弱小種族の冒険譚

わっしー

文字の大きさ
上 下
27 / 50
第二章

23.ゴブリンのお姫様

しおりを挟む
僕が目を覚ますとベッドに寝かされていた。
「ここは・・・。」
僕は周りを見る。その部屋には質素な家具などが置いてあった。
「目を覚ましたのですね。」
そんな僕に声が掛かる。僕はその声のする方を見た。そこには緑の肌をした赤毛の少女が椅子に座っていた。
「・・・君は!?」
そう言って起き上がろうとしたが体に痛みが走る。
「まだ起き上がってはいけません!あなたは怪我をしているところをお父様が見つけて保護したのですから・・・。」
「・・・怪我?」
その時、僕の脳裏に浮かんできたのはミネアさん達を逃がすためにゴブリンキングと相対した時の記憶だった。最後の記憶ではゴブリンキングの手で体を握りつぶされた記憶しかない・・・。
「あの・・・。僕の他に誰か倒れていませんでしたか!?人間の女の人とオーガの男の人!?」
「・・・いえ。お父様が連れてきたのはあなただけでしたよ。」
「・・・そう・・ですか。」
僕は力が抜けたようにベッドに倒れ込む。そんな僕に緑の肌の少女が優しく毛布を掛けてくれた。
「今は安静にしていてください。酷い怪我なのですから・・・。」
「ありがとうございます。・・・あの、あなたは?」
「私はモリナと申します。貴方は?」
「僕はポムといいます。モリナさん、改めてお礼申し上げます。」
「いえ・・・。それよりも気にならないのですか?」
「気になる?」
僕が首を傾げるとモリナさんが迷うように聞いて来る。
「・・・その、私肌が普通の人違うというか・・・。」
「・・・そういえば、微かに緑色ですね・・・。肌が。」
「そうですよね・・・。怖くないですか?」
「どうして?」
僕は訳が分からなかったので聞いてみた。するとモリナさんは驚いたように僕を見た。
「だって・・・。緑色の肌をしているのですよ?可笑しくないですか?」
「別に・・・。肌の色なんて関係なくないですか?モリナさんは良い人ですし・・・。」
その時だった。
『モリナ。怪我人は目を覚ましたか?』
「はい!お父様。」
モリナさんがお父様と呼んだのは僕が戦ったゴブリンキングだった。

『モリナ。怪我人が目を覚ましたのならお粥か何か作って来てくれないか?』
「はい。・・・では、ポムさんまた・・・。」
そう言ってモリナさんは部屋から出ていく。そして、残ったのは僕とゴブリンキングだった。
『・・・そう固くなるな。お前をどうにかしようとは考えていない。』
「・・・どういうことですか?」
僕は警戒しながら聞いた。ゴブリンキングはそんな僕を見下ろして言う。
『なに・・・。ただの気まぐれだ。お前は我に負けた。そのお前を我が連れ帰っただけの事・・・。』
「目的は何ですか?僕を奴隷としてこき使うつもりなのですか?」
『そうではない。まあ、娘へのお土産だ。』
「お土産?」
僕はそんな言葉が出てきて呆気にとられる。
『お前たちチビット族は働き者でどんな者にでも優しい種族と聞く。だから、娘の良き遊び相手になると思ってな・・・。』
「・・・?」
話が見えてこない。このゴブリンキングは何を言っているのだろう?
『とにかく、今は休め。これは命令だ。』
「・・・言われなくてもそうします。どうせ全身痛くて動けませんし・・・。」
そう言って僕はゴブリンキングから目を背ける。
「ポムさん、お粥作ってきましたよ!」
そこにモリナさんが戻ってきた。それと入れ替わりにゴブリンキングは立ち上がった。
『モリナ・・・。このチビット族は疲れているみたいだ。今日の所は寝かせてあげなさい。』
「そう・・・なのですね。では、このお粥ここに置いておきますね。」
そう言ってモリナさんはベッドの近くの机にお粥を置いて部屋から出ていった。そして、その扉がガチャっと音を立てて閉まるのだった。

次の日。僕は身体を起こす。少し痛いが動けないほどではない。そして、机の上の鍋を見る。そして、ふたを開けると冷めて水っぽくなったお粥が置いてあった。
「・・・作ってもらって残すのは悪いよね。」
僕はそのお粥に口を付ける。もう水っぽくて味も何もないが昨日から何も食べていなくて空腹だったため全部食べた。
「・・・ご馳走様。」
そして、僕は鍋を置いて少し考える。ここはどうやらゴブリンキングの棲み処らしい。そして、僕はゴブリンキングに捕縛されたようだ。
「・・・僕はどうなるんだろう?」
部屋の隅には僕の持ち物が置いてあった。槍も小手も置いてある。
「・・・なんで武器は取り上げられなかったんだろう?」
そう考えていると部屋の扉が開かれる。
「ポムさん、目が覚めたんですか?」
そう言ってモリナさんが入ってきた。そして、モリナさんは僕から視線を鍋に向ける。そこには空になった鍋見た。
「・・・食べてくださったのですね。」
「はい。せっかく作っていただいたので・・・。その、とてもおいしかったです。」
「ふふ・・・。お世辞は良いですよ。そんなに水が出てしまっているお粥が美味しいはずはないですから・・・。」
モリナさんはおかしそうに笑う。その様子を見て僕は少しうれしくなった。
「・・・モリナさんはゴブリンなのですか?」
そう聞くとモリナさんの表情が固まる。
「・・・はい、ホブゴブリンという種類です。」
「そうなんですね・・・。なんだか新鮮です。」
「新鮮?」
モリナさんは小首を傾げる。
「はい。僕が戦ってきたゴブリンたちは言葉を話さず、ただ襲ってくるものばかりだったのでこうやって話をするというのは新鮮で・・・。」
「そうなのですね。ホブゴブリンとゴブリンは全然違う生き物なのですよ。」
「そうなんですか?」
「はい。ゴブリンは人間でいう所の猿と同じで動物に近いのです。それに比べると私達ホブゴブリンは人間に近い感じですかね。」
「そうなんですね・・・。じゃあ、魔石が落ちることはないんですね?」
「はい。私たちはポムさん達と同じ人間と同じような種族なのです。よく、モンスターと間違われるのですが・・・。」
「そうだったんですね。」
じゃあ、僕は同じ人類と戦っていたことになるんだ。そんな時、部屋のドアが開かれる。
『モリナ、こんな所に来ていたのだな。』
「はい、お父様。あ、ポムさん。鍋片づけてきますね。」
そう言ってモリナは部屋を出ていった。すると、必然的にそこに残るのは僕とゴブリンキングだけになる。
「あの・・・。聞きたいことがあるのですが。」
『なんだ?』
「貴方は、ホブゴブリンの長なのですか?」
『そうだ。』
「では、僕たちと同じ人類ということですか?」
『大まかな括りをすればそうだな。』
「・・・。」
『どうした?お前たちと同じ人類だと分かってショックか?』
「・・・そうですね。あなた達をモンスターと間違えていたなんて失礼なことを・・・。」
『気にするな。大体の人間たちは我らを人類だとは思っておらんよ。』
「・・・あの、なんで村を襲おうとしたのですか?もし、あんなことをしなければ戦うことはなかったのに・・・。」
『そうしなければ、ならない理由があったからだ。』
「理由?」
『それは、また今度話してやる。今はとにかく休め。』
そう言ってゴブリンキングはその場を去ってしまった。僕はその背中を見て今回の襲撃には何かあるかもしれないと考えてしまう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界メイドに就職しました!!

ウツ。
ファンタジー
本日、九ノ葉楓(ここのはかえで)は就職試験に臨んでいた。 普通に仕事をして、普通に生きていく。 そう決めた彼女を突如眩暈が襲う。 意識を失い、次に目を覚ますと、楓はスピカというメイドになっていた。 王国?!魔法?! 「ここって異世界…?!」 見たことのない世界に驚きながらも、彼女はメイドとして働き始める。 なぜ彼女は異世界へ召喚されたのか。 彼女に与えられた使命とは。 バトルあり、恋愛ありの異世界ファンタジー。 漫画版も連載中です。そちらもよろしくお願いします。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...