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8話 銃撃でお仕事

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 ――いや、終わらせまい。

 どんなに萌えても、この男は私の標的。だから、運命写真を撮った時点で決めていた。
 今日一番のチャンスであるこのタイミングで仕掛けると。
 私は、男の脳に念じた。
 
 ――銃を取りなさい。そして、撃ちなさい。

 男が、銃を握った。そして、銃口を皇に向けた。
 音に反応して、皇が振り向いた。

「皇さん」

「キルコさん!?」

 階段から顔を出した私に、注意がそれた。
 男が、引き金を引いた。

 パァン!

 銃弾が皇の肩をかすめた。男の気配を察知して、身を避けたらしい。
 直後、皇が水鉄砲を構え、引き金を引いた。
 男の手の甲に、濃硫酸が直撃する。

「あぢぃいいいいいいいいい!!!!」

 男の手が赤く溶ける。長銃が、からんと落ちた。

「キルコさん!」

 皇が私のところに全速力で駆け寄ってきた。

「怪我はありませんか!? 流れ弾は来ませんでしたか?」

「大丈夫です」

「そうですか……。よかった」
 
 風が吹いた。皇の前髪が上がる。皇の微笑に、ドキリと、胸が高鳴る。
 皇は破れた肩をそのままに、「もう少し待っていてください」とやさしく微笑み、男の方に向かっていった。
 
 萌え……。やさしい微笑み、萌え……。
 というか、自分のほうが怪我の心配があるのに、私を優先して……。
 や、やさしい……。

 いや。だめだ。こんなことでほだされては!
 今が最高の好機。もう一度、今度は確実に仕留める!
 
 当たりに散らばる弾丸に念を送る。
 三つの弾丸が、私の念によって浮遊する。先端が、皇の心臓に向いていた。
 さあ、飛べ。そして、皇の心臓を貫くのだ!
 銃弾が私の思い通りに、皇に向かって飛んだ。

 その時だった。
 皇が、男のかたわらに膝をつき、男の赤くなった手を取った。
 鞄から出した応急処置バッグのようなものから包帯を取り出し、巻きつける。

「大丈夫ですか。すみませんでした。応急処置ですが。病院、必ず行ってくださいね」

 ……え?
 ちょ……え。さっきまで自分の命を狙っていたやつを、助け……? 
 え……っ。

 や……やさしい――――っ!!
 なんてやさしさ! まさに、無償の愛! 最高の人間性! もはや神――っ!

 ずきゅうぅうん! と太い矢のようなものに心臓を貫かれ、私の体は固まっていた。
 そして、弾丸も。皇の背後で、ぴたりと止まってしまっていた。
 
 はっと気付いた私は、首を振った。

 ――だ、だめだ! ときめきを越えろ!
 
 こいつは、推し代行。推し代行、推し代行、推し代行、推し代行……!
 こいつがいなくなっても、緋王様がいる!
 
 こいつが、いなくなっても――――。

 …………む、無理……。

 私は、ぺたりとその場に崩れた。
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