スノウ・ホワイト

ねおきてる

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そのうち、わたくしはあんなに憧れた家庭の空気がふと恐ろしくなりました。


小人たちにわたくしが、少し世間知らずな事を聞けば表面上は丁寧なそぶりをしても、少し馬鹿にするような笑みすら浮かべるようになりました。


彼らが談笑する部屋に、ふとわたくしが踏み入れば、それまでにぎやかに話していても、ぷっつり話を中断し嘘くさい笑みを浮かべこちらを見てくるのです。


城で暮らしたわたくしと森で過ごす小人たち。


彼らの世界を好み憧れ、この身一つで飛び込んでもわたくしがその世界に溶け込めること自体到底ありえないのです。


だって、彼らはわたくしを、すでに「姫」として見ているのですから。


城に帰ることも出来ず、森でも一人ぼっちになりわたくしは何をする事も許されず退屈な毎日を過ごす事になりました。


そのたびに思い出すのはあの城の花畑でした。


あの花畑を側近と歩いた幼い頃のわたくしは、自分自身を何者と捉える事すらまだ知らない唯一幸せな時期でした。


小人たちが仕事に出かけ、何をする事も許されない中思い出の輪郭を一人たどれば、その度記憶は花の香を流し少女の世界へいざなうのです。


ただ一人の少女。


ただ一人のスノウ・ホワイト。


城でも森でもわたくしは、姫でも王室でも特別でもない一人の少女を捉えてほしかった。


今、あの花畑の記憶だけが、一人の少女のわたくしを空想の中で遊ばせ歌わせ幸せの中で一人浸らせるのです。


けれど、そんな空想もガチャリと重いドアの音であっけなく砕けます。


小人たちが家に帰れば、やはりそこにいるのは姫のわたくし。


今日も彼らの荷物を持とうとすると迷惑そうな顔で丁寧な口調できっぱりまた断られるのです。


少女のわたくしを胸にしまい、また今日も姫として生きるのでしょう。


嗚呼、これが逃れられない運命なのです。
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