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イベリス復活編
フローラリア6
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「それはこっちの台詞だ。お前ら、どっから来たんだ?」
「リンベルだ」
「わかりやすい嘘だな」
「嘘じゃねぇよ」
「だったらなんでその女は魔法が使えるんだ? リンベルには魔法使いはいねぇだろ」
「まるでリンベルの住民全員を知ってるかのような言い方だな? まさか昔は営業職に就いててリンベル中の家を訪問したことがあるとか?」
威嚇射撃の銃声が響き渡り、城内からまた悲鳴が上がる。ウォルフが思うにこれは一度目の警告。
人一倍耳が良いウォルフにとって拷問にも近い音量だが、表情は変えなかった。
「グラキエスの人間だろ」
「氷魔法はグラキエスの人間以外使えないのか?」
「答えろ」
「だったら何よ」
「サーシャッ!」
「アンタらの銃と私の魔法、どっちが速いか試してみる?」
サーシャの目は本気だった。毎日見続けている医者と看護師の激務。涼しい場所で休みたいだろう。ショッピングがしたいだろう。旅行に行きたいだろう。恋人とゆっくり過ごしたいだろう。それら全てを我慢して患者のために笑顔で働き続けている。使命感を持って必死に働き続けている彼らを苦しめている連中が武器を片手に大きな顔をしているのが許せなかった。
銃弾を防いだことはないが、速さには自信がある。こんな奴らには負けない。
既に逃げられないように彼らの足元は凍らせている。彼らは引き金を引くだけ。サーシャは盾を作るだけ。一対一のようなものだとサーシャはライフルの男と対峙している。
「デケェ口叩くんじゃねぇぞ、女」
「これぐらいでデカい口なんて、随分と肝っ玉の小さい男ね」
「おいおい、死にてぇのか?」
ライフルを向ける男を見たまま表情を変えないサーシャに恐怖はない。相手から来るなど願ってもないことだ。いつかはやってくると思っていたが、想像よりずっと早かっただけ。やることは変わらない。ここで数を減らすことができるのはむしろラッキーだ。
「グラキエスに何仕掛けようっての? 氷帝にどんな恨みがあるのか知らないけど、そのために自国の人間を苦しめるなんてどうかしてる。アンタら、自分さえ良ければそれでいいわけ?」
「氷帝の支配下に置かれるなんざまっぴらごめんなんだよ。俺らは自由であり続ける。それがフローラリアの人間だ」
くだらない。あまりにもくだらない。何が自由か。フローラリアの人間全員が暑さと彼らによって苦しめられ、自由に生きる権利を奪われているというのに何が自由であり続けるだ、ふざけるな。
サーシャの強まる怒りで男たちの身体を固定している氷が這い上がってくる。
「ビビんじゃねぇ!」
慌てふためく仲間にライフルの男が喝を入れるように声を上げると仲間たちはポケットから同時に石らしき物を取り出した。その瞬間、この場の熱が一気に上がる。巨大な火柱を前にしているような熱さにウォルフとサーシャの表情が歪んだ。
「太陽の石かッ!」
「そうだ! 俺たちは原石を掘り当てたんだよ! これをグラキエスに運んであの生意気な氷帝ごと溶かしてやる!」
「だったらさっさとグラキエスに行けばいいだろ! なんでフローラリアの人を苦しめるんだ!」
「持っていく手段が見つかってねぇからだよ!」
本気でバカなんだと呆れてしまう二人が感情を顔に出すとライフルが向けられる。
「早撃ち勝負といくか?」
サーシャが張り巡らせていた氷は一瞬で溶けてしまった。どんなに強固にしようと魔力を放出させても意味がない。男たちの手のひらに収まるほどの石でこの威力。フローラリアの気温を上昇させるだけの巨大な太陽の石を持っているのは間違いないのだからグラキエスを溶かすというのも無謀ではない。
この熱の前ではあの氷帝も赤子同然になるのではないかと不安が二人を襲う。
「何が望みなの?」
「女、俺たちのアジトに来い」
目的はサーシャ。氷が欲しいのだろう。自ら運び入れた太陽の石の熱で参っているのは彼らも同じ。しかし彼らは自業自得の大馬鹿者。彼らを助ける義理などあるはずもない。
「私が行ったところでそれほどの熱があるなら役には立たない。この現状見ればわかるでしょ」
「直接出していればな。だが、俺たちのアジトの暑さは外と同じだ。お前の魔法がありゃ俺たちは涼めるんだよ」
「ここには病人がいるのよ。アンタたちが太陽の石で温度を上げすぎるから熱帯病で死にかけている人たちが大勢。それを放ってアンタたちを涼ませるために出向くと思う?」
「だったら死ぬだけだ」
ライフルを額に突きつけられてもサーシャは一歩も引かない。太陽の石の熱で氷魔法が働かないのならただの人間も同然。勝ち目はない。それでも命惜しさに彼らに涼を取らせるなど死んでも御免だ。こんな身勝手な奴らに協力するぐらいなら両手を切り落としたほうがマシだとすら考えていた。
「その患者とやらを一匹殺せば理解できるか? 奥に山ほどいるんだろ?」
ショットガンの男が弾を確認しながら奥へと進もうとしたのをウォルフが前に立って進行を阻止する。
「どけ、デカブツ」
「患者の意味わかってっか?」
「だったらお前が女を説得しろ」
「アイツがいねぇとここが機能しねぇの。お前らが必要としてるってことは俺らも必要なの。わかるか?」
「知るか。ここで何人野垂れ死のうと俺たちには関係ねぇ。どうだっていいんだよ」
「奇遇だな。俺も同じ考えだわ」
ショットガンで撃たれればまず助かることはない。鍛え上げた筋肉は肉片と化し、頑丈な骨さえも吹き飛ぶだろう。怖くないわけではない。ここで死ぬわけにはいかない。生涯かけてイベリスを守り、幸せにすると約束した。だが、ここで退くわけにもいかない。ここを守れるのは自分とサーシャだけで、サーシャが強がっているのだから自分もそうしなければならない。だから押されようと微動だにしない。
舌打ちをし、ここからでも見えないわけではないと奥を覗き込んだ男を見て悲鳴を上げた女たちを見て舌舐めずりをした。
「おい、上玉がいるぞ。国を捨てたミュゲット王女みてぇな女だ」
「連れて来い」
「ちょうど今の女に飽きてきたしな」
「新しい玩具だ」
白い髪の少女を見つけて進もうとする男の腕を掴んだウォルフが間髪入れずに折った。完全に意識外の行動。男の悲鳴でハッとするも慌ててイベリスを奥の部屋へと移動させようと後ろ手で合図をするもサーシャの周りにいる男たちが全員揃って銃を向けたことでそれ以上の合図はできなくなった。
「そっちから手を出したんだぜ」
「武器を持ってる相手には正当防衛だろ」
「氷女を差し出すか、その女を差し出すか、お前に選ばせてやる」
「私が行く」
行かないと言っていたサーシャが急に意見を変えたことで男が笑う。
「お前、あの女の仲間か?」
「子供を犠牲にして自分が助かりたいって思う人間がどこにいるのよ」
踏み出そうとしたサーシャの腕をリオが掴んだ。そのまま前に一歩出て、両手を上げながら笑顔を見せる。
「まあまあまあまあ。ここは一旦落ち着こう。そんな危ないものは全部しまってさ。俺たちはこの美しい島で暮らす仲間じゃないか。手を取り合って生きてきただろ? また皆で話し合って解決していこうじゃないか」
「リオ、お前は悔しくねぇのか? あのイカれた男のせいで頼るべき相手が誰かもわからなくなってるこの状況を悔しいと思わないのか!?」
見覚えのある顔に凄まれると苦笑が滲む。彼がどういう人間か知っているだけに強い批判もできない。この国ためを考えるならやめておけと諭すこともできるが、気持ちもわかるだけに頭に浮かぶ言葉の中からどれを選んでいいのかわからず、黙っている。
「俺は、皆が穏やかに生きられる道を模索したいと思う。実力行使じゃなくて、話し合いでさ」
「アイツはルールを破ったら殺すって言ってるんだぞ!」
「それは氷帝の言葉であってミュゲット様の言葉じゃない。あの人がそんなことさせるわけないだろ」
「させるさ! アイツはもうグラキエスの人間だ! フローラリアのことなんかどうだっていいんだよ!」
「そんなことない。彼女は──」
男が持っているハンドガンが二発、空に向かって発砲した。恐怖による悲鳴が響き、落ち着けとリオが制すように手を前に出すも男は大声を出す。
「だったらなんで一度も帰ってこねぇんだよ!」
「最北端にいるんだ。何度も何度も帰るなんてできるわけないだろ」
「一年に一度が難しいのか!? グラキエスは親交国だろ! そう言ったのは向こうだ! それなのに交流なんざ一度もねぇ!」
「何かあれば手紙を寄越せって言ってたじゃないか。すぐに駆けつけるからって」
「書いたさ! 何度も何度も何度も何度も! それなのにルールはルールだって定型文みてぇな返事しか寄越さねぇで何が親交国だ! 何がフローラリアの王女だ! ふざけんじゃねぇ!」
「だからって武力で解決しようとするのは間違ってる。犠牲ありきの抗議なんて無意味だ。それなら嘘をついて呼び出す形にすればよかったじゃな──ッ!?」
パンッと鳴り響く発砲音。舞う血飛沫。目を見開いたリオの身体が動き、反射的に後ろへ傾く。
「リオッ!」
サーシャが身体を支え、血が吹き出す肩を氷で塞ごうとするも膜を張ることすらできない。手から漏れ続けていた冷気もなく、触れても傷口は凍らない。こんなときに、と舌打ちをするサーシャに大丈夫だと笑いかけるが、顔色は良くない。撃たれたのは生まれて初めてだろう。今感じている熱さが時間とともに痛みへと変わってくる。そうなると地獄が始まる。
「弾は……貫通してる。大丈夫。すぐに──」
幸いにもここではあまり麻酔などは使わなかった。サーシャの氷があれば回復する者がほとんどだったから。病院に戻って手当てをするべく肩を貸そうとしたサーシャの足元に銃弾が一発撃ち込まれた。
「リンベルだ」
「わかりやすい嘘だな」
「嘘じゃねぇよ」
「だったらなんでその女は魔法が使えるんだ? リンベルには魔法使いはいねぇだろ」
「まるでリンベルの住民全員を知ってるかのような言い方だな? まさか昔は営業職に就いててリンベル中の家を訪問したことがあるとか?」
威嚇射撃の銃声が響き渡り、城内からまた悲鳴が上がる。ウォルフが思うにこれは一度目の警告。
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「グラキエスの人間だろ」
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「答えろ」
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「サーシャッ!」
「アンタらの銃と私の魔法、どっちが速いか試してみる?」
サーシャの目は本気だった。毎日見続けている医者と看護師の激務。涼しい場所で休みたいだろう。ショッピングがしたいだろう。旅行に行きたいだろう。恋人とゆっくり過ごしたいだろう。それら全てを我慢して患者のために笑顔で働き続けている。使命感を持って必死に働き続けている彼らを苦しめている連中が武器を片手に大きな顔をしているのが許せなかった。
銃弾を防いだことはないが、速さには自信がある。こんな奴らには負けない。
既に逃げられないように彼らの足元は凍らせている。彼らは引き金を引くだけ。サーシャは盾を作るだけ。一対一のようなものだとサーシャはライフルの男と対峙している。
「デケェ口叩くんじゃねぇぞ、女」
「これぐらいでデカい口なんて、随分と肝っ玉の小さい男ね」
「おいおい、死にてぇのか?」
ライフルを向ける男を見たまま表情を変えないサーシャに恐怖はない。相手から来るなど願ってもないことだ。いつかはやってくると思っていたが、想像よりずっと早かっただけ。やることは変わらない。ここで数を減らすことができるのはむしろラッキーだ。
「グラキエスに何仕掛けようっての? 氷帝にどんな恨みがあるのか知らないけど、そのために自国の人間を苦しめるなんてどうかしてる。アンタら、自分さえ良ければそれでいいわけ?」
「氷帝の支配下に置かれるなんざまっぴらごめんなんだよ。俺らは自由であり続ける。それがフローラリアの人間だ」
くだらない。あまりにもくだらない。何が自由か。フローラリアの人間全員が暑さと彼らによって苦しめられ、自由に生きる権利を奪われているというのに何が自由であり続けるだ、ふざけるな。
サーシャの強まる怒りで男たちの身体を固定している氷が這い上がってくる。
「ビビんじゃねぇ!」
慌てふためく仲間にライフルの男が喝を入れるように声を上げると仲間たちはポケットから同時に石らしき物を取り出した。その瞬間、この場の熱が一気に上がる。巨大な火柱を前にしているような熱さにウォルフとサーシャの表情が歪んだ。
「太陽の石かッ!」
「そうだ! 俺たちは原石を掘り当てたんだよ! これをグラキエスに運んであの生意気な氷帝ごと溶かしてやる!」
「だったらさっさとグラキエスに行けばいいだろ! なんでフローラリアの人を苦しめるんだ!」
「持っていく手段が見つかってねぇからだよ!」
本気でバカなんだと呆れてしまう二人が感情を顔に出すとライフルが向けられる。
「早撃ち勝負といくか?」
サーシャが張り巡らせていた氷は一瞬で溶けてしまった。どんなに強固にしようと魔力を放出させても意味がない。男たちの手のひらに収まるほどの石でこの威力。フローラリアの気温を上昇させるだけの巨大な太陽の石を持っているのは間違いないのだからグラキエスを溶かすというのも無謀ではない。
この熱の前ではあの氷帝も赤子同然になるのではないかと不安が二人を襲う。
「何が望みなの?」
「女、俺たちのアジトに来い」
目的はサーシャ。氷が欲しいのだろう。自ら運び入れた太陽の石の熱で参っているのは彼らも同じ。しかし彼らは自業自得の大馬鹿者。彼らを助ける義理などあるはずもない。
「私が行ったところでそれほどの熱があるなら役には立たない。この現状見ればわかるでしょ」
「直接出していればな。だが、俺たちのアジトの暑さは外と同じだ。お前の魔法がありゃ俺たちは涼めるんだよ」
「ここには病人がいるのよ。アンタたちが太陽の石で温度を上げすぎるから熱帯病で死にかけている人たちが大勢。それを放ってアンタたちを涼ませるために出向くと思う?」
「だったら死ぬだけだ」
ライフルを額に突きつけられてもサーシャは一歩も引かない。太陽の石の熱で氷魔法が働かないのならただの人間も同然。勝ち目はない。それでも命惜しさに彼らに涼を取らせるなど死んでも御免だ。こんな身勝手な奴らに協力するぐらいなら両手を切り落としたほうがマシだとすら考えていた。
「その患者とやらを一匹殺せば理解できるか? 奥に山ほどいるんだろ?」
ショットガンの男が弾を確認しながら奥へと進もうとしたのをウォルフが前に立って進行を阻止する。
「どけ、デカブツ」
「患者の意味わかってっか?」
「だったらお前が女を説得しろ」
「アイツがいねぇとここが機能しねぇの。お前らが必要としてるってことは俺らも必要なの。わかるか?」
「知るか。ここで何人野垂れ死のうと俺たちには関係ねぇ。どうだっていいんだよ」
「奇遇だな。俺も同じ考えだわ」
ショットガンで撃たれればまず助かることはない。鍛え上げた筋肉は肉片と化し、頑丈な骨さえも吹き飛ぶだろう。怖くないわけではない。ここで死ぬわけにはいかない。生涯かけてイベリスを守り、幸せにすると約束した。だが、ここで退くわけにもいかない。ここを守れるのは自分とサーシャだけで、サーシャが強がっているのだから自分もそうしなければならない。だから押されようと微動だにしない。
舌打ちをし、ここからでも見えないわけではないと奥を覗き込んだ男を見て悲鳴を上げた女たちを見て舌舐めずりをした。
「おい、上玉がいるぞ。国を捨てたミュゲット王女みてぇな女だ」
「連れて来い」
「ちょうど今の女に飽きてきたしな」
「新しい玩具だ」
白い髪の少女を見つけて進もうとする男の腕を掴んだウォルフが間髪入れずに折った。完全に意識外の行動。男の悲鳴でハッとするも慌ててイベリスを奥の部屋へと移動させようと後ろ手で合図をするもサーシャの周りにいる男たちが全員揃って銃を向けたことでそれ以上の合図はできなくなった。
「そっちから手を出したんだぜ」
「武器を持ってる相手には正当防衛だろ」
「氷女を差し出すか、その女を差し出すか、お前に選ばせてやる」
「私が行く」
行かないと言っていたサーシャが急に意見を変えたことで男が笑う。
「お前、あの女の仲間か?」
「子供を犠牲にして自分が助かりたいって思う人間がどこにいるのよ」
踏み出そうとしたサーシャの腕をリオが掴んだ。そのまま前に一歩出て、両手を上げながら笑顔を見せる。
「まあまあまあまあ。ここは一旦落ち着こう。そんな危ないものは全部しまってさ。俺たちはこの美しい島で暮らす仲間じゃないか。手を取り合って生きてきただろ? また皆で話し合って解決していこうじゃないか」
「リオ、お前は悔しくねぇのか? あのイカれた男のせいで頼るべき相手が誰かもわからなくなってるこの状況を悔しいと思わないのか!?」
見覚えのある顔に凄まれると苦笑が滲む。彼がどういう人間か知っているだけに強い批判もできない。この国ためを考えるならやめておけと諭すこともできるが、気持ちもわかるだけに頭に浮かぶ言葉の中からどれを選んでいいのかわからず、黙っている。
「俺は、皆が穏やかに生きられる道を模索したいと思う。実力行使じゃなくて、話し合いでさ」
「アイツはルールを破ったら殺すって言ってるんだぞ!」
「それは氷帝の言葉であってミュゲット様の言葉じゃない。あの人がそんなことさせるわけないだろ」
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「だったらなんで一度も帰ってこねぇんだよ!」
「最北端にいるんだ。何度も何度も帰るなんてできるわけないだろ」
「一年に一度が難しいのか!? グラキエスは親交国だろ! そう言ったのは向こうだ! それなのに交流なんざ一度もねぇ!」
「何かあれば手紙を寄越せって言ってたじゃないか。すぐに駆けつけるからって」
「書いたさ! 何度も何度も何度も何度も! それなのにルールはルールだって定型文みてぇな返事しか寄越さねぇで何が親交国だ! 何がフローラリアの王女だ! ふざけんじゃねぇ!」
「だからって武力で解決しようとするのは間違ってる。犠牲ありきの抗議なんて無意味だ。それなら嘘をついて呼び出す形にすればよかったじゃな──ッ!?」
パンッと鳴り響く発砲音。舞う血飛沫。目を見開いたリオの身体が動き、反射的に後ろへ傾く。
「リオッ!」
サーシャが身体を支え、血が吹き出す肩を氷で塞ごうとするも膜を張ることすらできない。手から漏れ続けていた冷気もなく、触れても傷口は凍らない。こんなときに、と舌打ちをするサーシャに大丈夫だと笑いかけるが、顔色は良くない。撃たれたのは生まれて初めてだろう。今感じている熱さが時間とともに痛みへと変わってくる。そうなると地獄が始まる。
「弾は……貫通してる。大丈夫。すぐに──」
幸いにもここではあまり麻酔などは使わなかった。サーシャの氷があれば回復する者がほとんどだったから。病院に戻って手当てをするべく肩を貸そうとしたサーシャの足元に銃弾が一発撃ち込まれた。
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