スノウ・ホワイト

ねおきてる

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笑顔から崩れるように表情が抜け落ちました。


「誰がいるの!」


彼女の言葉に弾けるように、一目散に逃げだしました。


バタバタとかけるような音が後ろから響きます。


夜の廊下は光すらなく、暗闇に飛び込むようにしてわたくしは必死に逃げました。


走っても走っても、背後から音は伸びてきて窓から刺す月明りを頼りに出鱈目に走ります。


ようやく音が遠くなり、こちらもはたと、進むのを止めて息も絶え絶えになりながら後ろをゆっくり振り返りました。


彼女はわたくしを追う事をめっきり諦めたようで、暗闇に目を凝らして見ても、人影は見えませんでした。


恐怖とある種の罪悪感に、クラクラ頭がかき乱され、廊下の絨毯に一歩一歩、身を沈ませるようにして自分の部屋へと歩きました。


先ほど見たあの笑顔と、彼女が袖を通したドレスが交互に頭をよぎります。


あのドレスをわたくしが最後に身に着けたのは、王室の式典が開かれた数日前の事でした。


わたくしの祖母が若い頃、身に着けたものらしく、真っ赤な生地に付けられた金の装飾を眺めながら、式典に参加するには派手ではないでしょうか、と召使に聞きました。


「大丈夫ですよ、お姫様。少し煌びやかではございますが、お若いからよく映えてお似合いですよ。」


そのように言われた時、後ろから強い視線を感じました。


思わず振り返ってみると、継母があの刺すような目でじっとわたくしを見つめていました。


顔は牡丹のように満開の化粧をたっぷり施し、胸元が開いた黒いドレスを身に着け式典には不釣り合いな装いをして佇んでおりました。


隣にいた召使は、彼女のそのを、頭のてっぺんからつま先まで視線をずらして見た後にわたくしに一瞥だけをして、どこかに走っていきました。


彼女と二人残されてわたくしも居心地が悪くなり先ほど召使がしたように、継母にそっとお辞儀だけして、何か忘れものをしたように自分の部屋に戻りました。


その間も彼女はずっと、お辞儀をするわたくしに特に表情を変えるわけでもなく、鋭い視線で横を通り過ぎていくわたくしを見ているだけでした。


あの日彼女が投げた視線は今まで以上に鋭く、表情もない顔の中ギラギラ目だけが雄弁に何かを語ろうとしていました。
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