195 / 270
192話 入学式 その1
しおりを挟む
「――緑勢中出身の奥村千彩都です! 中学ではバスケやってたけど高校では特にやらなくても良いかな~って思ってます! 話すのが大好きなので、仲良くなってたくさん話しましょー! 名前はちーちゃんとか千彩都って呼ばれてます! よろしくお願いします!」
彼女らしくいつも通りに明るく自己紹介をした。
次は冬矢の番だ。
「俺は池橋冬矢です。千彩都と同じく緑勢中出身で、中学では文化祭に向けてバンド始めて、ベースやってます。音楽好きなやつもそうだけど、普通に男女問わず仲良くしてくれ。よろしく!」
無難な挨拶だったが、ハツラツとしていた。
サッカーのことは一言も話さなかった。今やっていないし話す必要もないかもしれないが。
そしてついに俺の順番がやってきた。
席から立ち上がると、一斉に視線が集中した。
横にいるルーシーが両手を上げて、「がんばれ」と口の形を作っていた。
その期待に応えるように、俺は自己紹介を始めた。
「前の席の冬矢と一緒で、緑勢中出身の九藤光流と言います。実は僕も冬矢と一緒のバンドをしていて、文化祭でライブをしました。パートはギターやってます。好き嫌いは全くなくて、特に甘いものが好きです。趣味と言えば筋トレやジョギングでしょうか。勉強も嫌いではありません。一年間よろしくお願いします!」
真面目な自己紹介をして、俺は最後に頭を下げた。
勉強が嫌いではないと話した時は、『こいつ正気か?』という目を一部から向けられたが、本当のことだからしょうがない。点数を取る快感はもう止められない。
隣を見ると、ルーシーがエア拍手をしてくれていた。
小さなことでもこうしてくれる彼女のが可愛い。
そして、窓際の最後の列。
深月から続く美人グループの自己紹介が始まった。
「緑勢中学校から来た若林深月です。特に紹介するようなことはないですけど、お菓子作りは好きかもしれません。どうぞよろしくお願いします」
深月は自分のことをほとんど話さないつもりだったのか、ピアノのことやちるかわが好きなことは話さなかった。
ただ、深月は昔から所作が綺麗だ。
ピアノをやっているからだろうけど、しずは同様に姿勢がとても良い。
深月の家は一般家庭だが、お嬢様育ちだと思う人もいるのではないだろうか。
そして、続いてしずはの番。
「前の席の深月と同じ緑勢中から来た藤間しずはです。得意なことと言えばピアノくらいだと思います。趣味は……最近は服とかコスメが好きかもしれません。良ければ仲良くしてください」
見た目に気を使うようになってから、最近ではお洒落することも趣味になっていったようだ。
趣味が増えるのは良いことだ。
やはりというか、深月の時からちらほらと増えてきた、可愛いとか美人とかいう周囲の呟き。
しずはの自己紹介から一気に聞こえてきた。
それもそうだ、うちの中学一の美人と言われていたんだから。
「朝比奈真空です! アメリカから来ました! うちの家は転勤族で日本には幼少期の少しの時間しかいませんでした。なので日本のことはあまり詳しくないので色々教えて下さい! 代わりに英語はペラペラなので教えることはできると思います。 あ、ちなみに私もそこの光流くんと冬矢とバンドをやる予定です。パートはドラムなのでバンバン叩きます! 色々話しちゃったけど、これからよろしくお願いします! 呼び方は好きにしてくださーい!」
真空らしい元気な自己紹介だった。
見た目は清楚系、でも話すとそんな印象とは真逆でかなり明るい。
そして、最後の大トリがやってきた。
俺はその人物の顔を見て、軽く頷いた。
ガタンと椅子を引いて立ち上がる。
教室の窓から差し込む光が、彼女の金色の金髪を照らし、これでもかと輝かせた。
これまでに自己紹介した、佐久間より、樋口さんより、しずはより、真空より、大きなオーラを放っていた。
「わぁぁ……あの子、なんだか凄い……」「モデルでも女優さんでもない、なんだか別世界の人みたい」「ファンタジーだ」
彼女――ルーシーが立ち上がるとそんな声が聞こえてきた。
教室に入った時もいくつか声が聞こえたが、こうやってちゃんと注目されると再度彼女に対する評価が呟かれた。
「わ、私は宝条・ルーシー・凛奈と言います! 前の席の真空と一緒でずっとアメリカにいましたっ!」
ルーシーは恥ずかしそうに、緊張した面持ちで必死に話していた。
がんばれ……がんばれルーシー。
もうこのクラスの全員の名前を確認した。君をいじめた相手の名前はこのクラスにはなかった。安心して良い。
「私、日本のことほとんど知らなくて……だから変なことしてしまうかもしれません。でも温かく見守ってくれると嬉しいです。ええと、趣味、趣味……。私もバンドやる予定です! パートはボーカルとギターです。もしいつか、ライブができたら、ぜひ観に来てください。頑張ります! 一年間、よろしくお願いします!」
ルーシーは自己紹介を終えると最後に深く礼をした。
九十度直角。とても深い礼だった。
すると、教室中から大きな拍手が彼女に贈られた。
彼女の真摯な言葉が、クラスメイトに伝わったようだ。
そして、ルーシーが着席すると、「はぁ~っ」と全身の力が抜けたように息を吐いた。
「ルーシー、お疲れ様」
「光流、ありがとう」
小さい声でルーシーをねぎらった。
「はーい! じゃあこれで全員ね! ってことで、良い時間ね。廊下に並びましょう。体育館に行きます!」
揺木先生の言葉で、一斉にクラスメイトたちが廊下へと並び始めた。
名前の順や背の順は関係ない。
とにかく二列に並べば良いとのことだった。
そうして、他のクラスも続々と廊下に出てきた。
「あっ、光流~っ!」
隣のクラスから出てきた誰かが、俺の名前を呼んだ。
「理沙……! おはよう」
「おーうっ! 別のクラスだけどよろしくなーっ!」
理沙は元気にこちらに手を振っていた。
そして、その隣にいたのは、朱利と理帆。いつもの三人だ。
理沙以外の二人は、軽くこちらに手を振っていた。
元気そうで良かった。
彼女たちは中学二年生の時に同じクラスになった友達。
そして三年生の最後には受験まで一緒に勉強会をしたメンバーだ。
特に彼女――折木理沙。
当初の受験結果は不合格だった。
あの合格発表の時の光景は今でも忘れない。
俺だって、理沙が不合格ですごい悔しかった。
多分、たくさん勉強を教えたからというのもあるだろう。
でも、誰か合格者が辞退したことで、繰り上がりで補欠合格となった。
だから、勉強会をしたメンバー全員でこの秋皇学園へと入学することができた。
「皆、ちょっとここで時間が来るまで待っててね~。あと、九藤光流くん? ちょっとこっちに良いかしら?」
「あ、はい!」
整列後、俺だけが揺木先生に呼ばれた。
すると、少し皆から離れた廊下の隅に移動。
そこでコソコソと話した。
「九藤くん。聞いてると思うけど、名前を呼ばれたらそのまま立って壇上に移動お願いね。壇上に上がるのは右からでも左からでも大丈夫だから。好きな方を選んで。話すタイミングは任せるから」
「はい、わかりました」
「まさか私があなたを受け持つとはね……下手なことできないわね」
「はは……先生は気にしなくて大丈夫ですよ。僕が勝手に頑張るだけなので」
「……心配はなさそうね。でも、何かあったら相談しなさいね?」
「はい」
揺木先生は、俺にこれから行われることを伝えた。
元よりおおよそのことは理解していたために、準備はできていた。
揺木先生との会話を終えると、俺は元の列へと戻った。
「おいおい光流~、初日から何かやらかしたか~?」
「はは、まぁやらかしたといえば、やらかしたのかもしれない」
冬矢がニヤニヤしながら、俺が先生に呼ばれたことを面白がる。
「光流大丈夫? なにか注意されたとか?」
「ううん。そういうのじゃないよ。このあとわかるよ」
「このあと……?」
この件は家族しか知らない。
ルーシーも冬矢も誰も知らない。
皆を驚かすために、今まで秘密にしてきたのだ。
◇ ◇ ◇
「新入生、入場」
マイクの声が一階の廊下まで響き、A組から順番に体育館へと進んでいった。
俺たちもそれに続いて行進すると、パッと明るい体育館の天井が目に入った。
――大きい。
これだけの人が在籍する学校だ。体育館の広さは相当だった。
バスケットコート二面はあるだろうか。
既に保護者たちが後方に参列しており、二・三年の在校生はその場にはいない。
入学式に関係する在校生しか参加しないと思われた。
このあと部活動紹介が行われることを考えても、午前中は授業をしているのだろう。
移動する新入生たちが、続々と用意されていたパイプ椅子へと着席していき、最後のGクラスまで体育館への入場が果たされた。
クラスの数が多いために時間がかかるのはしょうがない。
そして、始まった入学式。
校長が登場し、少々長めの話が続いた。
式辞から始まり、来賓の紹介に祝電が読み上げられると、雰囲気が変わった。
「――在校生代表、生徒会長・宝条瀬奈による新入生歓迎の挨拶」
マイクで名前が読み上げられる。
すぐ近くにいたルーシーも、ワクワクした表情で兄の登場を待っていた。
そして、舞台袖から登場したジュードさん。
綺麗な金髪はルーシー同様で、ミディアムな髪型はスマートに整っている。
誰が見てもイケメンだと思うその顔は、登場した瞬間から、新入生の女子たちの目を釘付けにしていた。
「かっこいい」「イケメンすぎる」という声があちこちから聞こえてきた。
ジュードさんが先ほどまで立っていた校長と同じ演台まで辿り着くと、マイクの位置を調整。
体育館を見渡し、一呼吸置いてから話しはじめた。
「桜の花が咲き誇り、温かい日差しが春の訪れを感じさせる季節となりました。新入生の皆さん、私立秋皇学園高等学校へのご入学おめでとうございます。在校生代表として、私、生徒会長の宝条・ジュード・瀬奈が心よりお祝い申し上げます」
「皆さんと共に学校生活を送れることを楽しみにしていました。本校は他校よりも多くの自由が認められている学校です。髪型や髪色に限らず、それに値すると感じれば対策改善も積極的に行います。生徒会もそうですし、教師の方々も生徒たちの声を親身になって聞いてくれます」
「新入生の中には、まだ不安な生徒もいるでしょう。ですので、少し早めに高校生として過ごしてきた私から、これから学校生活を楽しむ上での秘訣を一つだけ教えたいと思います。それは『聞くこと、相談すること』です。これは一般生活でも必要なことだと思いますが、家族がいない状況で生活するこの学校という環境の中では特に重要なことです」
「もしかすると、友達作りが苦手な人もいるかもしれません。一人が良いという人もいるかもしれません。でも、たった一人でも良いです。その相手は先生でも良いです。相談できる相手を作りましょう。私もそんな相手がいたことで、生徒会長として今ここに立つことができています」
「悩みが雨のように降った時には傘を差し出し、時には複数の傘で皆さんを支えます。我々、上級生と先生方は、皆さんが清々しい気持ちで卒業できるように、できる限り手を差し伸べます。ですから、まずは肩の力を抜いて学校生活を楽しんでください。これから秋皇学園で過ごす青春の一ページを、仲間たちや私たちと共に歩んでいきましょう。以上を持ちまして、歓迎の挨拶とさせていただきます」
ジュードさんが歓迎の挨拶を終えると、体育館が大きな拍手で包まれた。
彼のカリスマ性もあっての反応だろう。
演台から去るジュードさんが捌ける時、ちらっとこちらを見たような気がした。
まさかあんな遠くから俺がいる場所がわかるわけないよな……。
「在校生代表による歓迎の挨拶でした」
マイクにて司会がプログラムを進めていく。
そして、ついにやってくる。
俺がひた隠しにしてきた、サプライズが。
「続いて、新入生代表挨拶。――新入生代表・九藤光流くん、お願いします」
「――――え?」
司会がマイクで伝えた名前。
それは俺のフルネームだった。
名前が呼ばれた瞬間、近くに座っていたルーシーや真空、冬矢やしずはまでもが目が点になっていた。
そう、これがサプライズ。
受験結果の合格が発表されてから数日後、学校からお手紙が届いた。
その内容は筆記試験がトップの成績だったことから、新入生代表挨拶をしてほしいという内容だった。
初めてとった一位に俺は久しぶりにガッツポーズをした。
ルーシーに見せられる一つの晴れ姿だとして、もちろん引き受けることにした。
俺はパイプ椅子から立ち上がると、一斉に新入生たちの視線を浴びた。
そして、クラスメイトたちが座る椅子の前を通り抜け、真っ直ぐに体育館の舞台上へと進んだ。
右側の小階段を上がり、先ほどまでジュードさんが話していた演台まで進む。
その途中、なんとジュードさんが舞台袖に隠れながらこちらに手を振っていた。
目だけで挨拶を返しながら、演台まで進む。
ブレザーのポケットに入れていた原稿用紙を取り出し、それを広げると一歩前に。
マイクに口を近づけた。
ー☆ー☆ー☆ー
この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ下のハートのいいねやお気に入り登録などの応援をしていただけると嬉しいです。
カクヨムと小説家になろうでも同じタイトルで投稿しているのですが、他の読者のコメントが見たい方はカクヨムがお勧めです。
彼女らしくいつも通りに明るく自己紹介をした。
次は冬矢の番だ。
「俺は池橋冬矢です。千彩都と同じく緑勢中出身で、中学では文化祭に向けてバンド始めて、ベースやってます。音楽好きなやつもそうだけど、普通に男女問わず仲良くしてくれ。よろしく!」
無難な挨拶だったが、ハツラツとしていた。
サッカーのことは一言も話さなかった。今やっていないし話す必要もないかもしれないが。
そしてついに俺の順番がやってきた。
席から立ち上がると、一斉に視線が集中した。
横にいるルーシーが両手を上げて、「がんばれ」と口の形を作っていた。
その期待に応えるように、俺は自己紹介を始めた。
「前の席の冬矢と一緒で、緑勢中出身の九藤光流と言います。実は僕も冬矢と一緒のバンドをしていて、文化祭でライブをしました。パートはギターやってます。好き嫌いは全くなくて、特に甘いものが好きです。趣味と言えば筋トレやジョギングでしょうか。勉強も嫌いではありません。一年間よろしくお願いします!」
真面目な自己紹介をして、俺は最後に頭を下げた。
勉強が嫌いではないと話した時は、『こいつ正気か?』という目を一部から向けられたが、本当のことだからしょうがない。点数を取る快感はもう止められない。
隣を見ると、ルーシーがエア拍手をしてくれていた。
小さなことでもこうしてくれる彼女のが可愛い。
そして、窓際の最後の列。
深月から続く美人グループの自己紹介が始まった。
「緑勢中学校から来た若林深月です。特に紹介するようなことはないですけど、お菓子作りは好きかもしれません。どうぞよろしくお願いします」
深月は自分のことをほとんど話さないつもりだったのか、ピアノのことやちるかわが好きなことは話さなかった。
ただ、深月は昔から所作が綺麗だ。
ピアノをやっているからだろうけど、しずは同様に姿勢がとても良い。
深月の家は一般家庭だが、お嬢様育ちだと思う人もいるのではないだろうか。
そして、続いてしずはの番。
「前の席の深月と同じ緑勢中から来た藤間しずはです。得意なことと言えばピアノくらいだと思います。趣味は……最近は服とかコスメが好きかもしれません。良ければ仲良くしてください」
見た目に気を使うようになってから、最近ではお洒落することも趣味になっていったようだ。
趣味が増えるのは良いことだ。
やはりというか、深月の時からちらほらと増えてきた、可愛いとか美人とかいう周囲の呟き。
しずはの自己紹介から一気に聞こえてきた。
それもそうだ、うちの中学一の美人と言われていたんだから。
「朝比奈真空です! アメリカから来ました! うちの家は転勤族で日本には幼少期の少しの時間しかいませんでした。なので日本のことはあまり詳しくないので色々教えて下さい! 代わりに英語はペラペラなので教えることはできると思います。 あ、ちなみに私もそこの光流くんと冬矢とバンドをやる予定です。パートはドラムなのでバンバン叩きます! 色々話しちゃったけど、これからよろしくお願いします! 呼び方は好きにしてくださーい!」
真空らしい元気な自己紹介だった。
見た目は清楚系、でも話すとそんな印象とは真逆でかなり明るい。
そして、最後の大トリがやってきた。
俺はその人物の顔を見て、軽く頷いた。
ガタンと椅子を引いて立ち上がる。
教室の窓から差し込む光が、彼女の金色の金髪を照らし、これでもかと輝かせた。
これまでに自己紹介した、佐久間より、樋口さんより、しずはより、真空より、大きなオーラを放っていた。
「わぁぁ……あの子、なんだか凄い……」「モデルでも女優さんでもない、なんだか別世界の人みたい」「ファンタジーだ」
彼女――ルーシーが立ち上がるとそんな声が聞こえてきた。
教室に入った時もいくつか声が聞こえたが、こうやってちゃんと注目されると再度彼女に対する評価が呟かれた。
「わ、私は宝条・ルーシー・凛奈と言います! 前の席の真空と一緒でずっとアメリカにいましたっ!」
ルーシーは恥ずかしそうに、緊張した面持ちで必死に話していた。
がんばれ……がんばれルーシー。
もうこのクラスの全員の名前を確認した。君をいじめた相手の名前はこのクラスにはなかった。安心して良い。
「私、日本のことほとんど知らなくて……だから変なことしてしまうかもしれません。でも温かく見守ってくれると嬉しいです。ええと、趣味、趣味……。私もバンドやる予定です! パートはボーカルとギターです。もしいつか、ライブができたら、ぜひ観に来てください。頑張ります! 一年間、よろしくお願いします!」
ルーシーは自己紹介を終えると最後に深く礼をした。
九十度直角。とても深い礼だった。
すると、教室中から大きな拍手が彼女に贈られた。
彼女の真摯な言葉が、クラスメイトに伝わったようだ。
そして、ルーシーが着席すると、「はぁ~っ」と全身の力が抜けたように息を吐いた。
「ルーシー、お疲れ様」
「光流、ありがとう」
小さい声でルーシーをねぎらった。
「はーい! じゃあこれで全員ね! ってことで、良い時間ね。廊下に並びましょう。体育館に行きます!」
揺木先生の言葉で、一斉にクラスメイトたちが廊下へと並び始めた。
名前の順や背の順は関係ない。
とにかく二列に並べば良いとのことだった。
そうして、他のクラスも続々と廊下に出てきた。
「あっ、光流~っ!」
隣のクラスから出てきた誰かが、俺の名前を呼んだ。
「理沙……! おはよう」
「おーうっ! 別のクラスだけどよろしくなーっ!」
理沙は元気にこちらに手を振っていた。
そして、その隣にいたのは、朱利と理帆。いつもの三人だ。
理沙以外の二人は、軽くこちらに手を振っていた。
元気そうで良かった。
彼女たちは中学二年生の時に同じクラスになった友達。
そして三年生の最後には受験まで一緒に勉強会をしたメンバーだ。
特に彼女――折木理沙。
当初の受験結果は不合格だった。
あの合格発表の時の光景は今でも忘れない。
俺だって、理沙が不合格ですごい悔しかった。
多分、たくさん勉強を教えたからというのもあるだろう。
でも、誰か合格者が辞退したことで、繰り上がりで補欠合格となった。
だから、勉強会をしたメンバー全員でこの秋皇学園へと入学することができた。
「皆、ちょっとここで時間が来るまで待っててね~。あと、九藤光流くん? ちょっとこっちに良いかしら?」
「あ、はい!」
整列後、俺だけが揺木先生に呼ばれた。
すると、少し皆から離れた廊下の隅に移動。
そこでコソコソと話した。
「九藤くん。聞いてると思うけど、名前を呼ばれたらそのまま立って壇上に移動お願いね。壇上に上がるのは右からでも左からでも大丈夫だから。好きな方を選んで。話すタイミングは任せるから」
「はい、わかりました」
「まさか私があなたを受け持つとはね……下手なことできないわね」
「はは……先生は気にしなくて大丈夫ですよ。僕が勝手に頑張るだけなので」
「……心配はなさそうね。でも、何かあったら相談しなさいね?」
「はい」
揺木先生は、俺にこれから行われることを伝えた。
元よりおおよそのことは理解していたために、準備はできていた。
揺木先生との会話を終えると、俺は元の列へと戻った。
「おいおい光流~、初日から何かやらかしたか~?」
「はは、まぁやらかしたといえば、やらかしたのかもしれない」
冬矢がニヤニヤしながら、俺が先生に呼ばれたことを面白がる。
「光流大丈夫? なにか注意されたとか?」
「ううん。そういうのじゃないよ。このあとわかるよ」
「このあと……?」
この件は家族しか知らない。
ルーシーも冬矢も誰も知らない。
皆を驚かすために、今まで秘密にしてきたのだ。
◇ ◇ ◇
「新入生、入場」
マイクの声が一階の廊下まで響き、A組から順番に体育館へと進んでいった。
俺たちもそれに続いて行進すると、パッと明るい体育館の天井が目に入った。
――大きい。
これだけの人が在籍する学校だ。体育館の広さは相当だった。
バスケットコート二面はあるだろうか。
既に保護者たちが後方に参列しており、二・三年の在校生はその場にはいない。
入学式に関係する在校生しか参加しないと思われた。
このあと部活動紹介が行われることを考えても、午前中は授業をしているのだろう。
移動する新入生たちが、続々と用意されていたパイプ椅子へと着席していき、最後のGクラスまで体育館への入場が果たされた。
クラスの数が多いために時間がかかるのはしょうがない。
そして、始まった入学式。
校長が登場し、少々長めの話が続いた。
式辞から始まり、来賓の紹介に祝電が読み上げられると、雰囲気が変わった。
「――在校生代表、生徒会長・宝条瀬奈による新入生歓迎の挨拶」
マイクで名前が読み上げられる。
すぐ近くにいたルーシーも、ワクワクした表情で兄の登場を待っていた。
そして、舞台袖から登場したジュードさん。
綺麗な金髪はルーシー同様で、ミディアムな髪型はスマートに整っている。
誰が見てもイケメンだと思うその顔は、登場した瞬間から、新入生の女子たちの目を釘付けにしていた。
「かっこいい」「イケメンすぎる」という声があちこちから聞こえてきた。
ジュードさんが先ほどまで立っていた校長と同じ演台まで辿り着くと、マイクの位置を調整。
体育館を見渡し、一呼吸置いてから話しはじめた。
「桜の花が咲き誇り、温かい日差しが春の訪れを感じさせる季節となりました。新入生の皆さん、私立秋皇学園高等学校へのご入学おめでとうございます。在校生代表として、私、生徒会長の宝条・ジュード・瀬奈が心よりお祝い申し上げます」
「皆さんと共に学校生活を送れることを楽しみにしていました。本校は他校よりも多くの自由が認められている学校です。髪型や髪色に限らず、それに値すると感じれば対策改善も積極的に行います。生徒会もそうですし、教師の方々も生徒たちの声を親身になって聞いてくれます」
「新入生の中には、まだ不安な生徒もいるでしょう。ですので、少し早めに高校生として過ごしてきた私から、これから学校生活を楽しむ上での秘訣を一つだけ教えたいと思います。それは『聞くこと、相談すること』です。これは一般生活でも必要なことだと思いますが、家族がいない状況で生活するこの学校という環境の中では特に重要なことです」
「もしかすると、友達作りが苦手な人もいるかもしれません。一人が良いという人もいるかもしれません。でも、たった一人でも良いです。その相手は先生でも良いです。相談できる相手を作りましょう。私もそんな相手がいたことで、生徒会長として今ここに立つことができています」
「悩みが雨のように降った時には傘を差し出し、時には複数の傘で皆さんを支えます。我々、上級生と先生方は、皆さんが清々しい気持ちで卒業できるように、できる限り手を差し伸べます。ですから、まずは肩の力を抜いて学校生活を楽しんでください。これから秋皇学園で過ごす青春の一ページを、仲間たちや私たちと共に歩んでいきましょう。以上を持ちまして、歓迎の挨拶とさせていただきます」
ジュードさんが歓迎の挨拶を終えると、体育館が大きな拍手で包まれた。
彼のカリスマ性もあっての反応だろう。
演台から去るジュードさんが捌ける時、ちらっとこちらを見たような気がした。
まさかあんな遠くから俺がいる場所がわかるわけないよな……。
「在校生代表による歓迎の挨拶でした」
マイクにて司会がプログラムを進めていく。
そして、ついにやってくる。
俺がひた隠しにしてきた、サプライズが。
「続いて、新入生代表挨拶。――新入生代表・九藤光流くん、お願いします」
「――――え?」
司会がマイクで伝えた名前。
それは俺のフルネームだった。
名前が呼ばれた瞬間、近くに座っていたルーシーや真空、冬矢やしずはまでもが目が点になっていた。
そう、これがサプライズ。
受験結果の合格が発表されてから数日後、学校からお手紙が届いた。
その内容は筆記試験がトップの成績だったことから、新入生代表挨拶をしてほしいという内容だった。
初めてとった一位に俺は久しぶりにガッツポーズをした。
ルーシーに見せられる一つの晴れ姿だとして、もちろん引き受けることにした。
俺はパイプ椅子から立ち上がると、一斉に新入生たちの視線を浴びた。
そして、クラスメイトたちが座る椅子の前を通り抜け、真っ直ぐに体育館の舞台上へと進んだ。
右側の小階段を上がり、先ほどまでジュードさんが話していた演台まで進む。
その途中、なんとジュードさんが舞台袖に隠れながらこちらに手を振っていた。
目だけで挨拶を返しながら、演台まで進む。
ブレザーのポケットに入れていた原稿用紙を取り出し、それを広げると一歩前に。
マイクに口を近づけた。
ー☆ー☆ー☆ー
この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ下のハートのいいねやお気に入り登録などの応援をしていただけると嬉しいです。
カクヨムと小説家になろうでも同じタイトルで投稿しているのですが、他の読者のコメントが見たい方はカクヨムがお勧めです。
20
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!



先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる