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子供に戻る時間
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結局、髪は切らずに済んだ。切りたくないなら切らなくていい。ただし、鬱陶しくはするなという条件付き。
翌朝からサーシャにセットしてもらい、ポニーテールにすることにした。皇妃の髪型としてはあまり相応しくないものの、まだ公務には出ないから構わないとサーシャの判断。朝食時に会ったファーディナンドも何も言わなかった。
(似合うよ、ロベリア。ぐらい言えばいいのに。昨日あれだけロベリアって呼んだんだから)
ロベリアと呼ばれても気にしないことにした。相手が求めているのは亡き妻だとわかっているし、気にすると心を病んでしまいそうだと考えてのこと。
あのあと、彼はロベリアと呼んだことを詫びなかった。サーシャに怒りをぶつけると同じ気持ちだと同意してくれたことで心が救われた。
(食事中に話しかけるなって言ったのは私か)
だだっ広い食堂の中央に位置する長い長いテーブル。ここで食事をするのは二人なのに椅子は八脚もある。無駄な家具だと毎朝思う。ファーディナンドの席は決まっているが、イベリスはどこに座ろうと自由。だからあえてファーディナンドから一番遠い席を選んで朝食をとっていた。
「イベリス、欲しい物はあるか?」
〈犬〉
庭で日向ぼっこ中だったイベリスのもとへやってきたファーディナンドからの問いに光の速さでリクエストが表示されたことに驚きながらも怪訝な表情を見せるファーディナンドに目を輝かせる。
〈犬を飼うのが夢だったの。でもね、両親揃って犬アレルギーなのがわかって飼えなかったの。だから結婚して家庭を持ったら絶対に飼うって思ってたから欲しいのは犬〉
「犬は好きじゃない」
〈あなたが好きか嫌いかはどうでもいいの。これは私が欲しいものだから〉
「俺は犬は好まないと言った」
〈あなたが欲しい物はないかって聞いたんでしょ?〉
「俺が好きじゃない物以外を言え」
目の前に表示される相手の言葉に不快感を露わにするイベリスは相変わらずその文字を払おうと手を振る。いつも何をしているのか気になっていたサーシャは先日説明を受けたばかり。自分が耳で聞いている言葉が目の前に浮かんでいるのかと見えない不思議を感じながら、相変わらずの主人の態度に小さく肩を竦めた。
〈じゃあ最初からそう言って。俺の好きじゃない物以外で欲しい物はあるかって〉
「普通は夫が好かんと言ったら別の物を選ぶだろう」
〈普通は妻が欲しいと言ったら嫌いでも与えるでしょ〉
「普通じゃないお前が言うな」
〈妻をお前って言うな〉
最近、ファーディナンドはイベリスに【減らず口のイベリス】と二つ名を付けた。
ロベリアも反抗的な部分は多かった。でもここまでじゃなかった。顔は似ても別人であることを実感し、結婚したことを少し後悔している。
「なら、この話は無かったことにしろ」
〈帰れ、バーカ〉
「なっ!?」
イベリスは子供っぽい。ロベリアはそうじゃなかった。淑女代表と言っても過言ではないような気品溢れる女性だった。
バカと言われたことがないファーディナンドが悪口代表のような言葉に驚くとイベリスが笑う。その笑顔がまた子供っぽい。似ても似つかない笑顔だが、ファーディナンドは嫌悪を露わにはしない。
毎夜、ベッドの中で話をする。減らず口のイベリスと名付けたのもそのとき。
「新書を買ってやる」
〈犬しかいらない〉
「猫じゃダメか?」
〈猫は家にミカエリスがいたもの〉
「大層な名前だな」
〈ファーディナンドほどじゃないけどね〉
「皇帝に相応しい名だ」
サーシャに顔を寄せて耳打ちしているフリをするイベリスの性悪さに呆れながら悪意を持って言い放った。
「喋れない女のくせに」
〈サーシャには伝わってるもの〉
「サーシャ、こいつはなんと言った?」
巻き込まないでくれと正直思ったが、こちらを見るイベリスの瞳が答えてと言い迫ってくるため息をフーッと息を吐いてからサーシャが言った。
「あんなこと言ってる。皇帝じゃなくて傲慢の間違いでしょ、と」
「サーシャ」
「申し訳ございません。イベリス様のお言葉です」
「お前の言葉だろう」
「断じて違います」
なんと答えたのかメモ帳を叩いて希望するイベリスのためにサーシャは答えたことを正直に書いた。それを読んだイベリスは口を開けて大笑いしながら当たっているとサーシャの言葉をなぞって見せる。そして付け足した。
〈ケチ〉
「犬はなしだ」
〈最初から与えるつもりもないくせに〉
「お前にもう少し可愛げがあったら与えてやった」
ふーんと音にもならない言葉を心の中で呟きながら立ち上がったイベリスはそのままファーディナンドに近付いて正面から抱きついた。なんの真似だと言わんばかりのジト目で見下ろしてくるファーディナンドだが、手はしっかり腰に回っている。
身長差の激しいファーディナンドの胸に顎を当てて真上に見上げながらイベリスが口を動かす。
「俺は読唇術は取得していない」
ファーディナンドの言葉はイベリスに伝わってもイベリスの言葉はファーディナンドには伝わらない。もっとレベルの高い魔法士がいればよかったのだが、世界的に見ても魔法士の存在は貴重。レベルが高ければ高いほどその存在価値は上がり、立場は王族や皇族レベルに至るとも言われている。
実際にレベルの高い魔法士を王族直々にもてなす国もあると言う。ファーディナンドはそれがバカバカしいとしか思えず、莫大な金を動かしてまで呼ぶことはしなかった。
「サーシャ、読唇術の心得は──」
「ございません」
お前が覚えろと言わんばかりの言い方にサーシャを見るもあからさまに顔ごと背けられている。
見た目からしてサーシャは気の強い女。サーシャをイベリスの侍女にしたのは甘やかさないと思ったからだが、むしろ甘やかしているのではないかと思うほど仲良くなってしまっている。
「お前を侍女にしたのは間違いだったかもしれんな」
〈ちょっと!〉
「なんだ?」
〈サーシャが侍女じゃなかったらリンベルに帰るから!〉
浮かんだ言葉に身体を離してドンッと胸を押すとその後も二度三度と押す。手話で伝えているのだろう手を動かしながら表情でも伝えるイベリスを見ながらファーディナンドが肩を竦めた。
「わからん」
その言葉に明らかに拗ねた顔を見せるイベリスがサーシャにメモ帳を持ってくるよう手を差し出した。イベリスのメモ帳とペンを持ってきたサーシャには笑顔を見せ、ファーディナンドには不機嫌を。彼に隠すようにメモ帳を持ち上げた状態でペンを走らせると三秒間睨みつける。
「さっさと見せろ」
手を差し出すとメモ帳を裏向けて置いた。煩わしいことをと眉を寄せながら反対の手でメモ帳を取って表を向ければファーディナンドが固まり、イベリスが笑いながら走ってその場を離れていく。
メモ帳を草の上に投げ捨てたファーディナンドが大股でイベリスのあとを追う。走ってはいない。速歩きをしているだけなのに走っているイベリスとの距離が詰まっていく。
からかうように笑っていたイベリスの顔が焦りへと変わり、屋敷内に入ろうとノブに手をかけたところで首根っこを掴まれた。
〈冗談よ? 冗談。ジョーク〉
開いた両手を下に向けて頬の横で振るもファーディナンドは「わからん」とお決まりの言葉を言い放つ。
〈待って! 何!? 何するの!?〉
肩に担がれて視界の角度がおかしくなり、身体が不安定になる。お姫様抱っこではなく、大工が木材を担ぐようなやり方に相手の怒りを感じていた。
〈怒りすぎじゃない!? 冗談だってば!〉
背中を叩きながら訴えるも声が出ないため相手にわかるはずもない。さっきまでいた場所を戻ってどこかへ向かうファーディナンドに担がれながら慌ててサーシャに手を伸ばすもかぶりを振られる。
ファーディナンドが投げ捨てたメモ帳を拾い上げ、イベリスが何を書いたのか確認した結果、イベリスが悪いと判断してのこと。それでも二人をそのまま立ち尽くして見送るのではなく、ちゃんとあとはついていく。
「陛下、イベリス様がお風邪を引いては大変です」
「バカは風邪など引かん」
「どんな人間でも風邪ぐらい引きます」
庭の奥にある巨大な池に真っ直ぐ向かっていることに気付き、彼が何をしようとしているのか悟ったサーシャの言葉を無視したファーディナンドは肩に担いでいたイベリスを容赦なく池へと投げ捨てた。
ザブンと全身が浸かったことに慌てて水面へと上がると信じられないと唖然とした表情を向けるイベリスを見たファーディナンドの言葉は宙に浮く。
「バカはお前だ」
イベリスが出すように舌を出したファーディナンドにポカンと口を開ける。そのまま踵を返すファーディナンドは庭にいた使用人たちの視線を全て集めながら屋敷へと向かう。
追いかける前に他の使用人に湯の準備をするよう頼んだサーシャはすぐにイベリスに駆け寄り、手を伸ばして池から引っ張り上げるもイベリスは駆け出した。
「イベリス様!?」
何をするつもりだと振り返ると一直線にファーディナンドを追いかけているのが見えた。そしてそのまま彼の背中に飛びつくように抱きついた。
ファーディナンドが濡れることを嫌うのを知ってか知らずか、離れろと首根っこを掴まれても離れようとはしなかった。
先代からキルヒシュ家に仕えている執事長のアイゼンに「早くお風呂に入りなさい!!」とファーディナンド含めて怒られたことでイベリスはしてやったりと笑い、ファーディナンドはイベリスを睨みつけながらそれぞれ浴室へと向かった。
「すごい……。嫌がらせの達人……」
ロベリアとでは絶対にありえなかった光景。ファーディナンドがどれだけロベリアを求めようともイベリスはイベリスでしかないのだと微笑ましくさえ思ったサーシャは〈バーカ〉と書かれたメモ帳をポケットにしまって、イベリスの浴室へと急いだ。
翌朝からサーシャにセットしてもらい、ポニーテールにすることにした。皇妃の髪型としてはあまり相応しくないものの、まだ公務には出ないから構わないとサーシャの判断。朝食時に会ったファーディナンドも何も言わなかった。
(似合うよ、ロベリア。ぐらい言えばいいのに。昨日あれだけロベリアって呼んだんだから)
ロベリアと呼ばれても気にしないことにした。相手が求めているのは亡き妻だとわかっているし、気にすると心を病んでしまいそうだと考えてのこと。
あのあと、彼はロベリアと呼んだことを詫びなかった。サーシャに怒りをぶつけると同じ気持ちだと同意してくれたことで心が救われた。
(食事中に話しかけるなって言ったのは私か)
だだっ広い食堂の中央に位置する長い長いテーブル。ここで食事をするのは二人なのに椅子は八脚もある。無駄な家具だと毎朝思う。ファーディナンドの席は決まっているが、イベリスはどこに座ろうと自由。だからあえてファーディナンドから一番遠い席を選んで朝食をとっていた。
「イベリス、欲しい物はあるか?」
〈犬〉
庭で日向ぼっこ中だったイベリスのもとへやってきたファーディナンドからの問いに光の速さでリクエストが表示されたことに驚きながらも怪訝な表情を見せるファーディナンドに目を輝かせる。
〈犬を飼うのが夢だったの。でもね、両親揃って犬アレルギーなのがわかって飼えなかったの。だから結婚して家庭を持ったら絶対に飼うって思ってたから欲しいのは犬〉
「犬は好きじゃない」
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「俺は犬は好まないと言った」
〈あなたが欲しい物はないかって聞いたんでしょ?〉
「俺が好きじゃない物以外を言え」
目の前に表示される相手の言葉に不快感を露わにするイベリスは相変わらずその文字を払おうと手を振る。いつも何をしているのか気になっていたサーシャは先日説明を受けたばかり。自分が耳で聞いている言葉が目の前に浮かんでいるのかと見えない不思議を感じながら、相変わらずの主人の態度に小さく肩を竦めた。
〈じゃあ最初からそう言って。俺の好きじゃない物以外で欲しい物はあるかって〉
「普通は夫が好かんと言ったら別の物を選ぶだろう」
〈普通は妻が欲しいと言ったら嫌いでも与えるでしょ〉
「普通じゃないお前が言うな」
〈妻をお前って言うな〉
最近、ファーディナンドはイベリスに【減らず口のイベリス】と二つ名を付けた。
ロベリアも反抗的な部分は多かった。でもここまでじゃなかった。顔は似ても別人であることを実感し、結婚したことを少し後悔している。
「なら、この話は無かったことにしろ」
〈帰れ、バーカ〉
「なっ!?」
イベリスは子供っぽい。ロベリアはそうじゃなかった。淑女代表と言っても過言ではないような気品溢れる女性だった。
バカと言われたことがないファーディナンドが悪口代表のような言葉に驚くとイベリスが笑う。その笑顔がまた子供っぽい。似ても似つかない笑顔だが、ファーディナンドは嫌悪を露わにはしない。
毎夜、ベッドの中で話をする。減らず口のイベリスと名付けたのもそのとき。
「新書を買ってやる」
〈犬しかいらない〉
「猫じゃダメか?」
〈猫は家にミカエリスがいたもの〉
「大層な名前だな」
〈ファーディナンドほどじゃないけどね〉
「皇帝に相応しい名だ」
サーシャに顔を寄せて耳打ちしているフリをするイベリスの性悪さに呆れながら悪意を持って言い放った。
「喋れない女のくせに」
〈サーシャには伝わってるもの〉
「サーシャ、こいつはなんと言った?」
巻き込まないでくれと正直思ったが、こちらを見るイベリスの瞳が答えてと言い迫ってくるため息をフーッと息を吐いてからサーシャが言った。
「あんなこと言ってる。皇帝じゃなくて傲慢の間違いでしょ、と」
「サーシャ」
「申し訳ございません。イベリス様のお言葉です」
「お前の言葉だろう」
「断じて違います」
なんと答えたのかメモ帳を叩いて希望するイベリスのためにサーシャは答えたことを正直に書いた。それを読んだイベリスは口を開けて大笑いしながら当たっているとサーシャの言葉をなぞって見せる。そして付け足した。
〈ケチ〉
「犬はなしだ」
〈最初から与えるつもりもないくせに〉
「お前にもう少し可愛げがあったら与えてやった」
ふーんと音にもならない言葉を心の中で呟きながら立ち上がったイベリスはそのままファーディナンドに近付いて正面から抱きついた。なんの真似だと言わんばかりのジト目で見下ろしてくるファーディナンドだが、手はしっかり腰に回っている。
身長差の激しいファーディナンドの胸に顎を当てて真上に見上げながらイベリスが口を動かす。
「俺は読唇術は取得していない」
ファーディナンドの言葉はイベリスに伝わってもイベリスの言葉はファーディナンドには伝わらない。もっとレベルの高い魔法士がいればよかったのだが、世界的に見ても魔法士の存在は貴重。レベルが高ければ高いほどその存在価値は上がり、立場は王族や皇族レベルに至るとも言われている。
実際にレベルの高い魔法士を王族直々にもてなす国もあると言う。ファーディナンドはそれがバカバカしいとしか思えず、莫大な金を動かしてまで呼ぶことはしなかった。
「サーシャ、読唇術の心得は──」
「ございません」
お前が覚えろと言わんばかりの言い方にサーシャを見るもあからさまに顔ごと背けられている。
見た目からしてサーシャは気の強い女。サーシャをイベリスの侍女にしたのは甘やかさないと思ったからだが、むしろ甘やかしているのではないかと思うほど仲良くなってしまっている。
「お前を侍女にしたのは間違いだったかもしれんな」
〈ちょっと!〉
「なんだ?」
〈サーシャが侍女じゃなかったらリンベルに帰るから!〉
浮かんだ言葉に身体を離してドンッと胸を押すとその後も二度三度と押す。手話で伝えているのだろう手を動かしながら表情でも伝えるイベリスを見ながらファーディナンドが肩を竦めた。
「わからん」
その言葉に明らかに拗ねた顔を見せるイベリスがサーシャにメモ帳を持ってくるよう手を差し出した。イベリスのメモ帳とペンを持ってきたサーシャには笑顔を見せ、ファーディナンドには不機嫌を。彼に隠すようにメモ帳を持ち上げた状態でペンを走らせると三秒間睨みつける。
「さっさと見せろ」
手を差し出すとメモ帳を裏向けて置いた。煩わしいことをと眉を寄せながら反対の手でメモ帳を取って表を向ければファーディナンドが固まり、イベリスが笑いながら走ってその場を離れていく。
メモ帳を草の上に投げ捨てたファーディナンドが大股でイベリスのあとを追う。走ってはいない。速歩きをしているだけなのに走っているイベリスとの距離が詰まっていく。
からかうように笑っていたイベリスの顔が焦りへと変わり、屋敷内に入ろうとノブに手をかけたところで首根っこを掴まれた。
〈冗談よ? 冗談。ジョーク〉
開いた両手を下に向けて頬の横で振るもファーディナンドは「わからん」とお決まりの言葉を言い放つ。
〈待って! 何!? 何するの!?〉
肩に担がれて視界の角度がおかしくなり、身体が不安定になる。お姫様抱っこではなく、大工が木材を担ぐようなやり方に相手の怒りを感じていた。
〈怒りすぎじゃない!? 冗談だってば!〉
背中を叩きながら訴えるも声が出ないため相手にわかるはずもない。さっきまでいた場所を戻ってどこかへ向かうファーディナンドに担がれながら慌ててサーシャに手を伸ばすもかぶりを振られる。
ファーディナンドが投げ捨てたメモ帳を拾い上げ、イベリスが何を書いたのか確認した結果、イベリスが悪いと判断してのこと。それでも二人をそのまま立ち尽くして見送るのではなく、ちゃんとあとはついていく。
「陛下、イベリス様がお風邪を引いては大変です」
「バカは風邪など引かん」
「どんな人間でも風邪ぐらい引きます」
庭の奥にある巨大な池に真っ直ぐ向かっていることに気付き、彼が何をしようとしているのか悟ったサーシャの言葉を無視したファーディナンドは肩に担いでいたイベリスを容赦なく池へと投げ捨てた。
ザブンと全身が浸かったことに慌てて水面へと上がると信じられないと唖然とした表情を向けるイベリスを見たファーディナンドの言葉は宙に浮く。
「バカはお前だ」
イベリスが出すように舌を出したファーディナンドにポカンと口を開ける。そのまま踵を返すファーディナンドは庭にいた使用人たちの視線を全て集めながら屋敷へと向かう。
追いかける前に他の使用人に湯の準備をするよう頼んだサーシャはすぐにイベリスに駆け寄り、手を伸ばして池から引っ張り上げるもイベリスは駆け出した。
「イベリス様!?」
何をするつもりだと振り返ると一直線にファーディナンドを追いかけているのが見えた。そしてそのまま彼の背中に飛びつくように抱きついた。
ファーディナンドが濡れることを嫌うのを知ってか知らずか、離れろと首根っこを掴まれても離れようとはしなかった。
先代からキルヒシュ家に仕えている執事長のアイゼンに「早くお風呂に入りなさい!!」とファーディナンド含めて怒られたことでイベリスはしてやったりと笑い、ファーディナンドはイベリスを睨みつけながらそれぞれ浴室へと向かった。
「すごい……。嫌がらせの達人……」
ロベリアとでは絶対にありえなかった光景。ファーディナンドがどれだけロベリアを求めようともイベリスはイベリスでしかないのだと微笑ましくさえ思ったサーシャは〈バーカ〉と書かれたメモ帳をポケットにしまって、イベリスの浴室へと急いだ。
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