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番外編
二度目の恋
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忘れられないことがある。
忘れられない人がいる。
それは幸せか。それとも不幸か。人によって答えは違うだろうが、少なくともベンジャミンにとってはとても幸せなことだった。
あの恋は、あの初恋は一生忘れられないもので、甘く切ないあの気持ちに蓋をしようとは思わなかった。こういう気持ちにさせてくれた彼女の幸せを願い続けることができるから。
「イベリスは今、砂漠にいるらしい」
「砂漠、ですか?」
「ああ。砂漠の地方を旅しているらしいが、気温差にやられていると書いてある。昼間は茹だるように暑いが、夜は震えるほど冷え込むと。あの華奢な身体が耐えられるはずないのにな」
イベリスからの手紙が届くとベンジャミンはいつも嬉しそうに話してくれる。何よりも時間をかけてじっくりと、一文字一文字丁寧に読んでいくその表情は幼い頃からのベンジャミンを知っている人間からすれば信じられないほど柔らかいもので、時折、執事も目を疑う。
「住処が決まったら来てくれと書いてある。行ってやらなければな」
「大体のことは決まっているのですか?」
「まだ旅の途中だぞ。だが、こう書くということは、そろそろ決めるつもりなのかもしれないな」
「旅にはお金がかかりますからね」
「そうだな」
資金援助と言い出さないだろうかと内心ハラハラしていたが、そんな愚かなことは言い出さなかった。
「顔合わせの件ですが……」
「ああ……」
手紙を置いて気が重そうな返事をするベンジャミンが机の上に突っ伏す。
「気乗りしませんか?」
「当然だ。だが、僕は王子だ。いつまでも独身でいるわけにはいかないだろ。それに……」
断る理由がなくなってしまった。
いつまでも片想いでもよかった。いや、本当は妻として迎えたかった。耳が聞こえなくてもいい。手話を覚えるから、メモ帳も常に持ち歩くから、来てほしかった。
友達でいいなどと強がりを言ってはいたが、心の奥底では手に入れたいと思っていた。でも今はそれを表に出さなくてよかったと心から思っている。気まずくなればこうして文通相手としてポジションを確保することもできなかったかもしれない。それに、勝てるはずがない。イベリスを慕うあの男に。
ベンジャミンは自分がどれほど無力かよく知っている。何かに秀でている部分がない自覚もある。イベリスへの好意を自覚してから剣術の稽古を始めた。今よりもっと知識を得るために家庭教師も自ら頼んだ。健康第一だと栄養も気にするようになり、わがままも極力呑み込むようになった。
両親ですら驚くほどの変わりようだが、全てはイベリスのため。恋の力がそうさせた。勘違いしようがないほどの失恋だったが、ベンジャミンは生活を変えることはしなかった。剣術も、勉強も、健康も全て日課として取り入れている。
あの男に勝とうとは思っていない。勝てるはずがない。イベリスの心はもう彼のものであって、それが靡くことはきっとないから。
この日課はイベリスがくれたもので、続けることで自分が変になることはない。むしろ正しい行いだと思っているから続けていく。結婚したとしても。
「相手は誰だったか?」
結婚話を受けると言ってからの両親の急ぎ方は異常なものだった。気が変わらないうちにとでも思ったのだろう。イベリスから婚約報告を受けてから自分の婚約話が決まるまであっという間だった。
しかし、ベンジャミンはこの時点で相手の顔すら知らない。親が決めた結婚相手だ。自らする恋を知っているベンジャミンにとって親が決めた相手と結婚して愛を育んでいくのはどうにも想像がつかない。
「シルヴァリウムのチェスター王女ですよ」
「ああ、森の都の王女か。王女にしては地味で大人しいという噂の」
「はい」
何故両親はそんな相手を選んだのか。
リーダス自体が自然を愛する国であるが故にシルヴァリウムを選んだのは何もおかしな話ではない。わがままだった息子がわがままに戻ってしまわないために大人しい相手を選んだのか、それともイベリスの話を聞いて大人しめを選んだのか。どちらにせよ、ベンジャミンはまだイベリスを忘れられない。諦めると決めたし、これ以上、彼女を想い続けることはしないと決めた。でもそれは心の問題で、決めたその瞬間からその決断に従えるわけではない。
婚約自体、まだ乗り気ではないのだ。
結婚するのはまだ先の話だとしても、比べてしまうのは相手にも失礼だとわかっているからこそ乗り気ではなくなる。
「僕も大概女々しいな」
苦笑をこぼすベンジャミンを見つめながら執事は思う。彼が変わるキッカケとなった大きな出会い。あれを超えるものはきっと現れない。
チェスター王女がそれをどう受け止めるか。ベンジャミンはきっと隠さない。隠せない。手紙をもらえば嬉しそうに笑い、結婚式に現れては瞳を輝かせる彼を見て何を感じるのか。
執事の心配は尽きない。
「チェスター王女、ようこそ」
顔合わせの日、ベンジャミンは初めてチェスター王女の顔を見た。暗い茶色の髪の毛に栗色の瞳。イベリスを彷彿とさせるものはなく、少し安堵した。似ていたらどうしようと少し不安だったのだ。見るたびにイベリスを思い出すのは失礼だ。チェスターにイベリスを重ねながら生きたくはない。近い将来、自分はチェスターの夫として生きることになるのだからその奥に誰かを見ているということだけは避けなければと思っていたからだ。
「チェスターでございます」
落ち着いた声色に控えめな声量。見た目はどちらかというと地味で、見るからに大人しめ。第一印象は悪くない。
顔合わせは淡々と進んでいった。
「互いを知る良い機会だ。少し話をしてきてはどうだい?」
父親に促されるとチェスター王女がこちらを向いた。困ったような顔をしている。あまり口数は多くないほうなのだろう。それを察してベンジャミンはかぶりを振った。
「彼女は王女で、僕は王子です。職務について問う必要はないし、心構えについても同じです。結婚は決まっているのですから、気を遣わせるような真似はしたくありません」
チェスター側の人間の表情は明らかに引き攣っていた。園路はるばるここまで来たのだ。それなのに挨拶程度に言葉を交わしただけで帰らせるというのか、とあからさまに顔に書いてあるのだが、ベンジャミンは気付いていない。チェスター王女は苦笑するだけ。
「ベンジャミン、わざわざシルヴァリウムから来てくれたんだ。少しぐらい話をしてきてはどうだ?」
「彼女は結婚すればリーダスで生きるんです。顔合わせのためにわざわざ足を運ぶ必要などないと僕は何度も言ったはずです。それがマナーだというのなら、そんなマナーは常識から外すべきです」
「ベンジャミン、来てくれたのは事実だ。少し話をしてきなさい」
「嫌です」
ハッキリと断ったベンジャミンはその場で立ち上がり、チェスター王女を見た。
「あなたも嫌だと思うことはハッキリ断ったほうがいい。王女だからというのはわかるが、苦手なことは苦手だと言ったほうがいい。僕は今までそうして生きてきたし、これからもそうするつもりだ」
ベンジャミンを見つめるチェスター王女の瞳には戸惑いが浮かんでいる。口を開こうとはするが、すぐに閉じてしまう。王室はいつだって甘やかしてくれる。相手が話し出すのを待つし、機嫌や態度で察してくれる。しかし、結婚してもそれを続けることはできない。ベンジャミンはこれからもハッキリ言葉にすしていくつもりだった。
呆れられるのには慣れている。イベリスと出会うまで、世界の王子の中でも最低の評判を得ていたし、それを気にしたことはなかった。イベリスと出会い、周りから変わった変わったと何度も言われ、そんな自分が妙に誇らしく思えていた。
今の態度はきっと前の自分に戻ったと思われるのだろうが、譲れない部分はある。イベリスと出会う前に戻ったつもりはないし、戻るつもりもないが、強制されるように行動を操られたくなかった。
「あなたは僕の妻となる女性だ。自分の意見は持ったほうがいい」
人に決められる人生は楽だが癪だ。彼女はきっとなんでも親のいうことに従って生きてきたのだろう。だから常に自信がない。自分で何かを成し遂げなければ人は自信を持ち得ない。もし自分で何も成し遂げたことがないのに自信を持っている者がいるとすればそれは過信であり傲慢なだけ。
チェスター王女から見れば自分もそう見えているのかもしれないが、変えるつもりはなかった。
忘れられない人がいる。
それは幸せか。それとも不幸か。人によって答えは違うだろうが、少なくともベンジャミンにとってはとても幸せなことだった。
あの恋は、あの初恋は一生忘れられないもので、甘く切ないあの気持ちに蓋をしようとは思わなかった。こういう気持ちにさせてくれた彼女の幸せを願い続けることができるから。
「イベリスは今、砂漠にいるらしい」
「砂漠、ですか?」
「ああ。砂漠の地方を旅しているらしいが、気温差にやられていると書いてある。昼間は茹だるように暑いが、夜は震えるほど冷え込むと。あの華奢な身体が耐えられるはずないのにな」
イベリスからの手紙が届くとベンジャミンはいつも嬉しそうに話してくれる。何よりも時間をかけてじっくりと、一文字一文字丁寧に読んでいくその表情は幼い頃からのベンジャミンを知っている人間からすれば信じられないほど柔らかいもので、時折、執事も目を疑う。
「住処が決まったら来てくれと書いてある。行ってやらなければな」
「大体のことは決まっているのですか?」
「まだ旅の途中だぞ。だが、こう書くということは、そろそろ決めるつもりなのかもしれないな」
「旅にはお金がかかりますからね」
「そうだな」
資金援助と言い出さないだろうかと内心ハラハラしていたが、そんな愚かなことは言い出さなかった。
「顔合わせの件ですが……」
「ああ……」
手紙を置いて気が重そうな返事をするベンジャミンが机の上に突っ伏す。
「気乗りしませんか?」
「当然だ。だが、僕は王子だ。いつまでも独身でいるわけにはいかないだろ。それに……」
断る理由がなくなってしまった。
いつまでも片想いでもよかった。いや、本当は妻として迎えたかった。耳が聞こえなくてもいい。手話を覚えるから、メモ帳も常に持ち歩くから、来てほしかった。
友達でいいなどと強がりを言ってはいたが、心の奥底では手に入れたいと思っていた。でも今はそれを表に出さなくてよかったと心から思っている。気まずくなればこうして文通相手としてポジションを確保することもできなかったかもしれない。それに、勝てるはずがない。イベリスを慕うあの男に。
ベンジャミンは自分がどれほど無力かよく知っている。何かに秀でている部分がない自覚もある。イベリスへの好意を自覚してから剣術の稽古を始めた。今よりもっと知識を得るために家庭教師も自ら頼んだ。健康第一だと栄養も気にするようになり、わがままも極力呑み込むようになった。
両親ですら驚くほどの変わりようだが、全てはイベリスのため。恋の力がそうさせた。勘違いしようがないほどの失恋だったが、ベンジャミンは生活を変えることはしなかった。剣術も、勉強も、健康も全て日課として取り入れている。
あの男に勝とうとは思っていない。勝てるはずがない。イベリスの心はもう彼のものであって、それが靡くことはきっとないから。
この日課はイベリスがくれたもので、続けることで自分が変になることはない。むしろ正しい行いだと思っているから続けていく。結婚したとしても。
「相手は誰だったか?」
結婚話を受けると言ってからの両親の急ぎ方は異常なものだった。気が変わらないうちにとでも思ったのだろう。イベリスから婚約報告を受けてから自分の婚約話が決まるまであっという間だった。
しかし、ベンジャミンはこの時点で相手の顔すら知らない。親が決めた結婚相手だ。自らする恋を知っているベンジャミンにとって親が決めた相手と結婚して愛を育んでいくのはどうにも想像がつかない。
「シルヴァリウムのチェスター王女ですよ」
「ああ、森の都の王女か。王女にしては地味で大人しいという噂の」
「はい」
何故両親はそんな相手を選んだのか。
リーダス自体が自然を愛する国であるが故にシルヴァリウムを選んだのは何もおかしな話ではない。わがままだった息子がわがままに戻ってしまわないために大人しい相手を選んだのか、それともイベリスの話を聞いて大人しめを選んだのか。どちらにせよ、ベンジャミンはまだイベリスを忘れられない。諦めると決めたし、これ以上、彼女を想い続けることはしないと決めた。でもそれは心の問題で、決めたその瞬間からその決断に従えるわけではない。
婚約自体、まだ乗り気ではないのだ。
結婚するのはまだ先の話だとしても、比べてしまうのは相手にも失礼だとわかっているからこそ乗り気ではなくなる。
「僕も大概女々しいな」
苦笑をこぼすベンジャミンを見つめながら執事は思う。彼が変わるキッカケとなった大きな出会い。あれを超えるものはきっと現れない。
チェスター王女がそれをどう受け止めるか。ベンジャミンはきっと隠さない。隠せない。手紙をもらえば嬉しそうに笑い、結婚式に現れては瞳を輝かせる彼を見て何を感じるのか。
執事の心配は尽きない。
「チェスター王女、ようこそ」
顔合わせの日、ベンジャミンは初めてチェスター王女の顔を見た。暗い茶色の髪の毛に栗色の瞳。イベリスを彷彿とさせるものはなく、少し安堵した。似ていたらどうしようと少し不安だったのだ。見るたびにイベリスを思い出すのは失礼だ。チェスターにイベリスを重ねながら生きたくはない。近い将来、自分はチェスターの夫として生きることになるのだからその奥に誰かを見ているということだけは避けなければと思っていたからだ。
「チェスターでございます」
落ち着いた声色に控えめな声量。見た目はどちらかというと地味で、見るからに大人しめ。第一印象は悪くない。
顔合わせは淡々と進んでいった。
「互いを知る良い機会だ。少し話をしてきてはどうだい?」
父親に促されるとチェスター王女がこちらを向いた。困ったような顔をしている。あまり口数は多くないほうなのだろう。それを察してベンジャミンはかぶりを振った。
「彼女は王女で、僕は王子です。職務について問う必要はないし、心構えについても同じです。結婚は決まっているのですから、気を遣わせるような真似はしたくありません」
チェスター側の人間の表情は明らかに引き攣っていた。園路はるばるここまで来たのだ。それなのに挨拶程度に言葉を交わしただけで帰らせるというのか、とあからさまに顔に書いてあるのだが、ベンジャミンは気付いていない。チェスター王女は苦笑するだけ。
「ベンジャミン、わざわざシルヴァリウムから来てくれたんだ。少しぐらい話をしてきてはどうだ?」
「彼女は結婚すればリーダスで生きるんです。顔合わせのためにわざわざ足を運ぶ必要などないと僕は何度も言ったはずです。それがマナーだというのなら、そんなマナーは常識から外すべきです」
「ベンジャミン、来てくれたのは事実だ。少し話をしてきなさい」
「嫌です」
ハッキリと断ったベンジャミンはその場で立ち上がり、チェスター王女を見た。
「あなたも嫌だと思うことはハッキリ断ったほうがいい。王女だからというのはわかるが、苦手なことは苦手だと言ったほうがいい。僕は今までそうして生きてきたし、これからもそうするつもりだ」
ベンジャミンを見つめるチェスター王女の瞳には戸惑いが浮かんでいる。口を開こうとはするが、すぐに閉じてしまう。王室はいつだって甘やかしてくれる。相手が話し出すのを待つし、機嫌や態度で察してくれる。しかし、結婚してもそれを続けることはできない。ベンジャミンはこれからもハッキリ言葉にすしていくつもりだった。
呆れられるのには慣れている。イベリスと出会うまで、世界の王子の中でも最低の評判を得ていたし、それを気にしたことはなかった。イベリスと出会い、周りから変わった変わったと何度も言われ、そんな自分が妙に誇らしく思えていた。
今の態度はきっと前の自分に戻ったと思われるのだろうが、譲れない部分はある。イベリスと出会う前に戻ったつもりはないし、戻るつもりもないが、強制されるように行動を操られたくなかった。
「あなたは僕の妻となる女性だ。自分の意見は持ったほうがいい」
人に決められる人生は楽だが癪だ。彼女はきっとなんでも親のいうことに従って生きてきたのだろう。だから常に自信がない。自分で何かを成し遂げなければ人は自信を持ち得ない。もし自分で何も成し遂げたことがないのに自信を持っている者がいるとすればそれは過信であり傲慢なだけ。
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