クズはウイスキーで火の鳥になった。

ねおきてる

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夏の美少女、鶴が飛ぶ。

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 じいちゃんが死んだらしい。


しかも死因は腹上死。


逝ったとイッた、をかけたかはさておき、随分幸せなヤツとは思う。


「で、嬢ちゃん、キミはじいちゃんの何やねん。」


 喫茶店で向かいに座る美少女に、俺は無造作に問いかけた。
窓ガラスに映る横顔は眉すら一つ動かさず、ただ真っすぐこっちを見上げた。


「嬢ちゃんじゃなくて、鶴子です。」


 けったいな名前。
そう思ったけど口には出さず窓ガラス越しの外を見る。


夏ってのは体感するもんやない。


見てみ、あのアスファルト。
あんな固いもんでさえ、夏の光がささっとる。


そんなこと気づかん顔して、その上を若いのが行ったり来たり、金魚みたいにスカート揺らして涼しげに歩いとんや。


それを綺麗と思うのは素人。


浮かれて外に出てみれば、ゆらめく熱気と直射日光。


ひらひら揺れた金魚達もよう見りゃ、小さい扇風機にすがって必死な顔で前進しとる。


遡ること30分。
俺はそんな最中にいた。


☆☆☆
いつまでたっても減らんチケット。


売れん芸人は体で稼ぐほかなかろう。


炎天下で3時間。


劇場前で突飛な法被を私服に羽織り俺はチケットを売っていた。


糊で貼り付けたような笑顔も汗が垂れれば禿げていき人が来た時のみ笑顔を作る荒技でチケットを押し付けようとしていた。


123と残りの枚数を数えてため息一つついた、時やった。


「そのチケット全部買います。」


 凛とした声やった。


年は15、6やろうか。
発光するような肌、たなびく睫毛、艶やかな黒髪は繊細に熱風に揺れて肌の上に放物線を描いとる。間違いなく美少女やった。


「いや、あの…。ええの?」


 思わず少しどきり、として喜ぶ前にそう聞いた。


「それ全て売ったら、お仕事早く終わりますよね?あ、後これ。」
 

財布と一緒に四つ折りメモを鞄から出した。


数枚の紙幣とそのメモ渡される。
そっと開くとラインのIDが書いてあった。


怒涛の展開に一人困惑していると美少女は、小林まる太さんですよね?と聞いてきた。


小林まる太、他でもない俺の芸名や。


「え、せやけど…。」


「年齢は23才、元コンビの現ピン芸人、特技はたこ焼き作り、趣味は釣りで、前のコンビ名はサヤエンドウ…。」


 口から流れる個人情報。


彼女の口は止まらない。


こんなん恐怖しか感じんやろ?


俺かて、いつもならそうや。


うん、そう「いつも」なら。


でも、みてみ?
この状況。


チケット完売。

目の前に美少女。

しかも、多分俺のファン。


ロマンスの神様、この人でしょうか。


突き上げる夏の熱さにかまけて俺は声を張り上げた。


「自分、俺の事めっちゃ好きやん!!」


アスファルト上で始まる恋。


きっと悪くないやろう。


勝手に一人盛り上がり妄想は源泉かけ流し。


熱さも忘れて楽しむ俺を前に眉一つ動かさず涼しい顔で少女は一言伝えた。


「あなたのおじいさまが、腹上死されました。」


「・・・え?」
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