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悪魔が来たりて、顎を割く
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たゆたう香り
跳ね返る水音。
机の蝋燭は気配に合わせゆらめいて、こげたにおいをちらつかす。
あまりにも突然でぼんやりしていると仄かな光が、何かを白く照らしていた。
目を細めて覗き込み、息を飲む。
投げ出された白い四肢、カフスボタン、フリフリのブラウス。
そこに座っていたのは、あの矢採 三灯だった。
「おそいではないか」
待ってたとは思えない態度で言う彼にどう答えるか迷い、ふと、彼の手足に目を向ける。
ひゃっと、声をあげた。
「や、矢採くん…、それ…。」
「なんだ?」
あまりにも自然で気づかなかったが、黒い布で被った人が4人がかりで彼の手足をマッサージしていた。
手には、ハンドクリームのチューブを持ち、それをつぎつぎ塗りたくっている。
よく見れば、足元にロ◯シタンのハンドクリームがいくつも転がっている。
(あんなに塗ったら逆にあれるんじゃ…。)
「おい、貴様。」
そんなことも御構い無しに、彼は私に呼びかけた。
「はい、何です?」
「どいてやれ。」
「は?」
「どいてやれ、と言ってるんだ。」
手を使うことができず顎で私に指し示す。
言われた通り下を見てギャ、と叫んだ。
そういや私は誘拐された。
驚きと恐怖で頭から消え去ってたが、私は黒い何かに連れ去られた。
今まで、不思議に思わなかったが、私はその何かに腰掛けていた。
イスにしては不安定で、よく揺れる。
よく見りゃ肌色の四本脚がにょっきり生えてる。
その正体は気弱な男子学生、正樹君だった。
クラスNo.1の成績を誇るが、体が弱く、休みがち。
出っ歯で瓶ぞこメガネキャラ、ガリ勉特有の見た目だが、立派に顎が割れている。
そんな彼がチャームポイントの顎を突き出し仰け反り必死に耐えていた。
「ごめっ、ごめん!
私、全く気づかなくて…!」
彼の寿命を私は幾分か縮めただろう。
降りる私に彼は震える声で言った。
「お…お、重い。」
もう一回弾みをつけて、座ろうとしたが治療費をねだられるのは面倒だ。
そのケツアゴに手をかけ、真っ二つに割る妄想をしながら私は立ち上がった。
そんな私に、矢採君は衝撃の事実を言った。
「そいつは、私の交通手段だ。」
「交通手段!?これが?」
マッサージが終わったのか、彼は靴下をお付きのものに履かせてもらっている。
「え、あ、あの…ど、どちらまでいかれたんですか?」
「そうだな、前はどこに行ったかな…。」
「そうですね!一番近い百貨店です!」
振り返るとケツアゴが正座をして元気に答えていた。
さっきまで呻いていたとは思えない、破顔の笑みだった。
瓶ぞこメガネでもわかる程、目を輝かせ、 出っ歯も輝いている。
「先週の火曜日です!下校途中にそちらに参りたいと、おっしゃっていました!」
態度の変わりぶりに、また顎を割く妄想をしてるなぞ知らず彼は意気揚々と続けた。
「周囲の民が、信号待ちをしている時、じろじろ見てきてな。」
「本当に、けしかりませんです!」
いや、普通だろう。
そんな変なもん見せられて、民が一番かわいそうだ。
夢の様に綺麗な美少年が乗っていても、きっと視線を釘付けにしたのは人型交通手段だろう。
22世紀の猫型ロボットでさえ、せいぜい扉型交通手段しか出せないのに、どれだけ未来なもの出してるんだろう。
「で、百貨店まで何を買いに行かれたんです?」
私の無駄な好奇心が止まらない。
恐る恐る聞く私に、不思議そうな顔をしながら、えっと・・・と忘れたのか、矢採くんは口ごもった。
「矢採様、お忘れですか?」
振り返ると正樹くんがいた。
なぜか四つん這いになっている。
「あの時は、オレンジジュースとマカロンをお買い求めでした!」
「ああ・・・そうだったな。
何故か右手とわき腹がうずいて立ち寄ってしまったな・・・。」
四つん這いな事に突っ込みもせず矢採くんは続ける。
要するに放課後お腹が減って、マカロンを買い食いしたんだろう。
マカロンで男子中学生は満たされるのか?
コンビニでポテチとコーラ買うべきでは?
好奇心と恐怖は止まらない。
それより、腹が減って百貨店ってどういう思考回路なんだ。
上級国民か。
さて、と。
ぐるりと周りを見回す。
机の蝋燭だけが頼りだが、教室の中には12名。
けれど、黒い布を被ったお付きのものばかり。
残りは私と、矢採君くらいだ。
悪魔はどこにいったのか。
「それで?」
振り返れば気だるげに矢採君がこっちを見ていた。
気づけば私を取り囲むように、黒服がじっと見ていた。
ジリリと迫る蒸し暑さ。
充満する香り。
やっぱり私は、ロクでもないところにきたのかもしれない。
跳ね返る水音。
机の蝋燭は気配に合わせゆらめいて、こげたにおいをちらつかす。
あまりにも突然でぼんやりしていると仄かな光が、何かを白く照らしていた。
目を細めて覗き込み、息を飲む。
投げ出された白い四肢、カフスボタン、フリフリのブラウス。
そこに座っていたのは、あの矢採 三灯だった。
「おそいではないか」
待ってたとは思えない態度で言う彼にどう答えるか迷い、ふと、彼の手足に目を向ける。
ひゃっと、声をあげた。
「や、矢採くん…、それ…。」
「なんだ?」
あまりにも自然で気づかなかったが、黒い布で被った人が4人がかりで彼の手足をマッサージしていた。
手には、ハンドクリームのチューブを持ち、それをつぎつぎ塗りたくっている。
よく見れば、足元にロ◯シタンのハンドクリームがいくつも転がっている。
(あんなに塗ったら逆にあれるんじゃ…。)
「おい、貴様。」
そんなことも御構い無しに、彼は私に呼びかけた。
「はい、何です?」
「どいてやれ。」
「は?」
「どいてやれ、と言ってるんだ。」
手を使うことができず顎で私に指し示す。
言われた通り下を見てギャ、と叫んだ。
そういや私は誘拐された。
驚きと恐怖で頭から消え去ってたが、私は黒い何かに連れ去られた。
今まで、不思議に思わなかったが、私はその何かに腰掛けていた。
イスにしては不安定で、よく揺れる。
よく見りゃ肌色の四本脚がにょっきり生えてる。
その正体は気弱な男子学生、正樹君だった。
クラスNo.1の成績を誇るが、体が弱く、休みがち。
出っ歯で瓶ぞこメガネキャラ、ガリ勉特有の見た目だが、立派に顎が割れている。
そんな彼がチャームポイントの顎を突き出し仰け反り必死に耐えていた。
「ごめっ、ごめん!
私、全く気づかなくて…!」
彼の寿命を私は幾分か縮めただろう。
降りる私に彼は震える声で言った。
「お…お、重い。」
もう一回弾みをつけて、座ろうとしたが治療費をねだられるのは面倒だ。
そのケツアゴに手をかけ、真っ二つに割る妄想をしながら私は立ち上がった。
そんな私に、矢採君は衝撃の事実を言った。
「そいつは、私の交通手段だ。」
「交通手段!?これが?」
マッサージが終わったのか、彼は靴下をお付きのものに履かせてもらっている。
「え、あ、あの…ど、どちらまでいかれたんですか?」
「そうだな、前はどこに行ったかな…。」
「そうですね!一番近い百貨店です!」
振り返るとケツアゴが正座をして元気に答えていた。
さっきまで呻いていたとは思えない、破顔の笑みだった。
瓶ぞこメガネでもわかる程、目を輝かせ、 出っ歯も輝いている。
「先週の火曜日です!下校途中にそちらに参りたいと、おっしゃっていました!」
態度の変わりぶりに、また顎を割く妄想をしてるなぞ知らず彼は意気揚々と続けた。
「周囲の民が、信号待ちをしている時、じろじろ見てきてな。」
「本当に、けしかりませんです!」
いや、普通だろう。
そんな変なもん見せられて、民が一番かわいそうだ。
夢の様に綺麗な美少年が乗っていても、きっと視線を釘付けにしたのは人型交通手段だろう。
22世紀の猫型ロボットでさえ、せいぜい扉型交通手段しか出せないのに、どれだけ未来なもの出してるんだろう。
「で、百貨店まで何を買いに行かれたんです?」
私の無駄な好奇心が止まらない。
恐る恐る聞く私に、不思議そうな顔をしながら、えっと・・・と忘れたのか、矢採くんは口ごもった。
「矢採様、お忘れですか?」
振り返ると正樹くんがいた。
なぜか四つん這いになっている。
「あの時は、オレンジジュースとマカロンをお買い求めでした!」
「ああ・・・そうだったな。
何故か右手とわき腹がうずいて立ち寄ってしまったな・・・。」
四つん這いな事に突っ込みもせず矢採くんは続ける。
要するに放課後お腹が減って、マカロンを買い食いしたんだろう。
マカロンで男子中学生は満たされるのか?
コンビニでポテチとコーラ買うべきでは?
好奇心と恐怖は止まらない。
それより、腹が減って百貨店ってどういう思考回路なんだ。
上級国民か。
さて、と。
ぐるりと周りを見回す。
机の蝋燭だけが頼りだが、教室の中には12名。
けれど、黒い布を被ったお付きのものばかり。
残りは私と、矢採君くらいだ。
悪魔はどこにいったのか。
「それで?」
振り返れば気だるげに矢採君がこっちを見ていた。
気づけば私を取り囲むように、黒服がじっと見ていた。
ジリリと迫る蒸し暑さ。
充満する香り。
やっぱり私は、ロクでもないところにきたのかもしれない。
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