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42話 薬草採取 アルス・ミーシャ編
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俺と姉上は町はずれの家にやって来ていた。
「ここが、依頼人の家なんだよね?」
「・・・そうね。」
その家は木造の小さな小屋だった。
その壁には植物のツタが伸びており外観もボロボロだ。
「とりあえず、入ってみようぜ・・・。」
俺は意を決してその小屋のドアを開ける。
ドアを開けた瞬間、物凄い匂いが俺達を襲う。
「うっ!?」
「凄い匂い・・・。」
俺たち獣人は他の種族に比べて嗅覚が優れている。
俺達みたいな犬型の獣人はその傾向が強い。
「・・・うん?お前さんらはもしかして、私の依頼を受けてくれた冒険者かい?」
声のした方を見ると、そこには一人の老婆が立っていた。
「貴方は?」
「私はこの工房の魔術師さね・・・。まあ、この工房には私しか居ないがねぇ・・・。」
そう言って老婆は俺達を招き入れた。
「昔は私が自分で薬の材料を取りに行っておったんだがもう年でねぇ・・・。」
そう言いながら老婆は籠を二つ用意する。
「アンタたちにはこの籠二つ分の量の薬草を取ってきてもらうのが仕事さ。最近は弱いが魔物も出るから怪我には気を付けるんだよ。」
そう言って老婆は葉っぱを取り出す。
「これが見本さね。この薬草を取って来るんだよ。」
俺達はそれを受け取りさっそく出発する。
「さて、いきなり魔物が出てきたな・・・。」
「ええ・・・。」
俺と姉上は正面を見る。
そこには目当ての薬草とそれをむさぼっている魔物がいた。
「・・・あれは、サイレント・ゴートね。」
サイレント・ゴートは、討伐ランクEの魔物だ。
その目に見つめられると一時的に言葉を発せなくなるため魔法使いには苦手意識を持たれている。
「このままでいると薬草が全て食べられてしまうわね。」
「ああ・・・倒そう。」
俺達は剣と槍を抜く。
サイレント・ゴートは俺達に気付いて見つめる。
「・・・。」
試しに話そうとしたが言葉が出ない。
横を見ると姉上も同じようだ。
(確かに魔法の延唱をする魔法使いには厄介なものかもしれないが・・・。)
俺は走り出し、剣を一閃する。
その一閃でサイレント・ゴートの首が胴体から切り離されて地面に転がる。
「・・・本当に一瞬なのね。」
「・・・みたいだな。」
俺達の声はすぐに回復した。
「まあ、俺達みたいな魔法を使わない奴だと意味ないがな・・・。」
サイレント・ゴートは能力の割にランクが低いのはそう言う意味だ。
戦士など魔法を使わない者達にとっては全く脅威にならない。
しかも、サイレント・ゴートの能力を発揮するにはサイレント・ゴート自身がその相手を見ていないといけないという制約もある。
「さて、薬草には血が掛からない様に首を飛ばしたつもりだが・・・。」
俺は薬草の方を見る。
多少、サイレント・ゴートに食べられてはいたが問題はなさそうだ。
「早く摘んでしまいましょう・・・。あんまりゆっくりしていると日が暮れてしまうわ。」
「ああ・・・。」
俺は姉上と共に薬草を摘むのだった。
「これで、5匹目ね・・・。」
「ああ・・・。」
その後もサイレント・ゴートは薬草のある場所に現れた。
正直、処理するのが面倒くさい。
「でも、この場所の薬草を摘んでしまえばもう籠はいっぱいになるわね・・・。」
そう言って姉上は籠を見る。
もう籠の三分の四が埋まっている。
「早く摘んでしまいましょう。」
「わかった。」
俺と姉上は薬草を摘んでゆく。
「でも、貴方とこんな風に薬草を摘む日が来るなんて夢にも思わなかったわ。」
そう言う姉上の顔は笑っていた。
「俺も同じ気持ちですよ、姉上。」
「・・・ねえ、アルス。少し、女王らしかなることを言ってもいいかしら?」
そう前置きをしてから姉上は話し始める。
「実はね・・・。最近はとても楽しいの。アルスやマリア、ダグラスにショウマ殿、シルビアとジラルドもね・・・。皆とこんな風に一つのテーブルでその日のことを話して一緒にご飯を食べて・・・。そんな当たり前の日々が楽しいの・・・。」
「姉上・・・。」
「グラルドの裏切りにより国を追われてしまったけど、心の奥底ではこの生活を楽しんでいる。今が永遠に続けば良いと思っている自分が居るの・・・。」
姉上は一つため息を吐く。
「私は駄目ね・・・。本当なら国を取り戻すために行動をしないといけないのに・・・。こうしている間にも国民たちが危険に晒されているというのに私は今の生活がずっと続けば良いと思っている。」
姉上はずっと我慢をしてきたのだろう。
俺達や国民を守るためいろんなことを我慢して国に尽くしてきた。
そして、グラルドに国を追われた今、初めて自由を手に入れた。
贅沢ではないが仲間たちに囲まれた温かい日々が・・・。
「いいんじゃないか?」
「えっ?」
「姉上はずっと頑張ってきたんだ。姉上は今の生活を楽しめばいい。」
「でも、私は王族として・・・。」
「今の姉上は、冒険者で銀の盾のミーシャだ。」
俺は姉上を見る。
「いつか、向き合う時が来るが今はその時じゃない。だから、今は楽しもうぜ。」
「アルス・・・。」
「さて、さっさと依頼を終わらせて帰ろうぜ。」
俺は薬草摘みを再開した。
「・・・ありがとう。」
俺達は日が暮れる前に薬草を摘んでしまうのだった。
「ここが、依頼人の家なんだよね?」
「・・・そうね。」
その家は木造の小さな小屋だった。
その壁には植物のツタが伸びており外観もボロボロだ。
「とりあえず、入ってみようぜ・・・。」
俺は意を決してその小屋のドアを開ける。
ドアを開けた瞬間、物凄い匂いが俺達を襲う。
「うっ!?」
「凄い匂い・・・。」
俺たち獣人は他の種族に比べて嗅覚が優れている。
俺達みたいな犬型の獣人はその傾向が強い。
「・・・うん?お前さんらはもしかして、私の依頼を受けてくれた冒険者かい?」
声のした方を見ると、そこには一人の老婆が立っていた。
「貴方は?」
「私はこの工房の魔術師さね・・・。まあ、この工房には私しか居ないがねぇ・・・。」
そう言って老婆は俺達を招き入れた。
「昔は私が自分で薬の材料を取りに行っておったんだがもう年でねぇ・・・。」
そう言いながら老婆は籠を二つ用意する。
「アンタたちにはこの籠二つ分の量の薬草を取ってきてもらうのが仕事さ。最近は弱いが魔物も出るから怪我には気を付けるんだよ。」
そう言って老婆は葉っぱを取り出す。
「これが見本さね。この薬草を取って来るんだよ。」
俺達はそれを受け取りさっそく出発する。
「さて、いきなり魔物が出てきたな・・・。」
「ええ・・・。」
俺と姉上は正面を見る。
そこには目当ての薬草とそれをむさぼっている魔物がいた。
「・・・あれは、サイレント・ゴートね。」
サイレント・ゴートは、討伐ランクEの魔物だ。
その目に見つめられると一時的に言葉を発せなくなるため魔法使いには苦手意識を持たれている。
「このままでいると薬草が全て食べられてしまうわね。」
「ああ・・・倒そう。」
俺達は剣と槍を抜く。
サイレント・ゴートは俺達に気付いて見つめる。
「・・・。」
試しに話そうとしたが言葉が出ない。
横を見ると姉上も同じようだ。
(確かに魔法の延唱をする魔法使いには厄介なものかもしれないが・・・。)
俺は走り出し、剣を一閃する。
その一閃でサイレント・ゴートの首が胴体から切り離されて地面に転がる。
「・・・本当に一瞬なのね。」
「・・・みたいだな。」
俺達の声はすぐに回復した。
「まあ、俺達みたいな魔法を使わない奴だと意味ないがな・・・。」
サイレント・ゴートは能力の割にランクが低いのはそう言う意味だ。
戦士など魔法を使わない者達にとっては全く脅威にならない。
しかも、サイレント・ゴートの能力を発揮するにはサイレント・ゴート自身がその相手を見ていないといけないという制約もある。
「さて、薬草には血が掛からない様に首を飛ばしたつもりだが・・・。」
俺は薬草の方を見る。
多少、サイレント・ゴートに食べられてはいたが問題はなさそうだ。
「早く摘んでしまいましょう・・・。あんまりゆっくりしていると日が暮れてしまうわ。」
「ああ・・・。」
俺は姉上と共に薬草を摘むのだった。
「これで、5匹目ね・・・。」
「ああ・・・。」
その後もサイレント・ゴートは薬草のある場所に現れた。
正直、処理するのが面倒くさい。
「でも、この場所の薬草を摘んでしまえばもう籠はいっぱいになるわね・・・。」
そう言って姉上は籠を見る。
もう籠の三分の四が埋まっている。
「早く摘んでしまいましょう。」
「わかった。」
俺と姉上は薬草を摘んでゆく。
「でも、貴方とこんな風に薬草を摘む日が来るなんて夢にも思わなかったわ。」
そう言う姉上の顔は笑っていた。
「俺も同じ気持ちですよ、姉上。」
「・・・ねえ、アルス。少し、女王らしかなることを言ってもいいかしら?」
そう前置きをしてから姉上は話し始める。
「実はね・・・。最近はとても楽しいの。アルスやマリア、ダグラスにショウマ殿、シルビアとジラルドもね・・・。皆とこんな風に一つのテーブルでその日のことを話して一緒にご飯を食べて・・・。そんな当たり前の日々が楽しいの・・・。」
「姉上・・・。」
「グラルドの裏切りにより国を追われてしまったけど、心の奥底ではこの生活を楽しんでいる。今が永遠に続けば良いと思っている自分が居るの・・・。」
姉上は一つため息を吐く。
「私は駄目ね・・・。本当なら国を取り戻すために行動をしないといけないのに・・・。こうしている間にも国民たちが危険に晒されているというのに私は今の生活がずっと続けば良いと思っている。」
姉上はずっと我慢をしてきたのだろう。
俺達や国民を守るためいろんなことを我慢して国に尽くしてきた。
そして、グラルドに国を追われた今、初めて自由を手に入れた。
贅沢ではないが仲間たちに囲まれた温かい日々が・・・。
「いいんじゃないか?」
「えっ?」
「姉上はずっと頑張ってきたんだ。姉上は今の生活を楽しめばいい。」
「でも、私は王族として・・・。」
「今の姉上は、冒険者で銀の盾のミーシャだ。」
俺は姉上を見る。
「いつか、向き合う時が来るが今はその時じゃない。だから、今は楽しもうぜ。」
「アルス・・・。」
「さて、さっさと依頼を終わらせて帰ろうぜ。」
俺は薬草摘みを再開した。
「・・・ありがとう。」
俺達は日が暮れる前に薬草を摘んでしまうのだった。
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