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9話 お呼ばれでお仕事

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 その話があった翌日の木曜日と翌々日の金曜日は定期テストというものがあった。
 なぜ神であるこの私が、人間に試されねばならないのか。筆記用具を持つのも面倒くさく、適当に念じて答えを浮かび上がらせ終わらせた。
 金曜日の朝、靴箱に皇からの手紙が入っていた。

『キルコさん

 テストお疲れ様です。また、明日は貴重な時間をいただきます。よろしくお願いします。
 明日は、10時に駅に車を迎えにいかせます。ナンバー「20―02」の黒い車に乗ってください。
 変更があればおっしゃってください。電話でも大丈夫です。下に書いた番号にかけてください。
 楽しみにしています。

 皇 秀英
 090ーXXXXーXXXX』

 土曜日。手紙の指示通りに、駅の車に乗りこんだ。
 正面玄関らしきところに停まり、扉が開いて、ぎょっとした。
 着物姿のオバサンたちが、道の両脇に四人ずつ並んでいたのだ。

「いらっしゃいませ」

 八人が声を揃えて美しく礼をする。私は、おおっと心が躍った。
 まるで、ジャパニーズ・旅館そのもの……! ジャパニーズ・女中! いや、家政婦か! 着物、可愛い!

 「キルコさん」
 
 広い石畳を歩む、カラコロとした草履の音。
 目を向けると、広い玄関から、紺色の着物を着た、皇が出てきた……!
 しかも、センター分けをしている……! メガネも外している! 緋王様!? 緋王様なのか!? 似ている! 違うけど! でも、どっちにしてもいい……! よすぎる……! 奇跡……っ!!

「うっ……」

「キルコさん!?」

 立っていられず、指を組んだまま膝をついた私に、着物の人々が集まってきた。
 ああ、ここはジャパニーズ・天国……?

「大丈夫ですか!? 体調、悪いですか!?」

 目の前に膝をついた皇が眩しすぎて……。
 しかも、近くなったから、鎖骨がよく見えて……!

 キュンッ!!!!!!
 
 私は目をつむり、天を仰いだ。

「キルコさん……?」

「写真、撮っていいですか?」

「え? 僕の、ですか?」

「ほら、その髪型でよかったでしょう? 秀ちゃん」

 奥から歩いてきたたおやかな女性に、私は目を奪われた。
 なんて美しい、ジャパニーズ・着物美人……。
 切れ長の細い目、すっと通った皇に似た鼻筋、薄い唇、きっちりとまとめたおだんごの髪。
 薄い黄色の着物と鮮やかな水色の帯に織り込まれた金の花の柄は、十分な知識のない私でも、一目見ただけで高級だと分かるほど美しかった。
 そして、まるでその着物と一体となっているかと思うほど、彼女にぴったりだった。
 家政婦たちが、「奥様」と頭を下げた。

「はじめまして。秀英の母です」

 美しく、彼女は一礼をした。私は、ますます見惚れた。
 だが、さっと立ち上がり、「この度は、お招きいただきありがとうございます」と礼を返した。

「まあ、美しい! 話に聞いていた通りね!」

 彼女は、口元を隠してくすくすと笑った。
 ああ、素晴らしきジャパニーズ・ビューティ!  ヤマトナデシコとはこのことか!
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