5 / 190
彼が求める理由
しおりを挟む
(似てる……)
自分でもそう思うほど肖像画の人物の見た目。白髪、碧眼、白い肌。違うところと言えばロベリアがボブ、イベリスがロングヘアであることとロベリアのまつ毛が黒、イベリスのまつ毛が白であることだけ。顔も雰囲気もよく似ている。
サーシャがすぐに説明してくれなければファーディナンドがイベリスを想って描かせたと勘違いしそうになるほどに。
〈似てない?〉
自分の顔と肖像画を交互に指すイベリスにサーシャが頷く。
〈ロベリア様と瓜二つのイベリス様を陛下がお連れになられたときは使用人一同、驚きを隠せませんでした。まさかロベリア様と同じ顔をした方を連れてこられるとは、と〉
妻を失ったばかりのファーディナンドを知っているだけにイベリスを連れてきたときは“執念”だとサーシャは思った。
ロベリアとは別人だとわかっていながらもこれだけ似ている人間を見つけ、嫁として迎えるファーディナンドに恐怖さえ感じた。
(ああ……それで……)
おかしいと疑っていなかったわけではない。疑問もちゃんと持っていた。帝国の貴族、男爵レベルならまだしも、皇帝陛下が一端の伯爵令嬢に一目惚れなどするはずがないと。万が一にでもしたとして、国を背負う長が仕事からの帰り道に嫁に迎えたいと求婚するなどおかしいとも。
あの優しい瞳の奥に感じた妙な違和感。あれは勘違いなどではなかった。ファーディナンドはイベリスを通してロベリアを見ていたのだ。亡くなった愛しい妻がまるで目の前にいるように思える人間を手に入れるために良い人間を演じていた。
あの部屋で腕を引く力の強さ。あれは苛立ちが含まれていた。筆談をして笑ってくれたのは演技だったのだろうか。あんな風に楽しく笑い合って話したのも全て手に入れるための演技だったのか。
結婚早々こんな感情に陥るとは思っていなかった。
〈陛下はとてもお優しい方ですから、抱えきれないほどの愛情を注がれることでしょう〉
(彼が愛情を注ぐ相手は私じゃないんでしょ?)
心の中で問いかけるだけにしておいた。サーシャにそんな感情をぶつけたところで仕方ない。亡き妻を、亡き母を想ってそれに似た雰囲気の女性を選ぶ男性は多いと何かの本で読んだことがある。ファーディナンドはまだ二十九歳。妻を亡くして三年。二十六歳での死別。まだたったの三年。恋しく思うのも仕方ないし、理解もする。だが、少なからずショックではあった。
〈行きましょうか〉
頷くイベリスの前をまた歩き出し、イベリスもそれについていく。階段を上がる最中も横目でロベリアの肖像画を見てしまう。
〈こちらが食堂でございます。食事は常にここで行われます〉
〈こちらが執務室でございます。陛下の許可なく立ち入ることは許されません〉
〈こちらが皇妃様専用のバスルームでございます。皇妃様の希望なさる日に入浴の準備をいたします。汗をかいていないから入らない、汗をかいたから入ると申し付けくださればそれに合わせた対応をさせていただきます〉
あちこち歩き回りながらの説明にイベリスは少し疲れていた。ウェディングドレスが重い。ヒールが痛い。疲れた。そんな感情を顔に出すもサーシャは前を向いて先を歩いているため気付かない。
早くドレスを脱いでネグリジェに着替えてしまいたいと開放感を求める中、立ち止まったサーシャに合わせてイベリスも足を止めた。
〈こちらが皇妃様のお部屋となっております〉
〈私の?〉
〈公務がございますし、読書やティータイムの時間などはこちらで過ごしていただきます〉
紙とペンを貸してくれと手を動かして借りると質問を書く。
〈王立図書館みたいな場所はないの?〉
〈お読みになりたい本を言っていただければ私が探して持ってまいります〉
〈明日、そこに連れていってもらえる?〉
〈かしこまりました〉
交互にペンを持ってメモ帳に書き込んでいく。サーシャも渋々こうして筆談しているのかもしれないと被害妄想に陥りながらもイベリスは笑顔でありがとうを口パクで伝えた。ペコッと頭を下げるサーシャが進むとイベリスも進む。
「こちらが両陛下の寝室でございます」
これまで見てきた部屋の中で最も豪華な部屋だった。
まるでどこかの神殿から持ってきたような太い柱。天蓋付きベッドから垂れるヴェールのような薄布。ピンと張られたシーツ。六つもあるクッション。オットマン。全て白で揃えられている。壁も床も。
〈何時に寝て、何時に起きるか決まってる?〉
〈陛下は八時半に食堂に向かわれます〉
いつも七時に朝食が出てくる生活だったイベリスにとって一時間半の差は大きい。かといって結婚式当日にも仕事をしなければならないほど多忙な相手はもう少しゆっくり寝たいだろう。合わせてもらうのはさすがにおこがましいかと考え、眉を寄せながら目を閉じて首を傾げる。
〈とりあえずドレス脱ぎたい〉
〈かしこまりました〉
話し合えばいいかと結論に至ったイベリスはとりあえず開放感を得ることを優先した。
手際よく順番に脱がされていくドレス。一つずつ外れていく見たことがないほど大きな宝石がついたアクセサリー。
リンウッドから贈られた婚約指輪でさえこんなに大きな宝石はついていなかった。
イベリスの目が神父の前ではめられた指輪に落ちる。大きな宝石がついた指輪だと目を瞬かせていたが、これはイベリスのために用意したのではなくロベリアの物だ。肖像画のロベリアが身につけていた指輪そのもの。それをそっと外そうとするとサーシャが上からスッと手を押さえて止めた。
〈どうなさいました?〉
〈サイズが少し大きくて、落としたら怖いから外しておこうと思って〉
〈サイズ直しが必要ですね〉
〈あとで彼に話すわ〉
イベリスために作ったのではないのだからサイズが違って当然。サーシャもこれがロベリアの指輪だと知っているのだろう。驚きはしなかった。
この結婚の真実を知らないのはリングデール家だけ。招待客も使用人も知らなかったのかもしれないが、彼がなぜイベリスを選んだのかはすぐに察しただろう。だから皆一様に同じ顔をしていたのだ。
この真実を両親が知れば悲しむだろう。彼を非難するかもしれない。
(悲しませたくないなぁ……)
娘の耳が聞こえないと知ったとき、母親は二人目を諦めた。もう一人産んで、その子も聞こえなかったらどうすればいいと怯えていたから夫も説得もせず受け入れた。
世継ぎが生まれて、聞こえなかったら大変だ。領民とまともに話もできない。通訳を雇えばいいという話ではないらしく、耳の聞こえない人間を不審に思い不安を抱く者もいるとか。
イベリスはその話を聞いて申し訳なくなったが、両親は『あなたの明るさに救われた』と言ってくれた。大事に育ててくれた。娘がしたいと言ったことは何でもチャレンジさせてくれたし、どんな夢でも持てばいいと言ってくれた。なれるなれない、やれるやれないは別として、経験する価値はあると考えてくれたおかげでイベリスは明るくいられた。
耳が聞こえなくとも人生は楽しめると教えてくれた両親に心配はかけたくないから、イベリスは亡き皇妃と自分が瓜二つである真実は隠しておくことにした。
「指輪はどうした?」
日付が変わる頃、寝室に入ってきたファーディナンドが問いかけたのは指輪のこと。労いでもなければ感謝でも謝罪でもない。
〈少しだけ緩くて落とさないか心配で……指輪はあそこに置いてる〉
サーシャが用意してくれたメモ帳に字を書いてファーディナンドに見せて、部屋に置いてあった宝石箱を指した。あの中にはロベリアが使っていたのだろうアクセサリーがそのまま残っており、今日つけていたアクセサリーは全てロベリアの物だとサーシャが教えてくれた。
サーシャは淡々としているが、嫌な人間ではない。キッチリと仕事をするタイプというだけ。皇妃と侍女。決して友人として交わることのない境界線を守って接しているのだと悟った。
聞けば何でも答えてくれた。この部屋に置いてある小物のほとんどがロベリアの物であり、ドレスもそのままにしてあること。明日からロベリアの服を着させるよう命じられていること。新しい物は買い与えず、ロベリアの物を身につけさせること。明日からは公務ではなく皇妃としての授業が組まれていること。
この部屋にも肖像画が飾ってある。ロベリアだけでなくファーディナンドも一緒。新しい妻を迎えたというのにそれを外そうともしない、堂々としたやり口にイベリスは感心すらしていた。
「もう少しだけ太れ」
サイズ直しではなく指輪に身体のサイズを合わせろと言うファーディナンドにイベリスはメモ帳に大きな字で返事を書いた。
〈やだ〉
あんなに優しく微笑んでくれていた男はどこへ行ってしまったのか、苛立ちを表情に出す。
「もう一度言う。もう少しだけ太れ」
もう一度同じ言葉を突きつけるように顔の前にメモ帳を持っていくと払われる。
「細すぎて心配なんだ」
立てた四本指を左胸から右胸へと移動させるイベリスにファーディナンドがかぶりを振り、イベリスも同じように振る。
その言葉が嘘であることを知っているから従いたくなかった。
ベッドの中にいると嫌でも目に入る真正面にある二人の肖像画。見た目は同じだが、ロベリアのほうが少し胸が大きい。見下ろしたくない自分の胸に視線はやらず、言葉を綴る。
〈あなたの思いどおりにはならない〉
その言葉を最後にメモ帳を閉じたイベリスは驚くファーディナンドに拗ねた子供のようにベーッと舌を出して布団にもぐった。
自分の考えがバレていないとは思っていないだろう。この計画がバレたくないなら肖像画も写真立ても隠すはずだし、使用人にペラペラと話すなと緘口令を敷くはず。
ファーディナンドの目的は自分を使ってロベリアを再現することだと悟ったイベリスが小さな反撃を見せたが、それでもあえて何も言ってこないファーディナンドにイベリスは少し腹を立てていた。
自分でもそう思うほど肖像画の人物の見た目。白髪、碧眼、白い肌。違うところと言えばロベリアがボブ、イベリスがロングヘアであることとロベリアのまつ毛が黒、イベリスのまつ毛が白であることだけ。顔も雰囲気もよく似ている。
サーシャがすぐに説明してくれなければファーディナンドがイベリスを想って描かせたと勘違いしそうになるほどに。
〈似てない?〉
自分の顔と肖像画を交互に指すイベリスにサーシャが頷く。
〈ロベリア様と瓜二つのイベリス様を陛下がお連れになられたときは使用人一同、驚きを隠せませんでした。まさかロベリア様と同じ顔をした方を連れてこられるとは、と〉
妻を失ったばかりのファーディナンドを知っているだけにイベリスを連れてきたときは“執念”だとサーシャは思った。
ロベリアとは別人だとわかっていながらもこれだけ似ている人間を見つけ、嫁として迎えるファーディナンドに恐怖さえ感じた。
(ああ……それで……)
おかしいと疑っていなかったわけではない。疑問もちゃんと持っていた。帝国の貴族、男爵レベルならまだしも、皇帝陛下が一端の伯爵令嬢に一目惚れなどするはずがないと。万が一にでもしたとして、国を背負う長が仕事からの帰り道に嫁に迎えたいと求婚するなどおかしいとも。
あの優しい瞳の奥に感じた妙な違和感。あれは勘違いなどではなかった。ファーディナンドはイベリスを通してロベリアを見ていたのだ。亡くなった愛しい妻がまるで目の前にいるように思える人間を手に入れるために良い人間を演じていた。
あの部屋で腕を引く力の強さ。あれは苛立ちが含まれていた。筆談をして笑ってくれたのは演技だったのだろうか。あんな風に楽しく笑い合って話したのも全て手に入れるための演技だったのか。
結婚早々こんな感情に陥るとは思っていなかった。
〈陛下はとてもお優しい方ですから、抱えきれないほどの愛情を注がれることでしょう〉
(彼が愛情を注ぐ相手は私じゃないんでしょ?)
心の中で問いかけるだけにしておいた。サーシャにそんな感情をぶつけたところで仕方ない。亡き妻を、亡き母を想ってそれに似た雰囲気の女性を選ぶ男性は多いと何かの本で読んだことがある。ファーディナンドはまだ二十九歳。妻を亡くして三年。二十六歳での死別。まだたったの三年。恋しく思うのも仕方ないし、理解もする。だが、少なからずショックではあった。
〈行きましょうか〉
頷くイベリスの前をまた歩き出し、イベリスもそれについていく。階段を上がる最中も横目でロベリアの肖像画を見てしまう。
〈こちらが食堂でございます。食事は常にここで行われます〉
〈こちらが執務室でございます。陛下の許可なく立ち入ることは許されません〉
〈こちらが皇妃様専用のバスルームでございます。皇妃様の希望なさる日に入浴の準備をいたします。汗をかいていないから入らない、汗をかいたから入ると申し付けくださればそれに合わせた対応をさせていただきます〉
あちこち歩き回りながらの説明にイベリスは少し疲れていた。ウェディングドレスが重い。ヒールが痛い。疲れた。そんな感情を顔に出すもサーシャは前を向いて先を歩いているため気付かない。
早くドレスを脱いでネグリジェに着替えてしまいたいと開放感を求める中、立ち止まったサーシャに合わせてイベリスも足を止めた。
〈こちらが皇妃様のお部屋となっております〉
〈私の?〉
〈公務がございますし、読書やティータイムの時間などはこちらで過ごしていただきます〉
紙とペンを貸してくれと手を動かして借りると質問を書く。
〈王立図書館みたいな場所はないの?〉
〈お読みになりたい本を言っていただければ私が探して持ってまいります〉
〈明日、そこに連れていってもらえる?〉
〈かしこまりました〉
交互にペンを持ってメモ帳に書き込んでいく。サーシャも渋々こうして筆談しているのかもしれないと被害妄想に陥りながらもイベリスは笑顔でありがとうを口パクで伝えた。ペコッと頭を下げるサーシャが進むとイベリスも進む。
「こちらが両陛下の寝室でございます」
これまで見てきた部屋の中で最も豪華な部屋だった。
まるでどこかの神殿から持ってきたような太い柱。天蓋付きベッドから垂れるヴェールのような薄布。ピンと張られたシーツ。六つもあるクッション。オットマン。全て白で揃えられている。壁も床も。
〈何時に寝て、何時に起きるか決まってる?〉
〈陛下は八時半に食堂に向かわれます〉
いつも七時に朝食が出てくる生活だったイベリスにとって一時間半の差は大きい。かといって結婚式当日にも仕事をしなければならないほど多忙な相手はもう少しゆっくり寝たいだろう。合わせてもらうのはさすがにおこがましいかと考え、眉を寄せながら目を閉じて首を傾げる。
〈とりあえずドレス脱ぎたい〉
〈かしこまりました〉
話し合えばいいかと結論に至ったイベリスはとりあえず開放感を得ることを優先した。
手際よく順番に脱がされていくドレス。一つずつ外れていく見たことがないほど大きな宝石がついたアクセサリー。
リンウッドから贈られた婚約指輪でさえこんなに大きな宝石はついていなかった。
イベリスの目が神父の前ではめられた指輪に落ちる。大きな宝石がついた指輪だと目を瞬かせていたが、これはイベリスのために用意したのではなくロベリアの物だ。肖像画のロベリアが身につけていた指輪そのもの。それをそっと外そうとするとサーシャが上からスッと手を押さえて止めた。
〈どうなさいました?〉
〈サイズが少し大きくて、落としたら怖いから外しておこうと思って〉
〈サイズ直しが必要ですね〉
〈あとで彼に話すわ〉
イベリスために作ったのではないのだからサイズが違って当然。サーシャもこれがロベリアの指輪だと知っているのだろう。驚きはしなかった。
この結婚の真実を知らないのはリングデール家だけ。招待客も使用人も知らなかったのかもしれないが、彼がなぜイベリスを選んだのかはすぐに察しただろう。だから皆一様に同じ顔をしていたのだ。
この真実を両親が知れば悲しむだろう。彼を非難するかもしれない。
(悲しませたくないなぁ……)
娘の耳が聞こえないと知ったとき、母親は二人目を諦めた。もう一人産んで、その子も聞こえなかったらどうすればいいと怯えていたから夫も説得もせず受け入れた。
世継ぎが生まれて、聞こえなかったら大変だ。領民とまともに話もできない。通訳を雇えばいいという話ではないらしく、耳の聞こえない人間を不審に思い不安を抱く者もいるとか。
イベリスはその話を聞いて申し訳なくなったが、両親は『あなたの明るさに救われた』と言ってくれた。大事に育ててくれた。娘がしたいと言ったことは何でもチャレンジさせてくれたし、どんな夢でも持てばいいと言ってくれた。なれるなれない、やれるやれないは別として、経験する価値はあると考えてくれたおかげでイベリスは明るくいられた。
耳が聞こえなくとも人生は楽しめると教えてくれた両親に心配はかけたくないから、イベリスは亡き皇妃と自分が瓜二つである真実は隠しておくことにした。
「指輪はどうした?」
日付が変わる頃、寝室に入ってきたファーディナンドが問いかけたのは指輪のこと。労いでもなければ感謝でも謝罪でもない。
〈少しだけ緩くて落とさないか心配で……指輪はあそこに置いてる〉
サーシャが用意してくれたメモ帳に字を書いてファーディナンドに見せて、部屋に置いてあった宝石箱を指した。あの中にはロベリアが使っていたのだろうアクセサリーがそのまま残っており、今日つけていたアクセサリーは全てロベリアの物だとサーシャが教えてくれた。
サーシャは淡々としているが、嫌な人間ではない。キッチリと仕事をするタイプというだけ。皇妃と侍女。決して友人として交わることのない境界線を守って接しているのだと悟った。
聞けば何でも答えてくれた。この部屋に置いてある小物のほとんどがロベリアの物であり、ドレスもそのままにしてあること。明日からロベリアの服を着させるよう命じられていること。新しい物は買い与えず、ロベリアの物を身につけさせること。明日からは公務ではなく皇妃としての授業が組まれていること。
この部屋にも肖像画が飾ってある。ロベリアだけでなくファーディナンドも一緒。新しい妻を迎えたというのにそれを外そうともしない、堂々としたやり口にイベリスは感心すらしていた。
「もう少しだけ太れ」
サイズ直しではなく指輪に身体のサイズを合わせろと言うファーディナンドにイベリスはメモ帳に大きな字で返事を書いた。
〈やだ〉
あんなに優しく微笑んでくれていた男はどこへ行ってしまったのか、苛立ちを表情に出す。
「もう一度言う。もう少しだけ太れ」
もう一度同じ言葉を突きつけるように顔の前にメモ帳を持っていくと払われる。
「細すぎて心配なんだ」
立てた四本指を左胸から右胸へと移動させるイベリスにファーディナンドがかぶりを振り、イベリスも同じように振る。
その言葉が嘘であることを知っているから従いたくなかった。
ベッドの中にいると嫌でも目に入る真正面にある二人の肖像画。見た目は同じだが、ロベリアのほうが少し胸が大きい。見下ろしたくない自分の胸に視線はやらず、言葉を綴る。
〈あなたの思いどおりにはならない〉
その言葉を最後にメモ帳を閉じたイベリスは驚くファーディナンドに拗ねた子供のようにベーッと舌を出して布団にもぐった。
自分の考えがバレていないとは思っていないだろう。この計画がバレたくないなら肖像画も写真立ても隠すはずだし、使用人にペラペラと話すなと緘口令を敷くはず。
ファーディナンドの目的は自分を使ってロベリアを再現することだと悟ったイベリスが小さな反撃を見せたが、それでもあえて何も言ってこないファーディナンドにイベリスは少し腹を立てていた。
270
お気に入りに追加
872
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
貴方誰ですか?〜婚約者が10年ぶりに帰ってきました〜
なーさ
恋愛
侯爵令嬢のアーニャ。だが彼女ももう23歳。結婚適齢期も過ぎた彼女だが婚約者がいた。その名も伯爵令息のナトリ。彼が16歳、アーニャが13歳のあの日。戦争に行ってから10年。戦争に行ったまま帰ってこない。毎月送ると言っていた手紙も旅立ってから送られてくることはないし相手の家からも、もう忘れていいと言われている。もう潮時だろうと婚約破棄し、各家族円満の婚約解消。そして王宮で働き出したアーニャ。一年後ナトリは英雄となり帰ってくる。しかしアーニャはナトリのことを忘れてしまっている…!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる