スノウ・ホワイト

ねおきてる

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少し重苦しい間が空いて、


「後継者がいない事は国の未来を左右する、恐るべき事ですね。」


と、少し震えたような声で側近は言いました。


「王様がこれまで立派に君主として率いてきたこの国がつぶれる事になるのですから。」


側近のその言葉に、最もだ、と父は返しました。


「私は、若くして王となり、これまで国を治めてきた。けれど、私もこの年だ。王となる息子を育てるのにどれほど時間が残されているか・・・。」


「それは、きっと大丈夫です。王様が治めたこの国や、様々な偉業を成した姿をご覧になって、きっと立派に育つでしょう。」


この側近が繰り出す世辞に父は満足そうに笑いました。


そんな彼の反応を見て、側近は自分が発した無礼な言葉が帳消しになった事を悟り、少し安心した声で声を潜めて言いました。


「それに、お子様を授かるなら他の策があるじゃございませんか。」


「他の策とは?」


そう聞く父の言葉に、彼は一層声を潜めて下卑た口調で言いました。


「夜伽の相手を見つけるのです。」


父も拍子抜けしたのか少しばかり間があいて、


「何を馬鹿げたことを。」


と彼に含み笑いで答えました。


その口ぶりに嫌悪感はなく、むしろ艶がのったように思えました。


「王様。」


側近は、急に真面目な声で父にそう呼びかけました。


「私はこの国を案じてこそ、このようなことを申すのです。」


真剣な口調に切り替えて朗々と語り始めます。


「王様が長く采配を取られて、続いてきた王国です。国民も豊かで平和に暮らし、自然も豊かで素敵な国です。経済が傾いてるなんて戯言言う国民もおりますが、あんなの、王様の暮らしぶりに嫉妬して、庶民がせがんでいるだけですよ。こんなにも美しい国が王様の代で終わったなら一体どうなるって言うのでしょう。平和な王国も一気に廃れ、繁栄ぶりは見る影もなくなり、そうなったらもう・・・。」


勢いよく語り始めたにもかかわらず、終盤にかけて声を潤ませ、結局最後は泣き出して嗚咽をこらえて言いました。


「私はっ・・・王様のご子息を・・・育てることが出来なかったという事を・・・悔やんで仕方がないでしょう・・・。」


ここまでの彼の演技に舌を巻く事すら忘れて、わたくしは呆れかえっておりました。


先日、父がいない所で彼が召使たちに、国内経済についての会議中、父が居眠りをごまかす真似を披露しては馬鹿にしていたのですから。


「けれど、夜伽の相手と言っても、一体どこで探すのだ。」


父は側近の話よりも先ほどの夜伽の話について彼にそう聞きました。


「それに、妻がいるというのに、そのような事をしているなどと国民に知られたら・・・。」


「王様、まだそのような事をおっしゃるのですか。」


先ほどおろおろ涙を流し嗚咽をこらえていた事すら、全く忘れた顔をして彼は父に言いました。


「良いですか?先ほど申しました通り、ご子息の問題は国民にとっても自身に通ずる問題なのです。この国が続く事こそが国民にとって幸せなのです。それに城の内情など口を封じさえすれば、誰の子供なのか、なんて、きっと知り得ないはずですよ。ただあなたの血を継ぎさえすれば、この国はもう安泰です。」


「けれど・・・私には妻がいるのだ。」


「お妃さまは、みなが知っているようにとても素敵なお方です。この王国の幸せを、誰より願う事でしょう。王様が、この国を愛している事さえご理解頂ければ、分かっていただけるはずです。」


側近の言葉に二人が、品なく笑うのを私は聞いておりました。


継母を迎えた当初、父は国中が呆れかえるほど彼女を溺愛しておりました。


継母が侯爵や伯爵など、いわゆる貴族からの出ではなく、貧しい家の生まれである事を、わたくしは風の噂で知りました。


いいわよね、あの方は、あの美貌一つをもって国すら見下ろす事が出来るのだから。


誰をさすのか分からない、そんなどなたかの悪口すら、継母の事を言っているのだと、すっかり私は悟りました。


けれど国の女性から憧れ妬まれさえした彼女も、国王が切望する後継者をどれだけ待っても生まないことから、少しずつ世間の目が変わろうとしておりました。


お二人に、お子さんはまだなのね。


仕方ないわよ、王様もご高齢だもの。


けれど結婚の一番の理由は、きっと後継者の為だったのに。


きっとお妃様自身、焦っている事でしょうね。


このような世間の噂のとおり、事実継母からは焦りを感じる事もありました。


彼女を溺愛した父は、子供を授かる気配がないと、継母に対して少しずつ冷たくなっていきました。


世間からは馬鹿にする言葉も噂も年々増えて、勝気な性分の彼女ですら疲れたような表情を浮かべる事もありました。


また彼女の容姿にも少しずつ変化がありました。


城を訪れ数年たち、自然な時間の経過が顔や体に刻一刻と刻まれ、衰えていく様を、彼女は何より恐れていました。


美しい彼女は老いを重ねていったとしても、若い頃とはまた違う美しさを見せているようにも見えましたが、美人で上昇志向の強い継母は自分が老いていく事を許す事が出来ないのでしょう。


以前は控えめなお化粧で彼女本来の美しさを見せつけるようにしていましたが、年々化粧は濃ゆく染まり華美なものになりました。


また、娘と呼ばれる年になったわたくしの姿を遠くから、じっと刺すような眼差しで上から下まで嘗めつくすように見つめるようになりました。


そうして、わたくしはある日のこと、彼女が取り始めた奇妙な行動を見る事になるのです。
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