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「ああは言ったが、僕は立派な王ではない。オーガスタやバーナード、ルドラ、君たちに比べれば王としての歴も浅く、中身はレオンハルトやハオラン、きっとルークよりも子供だろう」
自分がどれほど子供っぽい人間なのか、トリスタンはわかっている。
「オーガスタ王がしていることを人身売買だと批難しておきながら、僕も愛人を抱えている」
「なっ!?」
「なんじゃと!?」
「冗談だろ!?」
何も知らないルーク以外、心底驚いた顔を見せる王たちにトリスタンはそれが真実であると伝えるようにハッキリと頷く。
「彼女は……ユーフェミアは知っているのか?」
「ああ」
「受け入れているのか?」
「いや……」
世界で一番仲が良いと言われていた夫婦は実は裏では愛人問題を抱えていて、妻は夫の愛人の存在を知っていても認めてはいない。
皆、心のどこかでは「ユーフェミアの素晴らしさを受け止める心の整理を~」と言い出すのではないかと思っていたのだ。それがまさか愛人の話などと誰も想像していなかっただけに驚きを隠せない面々は、ただ心配そうにトリスタンを見ている。
「なぜお前が愛人など……」
世界で誰よりも妻を愛している男が愛人を作った理由はなんだとルドラが聞いた。
「……ルドラのように愛人をも愛している者の前でこのような言い方は恥でしかないが、一言で言えば……性欲処理のためだ」
どこか明るい口調で言おうとしているのは伝わってくるが、空元気でしかない。
「詳しく話せ」
ルドラの言葉にトリスタンは一度頷いて、ふーっと息を吐き出す。どこからどこまで話すべきか迷っていた。
この男たちは誰かに話したりはしないとわかっているが、受け入れられるかはまた別の話。それでも今後もずっと彼らに嘘をつき続けたくはなかった。離婚問題が起きているのに世界一仲が良い、何の問題もない夫婦なのだと言い続けることは、トリスタンにはできない。
「……皆も知っての通り、僕は種無しと言われている。実際は種が極端に少なく、弱いと。だから未だに子を授からせてやれないでいるのだ」
相手をどれだけ信頼していようとも、不妊の原因がユーフェミアにあるということだけは口が裂けても言うつもりはなかった。
「そこで僕は、種を強くするために毎日精の付く料理を食べ続けている。朝も昼も夜も。馬鹿げた話だが、それ故に……みなぎってる。異常なほどにな」
「なんでそこまでするんだ? 子供ができないなら養子でもいいだろ。養子を迎える王族は珍しくはないぞ」
「僕は子供が欲しいんじゃない。ユーフェミアとの子供が欲しいんだ。彼女に子を抱かせてやりたい。母にしてやりたいのだ。そなたらにならわかるだろう、我が子を抱いたとき喜びが」
新婚のルーク以外全員が子持ち。わからないとは言えない。
「僕たちはまだ赤子を抱いたことがない。いや、他人の子ならある、公務で行った孤児院で生まれたばかりの赤子を抱いた。その時のユーフェミアの姿が忘れられないんだ。幸せそうで、愛おしそうで……」
思い出して目を潤ませるトリスタンは五年前の光景を昨日のことのように思い出す。赤子を抱いて微笑むユーフェミアの顔を。どこか羨ましそうに、寂しそうにも見えたあの顔を。
「僕の種が強ければ届くのではないかと思って、食事を変えたのはいいが、そうすると性欲がおかしくなって……」
「ユーフェミアを抱けばいいだろう」
「僕は、性欲を自分勝手に彼女にぶつけたくないんだ。彼女との行為は愛のためであって僕の欲をぶつけるためではない」
「数打ちゃ当たるって言葉もあるぞ」
「それも考えたが、毎日となると彼女が疲弊する。そして、行為自体を嫌いになってしまうかもしれない。子は欲しい。でもその感情だけで行為自体を義務にはしたくない。僕が彼女を抱くのは愛の証明であって、欲のためじゃない」
トリスタンもわかっている。下手な鉄砲も数を撃てばどれかが当たると。だが、それをするには戸惑いがあった。
ずっと、自分の種が弱い少ないということでユーフェミアを納得させてきた。ユーフェミアの食事が自分と違うのはユーフェミアの美しさを保つための特別なメニューだと言って誤魔化してきたが、実際は自分と同じ物を食べさせるわけにはいかないとついた嘘だ。
アードルフにはユーフェミアにこそ食べさせるべきだと言われたが、トリスタンがそれを拒んだ。
「我が子を抱かせてやりたいんだろ? 母にしてやりたいんだろ? 撃たなきゃ当たらねぇぞ。大事な種がユーフェミアじゃなく、愛人に当たったらどうするつもりだ?」
ルドラの言葉に苦笑するトリスタン。
「もう当たった」
また全員が固まった。
「避妊はしていなかったのか? まさかな」
ユーフェミアを愛していながら避妊しないなどありえないとルドラが首を振るとトリスタンはまた、ふーっと息を吐き出す。
「避妊はしていたさ。だが、医師が……裏切ったのだ。四人いる愛人のうち、三人はとても良い子だ。己が立場を理解し、利口に過ごしてくれている。だが、一人は……ユーフェミアを王妃の座から引きずり降ろそうと考えた悪魔だった」
「子はどうするんだ?」
「子などいない」
「あ?」
「僕が子と呼ぶのはユーフェミアとの間に生まれてきてくれた子か、ユーフェミアが選んだ子だけだ」
笑顔で答えるトリスタンが冗談を言っているようには見えず、皆それぞれに顔を見合わせる。
種無しと言われた王の種がよりにもよって愛する妻ではなく性処理の愛人に当たってしまったのは悲劇としか言えない。しかし、その子供は間違いなく王の血を引く者。正統な跡継ぎなのだ。それを愛人との子であるが故に自分の子と呼ばないというのはあまりにも────そう考えたところで決めるのはトリスタンであり、他国の王には止める権利さえない。
「医師に色目を使ってスポンジを外させた悪魔は既に地獄へ帰らせた。医師は国外追放で済ませたが、同じように地獄へ帰すべきだったか今も考えている」
静かに呟くトリスタンを不気味に思うのは、今の姿が普段とはあまりもかけ離れているから。
「トリスタン、これは俺が言うべきことじゃないのかもしれないが……」
「なんだ?」
顔を上げたトリスタンの表情はいつも通りで、それがまた不気味だった。
「いっそもう抗うのはやめて、優秀な子を引き取ってはどうだ? お前たちがそれを気にしないのならな?」
「それも考えているさ」
「だが、ユーフェミアももう三十四歳だろう。急がなければならないぞ」
「まだ三十四歳だ。それもなったばかり。まだ若い」
「リスクがあるのは彼女だ。男のお前がそれを軽く考えるな」
宿すのも産むのも女であって男ではない。『まだ』とか『もう』と言うのが許されるのは産む本人だけであって、特に男は絶対に言ってはいけないことを過去に失敗しているルドラは知っている。
「一度、ユーフェミアにもその食事を食べさせてみてはどうじゃ? 翌日の公務は日を変更して、一歩も外へ出ない日を作ってもよいのではないか?」
「ユーフェミアが嫌がる。公務を変更してまで営みに励むのは違うと」
「欲しいのじゃろう?」
「欲しいさ。だが、彼女は王妃でもある。それはできない」
「お堅いのう」
「真面目なだけだ」
本来であれば子供ができにくいユーフェミアに精のつく料理を食べさせるべきだったのはトリスタンもわかっている。だが、できないのは自分のせいだと嘘をついたことで、それもできなくなってしまった。見慣れぬ変な物が出てきたとき、それを疑問に思うだろうし、食べたあとに湧き上がる性欲をおかしくも思うだろう。そうなれば怪しむのは間違いない。
そう考えるとトリスタンには何もできなかった。
自分にできることはなんだと考えたとき、頭に浮かんだのは「自分の精を今より強くすればいいのではないか」ということだった。それがどんなに危険なことかわかっていながらもそれしか思い浮かばず、この十年ずっと続けてきた。そして起こった最悪の事態。
アードルフに相談した際に『王の種を異物と思い、攻撃しているのかもしれません』と言われたときの絶望は心臓が止まりそうになるほどショックが大きかったが、それでもトリスタンはそれなら攻撃に負けないように強くしようと前向きに考え行動していた。それを更なる絶望に落としたのがティーナの一言。
ティーナを愛人に選んだのは自分。ティーナでなければユーフェミアにバレることもなかったのかもしれないのにと、全てが裏目に出ているような気がしてテーブルに顔を伏せたくなった。
「オーガスタ王、そなたは愛人二人に子ができたらどうするつもりだ?」
「そうじゃのう……とりあえずは産ませるじゃろうな。跡継ぎは既におる。その次の跡継ぎもな。不自由させぬだけの財産を与え、それを条件に一筆書かせる」
「寛大だな」
とりあえず産ませるということは自分の血を引く者がいるということ。時を経て忘れてしまったとしても、いつかどこかで思い出す日は必ずくる。ユーフェミアとの子ではない子、それでも自分の血を引く子がこの世界のどこかにいるのだということを、ほんの一瞬でも考える日があるのが嫌だった。
オーガスタのように王の子であることを口外しない約束をさせようと、頭から消えない問題があるのは耐えられないと首を振る。
「愛人が身ごもったことをユーフェミアは知っているのか?」
「ああ」
どうすると言ったのか、ルドラは聞きたかった。それでもそこまで踏み込むのは無粋だろうかと迷いがあって一度口を閉じた。
「ユーフェミアなら育てると言うだろうが、それはまたじっくり話すつもりだ。彼女ならわかってくれるさ」
その言葉だけで跡継ぎにはしないというトリスタンの意思が伝わってくる。
「しかし、四人も愛人を抱えなければならないぐらいなのか?」
「必要なければ愛人など作らないさ」
「ユーフェミアの前でイチャついたりはしてないんだな?」
「僕がユーフェミア以外とイチャつくわけがないだろう」
愛人四人には驚いたが、トリスタンの態度が変わらないことで納得できたとそれぞれが息を吐き出した。
「お前が離婚されていないことが不思議なぐらいだ」
「彼女は許してくれていた」
トリスタンの言葉にルドラが首を振る。
「許してくれてたんじゃない。我慢してくれてただけだ。それもお前のためじゃなく、国のため、民のためにな」
トリスタンが顔を上げ、ルドラを見るとルドラはその目つきを強めてもう一度首を振った。
「いいか? お前が秘密にするその全てがユーフェミアのためであろうとユーフェミアが納得していなければ所詮はお前の独りよがりにすぎん。なんとしてでも種を強くしたいから食事を変えた。そしたら性欲が抑えられなくなった。でも君にはその欲望をぶつけたくないから愛人を囲いたいと正直に言えばいい。子供が欲しいから頑張っているのだと言えばいいものを、自分だけの考えで夫婦の間に隠し事を作るのは最低な行為だぞ。裏切りだ」
ルドラが言った『独りよがり』の言葉にトリスタンは目を瞬かせている。
自分は努力している。でもその努力の結果が性欲の増幅では情けないと、この世で最も愛している相手に素直に話せず離婚問題を口に出させてしまった。何も言わず愛人を増やし続け、離婚したいと言った妻を受け入れず拒絶した。見放されても仕方のない男だ。それなのにユーフェミアはまだ離婚はしないで傍にいてくれている。白紙に戻すとさえ言ってくれた。
彼女の優しさと申し訳なさに涙が出そうだった。
「お前の愛人問題はお前だけの問題だ。ユーフェミアに落ち度があるわけじゃない」
「当然だ! 彼女は完璧な女性だ! 全部僕が悪いんだけだ!」
「なら、ちゃんと話せ。お前が一番大切なのは誰だ? 自分か?」
「ユーフェミアに決まってる! 彼女は僕の光だ。僕を照らし、導いてくれる柔らかな光」
「本当にそう言えるか? 俺にはお前が自分だけを大切にしているように思えるがな」
「そんなことは……!」
言われた言葉に言い返そうとするも言葉が出てこなかった。
ユーフェミアは自己主張が強い女ではない。それが愛人を切ってほしいと言ってきた。限界だったのだ。それがわかっていたはずなのに切らなかったのはなぜか。愛しているのはユーフェミアだと言いきれるのに、誰よりも愛しているのに、言い返せないのは切らなかった理由がトリスタンの中でハッキリしていたから。
「ああ……僕は……ユーフェミアの我慢の上で胡坐をかいて自分を愛していたのか……」
愛だなんだと叫んでいた自分が行っていたのは自慢ではなく茶番劇。
幼稚な王だと陰口を叩かれても気にしていなかったのは、自分のことを知らない人間に何を言われても気にならないからだったのだが、自分が思うよりずっと周りは知っていたのだと自嘲さえ込み上げる。
「こんなにも望んでいるのに与えないとは、神は僕の何が気に入らないんだろうな。両親を奪い、子を与えず……」
この中で子を持っていないのはルークとトリスタンだけ。ルークは結婚したばかりで、二年後には子供を抱いているかもしれない。
二十年という決して短くはない年月。十五歳だった少年は三十五歳になった。その間ずっと、愛する我が子を待ち続けているというのに残酷にも一度だって与えられはしない。
種の有無一つで男の尊厳はなくならないが、それも男の尊厳の一つであることに違いはないと王たちは静かに同情する。
「……こんな最低な男を……彼女はもう一度愛してくれるだろうか……」
我慢しているとわかっていたはずなのに、どうすればユーフェミアが口を出さなくなるかわかっていたからそれを利用して何年も愛人を囲ってきた。
最終的にユーフェミアのためになればと、きっとユーフェミアのためになると言い訳を正論のように自分に言い聞かせて行動してきた自分がいかに最低で、いかに愚かであるかをハッキリと自覚したトリスタンは一点を見つめながらポツリと呟く。
「ユーフェミアとちゃんと話し合え。お前たちにとって何が一番良い方法なのかをな」
こくんと頷いたトリスタンの背中をルドラが軽く三回叩いた。その叩き方が昔、父親に慰められたときの感じに似ていて、トリスタンは涙がこぼれそうになるのを出てもいない鼻をすすることで堪えた。
「ルーク」
「は、はい!」
慌てて立ち上がったルークを見上げるトリスタンは顎をテーブルに乗せ、既に王の威厳はなく、ただのだらしない三十五歳としてそこに存在している。
さっきまでの儚げな姿はどこへ行ったのだろうと思うルークは緊張しながら言葉を待つ。
「もし、そなたらに子供ができたら、一度でいい……ユーフェミアに抱かせてやってくれないか?」
優しい声色にルークは驚くもすぐに頷いて「もちろんです」と返事をした。
「ユーフェミアは子育ての経験はないから、リリアナの悩みを解決してやることはできないだろうが、それでも悩みを聞くことはできる。仲良くしてやってくれとリリアナに伝えてくれ」
「はい!」
ルークは純粋に嬉しかった。レオンハルトは王として若いと言われても王になって七年は経っている。自分はまだ王になったばかりで右も左もわからない。
この世界会議で何の発言もできず、ただ聞いているばかりだった自分が情けなくて、これからこのメンバーの中に入るのだと思うと緊張が解けずに不安ばかり抱いていた。それがこうしてトリスタンが声をかけてくれたことで交流を持つキッカケが作れた。
何より、ルークは妻であるリリアナの名前をトリスタンが知ってくれていたことが嬉しかった。
「リリアナは天使のように美しいと聞いたぞ。どれ、顔でも見に行くかの」
「クリスティアナを呼べ! オーガスタ王の悪癖が出るぞ!」
「心配はいらん。十四歳の娘に手を出すほど落ちぶれてはおらん」
言葉とは裏腹に急にキリッとした表情に変わったオーガスタの言葉を誰も信じてはおらず、ルークはどうすればいいのかとトリスタンやルドラを見るも座るよう手で促され、不安なまま腰かけると代わりにトリスタンが立ち上がった。
「今年もこうして皆に会えたこと、心から嬉しく思う。今年は……特別だったな。普段は話さないことを話し、僕も少しだけ気持ちの整理がついた気がする。皆のおかげだ、ありがとう」
酒を飲んでいようと真面目に世界の情勢について話す一年に一度の世界会議も今年は世界情勢についてよりも自分達について話す時間のほうが長かった。だが、それがトリスタンにとって実りのある話だったと言える。
「皆の話を聞いて、愛人を作る男がどれほど身勝手なのかよくわかった」
オーガスタとルドラが大声で笑うのを見て、他の王立ちも小さくではあるが笑っていた。
「また来年もこうして誰一人欠けることなく会えることを願っている」
皆が一斉に頷くのを見てトリスタンも頷き返す。
「では、愛する妻を迎えに行くぞ!」
拳を掲げて声を張るもそこは誰もオーッとノってはくれず、ルークだけが小さく拳を上げていた。
自分がどれほど子供っぽい人間なのか、トリスタンはわかっている。
「オーガスタ王がしていることを人身売買だと批難しておきながら、僕も愛人を抱えている」
「なっ!?」
「なんじゃと!?」
「冗談だろ!?」
何も知らないルーク以外、心底驚いた顔を見せる王たちにトリスタンはそれが真実であると伝えるようにハッキリと頷く。
「彼女は……ユーフェミアは知っているのか?」
「ああ」
「受け入れているのか?」
「いや……」
世界で一番仲が良いと言われていた夫婦は実は裏では愛人問題を抱えていて、妻は夫の愛人の存在を知っていても認めてはいない。
皆、心のどこかでは「ユーフェミアの素晴らしさを受け止める心の整理を~」と言い出すのではないかと思っていたのだ。それがまさか愛人の話などと誰も想像していなかっただけに驚きを隠せない面々は、ただ心配そうにトリスタンを見ている。
「なぜお前が愛人など……」
世界で誰よりも妻を愛している男が愛人を作った理由はなんだとルドラが聞いた。
「……ルドラのように愛人をも愛している者の前でこのような言い方は恥でしかないが、一言で言えば……性欲処理のためだ」
どこか明るい口調で言おうとしているのは伝わってくるが、空元気でしかない。
「詳しく話せ」
ルドラの言葉にトリスタンは一度頷いて、ふーっと息を吐き出す。どこからどこまで話すべきか迷っていた。
この男たちは誰かに話したりはしないとわかっているが、受け入れられるかはまた別の話。それでも今後もずっと彼らに嘘をつき続けたくはなかった。離婚問題が起きているのに世界一仲が良い、何の問題もない夫婦なのだと言い続けることは、トリスタンにはできない。
「……皆も知っての通り、僕は種無しと言われている。実際は種が極端に少なく、弱いと。だから未だに子を授からせてやれないでいるのだ」
相手をどれだけ信頼していようとも、不妊の原因がユーフェミアにあるということだけは口が裂けても言うつもりはなかった。
「そこで僕は、種を強くするために毎日精の付く料理を食べ続けている。朝も昼も夜も。馬鹿げた話だが、それ故に……みなぎってる。異常なほどにな」
「なんでそこまでするんだ? 子供ができないなら養子でもいいだろ。養子を迎える王族は珍しくはないぞ」
「僕は子供が欲しいんじゃない。ユーフェミアとの子供が欲しいんだ。彼女に子を抱かせてやりたい。母にしてやりたいのだ。そなたらにならわかるだろう、我が子を抱いたとき喜びが」
新婚のルーク以外全員が子持ち。わからないとは言えない。
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思い出して目を潤ませるトリスタンは五年前の光景を昨日のことのように思い出す。赤子を抱いて微笑むユーフェミアの顔を。どこか羨ましそうに、寂しそうにも見えたあの顔を。
「僕の種が強ければ届くのではないかと思って、食事を変えたのはいいが、そうすると性欲がおかしくなって……」
「ユーフェミアを抱けばいいだろう」
「僕は、性欲を自分勝手に彼女にぶつけたくないんだ。彼女との行為は愛のためであって僕の欲をぶつけるためではない」
「数打ちゃ当たるって言葉もあるぞ」
「それも考えたが、毎日となると彼女が疲弊する。そして、行為自体を嫌いになってしまうかもしれない。子は欲しい。でもその感情だけで行為自体を義務にはしたくない。僕が彼女を抱くのは愛の証明であって、欲のためじゃない」
トリスタンもわかっている。下手な鉄砲も数を撃てばどれかが当たると。だが、それをするには戸惑いがあった。
ずっと、自分の種が弱い少ないということでユーフェミアを納得させてきた。ユーフェミアの食事が自分と違うのはユーフェミアの美しさを保つための特別なメニューだと言って誤魔化してきたが、実際は自分と同じ物を食べさせるわけにはいかないとついた嘘だ。
アードルフにはユーフェミアにこそ食べさせるべきだと言われたが、トリスタンがそれを拒んだ。
「我が子を抱かせてやりたいんだろ? 母にしてやりたいんだろ? 撃たなきゃ当たらねぇぞ。大事な種がユーフェミアじゃなく、愛人に当たったらどうするつもりだ?」
ルドラの言葉に苦笑するトリスタン。
「もう当たった」
また全員が固まった。
「避妊はしていなかったのか? まさかな」
ユーフェミアを愛していながら避妊しないなどありえないとルドラが首を振るとトリスタンはまた、ふーっと息を吐き出す。
「避妊はしていたさ。だが、医師が……裏切ったのだ。四人いる愛人のうち、三人はとても良い子だ。己が立場を理解し、利口に過ごしてくれている。だが、一人は……ユーフェミアを王妃の座から引きずり降ろそうと考えた悪魔だった」
「子はどうするんだ?」
「子などいない」
「あ?」
「僕が子と呼ぶのはユーフェミアとの間に生まれてきてくれた子か、ユーフェミアが選んだ子だけだ」
笑顔で答えるトリスタンが冗談を言っているようには見えず、皆それぞれに顔を見合わせる。
種無しと言われた王の種がよりにもよって愛する妻ではなく性処理の愛人に当たってしまったのは悲劇としか言えない。しかし、その子供は間違いなく王の血を引く者。正統な跡継ぎなのだ。それを愛人との子であるが故に自分の子と呼ばないというのはあまりにも────そう考えたところで決めるのはトリスタンであり、他国の王には止める権利さえない。
「医師に色目を使ってスポンジを外させた悪魔は既に地獄へ帰らせた。医師は国外追放で済ませたが、同じように地獄へ帰すべきだったか今も考えている」
静かに呟くトリスタンを不気味に思うのは、今の姿が普段とはあまりもかけ離れているから。
「トリスタン、これは俺が言うべきことじゃないのかもしれないが……」
「なんだ?」
顔を上げたトリスタンの表情はいつも通りで、それがまた不気味だった。
「いっそもう抗うのはやめて、優秀な子を引き取ってはどうだ? お前たちがそれを気にしないのならな?」
「それも考えているさ」
「だが、ユーフェミアももう三十四歳だろう。急がなければならないぞ」
「まだ三十四歳だ。それもなったばかり。まだ若い」
「リスクがあるのは彼女だ。男のお前がそれを軽く考えるな」
宿すのも産むのも女であって男ではない。『まだ』とか『もう』と言うのが許されるのは産む本人だけであって、特に男は絶対に言ってはいけないことを過去に失敗しているルドラは知っている。
「一度、ユーフェミアにもその食事を食べさせてみてはどうじゃ? 翌日の公務は日を変更して、一歩も外へ出ない日を作ってもよいのではないか?」
「ユーフェミアが嫌がる。公務を変更してまで営みに励むのは違うと」
「欲しいのじゃろう?」
「欲しいさ。だが、彼女は王妃でもある。それはできない」
「お堅いのう」
「真面目なだけだ」
本来であれば子供ができにくいユーフェミアに精のつく料理を食べさせるべきだったのはトリスタンもわかっている。だが、できないのは自分のせいだと嘘をついたことで、それもできなくなってしまった。見慣れぬ変な物が出てきたとき、それを疑問に思うだろうし、食べたあとに湧き上がる性欲をおかしくも思うだろう。そうなれば怪しむのは間違いない。
そう考えるとトリスタンには何もできなかった。
自分にできることはなんだと考えたとき、頭に浮かんだのは「自分の精を今より強くすればいいのではないか」ということだった。それがどんなに危険なことかわかっていながらもそれしか思い浮かばず、この十年ずっと続けてきた。そして起こった最悪の事態。
アードルフに相談した際に『王の種を異物と思い、攻撃しているのかもしれません』と言われたときの絶望は心臓が止まりそうになるほどショックが大きかったが、それでもトリスタンはそれなら攻撃に負けないように強くしようと前向きに考え行動していた。それを更なる絶望に落としたのがティーナの一言。
ティーナを愛人に選んだのは自分。ティーナでなければユーフェミアにバレることもなかったのかもしれないのにと、全てが裏目に出ているような気がしてテーブルに顔を伏せたくなった。
「オーガスタ王、そなたは愛人二人に子ができたらどうするつもりだ?」
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オーガスタのように王の子であることを口外しない約束をさせようと、頭から消えない問題があるのは耐えられないと首を振る。
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その言葉だけで跡継ぎにはしないというトリスタンの意思が伝わってくる。
「しかし、四人も愛人を抱えなければならないぐらいなのか?」
「必要なければ愛人など作らないさ」
「ユーフェミアの前でイチャついたりはしてないんだな?」
「僕がユーフェミア以外とイチャつくわけがないだろう」
愛人四人には驚いたが、トリスタンの態度が変わらないことで納得できたとそれぞれが息を吐き出した。
「お前が離婚されていないことが不思議なぐらいだ」
「彼女は許してくれていた」
トリスタンの言葉にルドラが首を振る。
「許してくれてたんじゃない。我慢してくれてただけだ。それもお前のためじゃなく、国のため、民のためにな」
トリスタンが顔を上げ、ルドラを見るとルドラはその目つきを強めてもう一度首を振った。
「いいか? お前が秘密にするその全てがユーフェミアのためであろうとユーフェミアが納得していなければ所詮はお前の独りよがりにすぎん。なんとしてでも種を強くしたいから食事を変えた。そしたら性欲が抑えられなくなった。でも君にはその欲望をぶつけたくないから愛人を囲いたいと正直に言えばいい。子供が欲しいから頑張っているのだと言えばいいものを、自分だけの考えで夫婦の間に隠し事を作るのは最低な行為だぞ。裏切りだ」
ルドラが言った『独りよがり』の言葉にトリスタンは目を瞬かせている。
自分は努力している。でもその努力の結果が性欲の増幅では情けないと、この世で最も愛している相手に素直に話せず離婚問題を口に出させてしまった。何も言わず愛人を増やし続け、離婚したいと言った妻を受け入れず拒絶した。見放されても仕方のない男だ。それなのにユーフェミアはまだ離婚はしないで傍にいてくれている。白紙に戻すとさえ言ってくれた。
彼女の優しさと申し訳なさに涙が出そうだった。
「お前の愛人問題はお前だけの問題だ。ユーフェミアに落ち度があるわけじゃない」
「当然だ! 彼女は完璧な女性だ! 全部僕が悪いんだけだ!」
「なら、ちゃんと話せ。お前が一番大切なのは誰だ? 自分か?」
「ユーフェミアに決まってる! 彼女は僕の光だ。僕を照らし、導いてくれる柔らかな光」
「本当にそう言えるか? 俺にはお前が自分だけを大切にしているように思えるがな」
「そんなことは……!」
言われた言葉に言い返そうとするも言葉が出てこなかった。
ユーフェミアは自己主張が強い女ではない。それが愛人を切ってほしいと言ってきた。限界だったのだ。それがわかっていたはずなのに切らなかったのはなぜか。愛しているのはユーフェミアだと言いきれるのに、誰よりも愛しているのに、言い返せないのは切らなかった理由がトリスタンの中でハッキリしていたから。
「ああ……僕は……ユーフェミアの我慢の上で胡坐をかいて自分を愛していたのか……」
愛だなんだと叫んでいた自分が行っていたのは自慢ではなく茶番劇。
幼稚な王だと陰口を叩かれても気にしていなかったのは、自分のことを知らない人間に何を言われても気にならないからだったのだが、自分が思うよりずっと周りは知っていたのだと自嘲さえ込み上げる。
「こんなにも望んでいるのに与えないとは、神は僕の何が気に入らないんだろうな。両親を奪い、子を与えず……」
この中で子を持っていないのはルークとトリスタンだけ。ルークは結婚したばかりで、二年後には子供を抱いているかもしれない。
二十年という決して短くはない年月。十五歳だった少年は三十五歳になった。その間ずっと、愛する我が子を待ち続けているというのに残酷にも一度だって与えられはしない。
種の有無一つで男の尊厳はなくならないが、それも男の尊厳の一つであることに違いはないと王たちは静かに同情する。
「……こんな最低な男を……彼女はもう一度愛してくれるだろうか……」
我慢しているとわかっていたはずなのに、どうすればユーフェミアが口を出さなくなるかわかっていたからそれを利用して何年も愛人を囲ってきた。
最終的にユーフェミアのためになればと、きっとユーフェミアのためになると言い訳を正論のように自分に言い聞かせて行動してきた自分がいかに最低で、いかに愚かであるかをハッキリと自覚したトリスタンは一点を見つめながらポツリと呟く。
「ユーフェミアとちゃんと話し合え。お前たちにとって何が一番良い方法なのかをな」
こくんと頷いたトリスタンの背中をルドラが軽く三回叩いた。その叩き方が昔、父親に慰められたときの感じに似ていて、トリスタンは涙がこぼれそうになるのを出てもいない鼻をすすることで堪えた。
「ルーク」
「は、はい!」
慌てて立ち上がったルークを見上げるトリスタンは顎をテーブルに乗せ、既に王の威厳はなく、ただのだらしない三十五歳としてそこに存在している。
さっきまでの儚げな姿はどこへ行ったのだろうと思うルークは緊張しながら言葉を待つ。
「もし、そなたらに子供ができたら、一度でいい……ユーフェミアに抱かせてやってくれないか?」
優しい声色にルークは驚くもすぐに頷いて「もちろんです」と返事をした。
「ユーフェミアは子育ての経験はないから、リリアナの悩みを解決してやることはできないだろうが、それでも悩みを聞くことはできる。仲良くしてやってくれとリリアナに伝えてくれ」
「はい!」
ルークは純粋に嬉しかった。レオンハルトは王として若いと言われても王になって七年は経っている。自分はまだ王になったばかりで右も左もわからない。
この世界会議で何の発言もできず、ただ聞いているばかりだった自分が情けなくて、これからこのメンバーの中に入るのだと思うと緊張が解けずに不安ばかり抱いていた。それがこうしてトリスタンが声をかけてくれたことで交流を持つキッカケが作れた。
何より、ルークは妻であるリリアナの名前をトリスタンが知ってくれていたことが嬉しかった。
「リリアナは天使のように美しいと聞いたぞ。どれ、顔でも見に行くかの」
「クリスティアナを呼べ! オーガスタ王の悪癖が出るぞ!」
「心配はいらん。十四歳の娘に手を出すほど落ちぶれてはおらん」
言葉とは裏腹に急にキリッとした表情に変わったオーガスタの言葉を誰も信じてはおらず、ルークはどうすればいいのかとトリスタンやルドラを見るも座るよう手で促され、不安なまま腰かけると代わりにトリスタンが立ち上がった。
「今年もこうして皆に会えたこと、心から嬉しく思う。今年は……特別だったな。普段は話さないことを話し、僕も少しだけ気持ちの整理がついた気がする。皆のおかげだ、ありがとう」
酒を飲んでいようと真面目に世界の情勢について話す一年に一度の世界会議も今年は世界情勢についてよりも自分達について話す時間のほうが長かった。だが、それがトリスタンにとって実りのある話だったと言える。
「皆の話を聞いて、愛人を作る男がどれほど身勝手なのかよくわかった」
オーガスタとルドラが大声で笑うのを見て、他の王立ちも小さくではあるが笑っていた。
「また来年もこうして誰一人欠けることなく会えることを願っている」
皆が一斉に頷くのを見てトリスタンも頷き返す。
「では、愛する妻を迎えに行くぞ!」
拳を掲げて声を張るもそこは誰もオーッとノってはくれず、ルークだけが小さく拳を上げていた。
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