ペット?いりません。ウチ、ヒーローいるんで。

ねおきてる

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きっと乙女な移動手段♡ 中編①

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「ふんッ!」
 

追手に向かってを振り下げた。


私から後数センチ。


後方から私の手を掴み取り押さえようとした彼らも、じゃらりと音を立てるを前に、すかさず手を引っ込めた。


「ふんッ!ふんッッ!」


後方に、前方に、たびたび体の向きを変えては、直角のを振り下げる。


机のはざまの攻防を黒服は誰も予想していなかったらしい。


さっきの心理戦はどこ吹く風。


後ろから前から黒い布を翻し、束になっては一人に飛び掛かる。


けれど・・・


「ふんッッッ!ふんッッッッ!」


じゃらりと、重力をつけて降ちるギロチンさながらのを前に、みな後ろに引き下がる。


読者の諸君、一体私がどんな武器を持っているのか、皆目見当もつかないだろう。


薙刀?ピストル?メリケンサック?


どれも不正解。


まあ、ここらで正体をお見せしようじゃないか。


「ふんッッッッッ!」


体ごと、しならせて腕を振り上げる。


串刺しになった玉は不規則にばらけ、じゃらりと音を立てて教室をまぜる。


それは耳障りな音だけれど、そんなのどうでもいい。


目の前に数人立ちはだかっている状況いまが先だ。


私は持っている・・・すなわち、そろばんを一気に彼らに振り下げた。


え?そろばん?


そう思った諸君。


侮るなかれ。


前に、私の身近な警察おまわり武蔵さんも、こう宣ったのたまった事がある。


★☆★
「合コンってぇのはな、俺ぁどんな猛暑でも日照りでも、スーツにネクタイがテッパンなのよ!」


あれは熱帯夜。


節約のためクーラーをつけるのを渋り武蔵さんと二人、夕食の素麺をすすっている時だった。


「クールビズなんて、パーパー開けっぱなしなのは、もう論外!案外ネクタイに萌える女ってぇのは多いんだから。なぁ、嬢ちゃん?」


何が、なぁ、何だろう。


父は猛暑の中、ヒーロー活動。


その娘と素麺前にして合コンについて語る男。


いい大人が二人何してるんだ、小学生の頃の私は思った。


「それにな、ネクタイってのは色々使える。」


私の気持ちを知らずして武蔵さんは構わず続ける。


「お洒落だなんだってのは、正直二の次ね。手ぇ縛ったり、目隠ししたり、合意の上で密室に連れ込みゃぁ、ネクタイ一つで大人のDIYが・・・。」


「お話中すみません、一つ言いたいのですが。」


朗々と話す武蔵さんに私は真っすぐ呼びかけた。


「おっ、嬢ちゃん。俺ばっかり話して悪かったな。どうした、質問か?」


「薬味とって下さい。」
☆★☆
ここまで長々話して何だが、この話、武蔵さんはどうでもいい。


要するに、常識にとらわれず、物は有効に使うべき、という話だ。


ネクタイもそろばんも、生産者には申し訳ないが、使い方を模索すれば違うベクトルで世界は広がる。


いつも私が、駄菓子屋の会計や家計簿をする時使うそろばんも、持ち歩いとけば何かに役立つ。


「ふんッ!」


振り下ろせば、人は散る。


「ふんッッ!」


私を捉えようとした手も引っ込む。


けれど、このそろばん、ただ威嚇のためだけに使っているワケではない。


「ふんッッッ!」


私のそろばんの風圧で火が揺らめいて蝋燭が消えた。


そのまま周りを見回してほしい。


机ごとに一本ずつ規則正しく並べられ火が付いていた蝋燭も、今ついているのはただ一本。


そう、さっきまでのそろばんの素振り、前に広がる黒服を闇雲に散らすためではない。


前述のとおり、この教室、蝋燭だけで明かりを保つ。


窓はぴっちり締め切られ、照明なんてもってのほか。


黒服がどんなに追い込もうと、光が消えればこっちのもん。


くるりと私まで黒に染まり、闇にくるまり姿をくらます。


薄暗いこの部屋で、普段過ごしている彼らでも光が消えれば話は別だろう。


その点、こっちは大分有利。


で暗闇の動き方は習得している。


まあ、そこについては後々書くとして。


残すは後、一本。


あれさえ、どうにか消えたなら事態は上手く転がるだろう。


じじ、と焦げた匂いが広がる。

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