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前半戦‼︎嘘も方便、あれはターザン
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「なるほど、この男か。」
足を組み替え矢採くんは言った。
周りを取り囲むように黒服と正樹くんがじっとりと後ろからお父さんのモンタージュを覗き込んでいる。
あの圧におされ、私は大体全てを自白した。
そうあくまで大体。
「この川口さんの近所の人を探すんですね?」
正木君が私にそう尋ねた。
さあ、きっと読者は忘れているだろう。
川口慶、私の名前だ。
めまぐるしく変人が現れてきっと私の名前なぞ忘れているだろう。
気を使わなくても良い。
以後お見知り置きを。
そして、彼らが覗く写真に写るのは他でもない。
私の父だ。
分かっている、嘘はいけない。
けれど、仕方がない事もある。
まあ、理由を聞いてほしい。
★☆★☆★☆★
今から約10分前。
黒服とケツ顎に私は囲まれていた。
(ぼったくりバーってこんな感じなんだろうなあ。)
遠く控える美少年が冷たく見下すのを見ながら私はそんなことを考えていた。
形だけ彼らは私を座らせお茶を入れてくれた。
けれど、私は口をつけない。
給仕の黒い布の奥は表情が見えなかったから。
彼らは何者なのか、どうしてここに来たか。
知りたいけれど、そんなの許されない。
「あ、あの・・・私帰ります。」
心は冷静でも動揺はしている。
そりゃそうだ。
急な監禁、密室、見知らぬ男女。
いかがわしい要素はそろっている。
こっちは誠さんの日活シリーズで履修済みなんだ。
さっきまでの自分の威勢のよさが嘘のようだった。
立ちあがり、玉座にくるりと背を向けた。
走り出したいが、足がおぼつかない。
ゆっくり一歩ずつを踏みしめる。
いつ羽交い絞めにされるだろう、と思っていたが、目が暗さに慣れたかドアまでは近かった。
緊張する気持ちを抑え、ノブに手をかけた、時だった。
「川口慶。」
落ち着いた滑らかな声が背後からした。
するり。
白い手が肩に乗る。
ついに、来たか。
分かってる、外へは後少し。
けど、どういうワケか、足が前に進まない。
ノブの上の手も言う事を聞かず、硬直したままだ。
(ああ、これが悪魔の呪いか。)
まことしやかな噂を実感した瞬間だった。
理性は、逃げろ、と言ってるのに、凍りつく体は言う事をきかない。
恐怖か、はたまた、緊張か。
声に反応して、ゆっくり振替る自分がいた。
(やめて!)
理性がそう叫ぶ。
けれど、顎が徐々に後ろに、後ろに引っ張られていく。
(やめて!)
頭の中で自分の叫ぶ声がした。
けれど、凍る体と裏腹に顔は徐々に後ろを向く。
真っ白な矢採くんの膝が見えた。
ぼう、と浮かぶ白い肌、それと何かキラリ、蝋燭の火に反射した。
暗闇に目を凝らす。
「ぎゃ!」
そこにいるのは、矢採くん・・・と正樹くんだった。
何を、叫ぶまで・・・と思った読者の面々。
違うのだ。
私の視線の先を説明しよう。
四つん這いになった少年。
その上に、二本足で立ち上がる美少年。
こんなの見るのシルクドゥソレイユ以来だろう。
「あ、あの・・・。何を・・・。」
「川口慶。」
矢採くんは私の至って普通の疑問を無視して、もう一度名前を呼んだ。
下の正樹くんは…
ハァハァしてた。
「貴様、人を探しているのだろう。」
静かな瞳で彼は、まっすぐ言った。
「え?」
「性別は男性、身長182センチメートル。」
「なんで、分かって…。」
「体重76キログラム、年齢42歳、高身長、筋肉質、右首筋と左太もも裏にホクロ、血液型AB型、全身金色の光沢のある衣服、好きな食べもの、」
「いや、待って。」
怖い、いや、怖い怖い。
たしかに、初めは驚いた。
けど、もう、ストーカーの域だ。
左太もも裏のほくろ?
娘すら知るか。
あんたは、主治医か、愛人か‼︎
抵抗むなしく、矢採くんは、ビッキビキに目を開いてブツブツ続ける。
「たくあん、嫌いな食べもの、ピーマン、しいたけ、にんじん、初恋は6歳、
趣味は占い、」
あぁ、もうどうすりゃいいんだ。
(頭、本気で叩いたら止まるかな…めざましみたいに。)
もう、現実見たくなくて、逃避しかけた時だった。
「ア~↓アア↑~!!!!!!!!」
響きわたる断末魔?
いや、違う。
忘れかけてた人間椅子、正樹くんだ。
彼は興奮のあまり叫び出した。
本能と欲望のターザンの意識はきっと、部屋中飛び移り、思春期のジャングルを駆け回っているんだろう。
「も、あ、や、え、」
もう、やめて!
そう言いたくても、恐怖で声が出ない。
「この頃欲しいもの、猫、もらって嬉しいもの、クーポン券、ちょっと夢見た髪、螺髪、行ってみたいところ、オーストラリア、」
「ア~アア~!!!!!!」
お母さん。
ごめんなさい。
あなたの娘は、禁忌を犯しました。
そう、ここは、
「悪魔の部屋だー!!!」
「ア~アア~!!!!!!!!!」
クラクラする意識の中、朦朧と叫んだ私に正樹くんが、被せて叫んだ。
はい、後半戦に続く。
足を組み替え矢採くんは言った。
周りを取り囲むように黒服と正樹くんがじっとりと後ろからお父さんのモンタージュを覗き込んでいる。
あの圧におされ、私は大体全てを自白した。
そうあくまで大体。
「この川口さんの近所の人を探すんですね?」
正木君が私にそう尋ねた。
さあ、きっと読者は忘れているだろう。
川口慶、私の名前だ。
めまぐるしく変人が現れてきっと私の名前なぞ忘れているだろう。
気を使わなくても良い。
以後お見知り置きを。
そして、彼らが覗く写真に写るのは他でもない。
私の父だ。
分かっている、嘘はいけない。
けれど、仕方がない事もある。
まあ、理由を聞いてほしい。
★☆★☆★☆★
今から約10分前。
黒服とケツ顎に私は囲まれていた。
(ぼったくりバーってこんな感じなんだろうなあ。)
遠く控える美少年が冷たく見下すのを見ながら私はそんなことを考えていた。
形だけ彼らは私を座らせお茶を入れてくれた。
けれど、私は口をつけない。
給仕の黒い布の奥は表情が見えなかったから。
彼らは何者なのか、どうしてここに来たか。
知りたいけれど、そんなの許されない。
「あ、あの・・・私帰ります。」
心は冷静でも動揺はしている。
そりゃそうだ。
急な監禁、密室、見知らぬ男女。
いかがわしい要素はそろっている。
こっちは誠さんの日活シリーズで履修済みなんだ。
さっきまでの自分の威勢のよさが嘘のようだった。
立ちあがり、玉座にくるりと背を向けた。
走り出したいが、足がおぼつかない。
ゆっくり一歩ずつを踏みしめる。
いつ羽交い絞めにされるだろう、と思っていたが、目が暗さに慣れたかドアまでは近かった。
緊張する気持ちを抑え、ノブに手をかけた、時だった。
「川口慶。」
落ち着いた滑らかな声が背後からした。
するり。
白い手が肩に乗る。
ついに、来たか。
分かってる、外へは後少し。
けど、どういうワケか、足が前に進まない。
ノブの上の手も言う事を聞かず、硬直したままだ。
(ああ、これが悪魔の呪いか。)
まことしやかな噂を実感した瞬間だった。
理性は、逃げろ、と言ってるのに、凍りつく体は言う事をきかない。
恐怖か、はたまた、緊張か。
声に反応して、ゆっくり振替る自分がいた。
(やめて!)
理性がそう叫ぶ。
けれど、顎が徐々に後ろに、後ろに引っ張られていく。
(やめて!)
頭の中で自分の叫ぶ声がした。
けれど、凍る体と裏腹に顔は徐々に後ろを向く。
真っ白な矢採くんの膝が見えた。
ぼう、と浮かぶ白い肌、それと何かキラリ、蝋燭の火に反射した。
暗闇に目を凝らす。
「ぎゃ!」
そこにいるのは、矢採くん・・・と正樹くんだった。
何を、叫ぶまで・・・と思った読者の面々。
違うのだ。
私の視線の先を説明しよう。
四つん這いになった少年。
その上に、二本足で立ち上がる美少年。
こんなの見るのシルクドゥソレイユ以来だろう。
「あ、あの・・・。何を・・・。」
「川口慶。」
矢採くんは私の至って普通の疑問を無視して、もう一度名前を呼んだ。
下の正樹くんは…
ハァハァしてた。
「貴様、人を探しているのだろう。」
静かな瞳で彼は、まっすぐ言った。
「え?」
「性別は男性、身長182センチメートル。」
「なんで、分かって…。」
「体重76キログラム、年齢42歳、高身長、筋肉質、右首筋と左太もも裏にホクロ、血液型AB型、全身金色の光沢のある衣服、好きな食べもの、」
「いや、待って。」
怖い、いや、怖い怖い。
たしかに、初めは驚いた。
けど、もう、ストーカーの域だ。
左太もも裏のほくろ?
娘すら知るか。
あんたは、主治医か、愛人か‼︎
抵抗むなしく、矢採くんは、ビッキビキに目を開いてブツブツ続ける。
「たくあん、嫌いな食べもの、ピーマン、しいたけ、にんじん、初恋は6歳、
趣味は占い、」
あぁ、もうどうすりゃいいんだ。
(頭、本気で叩いたら止まるかな…めざましみたいに。)
もう、現実見たくなくて、逃避しかけた時だった。
「ア~↓アア↑~!!!!!!!!」
響きわたる断末魔?
いや、違う。
忘れかけてた人間椅子、正樹くんだ。
彼は興奮のあまり叫び出した。
本能と欲望のターザンの意識はきっと、部屋中飛び移り、思春期のジャングルを駆け回っているんだろう。
「も、あ、や、え、」
もう、やめて!
そう言いたくても、恐怖で声が出ない。
「この頃欲しいもの、猫、もらって嬉しいもの、クーポン券、ちょっと夢見た髪、螺髪、行ってみたいところ、オーストラリア、」
「ア~アア~!!!!!!」
お母さん。
ごめんなさい。
あなたの娘は、禁忌を犯しました。
そう、ここは、
「悪魔の部屋だー!!!」
「ア~アア~!!!!!!!!!」
クラクラする意識の中、朦朧と叫んだ私に正樹くんが、被せて叫んだ。
はい、後半戦に続く。
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