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仮面の下も

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 施設から引き取られてからそこに至るまで一年も経っていない出来事を彼は淡々と語ってくれた。
 外した仮面の下には劇薬によって爛れた皮膚。目も劇薬で溶けてしまったのだろうか、目元は爛れた皮膚が覆い被さっていた。
 仮面は既製品ではなく彼の爛れた皮膚の形になっていた。アイリスが言った『無駄遣い』はルーカスが彼のために作ったと証明するもので、これは評判を上げるためか、それとも哀れに思った同情心からか。どちらにせよ彼はこれのおかげで後ろ指さされる事はなかった。
 自分は彼が仮面をつけずに顔合わせに来ていたらどんな反応をしただろうとアーデルはふと考える。フォスはきっと『汚ッ』と口にしてしまっただろうが、自分はどうだ。人は中身だと言って受け入れただろうか。国のため、父のためだと快諾できたか。

「ジュベール皇子から報復はありましたか?」
「暫くはありませんでした。皇帝陛下が接触を禁じていたのでしょう。感染症を起こして高熱を出したりと生死の境を彷徨っていた三ヶ月間は、ですが」

 あの態度からして反省しているわけがない。劇薬を落とされるほどの罰を受けた人間だとは思えない言動だった。彼の人生に反省という言葉は存在しないのだろう。ヒュドールを支配するワーナー家の長男として生まれた誇りが彼を歪ませた。
 
「僕が生死の境を彷徨っている三ヶ月の間、兄は必死に剣の稽古を積んだようで、僕が動き回れるようになった頃に挑まれた皇帝陛下立ち会いの試合では見違えた動きをしていました」
「勝ちましたか?」

 苦笑しながら頷くラビにアーデルが小さく微笑む。

「才に勝るものはない。悔しがる兄に皇帝陛下はそう言いました」
「それに対しての報復は?」
「ありませんでした」

 それはラビの完全勝利という事で、彼があんなに家族に怯える必要はなくなったという事でもあるのではないかとアーデルは思ったが、ラビはアーデルが何を考えているか見抜いたのか、かぶりを振った。

「劇薬の痛みは想像を絶するなんて言葉じゃ表現できないほど酷いものでした。身体中で受けたあの鞭の痛みも……」

 ギュッと自分の腕を握るラビの手をアーデルが握る。

「兄に剣で勝つのは怖かったですが、皇帝陛下が手加減があったと判断したら罰を与えると言ったので勝ちました。でも、それがまた兄さんを怒らせる事となってしまったのは明白です。でも、それ以外ではもう、反抗する気が起きなかったんです。彼を見たら身体が震える……本能ですかね」

 弟に負けた事で兄のプライドはズタズタに引き裂かれた。もう二度と負けないようにと必死に鍛錬を積んだにもかかわらず、結局は復帰したばかりの弟に負けた。才能という言葉が憎く感じただろう。弟を殺したくなっただろう。だが、それができなかったのはジュベールも父親から受けたあの“教育”がトラウマとなっているから。
 だから殺しはしない。その代わり、徹底的に弟を服従させる。怯えさせ、二度と反抗できないように躾ける事にした。何度も何度も何度も何度も圧をかけ、時には暴力を振るうことで今のラビが出来上がった。

「あなたの本当の名前は?」

 その名前ではなく本当の名前が知りたいと言うアーデルにラビが苦笑する。

「ラビッシュです」
「その名ではなく……」
「ラビッシュなんです」

 意地を張ってその名を通そうとするわけがない。捨てた母親がそう名付けたのか、それとも施設の人間がそう名付けたのか。どちらにせよ、最低だとアーデルが唇を噛む。

「ワーナー家に引き取られて付けられたその名が僕の名前なんです。施設では名前がありませんでしたから」
「え……?」

 ラビの人生を聞けば聞くほど思考が停止していくような気がする。彼が生きてきた人生があまりにも自分とは違いすぎて。

「施設では子供を名前で呼びません。次から次へと捨てられてくる子供に名前を、なんて考える人間はあそこにはいませんでしたから」
「その子供を呼ぶ時はどうするのですか?」
「子供を指差して『お前』『アイツ』と呼ぶだけです。大人が声を出せば皆が振り向くので、それでも問題はありませんでした」

 初めて呼ばれた名前がラビッシュ。ゴミという意味だ。ルーカスからすればゴミ箱の中から適当に拾い上げたゴミという意味での事だろうと最悪な想像をしてしまう自分が嫌で、アーデルは思わず自分の腕を抓った。
 
「あなたには辛い思いをさせると思います」

 ラビの言葉に顔を上げたアーデルが怪訝な表情を向ける。

「なぜ、そう思うのですか?」
「あなたの夫はこんな汚い顔を持つ男です。それだけじゃない。臆病で、人殺しで、死神と呼ばれている。旅行先だって選び放題ではないですし、ルスに帰れば僕の事で嫌な思いをするで──いッ!?」

 パンッと乾いた音が鳴り、頬を両側から挟まれているラビが痛みに思わず声を上げた。目の前にいるアーデルの顔は怒りを見せている。ヒリヒリと痛む頬を押さえるよりも怒っているアーデルが気になって目を瞬かせる。

「あなたといて辛い思いをした事は一度だってありませんし、これからも思う事はありません」

 怒った顔で断言するアーデルの強い口調にラビは「で、でも……」と言葉を続けようとするがアーデルが許さない。

「辛いかどうかは私が決めます。あなたが勝手に決めないでください」
「だ、だって実際、ルスで──」
「あれは辛い思いではなく嫌な思いをしただけです! それもあなたのせいではなく、彼らのせいです! あなたの事を何も知らないのに好き勝手口にするから腹が立って腹が立って泣いてしまっただけです!」
「で、でも僕はこんなだし、きっと──」

 叩かれる。アーデルの手の動きを目はハッキリと捉えていたが、ラビはそれを止めはしなかった。アーデルは感情的になると手が出る事がある。それはシャンディの件でも今回の事でもわかった。だけど、ラビはそうした行動を嬉しく思った。シャンディのように前に出すぎる人は好きじゃない。だけど、三歩下がってついてくる人も苦手。人の後ろを歩くのに慣れすぎてどうすればいいかわからなくなるから。
 怒鳴られるのは苦手だし嫌い。だけど、これは苦手な、嫌いな怒鳴りではない。叱っているのだ。それがなんだか妙に嬉しかった。

「私、怒ってるんですよ」
「わかってます。ごめんなさい」

 抱きしめるラビに文句は言うが離れようとはしない。アーデルもこの温もりが大事で大好きだ。彼以外にこうされたいとは思わないし、彼以外の温もりが欲しいとも思わない。
 彼の性格上、抱きしめて解決しようなどと思ってしているわけではないとわかっているからこそ、アーデルは許してしまう。

「本当に臆病な人は怖いのに妻を守ったりしません。快楽で人を殺しているわけではないし、好んで死神と呼ばれているわけでもないんです。旅行先だって選べる中から選べばいいし、そんな事ぐらいであなたの妻になったせいでこんなにも辛い思いをしているなんて思ったりしません。私の夫は怖がりで死神と呼ばれていますが、最低な人間ではないんです。とても整った顔をした美しい人です。背が高くて優しくてかっこいい人なんです」
「そ、そんな事は……」
「彼の事、知らないでしょう? 知らないのに悪く言わないでください」

 シャンディも顔については受け入れてくれた。だけど、見てると辛くなるから外さないでと言われた。美しいなんて言われたことはない。この顔に、この皮膚に触れて、真っ直ぐ目を見てくれる人はいなかった。
 
「アーデル……?」

 抱きしめているアーデルの身体が震え、じわりと胸元が濡れるのを感じる。なぜ泣いているのか、とラビは聞かなかった。
 ラビは幸せだった。自分のためにこうして泣いてくれる人がいる。語ったのは全て過去の事なのに。
 優しいのはどっちだ。
 
「ラビ」
「は、はい!」

 突然の呼び捨てに慌てていると顔を上げたアーデルと目が合う。

「ラビはラビッシュのラビではなく、生命という意味のラビです」
「生命?」
「たった一つの命という意味を持つラビ。春という意味がある国もあるんです。春のように暖かく優しい風のような心を持つあなたにぴったりの名前だと私は思います」

 ラビは自分の名前について考えた事は一度もなかった。ゴミという意味で名付けられたラビッシュ。『ゴミ』『クズ』その単語は『おはよう』よりもずっと多く聞いてきた。ワーナー家の人間とそんな当たり前の会話を交わした記憶すらないラビにとって彼らが飛ばす『ゴミ』という言葉は自我を侵食するほどの威力があった。
 アーデルはいつも言葉をくれる。優しい言葉を。ラビと呼ばれていたのはラビッシュと名付けた事が国民に知られれば非難を受けるから。だから表ではラビと呼ばれていた。
 ラビと呼ばれる事に安堵した日はない。呼び方が変わっただけで本来の意味は変わっていないのだから。
 ずっと名前が嫌いだった。アーデルに『ラビ皇子』と呼ばれるのも心の中では好ましく思ってはいなかった。仕方ない事だ。名前がそうなのだから仕方ない事なのはわかっていても、時々『ゴミ皇子』と呼ばれている気がする日もあって、アーデルが悪いわけではないのに苦しくなったりもした。
 ラビと呼んでほしい。ヒュドール帝国の皇子という称号など捨ててしまいたい。でも呼び捨てにされたらそれはそれで『ゴミ』と呼ばれている気分になる日もあるのだろうと考えてしまい、何も言わずにいた。
 そんな勝手な思い込みの鎖に雁字搦めになっていたのが今、嘘のように解放された気分だった。

「ぼ、僕は……」
「あなたは素敵な人です。世界中に自慢して回りたいぐらいに」
「そ、そんな事は……」
「優しい人はたくさん見てきました。両親、妹、ココ、ルスの国民──皆、とても優しいんです」

 だからアーデルも優しい人間に育ったのだとラビは頷く。

「だけど、あなたはそれ以上です」
「ぼ、僕はそんなに出来た人間ではありません。卑屈で、臆病で──……」
「優しくて、強くて、賢くて」

 自分を卑下しても必ずアーデルは良い言葉をくれる。誰も与えてくれなかった言葉を言ってくれるアーデルにもっと言ってほしくて卑下しているかのではと自分を疑ってしまう。
 もう一度頬に触れてくるアーデルが笑顔を見せた。人のために泣ける人。こんなにも優しい人が自分を優しいと言ってくれる。この上ない幸せだとアーデルの頬に流れる涙を指先で拭う。

「今日はたくさん貯金箱に入れなきゃダメですよ」
「そうですね。いっぱいになってしまうかもしれません」
「じゃあ、引っ越しが終わったら旅行ですね」
「今度はちゃんと知らせてから行きましょうね」

 幸せすぎて怖くなる、と書かれた小説の台詞を読んだ事がある。幸せを知らなかったわけではない。シャンディといた頃は幸せだった。いや、あれは幸せではなく安堵だったのかもしれない。シャンディと一緒にいて楽しかった事実はあれど、涙を流した事はなかったから。
 シャンディに土下座をして謝る事があっても辛く思わなかったのは家で強要される謝罪よりはずっとマシに思えたから。
 アーデルは違う。土下座される事を嫌い、続けようとすれば怒り、言い聞かせられる。怒りに任せてではなく、しっかりと目を見て説明する。
 何度だって言葉をくれる彼女と結婚できた事を幸せだと実感しない日はない。何度も感じている幸せが何度でもそれ以上の幸せで上書きされる。
 流れる涙を拭ってくれる手を握る。小さな手。この小さな手が温もりと幸せをくれる。離したくない。離せない。
 幸せが形となって溢れだす二人はそっと額を合わせ、祈るように目を閉じ、またゆっくりと上げた顔を見合わせ、視線を絡ませると引き寄せられるように唇を重ねた。
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