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誘拐
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突然の襲撃にセシルが銃を取り出すより先に男がアリスの顎下に銃を突きつけた。
「銃を持ってんのはテメーだけじゃねんだよ、セシル・アッシュバートン」
「ッ!?」
貴族を狙ったわけではなく、この男たちはセシルをセシルだとわかって乗り込んできた。
セシルではなく、アリスに銃を突きつけた時点でセシルは赤子も同然。
「それに、こんな一般市民が溢れ返る場所で銃声響かせりゃアッシュバートン家は終わっちまうぞ」
ただでさえ一度、銃を撃って怪しまれているのに、二度も銃声がした場所にいたとなれば怪しまれるだけでは済まないだろう。
父親の許可は得ているといえど、父親は政府の人間ではない。いわば共犯も同じ。今ここでセシルが銃を撃つことは男の言う通り、アッシュバートン家の終わりを告げることになる。
こんな男に諭されるのは悔しいが、セシルは腰に回した手をゆっくりと離して両手を上げた。
「頼む、彼女だけは解放してやってくれ。無関係だ」
「キスまでしておいて無関係で通じるわけねーだろうが」
「彼女は本当に無関係なんだ!」
もう一人の男がセシルの太ももに銃口を押し付ける。
「やめてくださいッ! 私も一緒に行きますから! どうかセシルを傷つけないでください!」
悲鳴のような声に男が愉快そうに笑う。
「お嬢ちゃんのが賢いじゃねぇかよ。行きな」
窓の外にアッシュバートン家の御者が見えた。傍には男が。セシルは御者が無事で帰れることを願いながら男を睨みつけた。
「何が目的だ」
「着きゃわかる。黙ってろ」
「どうして僕なんだ!」
「それも着きゃわかる」
「答えろ!」
「セシル」
カッとなっているセシルの手を握るアリスにセシルは口を閉じるが、握り返す手には痛いほど力が入っている。
「あんま粋がんなよ、クソガキ。その女みてぇな顔に傷がついてもいいのかよ」
「おい、やめろ。無傷で連れてこいって話だろうが」
誰かの指示でセシルは誘拐された。一体誰の指示なのか、セシルの表情から見ても見当もついていないのだろう。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「答えなくてい──」
「アリスです」
相手がどこの誰かわからない、銃を持っている以上は大人しくしているのが正しいと判断したアリスはセシルを見つめたまま答えた。
眉を寄せて首を振るセシルにアリスも首を振り返す。
「賢い子は好きだぜ」
「ッ!」
「アリスに触るなッ!」
「黙ってろって言っただろ」
「ンンッ!」
銃で顎を持ち上げられたアリスに手を伸ばすセシルが布を噛まされ、大人しくしていろと頬に銃を押し付けられる。
まだ傷つけられてはいない。だからアリスは声を上げない。まだ何もされていないのだからムダに声を上げて警戒されるわけにはいかない。
「お嬢ちゃんみたいに大人しくしてりゃあいいのによ」
後ろ手を縛られたセシルのためにも自分まで縛られるわけにはいかないとアリスは反抗もせず睨みつけることもしないまま黙って馬車に揺られていた。
隣に座る男から香る不思議な匂い。セシルとは全く違う、嗅いでいると気分が悪くなるような匂いで、それは悪臭とはまた別物。コロンでもなければ香でもない。とにかく不愉快な匂い。
「身代金が目的ですか?」
誘拐犯の大多数が身代金目的である。セシルは伯爵家であるためそれなりに搾り取ることはできるだろう。
アリスもそうだ。ベンフィールド家の長女だと知れば男たちは目の色を変えて父親に要求するかもしれない。
横暴な彼らに父親が稼いだ金を渡すのは嫌だが、命が助かるのであれば払ったほうがいいに決まっている。
「そう思うよな。でもなあ、違うんだわ。俺らのボスがコイツに会いたがってるだけだ」
心当たりがなく怪訝な顔をするセシルにアリスも同じような顔をする。
会いたがっているのなら普通に会えばいい。彼らのボスはそうしなかった。誘拐して目の前まで連れてこいとでも言ったのだろう。
直接会いに行けない理由があるのだとしても誘拐に正当性はない。もし彼らのアジトに行って全員が銃を所持していたらと考えるとゾッとする。
「痛い目に遭いたくなきゃお嬢ちゃんはいい子にしてな」
「俺らのボスは女子供だろうと容赦なく殺しちまうからな」
ハッキリ聞いた『殺す』の言葉。なぜそんな物騒な人間がセシルに会いたがっているのかがわからない。
セシルを見ると目が合うも首を振るだけ。セシル自身、会いたがっているという人間に心当たりはないのだろう。あるわけがない。セシルはそれほど人と関わって生きてこなかったのだから。
ガタガタと揺れる馬車が走る山道。馬車一台がギリギリで走ることができ、少しでもミスれば崖下へと真っ逆さまな道を走っている。
街を離れてどのぐらい走っているのだろうかと考えてもアリスは時計を持っていないためわからない。わかったところで場所を特定することも誰かに伝えることもできないのだが。
馬車が停まる頃、空が少し黄昏に染まりつつあった。
「降りろ」
セシルと一緒に降ろされた場所は周りを見回しても木々しかなく、そこから街がどこにあるか見ることはできない。
山の中に隠すように建てられたのだろう建物に二人は緊張していた。
通信機が使えたとしても目印になるような物が何も見えないのでは居場所を伝えることもできない。いや、もし通信機が使えたとしても使わせてもらえないのであれば同じこと。
それを絶望に考えるのはやめようとアリスは大きく息を吐き出して男に引っ張られるがまま奥にある小屋へと向かった。
「ボス、連れてきやしたぜ!」
「傷はつけてねぇだろうな?」
「もちろんです! ちとウルセェので縛りはしましたが」
「痕が残ってりゃお前は死刑だぞ」
「あ、痕が残るほどはしてませんから大丈夫ですって!」
中は男達から感じた変わった匂いで充満していた。顔をしかめ、思わず手で鼻と口を押さえるほどの悪臭。中に漂っているこの煙はなんだろうとアリスは一瞬、中に入るのを躊躇ったが、男は何も言わずにドンッと背中を押してアリスを突き飛ばした。
「ンンーッ!」
部屋の隅に積んであった藁に倒れ込んだアリスに慌てて駆け寄ったセシルが男を睨みつける。
「お前が見るのは俺じゃなくてボスだろうが」
奥から聞こえる男の声。
部屋にいるのは四人。奥にはボスの男以外の声が聞こえることから最低でもこの小屋には七人の男がいる。どうにか隙を見て逃げ出そうにも七人の目を欺けるような状況は作り出せないだろう。
そっちのほうがずっと絶望に近い感情に襲われる。
「痕になる前に外せ」
「へい! 外してやるが、噛み付くんじゃねぇぞクソガキ」
男がセシルを縛っていた物を二つ取って解放するとセシルはすぐにアリスを抱きしめた。
「アリス大丈夫? 怪我はない?」
「大丈夫よ」
頬に触れて心配するセシルを真っ直ぐ見つめて頷く。
セシルにとって今この状況でアリスが取り乱していないことが救いだった。もし逃げるチャンスがあったとして、怯え震えていればチャンスを失う可能性が高い。
「大丈夫だからね、アリス。必ず僕が守るから心配しないで」
抱きしめるセシルを抱きしめ返すアリスだが、奥から聞こえてきた笑い声が段々と近くなってきたことに二人は警戒して奥に続く扉を見た。
ギイッと立て付けの悪い音をさせながら開いたドアから姿を現した男にセシルが目を見開く。
「……あ……な、なん……で……お、お前……」
今にも目がこぼれ落ちそうなほど大きく見開くセシルの身体が震えだしたことに気付いた。
驚きというよりは絶望に近い表情で男を見つめるセシルとこの男は知り合いのだと察する。
「久しぶりだなぁ、セシル。会いたかったぜ」
山男のように大量の髭を蓄えたガタイの良い男が自慢なのだろうその髭を撫で付けながら笑みを見せる。髭の間から見えたガタガタの歯並びと茶色や黒くなり尖った歯から不気味さを感じてアリスは鳥肌が立った。
「十二年ぶりか? 大きくなったなぁ」
言葉だけ聞いていれば親戚だと思うが、親戚ならこんなことはしない。
「いつの間にお嬢ちゃんを守る王子様に成長したんだよ」
「……い、いつ……」
ハッキリと言葉が出てこなくなってしまったセシルが何を言いたいのか男は理解した。
「先週だよ。ようやくだ。長かったぜ。ようやくお前に会えると思うと待ちきれなくてなぁ、こうしてお前に来てもらったってわけだ」
大袈裟に思えるほど呼吸が荒くなっているセシルをアリスはギュッと抱きしめる。それにしがつみつくように腕を回して力を込めるセシルに葉アリスを見つめて大丈夫だと声をかける余裕などなかった。
「セシルに何をしたのですか!」
「何もしてねぇことはお嬢ちゃんもよくわかってんだろ。俺はまだ指一本だって触れちゃいねぇよ」
じゃあどうしてセシルがこんな状態に陥っているんだと思うが、その疑問には男がすぐに答えた。
「俺とセシルは深い仲でな。事情があってちと離れてはいたが、もう離れねぇぞ。嬉しいだろ、セシル?」
男はセシルに熱視線を送っているが、セシルは震えているだけで返事ができる状態ではない。
なんとなく、あくまでも憶測でしかないが、この男たちがセシルたちの言う“問題を抱えている”部分なのではないだろうかとアリスは思った。
「可愛く成長したじゃねぇか」
ヒヒッと笑う男の声に苦しむように唸り声をあげるセシルを落ち着かせようと背中を撫でながら少しでも距離を取るために二人で隅へと移動する。
「大丈夫よ、私が守ってあげるから」
セシルに囁くアリスは自分でも驚くほど妙に冷静だった。
「銃を持ってんのはテメーだけじゃねんだよ、セシル・アッシュバートン」
「ッ!?」
貴族を狙ったわけではなく、この男たちはセシルをセシルだとわかって乗り込んできた。
セシルではなく、アリスに銃を突きつけた時点でセシルは赤子も同然。
「それに、こんな一般市民が溢れ返る場所で銃声響かせりゃアッシュバートン家は終わっちまうぞ」
ただでさえ一度、銃を撃って怪しまれているのに、二度も銃声がした場所にいたとなれば怪しまれるだけでは済まないだろう。
父親の許可は得ているといえど、父親は政府の人間ではない。いわば共犯も同じ。今ここでセシルが銃を撃つことは男の言う通り、アッシュバートン家の終わりを告げることになる。
こんな男に諭されるのは悔しいが、セシルは腰に回した手をゆっくりと離して両手を上げた。
「頼む、彼女だけは解放してやってくれ。無関係だ」
「キスまでしておいて無関係で通じるわけねーだろうが」
「彼女は本当に無関係なんだ!」
もう一人の男がセシルの太ももに銃口を押し付ける。
「やめてくださいッ! 私も一緒に行きますから! どうかセシルを傷つけないでください!」
悲鳴のような声に男が愉快そうに笑う。
「お嬢ちゃんのが賢いじゃねぇかよ。行きな」
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「何が目的だ」
「着きゃわかる。黙ってろ」
「どうして僕なんだ!」
「それも着きゃわかる」
「答えろ!」
「セシル」
カッとなっているセシルの手を握るアリスにセシルは口を閉じるが、握り返す手には痛いほど力が入っている。
「あんま粋がんなよ、クソガキ。その女みてぇな顔に傷がついてもいいのかよ」
「おい、やめろ。無傷で連れてこいって話だろうが」
誰かの指示でセシルは誘拐された。一体誰の指示なのか、セシルの表情から見ても見当もついていないのだろう。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「答えなくてい──」
「アリスです」
相手がどこの誰かわからない、銃を持っている以上は大人しくしているのが正しいと判断したアリスはセシルを見つめたまま答えた。
眉を寄せて首を振るセシルにアリスも首を振り返す。
「賢い子は好きだぜ」
「ッ!」
「アリスに触るなッ!」
「黙ってろって言っただろ」
「ンンッ!」
銃で顎を持ち上げられたアリスに手を伸ばすセシルが布を噛まされ、大人しくしていろと頬に銃を押し付けられる。
まだ傷つけられてはいない。だからアリスは声を上げない。まだ何もされていないのだからムダに声を上げて警戒されるわけにはいかない。
「お嬢ちゃんみたいに大人しくしてりゃあいいのによ」
後ろ手を縛られたセシルのためにも自分まで縛られるわけにはいかないとアリスは反抗もせず睨みつけることもしないまま黙って馬車に揺られていた。
隣に座る男から香る不思議な匂い。セシルとは全く違う、嗅いでいると気分が悪くなるような匂いで、それは悪臭とはまた別物。コロンでもなければ香でもない。とにかく不愉快な匂い。
「身代金が目的ですか?」
誘拐犯の大多数が身代金目的である。セシルは伯爵家であるためそれなりに搾り取ることはできるだろう。
アリスもそうだ。ベンフィールド家の長女だと知れば男たちは目の色を変えて父親に要求するかもしれない。
横暴な彼らに父親が稼いだ金を渡すのは嫌だが、命が助かるのであれば払ったほうがいいに決まっている。
「そう思うよな。でもなあ、違うんだわ。俺らのボスがコイツに会いたがってるだけだ」
心当たりがなく怪訝な顔をするセシルにアリスも同じような顔をする。
会いたがっているのなら普通に会えばいい。彼らのボスはそうしなかった。誘拐して目の前まで連れてこいとでも言ったのだろう。
直接会いに行けない理由があるのだとしても誘拐に正当性はない。もし彼らのアジトに行って全員が銃を所持していたらと考えるとゾッとする。
「痛い目に遭いたくなきゃお嬢ちゃんはいい子にしてな」
「俺らのボスは女子供だろうと容赦なく殺しちまうからな」
ハッキリ聞いた『殺す』の言葉。なぜそんな物騒な人間がセシルに会いたがっているのかがわからない。
セシルを見ると目が合うも首を振るだけ。セシル自身、会いたがっているという人間に心当たりはないのだろう。あるわけがない。セシルはそれほど人と関わって生きてこなかったのだから。
ガタガタと揺れる馬車が走る山道。馬車一台がギリギリで走ることができ、少しでもミスれば崖下へと真っ逆さまな道を走っている。
街を離れてどのぐらい走っているのだろうかと考えてもアリスは時計を持っていないためわからない。わかったところで場所を特定することも誰かに伝えることもできないのだが。
馬車が停まる頃、空が少し黄昏に染まりつつあった。
「降りろ」
セシルと一緒に降ろされた場所は周りを見回しても木々しかなく、そこから街がどこにあるか見ることはできない。
山の中に隠すように建てられたのだろう建物に二人は緊張していた。
通信機が使えたとしても目印になるような物が何も見えないのでは居場所を伝えることもできない。いや、もし通信機が使えたとしても使わせてもらえないのであれば同じこと。
それを絶望に考えるのはやめようとアリスは大きく息を吐き出して男に引っ張られるがまま奥にある小屋へと向かった。
「ボス、連れてきやしたぜ!」
「傷はつけてねぇだろうな?」
「もちろんです! ちとウルセェので縛りはしましたが」
「痕が残ってりゃお前は死刑だぞ」
「あ、痕が残るほどはしてませんから大丈夫ですって!」
中は男達から感じた変わった匂いで充満していた。顔をしかめ、思わず手で鼻と口を押さえるほどの悪臭。中に漂っているこの煙はなんだろうとアリスは一瞬、中に入るのを躊躇ったが、男は何も言わずにドンッと背中を押してアリスを突き飛ばした。
「ンンーッ!」
部屋の隅に積んであった藁に倒れ込んだアリスに慌てて駆け寄ったセシルが男を睨みつける。
「お前が見るのは俺じゃなくてボスだろうが」
奥から聞こえる男の声。
部屋にいるのは四人。奥にはボスの男以外の声が聞こえることから最低でもこの小屋には七人の男がいる。どうにか隙を見て逃げ出そうにも七人の目を欺けるような状況は作り出せないだろう。
そっちのほうがずっと絶望に近い感情に襲われる。
「痕になる前に外せ」
「へい! 外してやるが、噛み付くんじゃねぇぞクソガキ」
男がセシルを縛っていた物を二つ取って解放するとセシルはすぐにアリスを抱きしめた。
「アリス大丈夫? 怪我はない?」
「大丈夫よ」
頬に触れて心配するセシルを真っ直ぐ見つめて頷く。
セシルにとって今この状況でアリスが取り乱していないことが救いだった。もし逃げるチャンスがあったとして、怯え震えていればチャンスを失う可能性が高い。
「大丈夫だからね、アリス。必ず僕が守るから心配しないで」
抱きしめるセシルを抱きしめ返すアリスだが、奥から聞こえてきた笑い声が段々と近くなってきたことに二人は警戒して奥に続く扉を見た。
ギイッと立て付けの悪い音をさせながら開いたドアから姿を現した男にセシルが目を見開く。
「……あ……な、なん……で……お、お前……」
今にも目がこぼれ落ちそうなほど大きく見開くセシルの身体が震えだしたことに気付いた。
驚きというよりは絶望に近い表情で男を見つめるセシルとこの男は知り合いのだと察する。
「久しぶりだなぁ、セシル。会いたかったぜ」
山男のように大量の髭を蓄えたガタイの良い男が自慢なのだろうその髭を撫で付けながら笑みを見せる。髭の間から見えたガタガタの歯並びと茶色や黒くなり尖った歯から不気味さを感じてアリスは鳥肌が立った。
「十二年ぶりか? 大きくなったなぁ」
言葉だけ聞いていれば親戚だと思うが、親戚ならこんなことはしない。
「いつの間にお嬢ちゃんを守る王子様に成長したんだよ」
「……い、いつ……」
ハッキリと言葉が出てこなくなってしまったセシルが何を言いたいのか男は理解した。
「先週だよ。ようやくだ。長かったぜ。ようやくお前に会えると思うと待ちきれなくてなぁ、こうしてお前に来てもらったってわけだ」
大袈裟に思えるほど呼吸が荒くなっているセシルをアリスはギュッと抱きしめる。それにしがつみつくように腕を回して力を込めるセシルに葉アリスを見つめて大丈夫だと声をかける余裕などなかった。
「セシルに何をしたのですか!」
「何もしてねぇことはお嬢ちゃんもよくわかってんだろ。俺はまだ指一本だって触れちゃいねぇよ」
じゃあどうしてセシルがこんな状態に陥っているんだと思うが、その疑問には男がすぐに答えた。
「俺とセシルは深い仲でな。事情があってちと離れてはいたが、もう離れねぇぞ。嬉しいだろ、セシル?」
男はセシルに熱視線を送っているが、セシルは震えているだけで返事ができる状態ではない。
なんとなく、あくまでも憶測でしかないが、この男たちがセシルたちの言う“問題を抱えている”部分なのではないだろうかとアリスは思った。
「可愛く成長したじゃねぇか」
ヒヒッと笑う男の声に苦しむように唸り声をあげるセシルを落ち着かせようと背中を撫でながら少しでも距離を取るために二人で隅へと移動する。
「大丈夫よ、私が守ってあげるから」
セシルに囁くアリスは自分でも驚くほど妙に冷静だった。
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