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幸せな未来の想像
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「今、なんと……」
トリスタンから呼び出しを受けたエリオットは耳を疑っていた。
「二度同じことを言うのは嫌いなのだが、今のそなたは名誉の負傷を受けている騎士だからな。もう一度言うぞ?」
「どうしてそのような言い方をなさるのですか? もう一度言うことがそんなにも惜しいですか?」
「ユーフェミア、君は黙っていてくれ」
「わかりました。黙っているわたくしは必要ないでしょうから帰ります」
「ま、待ってくれ! すまない! 僕の言い方が悪かった! 謝るから帰らないでくれ!」
トリスタンが来いと言うから一緒に来たユーフェミアが帰ろうとするのを慌てて止めるトリスタンに王の威厳はない。
「家臣の前で情けない姿は見せたくないのに」
「言い方に気をつけると約束したではありませんか」
「そ、そうだけど、王としてやはり威厳を見せつけなければならないだろう?」
「陛下」
「はい」
ピシャリと強く呼ばれると従うしかない。散々やらかしてきたトリスタンがユーフェミアに勝てるはずもなく、子供のように頬を膨らませてからエリオットを見た。
「そなたに馬と金貨五十枚、そして二級騎士に昇格させる」
「……は?」
二度目だが、やっぱり聞き間違いとしか思えない内容をエリオットは受け入れようとしない。
「ユーフェミア、エリオットはペレニアで治療を受けさせよう。脳を負傷しているに違いない」
「エリオット、陛下のお言葉は理解できてる?」
「は、はい」
「大丈夫そうですね」
「いや、危ない。僕に三度も言わせようとするのだから脳が損傷を受けている。ペレニアで治療を──」
「陛下」
「はい」
追い出そうとするトリスタンにスッと目を細めると静かになる。
あの事故があってから一ヵ月が経っているのだから大丈夫だと言ってもユーフェミアがまだ安静にしているように言うためベッドの上にいるが、エリオットはもう動き回れるほど回復をしている。
「爵位のほうがいい?」
「ま、まさか! そのようなこと、お受けするわけにはいきません! 俺はユーフェミア様の護衛騎士としてやるべきことをやっただけです。馬や金貨は必要ありません!」
「いらないと言ってるぞ、ユーフェミア。王が授けると言っているのに断る騎士は騎士か?」
「王が授ける物を断っただけで騎士かどうか疑う王は王ですか?」
「君はいつもエリオットを庇う! 夫は僕だぞ! 僕なのに!」
玩具を取り上げられた子供のように騒ぐトリスタンを無視してエリオットを見た。
「エリオット、これは感謝としてあなたに贈るの。受け取ってもらえないのは困るわ」
「俺は、ユーフェミア様の護衛騎士でいたいんです。二級になれば護衛はできません」
二級騎士になれば専属の任務に配属される。エリオットにとってユーフェミアの護衛以上に大切な任務はなく、名誉を授かりたくない理由だ。
その理由が下心だなんだと騒ぐトリスタンに眉を寄せたユーフェミアは立ち上がりトリスタンの鼻を掴み
「お静かにしていただけないのなら追い出しますよ」
「ふぁ、ふぁい……」
怒っているのがわかる態度に大人しくなったトリスタンに溜息をついて振り返ると不安そうなエリオットと目が合った。自分の護衛騎士でいたいと思ってくれる忠誠心が嬉しいと微笑むユーフェミアが告げる。
「あなたはわたくしが選んだ騎士なのだから、あなたが二級騎士になろうとそれは変わらないわ」
安堵の表情に変わったエリオットをトリスタンは面白くないと言いたげな表情を向ける。
「両陛下よりの褒美、騎士エリオット、謹んでお受けいたします」
片膝をついて胸に手を当てながら頭を下げるエリオットにフンッと鼻を鳴らすトリスタンに笑顔を向けるユーフェミア。
「陛下、今日は別々に寝ますか?」
「絶対に嫌だ!」
叫ぶトリスタンに「よろしい」と頷いたあと、部屋を出るエリオットを廊下まで見送った。
「自分に気がある者を傍に置いておくのはどうかと思うぞ」
「愛人を四人抱えていた陛下が言うと説得力がありますね」
「う~! あ、そうだ! ブラッドリーとエリオットを交換しよう! それがいい!」
「陛下」
「はい、すいません」
大人になったかと思えば以前のようにこうして完全に子供な一面を見せることも多く、成長期は終わってしまったかと思うユーフェミアだが、人差し指を突き合わせながらいじけたような態度を見せるトリスタンの頬に手を伸ばして撫でるだけで嬉しそうに笑う彼のこの単純さが愛おしいと感じるのはやはり相手を愛しているからなのだと実感する。
恐ろしく感じるときもあれば呆れてしまうときもある。だが、やはり最後に残るのは愛おしいという感情。呆れさせる子供のような相手も、恐怖を感じさせる裏の顔もその全てが愛おしいと思うのだ。
「あーあ、僕はエリオットの授与式よりルークの娘が見たい」
「そうですね」
ヴィクターはいなくなったのだからもう馬車に乗って出かけても大丈夫なはず。馬は暴れない。危険もない。だけど、それをユーフェミアに言うことはできない。今更、彼女を手放すことはできないのだから。
国民には王が必要。世継ぎもいない自分が国を捨てればアステリアは終わる。この国を、民を守るためにはユーフェミアを失うわけにはいかない。
だからトリスタンは黙っている。ヴィクターがしたことも、ヴィクターがどうなったかも全て秘密にしておくことにした。
「大丈夫でしょうか……」
「なに、問題はないさ。遠回りにはなるが、安全な道を案内したから心配するな」
出産して間もないリリアナに長距離は負担がかかるだろうが、危険な近道より安全な遠回りのほうがいいと提案した。ルークはリリアナに残れと言ったらしいが、リリアナが全力で拒否したらしい。
「ふはっ、リリアナは強いな」
「どうしたのです、急に」
急に吹き出したトリスタンに問うと首を振られる。
「ルークはリリアナが心配だから残れと言ったらしい。自分が赤子を見せに行くからと。しかしリリアナは嫌だと反論し、こう言ったそうだ。『産んだのはわたくしです!』とな」
「まあ」
「母になって更に強くなったのだろう。ルークが尻に敷かれるのもすぐだな」
「陛下も直にそうなるかもしれませんよ?」
次、リリアナが生んだ子は自分たちの子として迎え入れる約束。トリスタンは子育てに協力的すぎるのが容易に想像がつき、尻に敷かれるという言葉に自分も容易に想像がつくのか何度も頷く。
「男は女の尻に敷かれているほうがいいと父上が言っていた。女の機嫌が良ければ女は男に尽くしてくれる。そのためにはまず男が女に尽くさなければならない。実際、父上は母上によく尽くしていた。母上の機嫌が悪いときは二人で策を練ってご機嫌取りをしたものだ」
「意外です」
前王テレンスが亭主関白のように見えたわけではない。前王妃マリアがかかあ天下に見えたわけでもない。二人は無条件に仲睦まじい夫婦だと勝手に思っていただけにテレンスが尽くしていたと聞いて驚いた。
「僕は君に尽くしてくれとは思わない。君は尽くされる側の女性なのだからな。だから僕は働き蟻のようにせっせと君に運ぶつもりだ」
「餌を?」
「愛を、だ」
「ふふっ、もう抱えきれないほどいただいてますよ」
「抱えきれなくていい。君がこぼした物は僕が拾い上げてまた君に届ける」
「こぼし続けますよ?」
「僕が拾い続けるからいいさ」
トリスタンの愛はいつもこうだ。抱えきれないぐらい大きくて、大きすぎるが故に間違える。五年もその愛に苦しんだ。でも、もう二度と起こらないだろうと思うと途端に愛おしくなる。我ながらなんとも単純だと苦笑すると勘違いしたトリスタンが眉を下げる。
「今まで以上にだぞ! 赤ん坊とわたくし、どちらが大事なのですか!と言われないようにしないとな。もちろん君だと断言するが、それを息子に聞かせるのは酷だろう? だから僕は君が勘違いしないように、勘違いもできないように愛を運び続ける」
トリスタンの言葉におかしそうに笑うユーフェミアの頬は少し赤らんでいた。トリスタンはまだまだ幼稚で考えが至らない男であるのは間違いない。妻の不妊を一生隠していようと思っていたことも、性欲発散のために愛人を囲っていたことも、トリスタンの身勝手が生んだもの。腹が立つことも呆れることも涙することもあった。それでもその根源にあるのは彼なりの愛であった。愛情だけは誰よりも大きく重い。それだけはユーフェミアも断言できる。
「でも陛下はきっとこう叫ばれるのでしょう? 僕と息子、どっちが大事なんだ、って」
「当たり前じゃないか。僕は父親になっても君の一番は譲らん。息子を泣かせてもな」
断言するトリスタンに堪えきれず吹き出して笑うユーフェミアの腰に腕を伸ばして抱きしめる。
「想像できます」
「そうだろう? 僕は世界で一番愚かな男だが、世界で一番君を愛している男でもあるんだ」
「知ってます」
額を合わせて笑い合う二人。世界で一番愛おしい男が他の女を抱き続けた事実は変えられないし、きっと死ぬまでそのことが永遠に頭を過るだろう。それを許すと心から言える日が来るとも思えない。それでも愛することをやめられないからトリスタンが口にする愛を否定しない。
この愛が本物であり、永遠と変わらないこともまた真実であり、信じられるものだから。
トリスタンから呼び出しを受けたエリオットは耳を疑っていた。
「二度同じことを言うのは嫌いなのだが、今のそなたは名誉の負傷を受けている騎士だからな。もう一度言うぞ?」
「どうしてそのような言い方をなさるのですか? もう一度言うことがそんなにも惜しいですか?」
「ユーフェミア、君は黙っていてくれ」
「わかりました。黙っているわたくしは必要ないでしょうから帰ります」
「ま、待ってくれ! すまない! 僕の言い方が悪かった! 謝るから帰らないでくれ!」
トリスタンが来いと言うから一緒に来たユーフェミアが帰ろうとするのを慌てて止めるトリスタンに王の威厳はない。
「家臣の前で情けない姿は見せたくないのに」
「言い方に気をつけると約束したではありませんか」
「そ、そうだけど、王としてやはり威厳を見せつけなければならないだろう?」
「陛下」
「はい」
ピシャリと強く呼ばれると従うしかない。散々やらかしてきたトリスタンがユーフェミアに勝てるはずもなく、子供のように頬を膨らませてからエリオットを見た。
「そなたに馬と金貨五十枚、そして二級騎士に昇格させる」
「……は?」
二度目だが、やっぱり聞き間違いとしか思えない内容をエリオットは受け入れようとしない。
「ユーフェミア、エリオットはペレニアで治療を受けさせよう。脳を負傷しているに違いない」
「エリオット、陛下のお言葉は理解できてる?」
「は、はい」
「大丈夫そうですね」
「いや、危ない。僕に三度も言わせようとするのだから脳が損傷を受けている。ペレニアで治療を──」
「陛下」
「はい」
追い出そうとするトリスタンにスッと目を細めると静かになる。
あの事故があってから一ヵ月が経っているのだから大丈夫だと言ってもユーフェミアがまだ安静にしているように言うためベッドの上にいるが、エリオットはもう動き回れるほど回復をしている。
「爵位のほうがいい?」
「ま、まさか! そのようなこと、お受けするわけにはいきません! 俺はユーフェミア様の護衛騎士としてやるべきことをやっただけです。馬や金貨は必要ありません!」
「いらないと言ってるぞ、ユーフェミア。王が授けると言っているのに断る騎士は騎士か?」
「王が授ける物を断っただけで騎士かどうか疑う王は王ですか?」
「君はいつもエリオットを庇う! 夫は僕だぞ! 僕なのに!」
玩具を取り上げられた子供のように騒ぐトリスタンを無視してエリオットを見た。
「エリオット、これは感謝としてあなたに贈るの。受け取ってもらえないのは困るわ」
「俺は、ユーフェミア様の護衛騎士でいたいんです。二級になれば護衛はできません」
二級騎士になれば専属の任務に配属される。エリオットにとってユーフェミアの護衛以上に大切な任務はなく、名誉を授かりたくない理由だ。
その理由が下心だなんだと騒ぐトリスタンに眉を寄せたユーフェミアは立ち上がりトリスタンの鼻を掴み
「お静かにしていただけないのなら追い出しますよ」
「ふぁ、ふぁい……」
怒っているのがわかる態度に大人しくなったトリスタンに溜息をついて振り返ると不安そうなエリオットと目が合った。自分の護衛騎士でいたいと思ってくれる忠誠心が嬉しいと微笑むユーフェミアが告げる。
「あなたはわたくしが選んだ騎士なのだから、あなたが二級騎士になろうとそれは変わらないわ」
安堵の表情に変わったエリオットをトリスタンは面白くないと言いたげな表情を向ける。
「両陛下よりの褒美、騎士エリオット、謹んでお受けいたします」
片膝をついて胸に手を当てながら頭を下げるエリオットにフンッと鼻を鳴らすトリスタンに笑顔を向けるユーフェミア。
「陛下、今日は別々に寝ますか?」
「絶対に嫌だ!」
叫ぶトリスタンに「よろしい」と頷いたあと、部屋を出るエリオットを廊下まで見送った。
「自分に気がある者を傍に置いておくのはどうかと思うぞ」
「愛人を四人抱えていた陛下が言うと説得力がありますね」
「う~! あ、そうだ! ブラッドリーとエリオットを交換しよう! それがいい!」
「陛下」
「はい、すいません」
大人になったかと思えば以前のようにこうして完全に子供な一面を見せることも多く、成長期は終わってしまったかと思うユーフェミアだが、人差し指を突き合わせながらいじけたような態度を見せるトリスタンの頬に手を伸ばして撫でるだけで嬉しそうに笑う彼のこの単純さが愛おしいと感じるのはやはり相手を愛しているからなのだと実感する。
恐ろしく感じるときもあれば呆れてしまうときもある。だが、やはり最後に残るのは愛おしいという感情。呆れさせる子供のような相手も、恐怖を感じさせる裏の顔もその全てが愛おしいと思うのだ。
「あーあ、僕はエリオットの授与式よりルークの娘が見たい」
「そうですね」
ヴィクターはいなくなったのだからもう馬車に乗って出かけても大丈夫なはず。馬は暴れない。危険もない。だけど、それをユーフェミアに言うことはできない。今更、彼女を手放すことはできないのだから。
国民には王が必要。世継ぎもいない自分が国を捨てればアステリアは終わる。この国を、民を守るためにはユーフェミアを失うわけにはいかない。
だからトリスタンは黙っている。ヴィクターがしたことも、ヴィクターがどうなったかも全て秘密にしておくことにした。
「大丈夫でしょうか……」
「なに、問題はないさ。遠回りにはなるが、安全な道を案内したから心配するな」
出産して間もないリリアナに長距離は負担がかかるだろうが、危険な近道より安全な遠回りのほうがいいと提案した。ルークはリリアナに残れと言ったらしいが、リリアナが全力で拒否したらしい。
「ふはっ、リリアナは強いな」
「どうしたのです、急に」
急に吹き出したトリスタンに問うと首を振られる。
「ルークはリリアナが心配だから残れと言ったらしい。自分が赤子を見せに行くからと。しかしリリアナは嫌だと反論し、こう言ったそうだ。『産んだのはわたくしです!』とな」
「まあ」
「母になって更に強くなったのだろう。ルークが尻に敷かれるのもすぐだな」
「陛下も直にそうなるかもしれませんよ?」
次、リリアナが生んだ子は自分たちの子として迎え入れる約束。トリスタンは子育てに協力的すぎるのが容易に想像がつき、尻に敷かれるという言葉に自分も容易に想像がつくのか何度も頷く。
「男は女の尻に敷かれているほうがいいと父上が言っていた。女の機嫌が良ければ女は男に尽くしてくれる。そのためにはまず男が女に尽くさなければならない。実際、父上は母上によく尽くしていた。母上の機嫌が悪いときは二人で策を練ってご機嫌取りをしたものだ」
「意外です」
前王テレンスが亭主関白のように見えたわけではない。前王妃マリアがかかあ天下に見えたわけでもない。二人は無条件に仲睦まじい夫婦だと勝手に思っていただけにテレンスが尽くしていたと聞いて驚いた。
「僕は君に尽くしてくれとは思わない。君は尽くされる側の女性なのだからな。だから僕は働き蟻のようにせっせと君に運ぶつもりだ」
「餌を?」
「愛を、だ」
「ふふっ、もう抱えきれないほどいただいてますよ」
「抱えきれなくていい。君がこぼした物は僕が拾い上げてまた君に届ける」
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トリスタンの愛はいつもこうだ。抱えきれないぐらい大きくて、大きすぎるが故に間違える。五年もその愛に苦しんだ。でも、もう二度と起こらないだろうと思うと途端に愛おしくなる。我ながらなんとも単純だと苦笑すると勘違いしたトリスタンが眉を下げる。
「今まで以上にだぞ! 赤ん坊とわたくし、どちらが大事なのですか!と言われないようにしないとな。もちろん君だと断言するが、それを息子に聞かせるのは酷だろう? だから僕は君が勘違いしないように、勘違いもできないように愛を運び続ける」
トリスタンの言葉におかしそうに笑うユーフェミアの頬は少し赤らんでいた。トリスタンはまだまだ幼稚で考えが至らない男であるのは間違いない。妻の不妊を一生隠していようと思っていたことも、性欲発散のために愛人を囲っていたことも、トリスタンの身勝手が生んだもの。腹が立つことも呆れることも涙することもあった。それでもその根源にあるのは彼なりの愛であった。愛情だけは誰よりも大きく重い。それだけはユーフェミアも断言できる。
「でも陛下はきっとこう叫ばれるのでしょう? 僕と息子、どっちが大事なんだ、って」
「当たり前じゃないか。僕は父親になっても君の一番は譲らん。息子を泣かせてもな」
断言するトリスタンに堪えきれず吹き出して笑うユーフェミアの腰に腕を伸ばして抱きしめる。
「想像できます」
「そうだろう? 僕は世界で一番愚かな男だが、世界で一番君を愛している男でもあるんだ」
「知ってます」
額を合わせて笑い合う二人。世界で一番愛おしい男が他の女を抱き続けた事実は変えられないし、きっと死ぬまでそのことが永遠に頭を過るだろう。それを許すと心から言える日が来るとも思えない。それでも愛することをやめられないからトリスタンが口にする愛を否定しない。
この愛が本物であり、永遠と変わらないこともまた真実であり、信じられるものだから。
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