はとにかく疲れている。望んでいた子供を産んだ幸せも噛み締めていたいが、今はただただ休みたい。

「王妃陛下も身体を清められましたら、お休みください」
「ありがとう」

 身体を清め、もう一度マリアを腕に抱いて頬を寄せる。

 国民へのお披露目はいつにしようか。
 どういう形でのお披露目にしようか。

 考えることは山ほどあるのに今は何も考えられず、マリアがベッドに運ばれていくのを見送ってすぐ、ユーフェミアも泥のように眠った。
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