ペット?いりません。ウチ、ヒーローいるんで。

ねおきてる

文字の大きさ
上 下
4 / 17

守銭奴と美人と写真

しおりを挟む
「えェー?本当に、その恰好で来て恥ずかしくなかったのォ?」

ケラケラ笑い転げる美人を横にさっきまで商品を説明していた店員さんが困ったような顔をしている。

彼に私は一瞥いちべつして、フロアを後にした。

さて、私とお母さんがいつものカフェに行くまで少し彼女について説明しよう。

甘井 慶来あまい けいき、45歳。

元アイドルで現スイーツ専門の料理研究家だ。

彼女はアイドル時代、「お菓子の国のお姫様!あまァい、スイーツ慶来ちゃん☆」という不思議キャラで売れっ子だったという。

それが、24年前。

舞台は華々しい芸能界。

父が出演するヒーロー戦隊ものの主題歌を彼女がうたったことがきっかけで急接近したらしい。

母がこっそり猛アタックしたのではという疑惑もあったらしいが、その時二人は人気アイドルとイケメン俳優。

二人はごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をした。(※諸説あり)

そんな中彼女は関係者にこんな言葉を残したという。

「まあ、あんなキャラもう潮時だし、そろそろ身を固めないとね・・・。」

けれど、どんな伝説を残しても、もしかしてクズでも私のお母さんだ。

結婚でアイドルを引退した後も、この美貌であの時のキャラを活かしスイーツ専門料理研究家としてテレビの世界に舞い戻った。

自分の武器は金にする。

あのバカとは大違い。

守銭奴として私がお母さんを尊敬する理由だ。

3が付く日は特売日みたいにお父さんに内緒で二人こっそり密会を続けている。

「はァ、もうこんなにあっついのねェ。まだ、五月だっていうのにィ。」

カフェの一番奥の席に座りお母さんはため息交じりに言った。

「本当にそうだね。
ねえ、お母さん私が5歳の時の事件覚えてる?」

「もォ、覚えてるにきまってるじゃないのォ!」

私が聞いたことにお母さんは、無邪気に答えた。

「確かァ、慶ちゃんが初めてのお使いに八百屋さんに行った時でしょォ?
あの時ねェ、誠さんがどうしてもッて不安がるから二人でセグウェイで後をつけたのよねェ。」

「そうそう!結局途中、近所の人に不審がられて通報されたよね。」

「そうなのよォ、あの日そのせいで夜中まで取り調べで帰れなかったんだからァ!」

「いい大人が平日に子供つけ回してるからね!」

和やかな親子の話は尽きることがない。

ふと、お母さんは遠い眼をして聞いた。

「あの人は元気なのォ?」

あの人、とはお父さんの事だ。

お母さんは私と会うたび決まってこの質問をする。

お母さんとお父さんが何で別れたのかは私はよく知らない。

周りの大人に聞いてみても

お父さんは、「守り切れなかった男のふがいなさたるや・・・。」

お母さんは、「よく見たらハゲそうな毛の生え方してるなァって!」

誠さんは、「男と女だからなあ。分からないことだらけよ。それより嬢ちゃん、パンツみえてるぜ。」

不確かな答えとセクハラまでされ、もう聞こうとはしなかった。

「うん、元気だよ!でも相変わらず、フリーター。
やっぱり、誰かしっかりしてる人がいないとダメみたい。」

私が毎回のお母さんの質問に少し期待するのは年相応の事だろう。

しっかりしない大人に囲まれ、頼る人はいなかった。

たまに会うお母さんに日ごろの辛さを聞いてもらっても、本当に思う望みは言えず、彼女が切り出すのを委ねていた。

そっとお母さんが鞄から写真を取り出し、机の上に置いた。

見たことある外人が一人映っている。

「ええっと、誰だっけそれ・・・。」

「ニコラス・佳二っていうのよォ。」

「ああ、あの市長の・・・。」

私が住んでいる市の市長でお父さんと同い年。

同僚がおじさんばかりの中、キラキラしたハーフのイケメンでテレビにも雑誌にも取り上げられている。

「ええっと、これが何か・・・。」

「うーん?一年前に仕事の関係であったんだけどねェ・・・。」


何だか嫌な予感がした。

耳がツンと遠くなる。

お母さんは不安な私を置いて無邪気に続けた。

「あのねェ、私今その人に求婚されてるのォ。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺は彼女に養われたい

のあはむら
恋愛
働かずに楽して生きる――それが主人公・桐崎霧の昔からの夢。幼い頃から貧しい家庭で育った霧は、「将来はお金持ちの女性と結婚してヒモになる」という不純極まりない目標を胸に抱いていた。だが、その夢を実現するためには、まず金持ちの女性と出会わなければならない。 そこで霧が目をつけたのは、大金持ちしか通えない超名門校「桜華院学園」。家庭の経済状況では到底通えないはずだったが、死に物狂いで勉強を重ね、特待生として入学を勝ち取った。 ところが、いざ入学してみるとそこはセレブだらけの異世界。性格のクセが強く一筋縄ではいかない相手ばかりだ。おまけに霧を敵視する女子も出現し、霧の前途は波乱だらけ! 「ヒモになるのも楽じゃない……!」 果たして桐崎はお金持ち女子と付き合い、夢のヒモライフを手に入れられるのか? ※他のサイトでも掲載しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やりチンシリーズ

田中葵
ライト文芸
貧富の差に関わりなくアホは生息している。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...