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第三章
45話
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次の日僕は領兵の詰め所に向かう。
「あと、三周!頑張りなさいよ!」
『うす!!』
詰め所の訓練場には元気な声が響いていた。
どうやら、訓練中みたいだ。
「皆、威勢がいいなぁ。」
詰め所は領兵たちの宿舎と訓練のための広い広場が併設されている。
そこで訓練しているのはこの領地の兵士たちだ。
その監督役にカーラさんが付いてくれている。
「あっ!ショウマ様!」
カーラさんは僕に気が付くと走り寄ってきた。
「今は訓練中?」
「はい!基礎体力作りをしています!」
そういうカーラさんは姿勢を正す。
「それで、こんな所に何の用なんですか?何か提出し忘れたモノでもありましたか?」
「ううん・・・。ちょっと、相談したいことがあって・・・。。」
そう言って僕は兵士達を見る。
兵士たちの先頭にはアルスが走っていた。
「行くぜ!」
アルスは他の兵士よりもずば抜けて早い。
基本、獣人は他の種族よりも身体能力に勝っている者が多いのだがそんな獣人たちの中でもさらに早いのが彼だった。
「やっぱり、アルスは凄いですね。」
「そうですね。領兵が50人近くいますがアルスは身体能力と戦闘能力では随一です。」
カーラさんの言葉に僕も頷く。
「だから、副隊長に?」
「ええ。スピードと魔力制御では私の方が勝っていますが力と剣術についてはこの中では一番だと思います。」
「そうか・・・。」
「それで、ショウマ様?相談とは?」
「うん。実は試験的に冒険者のための学校を創設しようと思っているんだけどね。」
「冒険者の学校?」
「うん。」
冒険者になるには登録料を一人150リル支払わないといけない。
さらに実技試験に合格する必要がある。
実技試験の内容は様々で僕の時はEランクの魔物の討伐だった。
しかし、その後は結構手探りだ。
というのも冒険者は仕事の奪い合いだ。
僕みたいにゴブリンばかり狩る人間が居なかったため他の冒険者とブッキングすることはなかったが人気のクエストになるとそのクエストを巡り争いが起きることもあった。
当然、新人冒険者には人気のないクエストのみが残ってしまい新人が育たないということがしばしばある。
そして、そんな状態だからクエスト中に怪我をしたり死亡するケースが後を絶たなかった。
そこで、僕が考えたのは冒険者の学校だった。
冒険者のノウハウを引退したベテランや職人から知識や技術を伝授してもらう。
身体的に限界が来た冒険者や職人たちも新たな収入源を得ることが出来て損はないと僕は考えている。
「知識や経験がない冒険者候補を無償で10ヶ月使って一人前の冒険者に育てるのが主な目的だよ。」
実験的に冒険者と非戦闘冒険者をそれぞれ30人ずつ集めて鍛えようと考えている。
「どう思う?」
「そうですね・・・。」
カーラさんはしばらく考えた後に答える。
「アイデアは良いと思います。具体的にどんな試験を予定しているんですか?」
「試験内容は水晶による適性検査と試験官との実技試験を予定しています。」
「筆記はないのですか?」
「はい。筆記試験を入れてしまうと下級貴族未満の階級の人たちに不利ですからね。」
このシニネン王国の識字率は50%程だという。
冒険者の中にも自分の名前以外書けない人も珍しくない。
「将来的には字の読み書きと簡単な計算を教えるところを作りたいと考えています。」
この国には義務教育という概念はない。
現在の教育は一部の富裕層のためにあり貧民層は教育を受けられない。
そして、その世代が大人になってもろくな教育を受けられないため貧困に陥る。
負のスパイラルが続くのである。
それを断ち切るための手段の一つが教育だ。
「なるほど・・・。」
そこまで聞くとカーラさんはまた考える。
「試験内容ですがショウマ様はどれぐらい来ることを想定していますか?」
「多くても100人程度に収まるんじゃないでしょうか?」
そう答えるとため息を吐かれた。
「・・・残念ですがそれ以上の人数が来ると考えたほうがよろしいかと思います。」
「どういうことですか?」
「ショウマ様は10ヶ月の間“無償”で冒険者と非戦闘冒険者の面倒をみると話しましたよね?」
「あっ・・・!」
「つまり、訓練校に通っている間は住むところと寝食に困らないということですよね?さらに、教育まで施してくれる。なら、かなりの数応募があると思います。」
「じゃあ、どうすればいいんでしょう?」
「試験官との実技試験をトーナメント制に変更すればよろしいかと思います。そうすれば参加者の半分は絞れるかと・・・。」
「なるほど・・・。でも、半分に絞ってもまだ多かった場合はどうすればいいんでしょう?」
「あとは追加で試験をするというのはいかがでしょうか?そうですね・・・。こういうのはどうですか?」
それから3か月後。
それぞれの国から1000人近くの人間が訓練校の試験を受けるために集まったのだった
「あと、三周!頑張りなさいよ!」
『うす!!』
詰め所の訓練場には元気な声が響いていた。
どうやら、訓練中みたいだ。
「皆、威勢がいいなぁ。」
詰め所は領兵たちの宿舎と訓練のための広い広場が併設されている。
そこで訓練しているのはこの領地の兵士たちだ。
その監督役にカーラさんが付いてくれている。
「あっ!ショウマ様!」
カーラさんは僕に気が付くと走り寄ってきた。
「今は訓練中?」
「はい!基礎体力作りをしています!」
そういうカーラさんは姿勢を正す。
「それで、こんな所に何の用なんですか?何か提出し忘れたモノでもありましたか?」
「ううん・・・。ちょっと、相談したいことがあって・・・。。」
そう言って僕は兵士達を見る。
兵士たちの先頭にはアルスが走っていた。
「行くぜ!」
アルスは他の兵士よりもずば抜けて早い。
基本、獣人は他の種族よりも身体能力に勝っている者が多いのだがそんな獣人たちの中でもさらに早いのが彼だった。
「やっぱり、アルスは凄いですね。」
「そうですね。領兵が50人近くいますがアルスは身体能力と戦闘能力では随一です。」
カーラさんの言葉に僕も頷く。
「だから、副隊長に?」
「ええ。スピードと魔力制御では私の方が勝っていますが力と剣術についてはこの中では一番だと思います。」
「そうか・・・。」
「それで、ショウマ様?相談とは?」
「うん。実は試験的に冒険者のための学校を創設しようと思っているんだけどね。」
「冒険者の学校?」
「うん。」
冒険者になるには登録料を一人150リル支払わないといけない。
さらに実技試験に合格する必要がある。
実技試験の内容は様々で僕の時はEランクの魔物の討伐だった。
しかし、その後は結構手探りだ。
というのも冒険者は仕事の奪い合いだ。
僕みたいにゴブリンばかり狩る人間が居なかったため他の冒険者とブッキングすることはなかったが人気のクエストになるとそのクエストを巡り争いが起きることもあった。
当然、新人冒険者には人気のないクエストのみが残ってしまい新人が育たないということがしばしばある。
そして、そんな状態だからクエスト中に怪我をしたり死亡するケースが後を絶たなかった。
そこで、僕が考えたのは冒険者の学校だった。
冒険者のノウハウを引退したベテランや職人から知識や技術を伝授してもらう。
身体的に限界が来た冒険者や職人たちも新たな収入源を得ることが出来て損はないと僕は考えている。
「知識や経験がない冒険者候補を無償で10ヶ月使って一人前の冒険者に育てるのが主な目的だよ。」
実験的に冒険者と非戦闘冒険者をそれぞれ30人ずつ集めて鍛えようと考えている。
「どう思う?」
「そうですね・・・。」
カーラさんはしばらく考えた後に答える。
「アイデアは良いと思います。具体的にどんな試験を予定しているんですか?」
「試験内容は水晶による適性検査と試験官との実技試験を予定しています。」
「筆記はないのですか?」
「はい。筆記試験を入れてしまうと下級貴族未満の階級の人たちに不利ですからね。」
このシニネン王国の識字率は50%程だという。
冒険者の中にも自分の名前以外書けない人も珍しくない。
「将来的には字の読み書きと簡単な計算を教えるところを作りたいと考えています。」
この国には義務教育という概念はない。
現在の教育は一部の富裕層のためにあり貧民層は教育を受けられない。
そして、その世代が大人になってもろくな教育を受けられないため貧困に陥る。
負のスパイラルが続くのである。
それを断ち切るための手段の一つが教育だ。
「なるほど・・・。」
そこまで聞くとカーラさんはまた考える。
「試験内容ですがショウマ様はどれぐらい来ることを想定していますか?」
「多くても100人程度に収まるんじゃないでしょうか?」
そう答えるとため息を吐かれた。
「・・・残念ですがそれ以上の人数が来ると考えたほうがよろしいかと思います。」
「どういうことですか?」
「ショウマ様は10ヶ月の間“無償”で冒険者と非戦闘冒険者の面倒をみると話しましたよね?」
「あっ・・・!」
「つまり、訓練校に通っている間は住むところと寝食に困らないということですよね?さらに、教育まで施してくれる。なら、かなりの数応募があると思います。」
「じゃあ、どうすればいいんでしょう?」
「試験官との実技試験をトーナメント制に変更すればよろしいかと思います。そうすれば参加者の半分は絞れるかと・・・。」
「なるほど・・・。でも、半分に絞ってもまだ多かった場合はどうすればいいんでしょう?」
「あとは追加で試験をするというのはいかがでしょうか?そうですね・・・。こういうのはどうですか?」
それから3か月後。
それぞれの国から1000人近くの人間が訓練校の試験を受けるために集まったのだった
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