春を待つ森

ねおきてる

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朝ごはん

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いつものお花畑について、二匹はたんぽぽの葉っぱを摘みました。


強く風吹く冬のせいか、うんと木の実が減っています。


体全体めいっぱい使って葉っぱを引っこ抜きながらリスさんは


「君、たんぽぽの葉っぱも、ちゃぁんと食べるんだぞ。」


といいました。


「好き嫌いばっかりしていたら、僕みたいに小さくなっちゃうんだぞ!」


僕は料理上手なはずなんだけど、と、小さくつぶやくリスさんに、狼さんはドキッとしました。


リスさんが毎日作る料理がマズいわけではありません。


真心こめて作った料理はどれもおいしく仕上がっていました。



けれども、このごろ狼さんは、そのキレイでおいしい料理にどこか物足りなさを感じていました。


はっきり理由はわかりません。


けれど、どんなにたくさん食べても、食べても、すっかり、おなかいっぱいに満足することはできませんでした。


さっき、リスさんが呟いた言葉に、なんと返せばよいかわからなくて狼さんは黙ってうなずきました。


ぐるぐる悩んで手を止める狼さんとは反対に、働き者のリスさんは、どんなに汚れてもおかまいなしで、めいっぱいに体を使って、どんどん引っこ抜いていきます。


「ほーら、君、手が止まってるぞ!」
 

遠くから叱るリスさんの声に狼さんはハッとして、声がした方を思わず見ました。


いつの間に抜いたのか、冬のさびしいお花畑に、こんもり積み上げた葉っぱの山が、あちらこちらにできあがっていました。


けれど、その立派な山の上で自慢げに立っているリスさんは、あっという間に泥まみれになっていました。


もやもやした気持ちを抱えながら、いつもより少し大げさに狼さんは笑ってみせました。
 

☆★☆
その日の朝ごはんのテーブルは、いつもよりも沢山の料理がぎっしり一面に並びました。


「さっそく明日、僕は眠りにつかなきゃいけないからね。」


リスさんは面倒くさそうにそう言って、スープを切り株のテーブルに置きました。


リスさんは明日から冬眠に入ります。迎える冬ごもりのために、たくさんの料理を平らげて毎年長い眠りにつくのです。


「たくさん食べているからなのかな。ほーら、こんなに丸々しちゃったんだ。」


そういいながら、リスさんはパンパンに膨れたおなかを突き出しました。


「うわぁ!本当だね!でも君、そっちのほうが・・・。」


そこまで、狼さんは言いかけて、はっと口をつぐみました。


思わず「おいしそう」と言いそうになったのです。


そんな風に思ったのは、これが初めてのことでした。


口の中はどんどん涎がたまってきて、ゴクリと言葉と一緒に飲み込みました。


リスさんはそんなことに気付きもせず、たんぽぽサラダをほおばっています。


けれど、狼さんは机の上に並ぶサラダや、温かいスープなんかよりリスさんのふっくらしたおなかに、くぎ付けになってしまいました。


_あのおなかなんて、おいしそうだ。ぷっくり丸々して・・・。きっと、今まで食べたことがない味がジュワァッてするんだろうなぁ。手も足もきっと、ふわふわして・・・。


「どうしたの?食べないのかい?」


そう聞く声に、狼さんは、はっと我に返りました。


真っ黒な目をクルクルさせて、リスさんは不思議そうに狼さんを見ています。


「あ・・・うん。今は、いらないかな・・・。」


狼さんは、リスさんの顔を見ずにうつむいてそう答えました。


_なんて事を僕は・・・。


胸が、カアッとしてドキドキがとまりません。


そんな気持ちを隠すため、狼さんは顔をあげて下手っぴな笑顔を作りました。


「そうかい。どうしたのかなあ。昨日の夕飯、君が残した葉っぱのキッシュがいけなかったのかしら?」


リスさんは、心配そうな表情を浮かべて、あれこれ思いをめぐらせています。


「大丈夫、大丈夫。ちょっと横になればきっとよくなるよ。」


そう答えながら狼さんは、リスさんと目も合わせることなくゆっくりベットに行きました。


横になった狼さんは、眠くもないのに目を閉じました。


胸はまだドキドキして喉から心臓が飛び出してしまいそうです。


_そうだ、さっきの気持ちは何かの間違いなんだ。


狼さんは、そう自分に言い聞かせました。


_ひと眠りしたら全部きっと忘れてしまう。ねむろう、ねむろう。


まぶたに、ぎゅっと力を入れて、深呼吸をしてみると少しずつ世界が暗くなっていきます。


カサカサコソコソ、風が冷たく枯葉を散らす音がゆっくり遠のいていきます。


狼さんは、すすきの毛で作った毛布を頭までかぶり、すっかり眠ってしまいました。
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