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1.それは始まりの産声
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新暦209年ミルト村。それはアーガス王国の西に位置する小さな村だ。そこで2人の赤ん坊が誕生した。二人の両親はとても仲が良かった。4人は同じ時期に結婚した。片方は今回が初めての出産だが、もう片方は2度目だ。二人は共に陣痛がきて今、同じ家で出産を迎える。そして生まれてきたのはどちらも男の子だった。一人は銀髪の赤ん坊でもう片方は黒髪の赤ん坊だった。村はこの赤ん坊たちの誕生を祝って宴をした。
それから6年後の新暦215年。
「お~い!イーグル。遊びに行こうよ!!」
「待ってよ、アルス。今ご飯食べるから!」
そうして僕、イーグルは残ったパンを残さず食べた。
「ごちそうさま!行ってきます!!」
「イーグル、あまり遅くなるんじゃないよ?」
「わかってるよ、お母さん!行ってきます!!」
そうして僕は幼馴染のアルスの元に向かった。
「お待たせ、アルス。」
「遅いぞ。」
「ごめん、ごめん。それより、今日はどこに遊びに行こうか?」
「そうだな・・・。西の森に行かないか?あそこでいい薬草が取れるって聞いたぞ?」
「えっ・・・。でも、西の森はモンスターが出るから危険だって・・・。」
「大丈夫。もし、何かあったら俺が守ってやるよ。」
「う・・うん・・・。じゃあ、行こうかな?」
「じゃあ、出発だ!!」
そうして僕とアルスは西の森に出かけた。アルスは森に入るとすぐに短剣を抜く。
「じゃあ、イーグル。僕のそばを離れるんじゃないぞ?」
「う・・・うん。わかった。」
アルスは村一番の剣の達人だ。わずか6歳で大人にも負けない剣の腕を誇っているしかも、魔法の才能もあって将来は聖騎士になるのが夢のようだ。森のモンスター程度ならアルスがいれば楽勝だ。僕?僕は平凡だよ?身体能力も平凡だ。だけど、お金の計算や文字の読み書き、薬草の種類とかを見ることが出来る。あと簡単な治癒魔法と攻撃魔法が使えるぐらい。アルスやお兄ちゃんには敵わないよ。
「出たな!モンスター!!」
そう言ってアルスは短剣を構える。前を見るとそこには背が僕たちとそんなに変わらないゴブリンが3体いた。
「イーグル!援護は頼む。」
「任せて!」
そう言って僕は飛び出すアルスの後ろで攻撃魔法を準備する。アルスはその間にゴブリンと鍔迫り合いをしていた。
「四代元素の一つ、火の精よ。我に汝の力を貸したまえ・・・。」
そして呪文が完成する。
「準備出来たよ!アルス。下がって!」
「わかった。」
そう言ってアルスは後退した。そして、僕は攻撃魔法を放つ。
「ファイアー・ボール!」
その火の球はゴブリンに直撃してゴブリンは倒れる。
「あとは任せろ!」
そう言ってアルスは残りの二体を倒した。アルスならこれくらい朝飯前だ。
「よし・・・。これで、モンスターは片付いたな・・・。」
「そうだね・・・。うん?」
僕はあることに気が付いた。どうやらゴブリンの子供のようだ。さっきのはこの子のお父さんとお母さんだったのかな。
「ちっ、まだ、居たのか。始末しないと・・・。」
「ま、待ってアルス!」
僕は慌てて止める。
「どうして止めるんだよ・・・。イーグル?」
隠れていたゴブリンの子に近づく。身長は30㎝位かな?まるで怯えたような顔をしている。僕は安心させるようにその子を抱きかかえる。
「そのゴブリンの子供をどうするつもりだ?」
アルスは少し呆れながらも聞いてくる。
「僕が育てる。」
「な・・・。何馬鹿なことを言っているんだ!モンスターだぞ!人を襲うんだぞ!」
「でも、この子はまだ人を襲ってない。この子には何も罪はない。」
僕はゴブリンの子の目を見る。その目は悲しみをたたえていた。
「だけど・・・。」
「それに、僕たちはこの子のお父さんとお母さんを奪ったんだ。その償いをしないと・・・。」
僕は安心させようと「大丈夫、大丈夫。」とゴブリンの子に語り掛ける。
「はあ・・・。お前は本当に甘いな・・・。そう言って、この前はスライムの子供を、吸血蝙蝠の子供を保護して、今度はゴブリンか?」
「うん・・・。僕決めたんだ。お前は今日からうちの子だよ。よろしくね、ゴブ!」
そう語りかけると、ゴブは少し戸惑いながらも頷いた。
「ホントにお前は・・・。まあ、しょうがないな。おばさんには俺からも頼んでやるよ。」
「ありがとう、アルス。」
「今日、薬草採取は中止だな。」
「ゴメンね。アルス。」
「いいって。俺たち友達だろ?」
「うん!」
そうして、僕たちはゴブのお母さんたちを埋葬してゴブを連れて西の森を後にするのだった。その後、アルスとお母さんを説得しゴブを住まわせることになった。面倒はもちろん僕が一人で行う。
「スラ!コウ!ゴハンだよ。」
「きゅう~♪」
「キキ♪」
そうして、スライムのスラと吸血蝙蝠のコウが僕の所に来る。
「ほら、今日は新しい仲間を紹介するね。この子はゴブリンのゴブ。みんな仲良くするんだよ。」
「きゅう~♪」
「キキ♪」
そうして僕は新しい家族を迎えた。
「全く、イーグル。また西の森に行ったのか?」
そう言ってお父さんがため息を吐く。
「う・・うん・・・。でも、アルスも一緒だし・・・。」
「西の森はモンスターが出るから危険だって言っているだろう?いくらアルスが強いからって森の主が現れたらどうする?」
「森の主って何?」
僕がそう聞くとお兄ちゃんが答えてくれる。
「西の森には銀の毛皮の狼がいる。それも知性が高くて魔法も使うという話だ。イーグル。例えアルスが強くても、さすがに森の主には勝てないぞ?」
「アルスなら森の主だって倒せるよ!!今日だってアルスは一人でゴブリンを倒したんだから!!」
「あのな・・・。何十年も西の森を根城にしているモンスターだぞ?いくらアルスでもさすがに・・・。」
「まあ、いいじゃない。マウン。でもね、イーグル。お母さんも心配なのよ?いくらアルス君が強くたって、まだまだ、子供。あなたたちは大切な私達の子供なんだから・・・。」
「・・・はい。お母さん。」
僕はそう返事をするのだった。
次の日、僕はスラとコウとゴブを部屋に入れて本を読んであげる。3匹とも興味深げに僕の本を覗き込んだ。ゴブが指さしてこれは?というように聞いてくる。
「ああ、これはね、英雄王バルザード様の物語だよ。」
ゴブは首を傾げた。
「う~と。バルザードって人が昔いてね、アーガス王国最強の聖騎士だったんだって。その人はアーガス王国を守護する騎士でね、ものすごく強かったんだって。」
ゴブは感心したように頷く。ゴブは何を思ったのか僕の方を見る。どうやら、バルザード様に興味を持ったようだ。
「ゴブ、興味ある?」
ゴブは頷く。そして本を見るがそこに書いてある文字が読めないようだ。
「だったら、文字教えてあげようか?」
ゴブは頷く。そして、僕は基礎からゴブに文字を教えて、人間の言葉を教える。
「僕の名前はイーグルだよ。」
「いー・・ぐる?」
「そうそう。上手だよ、ゴブ。」
「いーぐる♪」
そう言ってゴブが嬉しそうに僕の名前を呼ぶ。僕はうれしくなってどんどんゴブに言葉を教えていった。ゴブはまるで乾いたスポンジのように言葉を吸収していく。そして、夕刻を過ぎるころには文字も基礎的なものは読めるようになった。
「ゴブ、すごいよ。一日でこんなに出来るなんて。」
「いーぐる。おしえるの。じょうず。」
「ありがとう。ゴブ。」
そう言って僕はゴブの頭をなでる。ゴブは嬉しそうに目を細めた。
「イーグル。ご飯よ!」
「はーい!行こう。ゴブ。」
「うん。いーぐる。いっしょ。いく。」
「きゅう~♪」
「キキ♪」
そうして僕たちは下に降りたのだった。
「ほう・・・。ゴブリンが人の言葉を話すとはな・・・。」
「うん。ゴブは凄いんだよ。文字も簡単なものならもう読めちゃうんだから。」
「ごぶ。よめる。」
ゴブは少し誇らしげに胸を張る。その姿にお兄ちゃんは笑ってしまう。
「ああ、酷いよ。お兄ちゃん。笑うなんて。」
「いや、ごめん、ごめん。少しおかしくてな。モンスターと食卓を囲む家なんて俺の家ぐらいだろうから。」
「確かにな。しかし、イーグルはモンスターを飼いならす才能があるのかもな?」
そう言ってお父さんは難しい顔をする。
「どうしたの?お父さん?」
「いや、お前はもしかしたら魔物使いとして才能があるのかもと思ってな。」
「魔物使い?」
「様々な魔物を使役する、職業だよ。高位の者になればドラゴンだって使役することが出来るという。」
「へえ~。そうなんだ。でも、僕はあんまり興味がないな。使役って支配するってことでしょ?そんなの僕は嫌だな。スラもコウもゴブも僕の友達だもん。」
「そうか・・・。いや、すまん。でも、少しもったいないと思うんだが?」
「もったいない?」
「ああ、お前のその力を使えば将来はこの国を守る騎士にだってなれるだろうに・・・。」
「そうなんだ・・・。でも、僕はこの子達を戦いの道具にしたくない。こうやって本を読んだり一緒に食事をしたりして過ごしていたい。」
「そうか・・・。まあ、お前にはそういうのは向いていないかもな。」
「そうだよ。」
そうして、夕食の時間が過ぎていく。それから僕はゴブたちと共に遊んだり、本を読んだり、勉強したり・・・。そんな何気ない日々を過ごしていった。ゴブは文字を覚えるのは得意なようだが、言葉はまだ片言だ。
そんなある日。
「へぇ~、西の森の主か・・・。どんな奴なんだろうな?」
「わかんない・・・。でも、お兄ちゃんは危険なモンスターだって言ってたよ。」
そういうとアルスは何事か考える。今いるのはアルスの家の酒場のテーブルだ。スラもコウもゴブも一緒だ。
「・・・。なあ、イーグル。俺達で西の森の主を倒そうぜ!」
アルスはいいことを思いついたという顔で僕に言った。
「えっ!?でも、危険だよ?」
「大丈夫。俺が付いている。」
「う~ん・・・。」
僕は悩んだ。いくら何でも、それは無茶じゃないのかなとするとゴブが僕に話しかけてきた。
「いーぐる。おれ。いっしょ。いく。」
「ゴブ?」
「おれ。いーぐる。まもる。」
そう言ってゴブは僕の目を見る。この目はもう何かを決めた目だ。
「きゅう!」
「キキ!」
スラとコウもゴブと同じように僕を見た。
「みんな・・・。」
僕はゴブたちを見回す。そして頷く。
「わかった。アルス。西の森に行こう?そして、西の森の主を倒そう!」
「おう!なら、ゴブの装備も準備してやらないとな・・・。ほら、俺の短剣の予備だ。これをやるよ。」
そう言って、アルスはゴブに短剣を投げ渡す。ゴブはそれを上手くキャッチした。
「ありがとう。あるす。」
「ああ、じゃあ、西の森に出発だ!」
そうして僕たちは西の森に向かった。西の森に進むとモンスターが現れる。スライムと吸血蝙蝠だった。
「イーグル。ここは下がっていろ!俺が片づける!」
「いーぐる。まもる。」
「うん。スラ、コウ僕たちは下がっていよ?」
「きゅう!」
「キキ!」
「お前たちも戦いたいの?でも、あれはお前たちの仲間で・・・。」
「きゅう!」
「キキ!」
それでもスラとコウは引き下がらなかった。僕はため息を吐く。
「ああ、もうわかったよ。じゃあ、僕も援護するから無理しないでよ。」
「きゅ!」
「キー!」
そう言って僕は後方支援に回る。
「守護の天使よ・・・。汝の盾をしばしの間我に貸し与えん・・・。そして、我の仲間たちを守護せん・・・。」
そして呪文が完成する。
「プロテクション」
次の瞬間、アルスたちを光が包む。
「スラ!コウ!ゴブ!気を付けてね!」
「おれ。まもる。」
「きゅ!」
「キー!」
そして、アルスたちはモンスターたちと戦う。ゴブはアルスの動きを真似して短剣を振るう。スラとコウはそんなゴブを援護している。
「初めての実践にしては上出来じゃないか!俺も負けないぜ!」
そうして、アルスはスライムを倒す。ゴブもそれに続けとばかりに吸血蝙蝠を倒す。
「ふう。ゴブ。なかなかいい動きをするじゃないか。」
「あるす。まねた。おれ。つよくなる。」
「俺も負けないぞ。」
そう言ってアルスとゴブは笑いあう。スラとコウは僕の方に寄ってくる。
「お疲れさま・・・。でも、辛くなかった?同族と戦って?」
「きゅ?」
「キキ?」
スラとコウは特に何も感じていないようだ。これは、人間と暮らしてきた弊害なのか?
「そっか・・・。」
僕はアルスたちが倒したスライムと吸血蝙蝠を見る。モンスターはなぜか成熟すると人間を襲うようになる。僕はなぜなのかなといつも思っている。人間を攻撃するからモンスターは敵。人間が攻撃してくるからモンスターが襲ってくる?なんか違う気がする。僕は倒れたスライムと吸血蝙蝠に駆け寄る。その死体を僕は手で持つ。血で手が汚れることをいとわず僕は家にあった小さなシャベルで穴を掘りそして、埋葬した。そこに木の枝を立てる。僕はそうしてモンスターを弔うすべをなぜかこうするのが正しいと認識して行った。
「ごめんね・・・。」
僕はそう言って合掌する。そんなことでしかこの殺してしまったモンスターたちに報いることは出来ないと思っている。
「イーグル!行くぞ。」
「うん!」
僕は一度だけ振り返ってアルスたちに続く。
そうして何度か戦闘していくうちにゴブたちは急激に成長した。最初の内はゴブはアルスの助けを借りて何とかモンスターを倒していたようだが徐々に慣れていき今ではアルスには劣るがそれなりに剣の腕が上がっているようだ。スラとコウもゴブを援護したり時には攻撃に参加した。時にはアルスを援護している。アルスもスラやコウが作ったすきをついてモンスターを倒していく。僕は守護の魔法を掛けるとやることがなくなった。戦闘の後は、僕はモンスターを埋葬した。そんな姿をアルスたちは不思議そうに見つめるのだった。
そして、西の森の奥に進むこと数時間。
「なあ、ここじゃないか?西の森の主って?」
「うん。それっぽいね。」
そこには洞窟が広がっていた。
「ここからは慎重に行くぞ。」
「うん。」
「わかった。」
「きゅ。」
「キ。」
そうして洞窟の奥へと進んでいく。それまで、モンスターと戦っていたのが嘘のようにモンスターと遭遇することがなかった。そして、奥に進むこと、数十分。
「行き止まりだな・・・。」
「そうだね・・・。」
そこは行き止まりだった。洞窟は一本道。そこまで何もなかった。
「西の森に本当に主がいるのか?」
「今日は留守ってことかな?」
その時だった。
「きゅう!!」
「キー!」
「どうしたの?スラ、コウ?」
その時だった。
「貴様ら、我の寝床に何用か?」
そう問いかけてきたのは体長は5mはあるだろう大きな銀の毛皮の狼がいた。どこか禍々しいオーラを放っている。
「お前が西の森の主か?」
アルスはそんな狼に話しかける。既に短剣を抜いて戦闘態勢だ。
「如何にも・・・。それで、何用だ、人間?」
まるで、そんなことを聞いてどうするという目で西の森の主は問いかけてきた。
「お前を退治に来た!」
アルスはそう宣言する。すると禍々しいオーラが増えたように感じる。
「ほう・・・。この私をか?小童如きが・・・。」
そう言って西の森の主は威圧するように僕たちを見た。正直僕は怖かった。今にも、自分の持っている杖を取り落としそうだ・・・。
「イーグル。俺とゴブたちで奴を引き付ける。お前は守護の魔法の後に攻撃魔法をしろ!」
アルスはそんな僕に活を入れるように命令する。僕はそう言われて、自分の杖をしっかりと握り込む。
「う・・・うん・・・。」
「行くぞ!西の森の主!!」
そう言ってアルスが西の森の主に突っ込んでいく。その後に、ゴブ、スラ、コウと続いていく。
「小童が!調子に乗るなよ!」
そうして西の森の主はアルスに突進する。そのスピードはまさに風のごとく速かったがアルスはそれを避ける。そして返す刀で西の森の主の後ろ右脚を切り付ける。
「ぐわ!?」
「へっ!どうした西の森の主。傷が痛むか?」
アルスが西の森の主を挑発する。
「小童が!!八つ裂きにしてやる。」
そう言ってその後ろ脚を庇うように西の森の主は立っていた。
「させない。みんな。まもる。」
そう言ってゴブは後方からもう片方の脚に短剣を切り付けた。西の森の主はゴブを振り払うように体を激しく揺さぶる。ゴブは空中で回転して地面に着地する。
「ゴブリン風情が!我に盾突こうというのか!?」
西の森の主は怒りを込めた目をゴブに向ける。
「おれ。みんな。まもる。ばるざーどみたいに。」
ゴブはそんな目にもくじけた様子は見せずに短剣を構える。
「調子に乗るなよ!」
そう言ってゴブに突進しようと西の森の主が構える。しかし・・・。
「そっちにばかり目を向けていいのか?」
そう言ってアルスは短剣を振るう。森の主はの後ろ脚の傷に再度短剣を突き刺したそこから大量の血が出てくる。
僕はそんな様子を横目に呪文を唱える。
「守護の天使よ・・・。汝の盾をしばしの間我に貸し与えん・・・。そして、我の仲間たちを守護せん・・・。」
そして、僕は呪文を唱え終わる。
「お待たせ。プロテクション!」
そうして、アルスたちを光が包む。
「よし、もう一息だ。いくぞ。ゴブ、スラ、コウ!」
「ああ!」
「きゅ!」
「キー!!」
「調子に・・・乗るな!!!」
次の瞬間、森の主から膨大な負のオーラがあふれ出してきた。そのオーラはとても禍々しくて息をするのも大変だった。そして、そのオーラが魔力となる。何か強大な魔力を感じて僕は叫んだ。
「これは・・・!?皆逃げて!!」
次の瞬間、暴風が僕たちを襲う。
「うわ!?」
「!?」
「きゅ!?」
「キ!?」
そして、アルスたちが壁際まで吹き飛ばされ激突する。僕以外は倒れた。
「まさか、こんな小童どもに本気を出さなければならないとはな・・・。」
そう言って西の森の主は忌々し気に吐き捨てる。そしてその目がゴブに向く。
「愚かにも、人間にくみした、反逆者よ。ここで、死ね!」
そう言って西の森の主はゴブにゆっくりと近づいていく。僕は恐怖でその場から動けないでいた。
(何してるんだよ!動けよ!!早くしないと、皆が・・・!!)
そう思っている間にも西の森の主はゴブに近づいていく。その時僕の頭に浮かんできたのは僕たちが倒していったモンスターたちの姿だった。その瞬間僕は駆け出た。
「させない!」
そう言って僕は西の森の主の前に立ちはだかる。勝算なんてない。普通、ここは逃げるのが正解だ。魔物使いとしては自分のモンスターが殺されたとしてもマスターである自分がいればまた新たなモンスターを使役することが出来る。だからマスターはモンスターを捨て駒にするのが正解だ。だけど・・・。
(そんなの、間違っている。ゴブはこの世界でただ一人なんだ!代わりなんていない!!)
「どけ!小童が!そこの裏切り者に天誅を与える!!」
「嫌だ!ゴブは僕の家族だ!お前なんかに殺させはしない!」
(そうだ。ゴブは家族なんだ。スラもコウも家族なんだ。家族を見捨てることなんて僕には出来ない!!)
「ならば、まずは貴様から死ね!!」
そう言って西の森の主は僕に牙を向ける。
「さ・・せない。」
そう強い決意のこもった声が後ろから聞こえてきた。
「ゴブ!?」
それは、ゴブだった。全身傷だらけなのにそれでも僕のことを守ろうと短剣を構えていた。
「いーぐる。おれ・・・。まも・・る。」
ゴブはそう言って西の森の主を睨み付ける。
「愚かな・・・。人間は我らを殺戮したではないか。今こそ、あそこは村だが昔は森だった。それをお前たち人間が危険だからと我々を駆逐したのを忘れたのか!?お前だってそうだ!この人間に家畜のように扱われてきたのではないのか!?こうして、貴様が戦いの場にいるのが何よりの証拠だ!!」
「ちがう。いーぐる。おれ。たすけて。くれた・・・。いーぐる。やさしい。おれ。かぞく。いってくれた!」
そうしてゴブは僕の前に立ち、西の森の主を睨み付ける。
「本当に愚かなゴブリンの子供よ・・・。ならば、せめて、楽に殺してやる。」
そうして、西の森の主は牙を向ける。ゴブを噛み殺そうとしているのだ。僕はゴブを後ろから突き飛ばした。ゴブは前のめりに倒れて西の森の主の牙を避ける。
「大丈夫・・・ゴブ・・・。」
「いーぐる?なに・・して。」
「駄目だよ・・・。ゴブは・・僕の家族なんだから・・・。ゴブが・・傷つくのなんて・・・みたく・・ない。」
「いーぐる・・・。」
「愚かな。たかがゴブリン一体のためになぜそこまでする?貴様は魔物使いなのだろう?ならばこんなゴブリン代わりなどいくらでもいるだろう?」
西の森の主は僕に冷たい声でそう言った。僕は、その時、感じていた恐怖がなくなっているのを感じる。
「西の森の主・・・。教えて・・・。どうすれば・・・君は・・満足なの?」
「なに?」
僕は問いかける。西の森の主は他のモンスターとは違う。意思の疎通が出来る。ならば話すことが出来る。
「僕が・・。出来る限りのことはする・・・。すぐは無理だけど・・・。でも・・この「人生」にかけて実現して見せる。」
「何を言うか・・・。今さら何を!!我の同胞を殺し繁栄してきた野蛮人共が!!貴様みたいな小童に何が出来る!!」
それは西の森の主の闇だった。人間に殺された同胞の無念を晴らそうとする使命感みたいなものだった。でも、僕はそんな西の森の主を見返す。
「何もできないかもしれない・・・。森のモンスターたちの恨みを晴らすのは無理かもしれない・・・。でも!」
僕は答える心が痛い。でも、この痛みはこの森のモンスターたちの痛みで西の森の主はそれを一人で背負って来たんだろう。
「でも!今が無理でも、未来は違うものになる!僕たちが変える!!変えて見せる!!」
「ふん。そんな戯言信じられるか?」
そう言って西の森の主は僕を睨み付けた。その目には深い悲しみを湛えていた。
「信じられないなら、それでもいいよ。僕を噛み殺せばいい。でも、ゴブと他の皆は見逃して・・・。頼むよ。」
僕はそう言って目を瞑る。もう、話す言葉はない。後は、西の森の主に任せるのみだ。
「・・・ふん。興が削がれたわ・・・。小童。今回は見逃してやる。しかし、次はないと思え。」
そう言って西の森の主はその場を去ろうとする。
「待って!」
僕は慌てて西の森の主に駆け寄る。西の森の主はまだ何か用かというように僕を睨み付けた。そんな気配を無視して僕は回復の魔法を唱える。
「治癒の女神よ。その御心を我に与えたまえ・・・。」
そして、僕は今持っている魔力をすべて注ぎ込んだ。
「ヒール!」
すると、西の森の主の後ろ脚の傷が癒えていく。そんな様子に信じられないという目で西の森の主は僕を見ていた。
「小童・・・。」
「これが今の僕にできる精一杯・・・。だから信じて・・・。人間を・・・僕たちを・・・。」
そして、僕はその場に倒れる。
「ふん。魔力切れか・・・。全く、この小童は・・・。」
そうして西の森の主はイーグルに近づく。その前にゴブが立ちはだかる。
「いーぐる。ころさせない!」
ゴブは身を挺してイーグルを守るために立ちはだかる。そんな様子に西の森の主は呆れたような目を向ける。
「どけ。ゴブリンの子供よ。俺はもうお前たちに何もしない。」
「どういうことだ?」
その答えは直接届かなかった。西の森の主は魔法を唱える。
「治癒の魔人よ。その力を彼の者に与えん・・・。」
そして、その魔法は洞窟内に充満する。
「ハートレス・サークル」
すると、ゴブたちが負った傷が治っていく。ゴブは何が起こったのかわからずに目をぱちくりさせる。
「その小童に伝えろ。俺はもう、お前たち人間を襲わないと誓おう。しかし、もし先の約束を忘れたならお前を殺しに行くと・・・。」
「・・・。」
「話は以上だ。ここから去れ。」
そうして、大量の魔力が溢れ次の瞬間村の入り口に着いた。
そして、この日アルスたちを見つけた村人たちによって各家に運び込まれる。皆、怪我もなかったがイーグルは魔力が切れて高熱を出して寝込んでしまう。
数日後
僕は熱が下がり、久しぶりに外に出た。向かう先は西の森だった。今日はアルスも僕のモンスターたちもいない。僕は一人で西の森に向かった。森をどんどん進み僕は西の森の主と出会った洞窟に入っていく。そこには体長5mの大きな銀の毛皮の狼がいた。ただ、漂っているオーラが違った。最初に会った頃は禍々しいオーラを纏っていたが、それは霧散し、逆に神々しいオーラを纏っていた。
「なんだ小童?我に用か?」
「うん。ゴブから話を聞いた。ゴブ達の傷を治してくれたこと。家まで送ってくれたこと・・・。それから、もう人間を襲わないって言ってくれたこと・・・。」
「それで、お前は今日、何しに我に会いに来た?」
「ちょっと、相談したいことがあるんだ。」
「相談だと?」
西の森の主は訝し気に僕を見た。僕はその目をまっすぐ見つめる。
「うん。大事な相談。君にしか出来ないことだよ。」
「・・・申してみよ。」
「僕の計画を手伝ってほしい。」
「計画だと?」
「うん。僕は、モンスターと人間が共存できる世界を目指したいと思う。」
「・・・馬鹿かお前は?そんなことが出来る訳ないだろう?」
「不可能じゃないと思う。僕は出来ると信じている。」
「人間が思い上がるなよ?お前たち人間は同族でありながら何百年と争っているではないか。」
「そうだね・・・。アーガス王国とアンクート王国は何百年と戦争をしている。今も前線では多くの兵士が戦っている。」
「そんな人間と我々モンスターが共存できるとでも思っているのか?同族ですら争っているお前たちに。」
「わからない・・・。でも、僕は出来ると信じている。僕はこの森のモンスターたちと話してみようと思う。きっと共存できる道があるはずだ。」
「・・・それで、貴様は我に何をしろというのだ?」
「引き受けてくれるの?」
「話は聞いてやると言っているのだ。」
「そっか・・・。僕はモンスターの皆と共存する世界を作りたい。でも、中には同族を殺されて僕たち人間を恨んでいるモンスターも少なくないと思う。」
「それで?」
「西の森の主、君に僕とモンスターの仲介をしてもらいたいんだ。」
「・・・貴様、自分がどれだけ馬鹿げたことを言っているのか自覚しているか?」
「村は僕が説得する。その説得の材料として僕は君と契約を結びたい?」
「契約だと?」
「そう。魔物使いとモンスターとの契約。」
「貴様、その方法を知らないわけではないだろう?」
「調べた。契約には二つの方法があるんだ。一つはモンスターを支配する魔法を使って無理やり支配する方法。これが一番安全でポピュラーな契約だって書いてあった。」
「貴様はそれをやろうというのか?」
「まさか・・・。そんな訳ないじゃん。もう一つの方法があるんだ。」
「貴様まさか・・・。」
「僕と魂の契約をしてくれない?西の森の主。」
「わかっているのか!そんなことをすれば貴様がどうなるか・・・。」
「そうだね。この方法を危険な方法だって書いてあった。マスターとモンスターの魂をつなげるこの方法。それはモンスターが死ねばマスターもモンスターと運命を共にするというものだったよね。」
「貴様・・・。」
「でも、西の森の主はそこら辺のモンスターより強いんでしょ?君は人間の僕より長寿だ。君の方には何のリスクもないと思うけど?」
「貴様は覚悟を決めたのか?」
「うん。言ったでしょ。モンスターと人間が共存できる世界を作るって。」
「その言葉に偽りはないか?」
「うん。僕は決めたんだ。僕の「人生」を掛けると。」
その時だった西の森の主が大声を出して笑った。
「よかろう!そんな馬鹿げた夢に我は協力しようではないか。」
「ありがとう。西の森の主。」
そうして僕たちは契約の儀式を行う。
「我、魔物使いイーグル。」
「我、霊獣フェンリル。」
「我は魂を対価に霊獣フェンリルと契約を結ぶ者なり。」
「我はその見返りにこの者をマスターとして認める。」
次の瞬間、僕と西の森の主フェンリルの魂が繋がった感覚を覚えた。
「これで、お前は今日から私のマスターだ。」
「うん、よろしくね。フェンリル。」
そして、僕たちは動き出す。フェンリルは西の森のモンスターを僕は村の人たちを説得するために・・・。
3年後の新暦218年。
そして、その後、ミルト村では西の森で村人がモンスターに襲われることがなくなった。同時にモンスターも村に降りてきて人間と共存の道を歩むようになる。
それは、魔物使いイーグルとその守護獣フェンリルが力を合わせて成し遂げたのだった。
それから6年後の新暦215年。
「お~い!イーグル。遊びに行こうよ!!」
「待ってよ、アルス。今ご飯食べるから!」
そうして僕、イーグルは残ったパンを残さず食べた。
「ごちそうさま!行ってきます!!」
「イーグル、あまり遅くなるんじゃないよ?」
「わかってるよ、お母さん!行ってきます!!」
そうして僕は幼馴染のアルスの元に向かった。
「お待たせ、アルス。」
「遅いぞ。」
「ごめん、ごめん。それより、今日はどこに遊びに行こうか?」
「そうだな・・・。西の森に行かないか?あそこでいい薬草が取れるって聞いたぞ?」
「えっ・・・。でも、西の森はモンスターが出るから危険だって・・・。」
「大丈夫。もし、何かあったら俺が守ってやるよ。」
「う・・うん・・・。じゃあ、行こうかな?」
「じゃあ、出発だ!!」
そうして僕とアルスは西の森に出かけた。アルスは森に入るとすぐに短剣を抜く。
「じゃあ、イーグル。僕のそばを離れるんじゃないぞ?」
「う・・・うん。わかった。」
アルスは村一番の剣の達人だ。わずか6歳で大人にも負けない剣の腕を誇っているしかも、魔法の才能もあって将来は聖騎士になるのが夢のようだ。森のモンスター程度ならアルスがいれば楽勝だ。僕?僕は平凡だよ?身体能力も平凡だ。だけど、お金の計算や文字の読み書き、薬草の種類とかを見ることが出来る。あと簡単な治癒魔法と攻撃魔法が使えるぐらい。アルスやお兄ちゃんには敵わないよ。
「出たな!モンスター!!」
そう言ってアルスは短剣を構える。前を見るとそこには背が僕たちとそんなに変わらないゴブリンが3体いた。
「イーグル!援護は頼む。」
「任せて!」
そう言って僕は飛び出すアルスの後ろで攻撃魔法を準備する。アルスはその間にゴブリンと鍔迫り合いをしていた。
「四代元素の一つ、火の精よ。我に汝の力を貸したまえ・・・。」
そして呪文が完成する。
「準備出来たよ!アルス。下がって!」
「わかった。」
そう言ってアルスは後退した。そして、僕は攻撃魔法を放つ。
「ファイアー・ボール!」
その火の球はゴブリンに直撃してゴブリンは倒れる。
「あとは任せろ!」
そう言ってアルスは残りの二体を倒した。アルスならこれくらい朝飯前だ。
「よし・・・。これで、モンスターは片付いたな・・・。」
「そうだね・・・。うん?」
僕はあることに気が付いた。どうやらゴブリンの子供のようだ。さっきのはこの子のお父さんとお母さんだったのかな。
「ちっ、まだ、居たのか。始末しないと・・・。」
「ま、待ってアルス!」
僕は慌てて止める。
「どうして止めるんだよ・・・。イーグル?」
隠れていたゴブリンの子に近づく。身長は30㎝位かな?まるで怯えたような顔をしている。僕は安心させるようにその子を抱きかかえる。
「そのゴブリンの子供をどうするつもりだ?」
アルスは少し呆れながらも聞いてくる。
「僕が育てる。」
「な・・・。何馬鹿なことを言っているんだ!モンスターだぞ!人を襲うんだぞ!」
「でも、この子はまだ人を襲ってない。この子には何も罪はない。」
僕はゴブリンの子の目を見る。その目は悲しみをたたえていた。
「だけど・・・。」
「それに、僕たちはこの子のお父さんとお母さんを奪ったんだ。その償いをしないと・・・。」
僕は安心させようと「大丈夫、大丈夫。」とゴブリンの子に語り掛ける。
「はあ・・・。お前は本当に甘いな・・・。そう言って、この前はスライムの子供を、吸血蝙蝠の子供を保護して、今度はゴブリンか?」
「うん・・・。僕決めたんだ。お前は今日からうちの子だよ。よろしくね、ゴブ!」
そう語りかけると、ゴブは少し戸惑いながらも頷いた。
「ホントにお前は・・・。まあ、しょうがないな。おばさんには俺からも頼んでやるよ。」
「ありがとう、アルス。」
「今日、薬草採取は中止だな。」
「ゴメンね。アルス。」
「いいって。俺たち友達だろ?」
「うん!」
そうして、僕たちはゴブのお母さんたちを埋葬してゴブを連れて西の森を後にするのだった。その後、アルスとお母さんを説得しゴブを住まわせることになった。面倒はもちろん僕が一人で行う。
「スラ!コウ!ゴハンだよ。」
「きゅう~♪」
「キキ♪」
そうして、スライムのスラと吸血蝙蝠のコウが僕の所に来る。
「ほら、今日は新しい仲間を紹介するね。この子はゴブリンのゴブ。みんな仲良くするんだよ。」
「きゅう~♪」
「キキ♪」
そうして僕は新しい家族を迎えた。
「全く、イーグル。また西の森に行ったのか?」
そう言ってお父さんがため息を吐く。
「う・・うん・・・。でも、アルスも一緒だし・・・。」
「西の森はモンスターが出るから危険だって言っているだろう?いくらアルスが強いからって森の主が現れたらどうする?」
「森の主って何?」
僕がそう聞くとお兄ちゃんが答えてくれる。
「西の森には銀の毛皮の狼がいる。それも知性が高くて魔法も使うという話だ。イーグル。例えアルスが強くても、さすがに森の主には勝てないぞ?」
「アルスなら森の主だって倒せるよ!!今日だってアルスは一人でゴブリンを倒したんだから!!」
「あのな・・・。何十年も西の森を根城にしているモンスターだぞ?いくらアルスでもさすがに・・・。」
「まあ、いいじゃない。マウン。でもね、イーグル。お母さんも心配なのよ?いくらアルス君が強くたって、まだまだ、子供。あなたたちは大切な私達の子供なんだから・・・。」
「・・・はい。お母さん。」
僕はそう返事をするのだった。
次の日、僕はスラとコウとゴブを部屋に入れて本を読んであげる。3匹とも興味深げに僕の本を覗き込んだ。ゴブが指さしてこれは?というように聞いてくる。
「ああ、これはね、英雄王バルザード様の物語だよ。」
ゴブは首を傾げた。
「う~と。バルザードって人が昔いてね、アーガス王国最強の聖騎士だったんだって。その人はアーガス王国を守護する騎士でね、ものすごく強かったんだって。」
ゴブは感心したように頷く。ゴブは何を思ったのか僕の方を見る。どうやら、バルザード様に興味を持ったようだ。
「ゴブ、興味ある?」
ゴブは頷く。そして本を見るがそこに書いてある文字が読めないようだ。
「だったら、文字教えてあげようか?」
ゴブは頷く。そして、僕は基礎からゴブに文字を教えて、人間の言葉を教える。
「僕の名前はイーグルだよ。」
「いー・・ぐる?」
「そうそう。上手だよ、ゴブ。」
「いーぐる♪」
そう言ってゴブが嬉しそうに僕の名前を呼ぶ。僕はうれしくなってどんどんゴブに言葉を教えていった。ゴブはまるで乾いたスポンジのように言葉を吸収していく。そして、夕刻を過ぎるころには文字も基礎的なものは読めるようになった。
「ゴブ、すごいよ。一日でこんなに出来るなんて。」
「いーぐる。おしえるの。じょうず。」
「ありがとう。ゴブ。」
そう言って僕はゴブの頭をなでる。ゴブは嬉しそうに目を細めた。
「イーグル。ご飯よ!」
「はーい!行こう。ゴブ。」
「うん。いーぐる。いっしょ。いく。」
「きゅう~♪」
「キキ♪」
そうして僕たちは下に降りたのだった。
「ほう・・・。ゴブリンが人の言葉を話すとはな・・・。」
「うん。ゴブは凄いんだよ。文字も簡単なものならもう読めちゃうんだから。」
「ごぶ。よめる。」
ゴブは少し誇らしげに胸を張る。その姿にお兄ちゃんは笑ってしまう。
「ああ、酷いよ。お兄ちゃん。笑うなんて。」
「いや、ごめん、ごめん。少しおかしくてな。モンスターと食卓を囲む家なんて俺の家ぐらいだろうから。」
「確かにな。しかし、イーグルはモンスターを飼いならす才能があるのかもな?」
そう言ってお父さんは難しい顔をする。
「どうしたの?お父さん?」
「いや、お前はもしかしたら魔物使いとして才能があるのかもと思ってな。」
「魔物使い?」
「様々な魔物を使役する、職業だよ。高位の者になればドラゴンだって使役することが出来るという。」
「へえ~。そうなんだ。でも、僕はあんまり興味がないな。使役って支配するってことでしょ?そんなの僕は嫌だな。スラもコウもゴブも僕の友達だもん。」
「そうか・・・。いや、すまん。でも、少しもったいないと思うんだが?」
「もったいない?」
「ああ、お前のその力を使えば将来はこの国を守る騎士にだってなれるだろうに・・・。」
「そうなんだ・・・。でも、僕はこの子達を戦いの道具にしたくない。こうやって本を読んだり一緒に食事をしたりして過ごしていたい。」
「そうか・・・。まあ、お前にはそういうのは向いていないかもな。」
「そうだよ。」
そうして、夕食の時間が過ぎていく。それから僕はゴブたちと共に遊んだり、本を読んだり、勉強したり・・・。そんな何気ない日々を過ごしていった。ゴブは文字を覚えるのは得意なようだが、言葉はまだ片言だ。
そんなある日。
「へぇ~、西の森の主か・・・。どんな奴なんだろうな?」
「わかんない・・・。でも、お兄ちゃんは危険なモンスターだって言ってたよ。」
そういうとアルスは何事か考える。今いるのはアルスの家の酒場のテーブルだ。スラもコウもゴブも一緒だ。
「・・・。なあ、イーグル。俺達で西の森の主を倒そうぜ!」
アルスはいいことを思いついたという顔で僕に言った。
「えっ!?でも、危険だよ?」
「大丈夫。俺が付いている。」
「う~ん・・・。」
僕は悩んだ。いくら何でも、それは無茶じゃないのかなとするとゴブが僕に話しかけてきた。
「いーぐる。おれ。いっしょ。いく。」
「ゴブ?」
「おれ。いーぐる。まもる。」
そう言ってゴブは僕の目を見る。この目はもう何かを決めた目だ。
「きゅう!」
「キキ!」
スラとコウもゴブと同じように僕を見た。
「みんな・・・。」
僕はゴブたちを見回す。そして頷く。
「わかった。アルス。西の森に行こう?そして、西の森の主を倒そう!」
「おう!なら、ゴブの装備も準備してやらないとな・・・。ほら、俺の短剣の予備だ。これをやるよ。」
そう言って、アルスはゴブに短剣を投げ渡す。ゴブはそれを上手くキャッチした。
「ありがとう。あるす。」
「ああ、じゃあ、西の森に出発だ!」
そうして僕たちは西の森に向かった。西の森に進むとモンスターが現れる。スライムと吸血蝙蝠だった。
「イーグル。ここは下がっていろ!俺が片づける!」
「いーぐる。まもる。」
「うん。スラ、コウ僕たちは下がっていよ?」
「きゅう!」
「キキ!」
「お前たちも戦いたいの?でも、あれはお前たちの仲間で・・・。」
「きゅう!」
「キキ!」
それでもスラとコウは引き下がらなかった。僕はため息を吐く。
「ああ、もうわかったよ。じゃあ、僕も援護するから無理しないでよ。」
「きゅ!」
「キー!」
そう言って僕は後方支援に回る。
「守護の天使よ・・・。汝の盾をしばしの間我に貸し与えん・・・。そして、我の仲間たちを守護せん・・・。」
そして呪文が完成する。
「プロテクション」
次の瞬間、アルスたちを光が包む。
「スラ!コウ!ゴブ!気を付けてね!」
「おれ。まもる。」
「きゅ!」
「キー!」
そして、アルスたちはモンスターたちと戦う。ゴブはアルスの動きを真似して短剣を振るう。スラとコウはそんなゴブを援護している。
「初めての実践にしては上出来じゃないか!俺も負けないぜ!」
そうして、アルスはスライムを倒す。ゴブもそれに続けとばかりに吸血蝙蝠を倒す。
「ふう。ゴブ。なかなかいい動きをするじゃないか。」
「あるす。まねた。おれ。つよくなる。」
「俺も負けないぞ。」
そう言ってアルスとゴブは笑いあう。スラとコウは僕の方に寄ってくる。
「お疲れさま・・・。でも、辛くなかった?同族と戦って?」
「きゅ?」
「キキ?」
スラとコウは特に何も感じていないようだ。これは、人間と暮らしてきた弊害なのか?
「そっか・・・。」
僕はアルスたちが倒したスライムと吸血蝙蝠を見る。モンスターはなぜか成熟すると人間を襲うようになる。僕はなぜなのかなといつも思っている。人間を攻撃するからモンスターは敵。人間が攻撃してくるからモンスターが襲ってくる?なんか違う気がする。僕は倒れたスライムと吸血蝙蝠に駆け寄る。その死体を僕は手で持つ。血で手が汚れることをいとわず僕は家にあった小さなシャベルで穴を掘りそして、埋葬した。そこに木の枝を立てる。僕はそうしてモンスターを弔うすべをなぜかこうするのが正しいと認識して行った。
「ごめんね・・・。」
僕はそう言って合掌する。そんなことでしかこの殺してしまったモンスターたちに報いることは出来ないと思っている。
「イーグル!行くぞ。」
「うん!」
僕は一度だけ振り返ってアルスたちに続く。
そうして何度か戦闘していくうちにゴブたちは急激に成長した。最初の内はゴブはアルスの助けを借りて何とかモンスターを倒していたようだが徐々に慣れていき今ではアルスには劣るがそれなりに剣の腕が上がっているようだ。スラとコウもゴブを援護したり時には攻撃に参加した。時にはアルスを援護している。アルスもスラやコウが作ったすきをついてモンスターを倒していく。僕は守護の魔法を掛けるとやることがなくなった。戦闘の後は、僕はモンスターを埋葬した。そんな姿をアルスたちは不思議そうに見つめるのだった。
そして、西の森の奥に進むこと数時間。
「なあ、ここじゃないか?西の森の主って?」
「うん。それっぽいね。」
そこには洞窟が広がっていた。
「ここからは慎重に行くぞ。」
「うん。」
「わかった。」
「きゅ。」
「キ。」
そうして洞窟の奥へと進んでいく。それまで、モンスターと戦っていたのが嘘のようにモンスターと遭遇することがなかった。そして、奥に進むこと、数十分。
「行き止まりだな・・・。」
「そうだね・・・。」
そこは行き止まりだった。洞窟は一本道。そこまで何もなかった。
「西の森に本当に主がいるのか?」
「今日は留守ってことかな?」
その時だった。
「きゅう!!」
「キー!」
「どうしたの?スラ、コウ?」
その時だった。
「貴様ら、我の寝床に何用か?」
そう問いかけてきたのは体長は5mはあるだろう大きな銀の毛皮の狼がいた。どこか禍々しいオーラを放っている。
「お前が西の森の主か?」
アルスはそんな狼に話しかける。既に短剣を抜いて戦闘態勢だ。
「如何にも・・・。それで、何用だ、人間?」
まるで、そんなことを聞いてどうするという目で西の森の主は問いかけてきた。
「お前を退治に来た!」
アルスはそう宣言する。すると禍々しいオーラが増えたように感じる。
「ほう・・・。この私をか?小童如きが・・・。」
そう言って西の森の主は威圧するように僕たちを見た。正直僕は怖かった。今にも、自分の持っている杖を取り落としそうだ・・・。
「イーグル。俺とゴブたちで奴を引き付ける。お前は守護の魔法の後に攻撃魔法をしろ!」
アルスはそんな僕に活を入れるように命令する。僕はそう言われて、自分の杖をしっかりと握り込む。
「う・・・うん・・・。」
「行くぞ!西の森の主!!」
そう言ってアルスが西の森の主に突っ込んでいく。その後に、ゴブ、スラ、コウと続いていく。
「小童が!調子に乗るなよ!」
そうして西の森の主はアルスに突進する。そのスピードはまさに風のごとく速かったがアルスはそれを避ける。そして返す刀で西の森の主の後ろ右脚を切り付ける。
「ぐわ!?」
「へっ!どうした西の森の主。傷が痛むか?」
アルスが西の森の主を挑発する。
「小童が!!八つ裂きにしてやる。」
そう言ってその後ろ脚を庇うように西の森の主は立っていた。
「させない。みんな。まもる。」
そう言ってゴブは後方からもう片方の脚に短剣を切り付けた。西の森の主はゴブを振り払うように体を激しく揺さぶる。ゴブは空中で回転して地面に着地する。
「ゴブリン風情が!我に盾突こうというのか!?」
西の森の主は怒りを込めた目をゴブに向ける。
「おれ。みんな。まもる。ばるざーどみたいに。」
ゴブはそんな目にもくじけた様子は見せずに短剣を構える。
「調子に乗るなよ!」
そう言ってゴブに突進しようと西の森の主が構える。しかし・・・。
「そっちにばかり目を向けていいのか?」
そう言ってアルスは短剣を振るう。森の主はの後ろ脚の傷に再度短剣を突き刺したそこから大量の血が出てくる。
僕はそんな様子を横目に呪文を唱える。
「守護の天使よ・・・。汝の盾をしばしの間我に貸し与えん・・・。そして、我の仲間たちを守護せん・・・。」
そして、僕は呪文を唱え終わる。
「お待たせ。プロテクション!」
そうして、アルスたちを光が包む。
「よし、もう一息だ。いくぞ。ゴブ、スラ、コウ!」
「ああ!」
「きゅ!」
「キー!!」
「調子に・・・乗るな!!!」
次の瞬間、森の主から膨大な負のオーラがあふれ出してきた。そのオーラはとても禍々しくて息をするのも大変だった。そして、そのオーラが魔力となる。何か強大な魔力を感じて僕は叫んだ。
「これは・・・!?皆逃げて!!」
次の瞬間、暴風が僕たちを襲う。
「うわ!?」
「!?」
「きゅ!?」
「キ!?」
そして、アルスたちが壁際まで吹き飛ばされ激突する。僕以外は倒れた。
「まさか、こんな小童どもに本気を出さなければならないとはな・・・。」
そう言って西の森の主は忌々し気に吐き捨てる。そしてその目がゴブに向く。
「愚かにも、人間にくみした、反逆者よ。ここで、死ね!」
そう言って西の森の主はゴブにゆっくりと近づいていく。僕は恐怖でその場から動けないでいた。
(何してるんだよ!動けよ!!早くしないと、皆が・・・!!)
そう思っている間にも西の森の主はゴブに近づいていく。その時僕の頭に浮かんできたのは僕たちが倒していったモンスターたちの姿だった。その瞬間僕は駆け出た。
「させない!」
そう言って僕は西の森の主の前に立ちはだかる。勝算なんてない。普通、ここは逃げるのが正解だ。魔物使いとしては自分のモンスターが殺されたとしてもマスターである自分がいればまた新たなモンスターを使役することが出来る。だからマスターはモンスターを捨て駒にするのが正解だ。だけど・・・。
(そんなの、間違っている。ゴブはこの世界でただ一人なんだ!代わりなんていない!!)
「どけ!小童が!そこの裏切り者に天誅を与える!!」
「嫌だ!ゴブは僕の家族だ!お前なんかに殺させはしない!」
(そうだ。ゴブは家族なんだ。スラもコウも家族なんだ。家族を見捨てることなんて僕には出来ない!!)
「ならば、まずは貴様から死ね!!」
そう言って西の森の主は僕に牙を向ける。
「さ・・せない。」
そう強い決意のこもった声が後ろから聞こえてきた。
「ゴブ!?」
それは、ゴブだった。全身傷だらけなのにそれでも僕のことを守ろうと短剣を構えていた。
「いーぐる。おれ・・・。まも・・る。」
ゴブはそう言って西の森の主を睨み付ける。
「愚かな・・・。人間は我らを殺戮したではないか。今こそ、あそこは村だが昔は森だった。それをお前たち人間が危険だからと我々を駆逐したのを忘れたのか!?お前だってそうだ!この人間に家畜のように扱われてきたのではないのか!?こうして、貴様が戦いの場にいるのが何よりの証拠だ!!」
「ちがう。いーぐる。おれ。たすけて。くれた・・・。いーぐる。やさしい。おれ。かぞく。いってくれた!」
そうしてゴブは僕の前に立ち、西の森の主を睨み付ける。
「本当に愚かなゴブリンの子供よ・・・。ならば、せめて、楽に殺してやる。」
そうして、西の森の主は牙を向ける。ゴブを噛み殺そうとしているのだ。僕はゴブを後ろから突き飛ばした。ゴブは前のめりに倒れて西の森の主の牙を避ける。
「大丈夫・・・ゴブ・・・。」
「いーぐる?なに・・して。」
「駄目だよ・・・。ゴブは・・僕の家族なんだから・・・。ゴブが・・傷つくのなんて・・・みたく・・ない。」
「いーぐる・・・。」
「愚かな。たかがゴブリン一体のためになぜそこまでする?貴様は魔物使いなのだろう?ならばこんなゴブリン代わりなどいくらでもいるだろう?」
西の森の主は僕に冷たい声でそう言った。僕は、その時、感じていた恐怖がなくなっているのを感じる。
「西の森の主・・・。教えて・・・。どうすれば・・・君は・・満足なの?」
「なに?」
僕は問いかける。西の森の主は他のモンスターとは違う。意思の疎通が出来る。ならば話すことが出来る。
「僕が・・。出来る限りのことはする・・・。すぐは無理だけど・・・。でも・・この「人生」にかけて実現して見せる。」
「何を言うか・・・。今さら何を!!我の同胞を殺し繁栄してきた野蛮人共が!!貴様みたいな小童に何が出来る!!」
それは西の森の主の闇だった。人間に殺された同胞の無念を晴らそうとする使命感みたいなものだった。でも、僕はそんな西の森の主を見返す。
「何もできないかもしれない・・・。森のモンスターたちの恨みを晴らすのは無理かもしれない・・・。でも!」
僕は答える心が痛い。でも、この痛みはこの森のモンスターたちの痛みで西の森の主はそれを一人で背負って来たんだろう。
「でも!今が無理でも、未来は違うものになる!僕たちが変える!!変えて見せる!!」
「ふん。そんな戯言信じられるか?」
そう言って西の森の主は僕を睨み付けた。その目には深い悲しみを湛えていた。
「信じられないなら、それでもいいよ。僕を噛み殺せばいい。でも、ゴブと他の皆は見逃して・・・。頼むよ。」
僕はそう言って目を瞑る。もう、話す言葉はない。後は、西の森の主に任せるのみだ。
「・・・ふん。興が削がれたわ・・・。小童。今回は見逃してやる。しかし、次はないと思え。」
そう言って西の森の主はその場を去ろうとする。
「待って!」
僕は慌てて西の森の主に駆け寄る。西の森の主はまだ何か用かというように僕を睨み付けた。そんな気配を無視して僕は回復の魔法を唱える。
「治癒の女神よ。その御心を我に与えたまえ・・・。」
そして、僕は今持っている魔力をすべて注ぎ込んだ。
「ヒール!」
すると、西の森の主の後ろ脚の傷が癒えていく。そんな様子に信じられないという目で西の森の主は僕を見ていた。
「小童・・・。」
「これが今の僕にできる精一杯・・・。だから信じて・・・。人間を・・・僕たちを・・・。」
そして、僕はその場に倒れる。
「ふん。魔力切れか・・・。全く、この小童は・・・。」
そうして西の森の主はイーグルに近づく。その前にゴブが立ちはだかる。
「いーぐる。ころさせない!」
ゴブは身を挺してイーグルを守るために立ちはだかる。そんな様子に西の森の主は呆れたような目を向ける。
「どけ。ゴブリンの子供よ。俺はもうお前たちに何もしない。」
「どういうことだ?」
その答えは直接届かなかった。西の森の主は魔法を唱える。
「治癒の魔人よ。その力を彼の者に与えん・・・。」
そして、その魔法は洞窟内に充満する。
「ハートレス・サークル」
すると、ゴブたちが負った傷が治っていく。ゴブは何が起こったのかわからずに目をぱちくりさせる。
「その小童に伝えろ。俺はもう、お前たち人間を襲わないと誓おう。しかし、もし先の約束を忘れたならお前を殺しに行くと・・・。」
「・・・。」
「話は以上だ。ここから去れ。」
そうして、大量の魔力が溢れ次の瞬間村の入り口に着いた。
そして、この日アルスたちを見つけた村人たちによって各家に運び込まれる。皆、怪我もなかったがイーグルは魔力が切れて高熱を出して寝込んでしまう。
数日後
僕は熱が下がり、久しぶりに外に出た。向かう先は西の森だった。今日はアルスも僕のモンスターたちもいない。僕は一人で西の森に向かった。森をどんどん進み僕は西の森の主と出会った洞窟に入っていく。そこには体長5mの大きな銀の毛皮の狼がいた。ただ、漂っているオーラが違った。最初に会った頃は禍々しいオーラを纏っていたが、それは霧散し、逆に神々しいオーラを纏っていた。
「なんだ小童?我に用か?」
「うん。ゴブから話を聞いた。ゴブ達の傷を治してくれたこと。家まで送ってくれたこと・・・。それから、もう人間を襲わないって言ってくれたこと・・・。」
「それで、お前は今日、何しに我に会いに来た?」
「ちょっと、相談したいことがあるんだ。」
「相談だと?」
西の森の主は訝し気に僕を見た。僕はその目をまっすぐ見つめる。
「うん。大事な相談。君にしか出来ないことだよ。」
「・・・申してみよ。」
「僕の計画を手伝ってほしい。」
「計画だと?」
「うん。僕は、モンスターと人間が共存できる世界を目指したいと思う。」
「・・・馬鹿かお前は?そんなことが出来る訳ないだろう?」
「不可能じゃないと思う。僕は出来ると信じている。」
「人間が思い上がるなよ?お前たち人間は同族でありながら何百年と争っているではないか。」
「そうだね・・・。アーガス王国とアンクート王国は何百年と戦争をしている。今も前線では多くの兵士が戦っている。」
「そんな人間と我々モンスターが共存できるとでも思っているのか?同族ですら争っているお前たちに。」
「わからない・・・。でも、僕は出来ると信じている。僕はこの森のモンスターたちと話してみようと思う。きっと共存できる道があるはずだ。」
「・・・それで、貴様は我に何をしろというのだ?」
「引き受けてくれるの?」
「話は聞いてやると言っているのだ。」
「そっか・・・。僕はモンスターの皆と共存する世界を作りたい。でも、中には同族を殺されて僕たち人間を恨んでいるモンスターも少なくないと思う。」
「それで?」
「西の森の主、君に僕とモンスターの仲介をしてもらいたいんだ。」
「・・・貴様、自分がどれだけ馬鹿げたことを言っているのか自覚しているか?」
「村は僕が説得する。その説得の材料として僕は君と契約を結びたい?」
「契約だと?」
「そう。魔物使いとモンスターとの契約。」
「貴様、その方法を知らないわけではないだろう?」
「調べた。契約には二つの方法があるんだ。一つはモンスターを支配する魔法を使って無理やり支配する方法。これが一番安全でポピュラーな契約だって書いてあった。」
「貴様はそれをやろうというのか?」
「まさか・・・。そんな訳ないじゃん。もう一つの方法があるんだ。」
「貴様まさか・・・。」
「僕と魂の契約をしてくれない?西の森の主。」
「わかっているのか!そんなことをすれば貴様がどうなるか・・・。」
「そうだね。この方法を危険な方法だって書いてあった。マスターとモンスターの魂をつなげるこの方法。それはモンスターが死ねばマスターもモンスターと運命を共にするというものだったよね。」
「貴様・・・。」
「でも、西の森の主はそこら辺のモンスターより強いんでしょ?君は人間の僕より長寿だ。君の方には何のリスクもないと思うけど?」
「貴様は覚悟を決めたのか?」
「うん。言ったでしょ。モンスターと人間が共存できる世界を作るって。」
「その言葉に偽りはないか?」
「うん。僕は決めたんだ。僕の「人生」を掛けると。」
その時だった西の森の主が大声を出して笑った。
「よかろう!そんな馬鹿げた夢に我は協力しようではないか。」
「ありがとう。西の森の主。」
そうして僕たちは契約の儀式を行う。
「我、魔物使いイーグル。」
「我、霊獣フェンリル。」
「我は魂を対価に霊獣フェンリルと契約を結ぶ者なり。」
「我はその見返りにこの者をマスターとして認める。」
次の瞬間、僕と西の森の主フェンリルの魂が繋がった感覚を覚えた。
「これで、お前は今日から私のマスターだ。」
「うん、よろしくね。フェンリル。」
そして、僕たちは動き出す。フェンリルは西の森のモンスターを僕は村の人たちを説得するために・・・。
3年後の新暦218年。
そして、その後、ミルト村では西の森で村人がモンスターに襲われることがなくなった。同時にモンスターも村に降りてきて人間と共存の道を歩むようになる。
それは、魔物使いイーグルとその守護獣フェンリルが力を合わせて成し遂げたのだった。
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「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
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