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11話 文化祭準備でお仕事
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しおりを挟む放課後。サイエンスショーの打ち合わせは「小実験室」というところでやるとのことで、皇に連れられ、そこに向かった。皇は、前髪は無造作に分けていたものの、メガネのままだった。「外してください」と言ったが、「薬品を扱うので、このままで許してください」と断られた。なんという男だ。私の願いを断るとは……。
実験室の扉を開けると――。
「エルデさーん!!」
「皇ぃ! お前にばっかりエルデさんを独り占めさせねぇぞ!」
「お前がエルデさんに手出ししないか、俺たちが見張ってやる!!」
五匹の豚どもがいた。くさい。
「部活は?」
「今日は休みだ」
「そっか。じゃあ手伝ってよ」
皇は豚どもに指示を出し、器具や物の準備をはじめた。ビーカーやフラスコ、電流系、薬品、化学物質が並ぶ。
私は豚の用意した椅子に座り眺めていた。
パフォーマンスは、四部に分けて行う。演目はそれぞれ別のものを行う。
「キルコさんは、どれが一番見応えがあるか教えてください」
正直、科学に興味がないからどれでもいいのだが。
それより、皇と一緒に支度をする豚どもが使えるか、試してみるか。
私は羽の髪飾りに力を込め、皇の隣にいる目の小さな白豚のポケットにそれを飛ばした。
「まずは、火のパフォーマンスから行きましょう。準備できた。電気、お願い」
パチリと電気が消えた。窓は黒いカーテンで閉ざされ、研究室はすっかり暗くなった。皇がなにかをピンセットで掴み、そこに薬品を吹きかけているのがうっすらと見える。
皇が集中している、暗がりの中――。
そのチャンスを、私の羽は逃さなかった。実験を手伝っていた豚の白いポケットからふわりと漂い、豚の手に近づくと、鎌の形に変わった。そして豚の意識を乗っ取った。
豚は、ふらりと半歩後ろに下がった。
皇は「よし」とピンセットでなにかを掴んだ。すっかり集中しているのか、背後に注意を向ける様子はない。
――今だ。
豚の手の鎌が、皇の背後を襲った!
――パシッ。
鎌が皇の背中に突き刺さろうとした瞬間。
皇が、豚の手を掴んだ。後ろ手のまま、豚を見ることもせず。
「どうした?」
「……ん? あれ? 俺、なんかしたか?」
「実験中は腕を振りまわさないこと」
「すまん」
豚の意識も戻ってしまい、結局、私の実験は失敗に終わった。まあ、皇のことだから、こうなるだろうとは思っていたが。
やはり一番油断していたのは身内、または私か……。とはいえ、この豚が無能だっただけで、チャンスがあるかもしれない。数日はこの作戦で粘ってみるか。
「点火します」
皇の声の直後、暗闇の中に、激しい火飛沫が浮かび上がった。
とても美しい橙の光。
まるで、ジャパニーズ・花火……。たしか、手で持つタイプの花火がこんなふうだった。
皇が火に、霧吹きのようなものでなにかを吹きかける。花火の色が変わった。美しい黄緑色。なぜ? 魔法のようだ……。すぐにまた、霧吹きによって色が変わった。赤。どうなっているのだ……!
「花火の原理を使ったパフォーマンスです。日本文化の一つなので、キルコさんが好きかと思って」
電気がつく。
皇の唇が、やわらかく微笑んでいた。
――私が、好きだと思って……?
キュン、と胸が鳴る。
私のために、なんて……。
なんて最高なファンサ!!
メガネをかけていても、前髪で顔が隠れていても、推しからの供給はすべて幸福!
ああ、ますます推しになる……!
推し事、最高! 推し事、楽しい――っ!
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