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9話 お呼ばれでお仕事

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皇の母に促されるまま、奥の和室に向かった。
 美しい花柄の、鮮やかな着物が五着ほど並んでいた。赤、濃いピンク、淡いピンク、橙、青。どれも可愛い……。

「せっかく若いんだし、日本文化を楽しみにきたんだし、鮮やかな色の方がいいかと思っていろいろ揃えて見たの。
 だけど、私の一押しはこれ! 秀ちゃんからお写真を見せてもらった時、この着物がぱっと浮かんだの!」

 家政婦たちがモノクロの着物を運んできた。
 左半分が白、右半分が白黒の花和柄。鱗のような上品な質感は、「しぼり」というものらしい。
 シックで美しい……。私好みだ。
 
「これがいいです」
 
「よかった! じゃあ、着替えていきましょう」

「その前に」

 私は、カバンから黒い包みを取り出し、彼女に手渡した。

「今日のお礼です」

「え? そんな、いいのよ」

「もらっていただきたいんです。開けてください」

 彼女が包みを開くと、黒い羽の髪飾りがあった。私がいつも身につけているもの――つまり、死神の鎌である。鎌には、標的が隙を見せたときに持ち主の意識と体を操り、魂を狩るよう、神力を込めている。
 家人――ことさら母親であれば、ある程度の時間はともにいる。これなら、きっと成功するだろう。

「綺麗。じゃあ、大切にするわね」

 彼女はそっと胸に抱く仕草をすると、そのまま懐にやさしくしまった。
 
 皇の母と家政婦3人が着付けをしてくれた。
 胸や腹の周りになぜかいくつもタオルを当てられ、何本もの紐でぐるぐる巻きにされていく。過程を見ていると、ワクワクしながらも目がまわりそうだった。

「キルコさんは秀ちゃんのこと、どう思ってるの?」

「推しだと思っています」

「推し……! 私と一緒ね! 私も秀ちゃんのこと、推しなの!」

 なんと……! こんなにたおやかなジャパニーズ・ヤマトナデシコが、推しという言葉を使うとは! 推しという言葉は日本のサブカル文化だと思っていたが、今や広く浸透しているようだ。

「同担拒否派?」

「同担歓迎です」

「じゃあ私たち、同担仲間ね!」

 同担仲間……! はじめて同担仲間ができた。嬉しい……!
 緋王様のライブに行って、仲間同士で参戦している周りのファンたちをみて、実は少し羨ましかったのだ。推しのいいところを語り合う仲間がいることが……。
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