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カスミソウ
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「ユーフェミア様、陛下からまたプレゼントが届きました」
「また……」
パレードが終わってから一週間、トリスタンからのプレゼント攻撃は留まることを知らない。
ドレス、髪飾り、ネックレス、ブローチ、ブレスレット、靴。今日は何だと想像するまでもなく箱でわかる。指輪だ。
パレードが終わった夜、ユーフェミアは何も言わなかった。離婚しますともしませんとも。ユーフェミアの中にある天秤は常に傾き続けている。片方にはトリスタンの愛人が乗り、もう片方には国民や王妃としての人生が乗っている。揺れるはずがない。それなのにユーフェミアは自分で揺らしている。愛人が乗っている皿に指をかけて重くし、自ら天秤を平等に保っている。それだけ心に彼の愛人の存在が重くのしかかっていた。
「大きなダイヤですね! 陛下の愛が伝わってきます!」
プレゼントの豪華さに侍女のラモーナはいつも自分のことのように大喜びする。
トリスタンはユーフェミアが装飾品を喜ばないことを知っているのにこうして豪華な物ばかり贈ってくる。二十年も夫婦をしているというのにトリスタンのアプローチ方法は変わらない。
(身につけている物は全て自分が贈った物だって言いたいだけなのよね)
これが愛だというのならくだらない愛だとユーフェミアは思う。
愛人問題はまだ解決していない。彼の愛が本物なのだとしたら望むのは一つ。愛する妻のために愛人を全て切ってしまうことだけ。それさえも難しいのは彼の性欲のせいか、それとも多少なりとも愛人に心があるからなのか。
(中途半端に離婚を言い出した私が悪いのよね)
トリスタンもプレゼント以外は異様なご機嫌取りはしてこない。「離婚するのか? しないだろう?」という言葉もない。いつもと変わらず忙しい日々を過ごしている。プレゼント攻撃があるため、彼も気にしていないわけではないのだとそれは伝わってくる。でも解決するつもりはないとも。
トリスタンが愛人を愛しているわけではないことは一応は理解している。妻と同じ物は愛人には食べさせないし、妻と同じ物は身につけさせてもいない。差別化はされている。なら何が不満なのかと自分に問えばそこは迷いなく「自分以外の女を抱いていること」と答えられる。
愛人のことは愛していないが、切りもしない。
トリスタンが何を考えているのかユーフェミアにはわからなかった。
「ユーフェミア様、もう一つお届け物がございます」
「二つも?」
「いえ、これは陛下からではなく国民達からです」
「国民達から?」
パレードの翌日に花が届くのは毎年のこと。馬車に入れられる花や城に届けられる花だけでも城中が花畑のようになるのに、翌日にも大量の花が届く。それは国民達の想いだとありがたく受け取ることにしているのだが、一週間も経ってから花が届いたことは二十年間で一度もない。ニ十周年というそれなりの数字に達したせいかと首を傾げながらテーブルの上に置かれた縦長の箱を見つめる。
「私が開けましょうか?」
警戒を見せるエリオットにユーフェミアは首を振る。
箱にかけられた金糸の入った真っ赤なリボンに差し込んであるカードを開くとそこにはたった一文【ご結婚ニ十周年おめでとうございます】と書いてあるだけ。国民一同とも書かれていない。
「どうしてこれが国民達からとわかったの?」
「届けに来た花屋がそう言っていたと」
ユーフェミアは〝花屋〟という言い方に引っ掛かった。
王宮に関するイベントの花は全てユーフェミアの実家の物と決まっている。それは婚約時にトリスタンが提示した婚約条件だった。
使用人は皆、ユーフェミアの両親の顔を知っている。毎月季節の花を届けに来るのは父か母。それなのに受け取った使用人が言った『花屋』には首を傾げたくなった。
「私の両親じゃなかったってこと?」
「そのようです。受け取った者に話を聞いたところ、イベント関連の花ではないので別の花屋で注文して贈ったのだと思ったとのことです」
「そう……」
花屋はユーフェミアの実家だけではなく国に何十店舗もある。イベントや城で飾る花は実家と契約しているがトリスタンやユーフェミアに贈る花をどこで買うかの指定などしていないのだからおかしな話ではない。
納得できる話だと頷くも、何かが引っかかっていた。
「ユーフェミア様、やはり私が開けます。何か飛び出してはいけませんので」
王族や皇族はパレードで命を狙われることがある。アステリア王国では一度もない事件だが、これからもないとは言いきれない。パレードから一週間は注意するようどこの国でも警戒されており、その一週間目が今日だ。
ユーフェミアを下がらせリボンを解くエリオットの険しい表情にユーフェミアとラモーナにも緊張が走る。
「花、ですね」
シュルッと音を立てて解けたリボン。剣先で弾くように開け、煙や爆発があるかもしれないと飛び退いて数秒待つもどちらもない。それどころか開けた箇所から可愛らしい白い花が見えた。
「カスミソウ?」
下に何かあるかもしれないと慎重に取り出すもそれ以外は何も見当たらない。ラモーナが花を受け取って不思議そうに全体を見回し、それに耳を当てても秒針のような音も聞こえなかった。造花ではなく本物の花。
「花束にしては変ですね? カスミソウだけなんて。お金が足りなかったとか?」
カスミソウは花束の周りに使われる脇役のような花。バラを際立たせるために使われたり、彩の中和に使用されている物をわざわざ花束にして贈るなど誰も聞いたことがない。しかも贈る相手は王妃だというのに。
「国民一同で贈るならもう少し良い花が買えたと思うんですけどね?」
ラモーナがカスミソウの束をユーフェミアに持っていくも反応がないことに首を傾げながら顔を覗きこむとユーフェミアはひどく驚いた表情をしていた。
「ユーフェミア様? どうされました?」
少し心配そうに声をかけるラモーナにハッとしたユーフェミアは慌てて取り繕った笑顔を見せて何度も首を振る。
「カスミソウだけって驚いちゃって。でもラモーナの言う通り、お金がなかったのかもしれないわね。それでも二十周年をお祝いしようと思ってしてくれた気持ちがとても嬉しいわ」
「そうですよね! 気持ちが大事ですよね!」
受け取った花束を見つめるユーフェミアの表情がエリオットは気になった。嬉しいと口にしながらも表情には戸惑いが浮かんでいるように見える。
「やっぱり愛されてますね」
「え?」
「だってユーフェミア様ってカスミソウみたいですから」
ラモーナの言葉に反応したユーフェミアが一瞬固まる。
「あ、悪い意味じゃないんです! カスミソウって花束にはなくてはならない花だと思うんですよね。色とりどりの花達を包み込んで一つにする。これがないとなんか華やかな花たちが主張し合っちゃうけど、これがあるだけで全然違う。素敵じゃないですか?」
「何が言いたいんだ?」
何が言いたいのかわからず呆れるエリオット。
「だーかーらー、色とりどりの花が陛下やエリオットさんや私、そして国民。それを包み込んで一つにしてくれるカスミソウがユーフェミア様ってことですよ!」
大きな声で言いきったラモーナにユーフェミアが小さな笑みを浮かべて抱きしめた。
「ユーフェミア様?」
「そう思ってもらえて嬉しいわ。ありがとう」
「ほら、やっぱりカスミソウです!」
嬉しそうに笑って抱きしめ返すラモーナにエリオットはまだ呆れを見せ続け首を振る。
「ユリの花とかもっと気の利いたこと言えないのか?」
「あーダメダメダメダメ! これだから男は。エリオットさん、そのお顔がなきゃモテませんね」
「なっ!」
心外だと言いたげに口を開けるもラモーナが人差し指を立てた事で口を閉じ、不満げに眉を寄せて納得のいく意見を聞こうと構えた。
「ユリの花は確かにキレイで人気です。でも私から言わせればユリなんて自己主張が強い女のような花ですよ」
「偏見がひどいな」
「だってそうじゃないですか? ユリの花一本だけプレゼントしようと思います?」
「それは……思わないが……」
「どうして?」
「一本だけならバラとかガーベラとか…大輪ではないほうがいいのではないかと、思う……から?」
顔がなければモテないと言われたことを気にしているのかエリオットは自分の意見に自信が持てなくなっているようで、どこか伺うようにラモーナを見る。
「カスミソウなんてなくても私がいればキレイな花束になるでしょ。白は私の色よって言ってるみたいで嫌いです」
「お前の好き嫌いじゃないか」
「そうですよ? でも実際、ユーフェミア様はユリではないんです。控えめで私たちを包み込んでくれる絶対になくてはならないお方なんですから」
エリオットも否定はしなかった。だが肯定もしなかった。ユーフェミアがトリスタンと離婚して廃妃になろうとしていることを知っているから、肯定することは自分たちの思いを押し付ける形になるのではないかと気を遣ったのだ。
「これ、飾っておきますね!」
「少しだけ置いておいて。あとは飾ってくれる?」
「包みこんであげないとですね!」
少量抜き取ったユーフェミアから受け取った残りのカスミソウを抱えてスキップしながら出ていったラモーナに小さな笑みを浮かべるもすぐ消えてしまうユーフェミアの前にエリオットが立つ。
「何か心配事でも?」
「……いいえ、何も。パレードの疲れがまだ残ってるみたい。歳を感じるって嫌ね。少し休むわ。外してもらえる?」
「はい」
頭を下げて出ていくエリオットを見送ってドアを閉めるとユーフェミアはそのままドアにもたれかかって床に座りこんだ。
「見間違いじゃなかった……」
パレードで一人一人と目を合わせて手を振っていた時、一人の男と目が合った。馬車が通り過ぎる一瞬だったため見間違いかと思っていたが、見間違いではないとカスミソウを見て確信する。
「どうして今更……」
カスミソウはお金のない国民がなけなしの所持金をはたいて贈ってくれたのではない。たった一人の男がユーフェミアに宛てて贈ったのだ。
確信する事実にユーフェミアはただ戸惑っていた。
「また……」
パレードが終わってから一週間、トリスタンからのプレゼント攻撃は留まることを知らない。
ドレス、髪飾り、ネックレス、ブローチ、ブレスレット、靴。今日は何だと想像するまでもなく箱でわかる。指輪だ。
パレードが終わった夜、ユーフェミアは何も言わなかった。離婚しますともしませんとも。ユーフェミアの中にある天秤は常に傾き続けている。片方にはトリスタンの愛人が乗り、もう片方には国民や王妃としての人生が乗っている。揺れるはずがない。それなのにユーフェミアは自分で揺らしている。愛人が乗っている皿に指をかけて重くし、自ら天秤を平等に保っている。それだけ心に彼の愛人の存在が重くのしかかっていた。
「大きなダイヤですね! 陛下の愛が伝わってきます!」
プレゼントの豪華さに侍女のラモーナはいつも自分のことのように大喜びする。
トリスタンはユーフェミアが装飾品を喜ばないことを知っているのにこうして豪華な物ばかり贈ってくる。二十年も夫婦をしているというのにトリスタンのアプローチ方法は変わらない。
(身につけている物は全て自分が贈った物だって言いたいだけなのよね)
これが愛だというのならくだらない愛だとユーフェミアは思う。
愛人問題はまだ解決していない。彼の愛が本物なのだとしたら望むのは一つ。愛する妻のために愛人を全て切ってしまうことだけ。それさえも難しいのは彼の性欲のせいか、それとも多少なりとも愛人に心があるからなのか。
(中途半端に離婚を言い出した私が悪いのよね)
トリスタンもプレゼント以外は異様なご機嫌取りはしてこない。「離婚するのか? しないだろう?」という言葉もない。いつもと変わらず忙しい日々を過ごしている。プレゼント攻撃があるため、彼も気にしていないわけではないのだとそれは伝わってくる。でも解決するつもりはないとも。
トリスタンが愛人を愛しているわけではないことは一応は理解している。妻と同じ物は愛人には食べさせないし、妻と同じ物は身につけさせてもいない。差別化はされている。なら何が不満なのかと自分に問えばそこは迷いなく「自分以外の女を抱いていること」と答えられる。
愛人のことは愛していないが、切りもしない。
トリスタンが何を考えているのかユーフェミアにはわからなかった。
「ユーフェミア様、もう一つお届け物がございます」
「二つも?」
「いえ、これは陛下からではなく国民達からです」
「国民達から?」
パレードの翌日に花が届くのは毎年のこと。馬車に入れられる花や城に届けられる花だけでも城中が花畑のようになるのに、翌日にも大量の花が届く。それは国民達の想いだとありがたく受け取ることにしているのだが、一週間も経ってから花が届いたことは二十年間で一度もない。ニ十周年というそれなりの数字に達したせいかと首を傾げながらテーブルの上に置かれた縦長の箱を見つめる。
「私が開けましょうか?」
警戒を見せるエリオットにユーフェミアは首を振る。
箱にかけられた金糸の入った真っ赤なリボンに差し込んであるカードを開くとそこにはたった一文【ご結婚ニ十周年おめでとうございます】と書いてあるだけ。国民一同とも書かれていない。
「どうしてこれが国民達からとわかったの?」
「届けに来た花屋がそう言っていたと」
ユーフェミアは〝花屋〟という言い方に引っ掛かった。
王宮に関するイベントの花は全てユーフェミアの実家の物と決まっている。それは婚約時にトリスタンが提示した婚約条件だった。
使用人は皆、ユーフェミアの両親の顔を知っている。毎月季節の花を届けに来るのは父か母。それなのに受け取った使用人が言った『花屋』には首を傾げたくなった。
「私の両親じゃなかったってこと?」
「そのようです。受け取った者に話を聞いたところ、イベント関連の花ではないので別の花屋で注文して贈ったのだと思ったとのことです」
「そう……」
花屋はユーフェミアの実家だけではなく国に何十店舗もある。イベントや城で飾る花は実家と契約しているがトリスタンやユーフェミアに贈る花をどこで買うかの指定などしていないのだからおかしな話ではない。
納得できる話だと頷くも、何かが引っかかっていた。
「ユーフェミア様、やはり私が開けます。何か飛び出してはいけませんので」
王族や皇族はパレードで命を狙われることがある。アステリア王国では一度もない事件だが、これからもないとは言いきれない。パレードから一週間は注意するようどこの国でも警戒されており、その一週間目が今日だ。
ユーフェミアを下がらせリボンを解くエリオットの険しい表情にユーフェミアとラモーナにも緊張が走る。
「花、ですね」
シュルッと音を立てて解けたリボン。剣先で弾くように開け、煙や爆発があるかもしれないと飛び退いて数秒待つもどちらもない。それどころか開けた箇所から可愛らしい白い花が見えた。
「カスミソウ?」
下に何かあるかもしれないと慎重に取り出すもそれ以外は何も見当たらない。ラモーナが花を受け取って不思議そうに全体を見回し、それに耳を当てても秒針のような音も聞こえなかった。造花ではなく本物の花。
「花束にしては変ですね? カスミソウだけなんて。お金が足りなかったとか?」
カスミソウは花束の周りに使われる脇役のような花。バラを際立たせるために使われたり、彩の中和に使用されている物をわざわざ花束にして贈るなど誰も聞いたことがない。しかも贈る相手は王妃だというのに。
「国民一同で贈るならもう少し良い花が買えたと思うんですけどね?」
ラモーナがカスミソウの束をユーフェミアに持っていくも反応がないことに首を傾げながら顔を覗きこむとユーフェミアはひどく驚いた表情をしていた。
「ユーフェミア様? どうされました?」
少し心配そうに声をかけるラモーナにハッとしたユーフェミアは慌てて取り繕った笑顔を見せて何度も首を振る。
「カスミソウだけって驚いちゃって。でもラモーナの言う通り、お金がなかったのかもしれないわね。それでも二十周年をお祝いしようと思ってしてくれた気持ちがとても嬉しいわ」
「そうですよね! 気持ちが大事ですよね!」
受け取った花束を見つめるユーフェミアの表情がエリオットは気になった。嬉しいと口にしながらも表情には戸惑いが浮かんでいるように見える。
「やっぱり愛されてますね」
「え?」
「だってユーフェミア様ってカスミソウみたいですから」
ラモーナの言葉に反応したユーフェミアが一瞬固まる。
「あ、悪い意味じゃないんです! カスミソウって花束にはなくてはならない花だと思うんですよね。色とりどりの花達を包み込んで一つにする。これがないとなんか華やかな花たちが主張し合っちゃうけど、これがあるだけで全然違う。素敵じゃないですか?」
「何が言いたいんだ?」
何が言いたいのかわからず呆れるエリオット。
「だーかーらー、色とりどりの花が陛下やエリオットさんや私、そして国民。それを包み込んで一つにしてくれるカスミソウがユーフェミア様ってことですよ!」
大きな声で言いきったラモーナにユーフェミアが小さな笑みを浮かべて抱きしめた。
「ユーフェミア様?」
「そう思ってもらえて嬉しいわ。ありがとう」
「ほら、やっぱりカスミソウです!」
嬉しそうに笑って抱きしめ返すラモーナにエリオットはまだ呆れを見せ続け首を振る。
「ユリの花とかもっと気の利いたこと言えないのか?」
「あーダメダメダメダメ! これだから男は。エリオットさん、そのお顔がなきゃモテませんね」
「なっ!」
心外だと言いたげに口を開けるもラモーナが人差し指を立てた事で口を閉じ、不満げに眉を寄せて納得のいく意見を聞こうと構えた。
「ユリの花は確かにキレイで人気です。でも私から言わせればユリなんて自己主張が強い女のような花ですよ」
「偏見がひどいな」
「だってそうじゃないですか? ユリの花一本だけプレゼントしようと思います?」
「それは……思わないが……」
「どうして?」
「一本だけならバラとかガーベラとか…大輪ではないほうがいいのではないかと、思う……から?」
顔がなければモテないと言われたことを気にしているのかエリオットは自分の意見に自信が持てなくなっているようで、どこか伺うようにラモーナを見る。
「カスミソウなんてなくても私がいればキレイな花束になるでしょ。白は私の色よって言ってるみたいで嫌いです」
「お前の好き嫌いじゃないか」
「そうですよ? でも実際、ユーフェミア様はユリではないんです。控えめで私たちを包み込んでくれる絶対になくてはならないお方なんですから」
エリオットも否定はしなかった。だが肯定もしなかった。ユーフェミアがトリスタンと離婚して廃妃になろうとしていることを知っているから、肯定することは自分たちの思いを押し付ける形になるのではないかと気を遣ったのだ。
「これ、飾っておきますね!」
「少しだけ置いておいて。あとは飾ってくれる?」
「包みこんであげないとですね!」
少量抜き取ったユーフェミアから受け取った残りのカスミソウを抱えてスキップしながら出ていったラモーナに小さな笑みを浮かべるもすぐ消えてしまうユーフェミアの前にエリオットが立つ。
「何か心配事でも?」
「……いいえ、何も。パレードの疲れがまだ残ってるみたい。歳を感じるって嫌ね。少し休むわ。外してもらえる?」
「はい」
頭を下げて出ていくエリオットを見送ってドアを閉めるとユーフェミアはそのままドアにもたれかかって床に座りこんだ。
「見間違いじゃなかった……」
パレードで一人一人と目を合わせて手を振っていた時、一人の男と目が合った。馬車が通り過ぎる一瞬だったため見間違いかと思っていたが、見間違いではないとカスミソウを見て確信する。
「どうして今更……」
カスミソウはお金のない国民がなけなしの所持金をはたいて贈ってくれたのではない。たった一人の男がユーフェミアに宛てて贈ったのだ。
確信する事実にユーフェミアはただ戸惑っていた。
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