ペット？いりません。ウチ、ヒーローいるんで。

きっと、乙女な移動手段♡中編②

ひらり、机に飛び乗った。


カンカンカンカン。


机と机を飛び移り、蝋燭へと近づいていく。


「しめた！敵は、もう机の上だ！」


凛、と女子の声がした。


黒服姿で、めくれた布から口がせわしなく動いている。


「囲め！囲め！お前たち！矢採さまに一歩でも近づくことを許すんじゃない！」


一人の声に、ばらつく黒服。


へぇ、あの中に女子がいたか。


そう思うが足は止めない。


手のそろばんを振りかざし走って跳ねて進むだけ。


肝心の矢採三灯は、動かない。


護衛についた黒服が取り乱して騒いでも視線を只一点に定め赤い玉座に居座っている。


大物というか、バカというか。


じゃらり、そろばんを振りかざす。


その瞬間、黒服が皆息を飲んだのがわかった。


割れる炎。


寝転ぶ顎。


暗転していく教室に様々なものが視界に入る。


と、その時、灰色の目がふと動いた、気がした。


振り下ろす衝撃に蝋燭が消えた。



黒服が静まり返る。


当たり前だ。


全てこちらに有利だから。


さあ、残すは後一人。


暗くなった教室は私にとって有利なだけ。


カンカンと渡り歩き、はたと進むのをやめた。


ただいま、私は教卓の上。


この真ん前に彼がいる。


恨むなよ、矢採三灯。


それも、これも、あんたが私に思わせぶりなことをしたからだ！


じゃらり、そろばんを振りかざす。


ハッと緊張が部屋に走った。


腕を思いっきりしならせて、珠はばらけて弧を描く。


じゃらり、とした軽い音に黒服の足音が伸びる。


けれどもう遅すぎる。


全ては、もう始まっている。


にやり、口角を吊り上げて衝撃を待つだけだ。


その時だった。


後ろから腕を掴まれた。


え？と思ったのもつかの間、くるり、捻られ引き寄せる。


「いた！あだだだ！」


暗い中の激痛に一人虚しく騒ぎ立てる。


ふっと後ろが明るくなった。


視界にはぽっかり空の玉座。


え？と、思うのもつかの間。


「そこまでだ。」


聞き覚えのあるあの声。


ギョッとして振り返った。


そこにいるのは—


「お前たち、ご苦労だ。この者は私が仕留めたのだから。」


そう、あの矢採三灯が指に火を灯して、腕を捻じ上げいつのまにか立っていた。