163 / 270
161話 もう一人の家族
しおりを挟む
「お邪魔します……」
俺に出迎えられたルーシーはゆっくりと玄関の中へ足を進めた。
「うええええええっ!? こっ、この人がルーシーちゃん!?」
すると俺のすぐ後ろに控えていた鞠也ちゃんが、驚きの声を漏らす。
「ワン!」
同時にノワちゃんもルーシーの存在を認識。軽く吠えた。
「光流っ? この子は?」
戸惑いを見せるなか、ルーシーが俺に質問をする。
「俺の従姉妹の鞠也ちゃん。一つ年下だよ」
俺はノワちゃんを抱えながらそう説明した。
「ワンちゃんもいる……」
「ノワちゃんです」
そういえばルーシーの家はあれだけ広いのに動物はいなかった。
犬くらいは飼っていてもいいくらいなのに。
「ぬうううううう」
「わっ」
すると突然、謎の唸り声を上げた鞠也ちゃんが俺の前で出ると、そのままルーシーの胸へとダイブした。
「鞠也ちゃん!?」
俺と久々に再会した時も同じように飛びつかれたことを思い出した。
鞠也ちゃんを見ていると、ルーシーの胸あたりに顔を埋めくんくんと匂いを嗅いでいるようだった。
「この世のものとは思えないほど良い匂い~」
褒めてるのか褒めていないのかよくわからない感想を述べた。
「ひ、ひかる? 私どうすれば……」
「ごめんごめん。ほら鞠也ちゃんルーシー困惑してるよ」
「もうちょっと~」
さっきまで見極めてやるとか言っていた鞠也ちゃんはどこに……。
「まりやちゃんっ……力強いなっ」
「むううううう」
数秒後、なんとか鞠也ちゃんを引き剥がし、ひとまず落ち着く。
すると、リビングにいた両親と姉も玄関までやってくる。
「あなたが、ルーシーちゃんなのね……?」
包帯を巻いていない状態のルーシーを初めて見ることになった母が、確認するようにそう聞いた。
「あっ……あの! 私……宝条・ルーシー・凛奈と申しますっ! 光流のお母さんですよね? 私、今まで……ずっと……お礼を言っていなくて……だから……」
挨拶をしたルーシーだったが、言葉を続けていくうちにどんどん声が震えていった。
顔がどんどん俯いていき、イブに再会した時のようにルーシーは謝ろうとしているのがわかった。
「良いのよ。お礼はあなたのお母さんとお父さんから十分に言われているから。ほら、ちゃんと顔を見せて?」
「えっ……あ……」
顔を上げたルーシーの目には涙が溜まっていた。
「あら、本当に綺麗な子じゃない。今まで頑張ったのね。元気に生きててくれて嬉しいわ」
「あぁ……ぁ……」
母の母性溢れるような優しい言葉に包みこまれ、ルーシーは声が出せないでいた。
「ほら、こっちにきなさい?」
「ぁ……っ」
母が玄関にいるルーシーを引き寄せ、抱き締めた。
「あなたの中に、光流の一部が入っているのね。……温かい。ちゃんと生きてる」
「うぅ……うぅ……」
ルーシーの体温を感じ、生きていることを確認した母。
その優しい包容と言葉にルーシーの目に溜まっていた涙は既に溢れていた。
「――ルーシーちゃん。目覚めている状態では初めて会ったけど、光流の腎臓があなたの中に移植された日から、ずっとあなたのことをもう一人の家族だと思ってるわ」
「……あぁ……ぁぁっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
少し前まで恥ずかしそうにしながら俺の家の敷居をまたいだルーシーだったが、母から抱き締められ、優しい言葉を聞かされると、ただただ大泣きした。
俺の隣にいた鞠也ちゃんの目にも涙があった。
鞠也ちゃんの涙を見たのは文化祭のライブの時以来。今回は涙の意味は違うとは思うが、母とルーシーとのやりとりを見てもらい泣きをしたようだった。
「ルーシーちゃんっ」
今度は姉の灯莉がルーシーを抱き締める。
「私、光流のお姉ちゃんだよ。本当によく来たね。歓迎するから、私とも仲良くしてねっ」
昨日、遠くからではあるが、ルーシーの姿を見たはずの姉。
今日も少し前まで俺と同じく早く来ないかなと息を巻いてワクワクしていたのだが、今の母とのやりとりを見て、鞠也ちゃん同様にもらい泣きをしていた。
「はいっ……はいっ……仲良く、しますっ……」
ルーシーは涙を流しながらも必死に姉の言葉に返事をした。
「ルーシーさん。光流と仲良くしてくれてありがとう。ここを自分の家だと思って良いからね。ゆっくりくつろいでいってくれ」
父も震える口を結び、なんとか声を絞り出していた。
「はいっ……ありがとう、ございます……」
俺は改めて、この家族の下に生まれて良かったと感じた。
もしかすると人によっては、ルーシー本人からずっと連絡がなかったことに対して、怒る人もいるかもしれない。
けど、俺の家族は露ほどもそうは思っていなかった。
どこまでも優しくて、相手の事を思える最高の家族だ。
「ひかるぅ~~~」
もらい泣きしていた鞠也ちゃんが俺の腰辺りに抱き着いてくる。
俺はその頭を軽く撫でた。
「鞠也ちゃんが泣くことないじゃん」
「うるさい~っ。ひかるだって泣いてるくせにぃ」
俺も皆の様子につられて、いつの間にか目に涙が溜まっていた。
この状況で泣かない人はほとんどいないだろう。
『ピンポーン』
すると、今日三度目のチャイムが鳴った。
「俺出るよ」
不思議に思いつつも、俺はサンダルを履いて再び玄関の扉を開けた。
「あっ……」
「失礼します。娘が本日、九藤さんのお宅に伺うと聞いて、せっかくですので挨拶しておこうと思いまして」
「突然すみません。娘がお世話になっています」
そこにいたのは、ルーシーの父の勇務さん、そして母のオリヴィアさんだった。
その後方には氷室さんが控えていて、軽く礼をしていた。
さらに家の前の路地を見ると、リムジンではない黒塗りの高級車が停車しており、運転手は須崎さんだった。
須崎さんはサングラスを軽く上げて俺に挨拶をした。
「あら、わざわざ足を運んでいただいて……」
「ご無沙汰してます。どうぞ上がってください」
すると母と父が二人を招き入れるように話した。
「ルーシー、父さんと母さんは少し話したら帰るから安心してくれ」
「うん……大丈夫……」
母と姉と抱き合っていたルーシーはその抱擁を解くと、勇務さんにそう返した。
…………
その後、言っていた通り鞠也ちゃんがすぐに帰ると、一旦、全員がリビングに集まることになった。
「この度は娘のこと、本当にありがとうございました」
勇務さんがそう言って頭を下げるとオリヴィアさんも同じく頭を下げた。
続いてルーシーも一緒に頭を下げた。
多分、ルーシーの両親はルーシーも一緒にいるこの場でちゃんとお礼を言いたかったんだと思う。
「いいえ、もう大丈夫ですよ。十分感謝いただきましたから」
「そう言っていただき恐縮です」
「さあ、とりあえずテーブルに座ってください」
勇務さんと母がそうやりとりをすると、ダイニングテーブルに父と勇務さん、オリヴィアさんが座る。
母はコーヒーを用意するのか、台所へと向かった。
「光流とルーシーちゃんは夕食まで部屋で遊ぶ予定なんでしょ? こっちは良いから二階行っていいわよ」
「母さんありがとう」
俺とルーシーがその場に立ち尽くしていただけになっていたので、母が気を利かせてくれた。
姉はノワちゃんを膝に乗せながらソファに座っていて、ひとまずリビングで過ごすようだった。
「じゃ、ルーシー行こっか」
「……うん」
ルーシーは既に泣き止んでいたが、目元は赤くなっていた。
「ごゆっくり~」
姉はソファからこちらに手を振っていた。
先ほどまで泣いていた姉も今では普段通りに戻っていた。
そうして俺たちはリビングから出て二階へと上がった。
◇ ◇ ◇
光流のお家。
まさかこの私が異性のお家にお邪魔することになるなんて思いもしなかった。
だから緊張してどうしようかと思っていた。
インターホンを押すと光流が出迎えてくれた。
私は初めての光流の家に少し恥ずかしくなり、モジモジしながら挨拶した。
そんな時、光流の従姉妹だという鞠也ちゃんが飛びついてきた。
年下の女の子に飛びつかれるのは初めてだったので驚いてしまったが光流の従姉妹ということもあり、とても可愛く見えた。
そうして次に出迎えてくれたのは光流の家族。
私は初めに言う事を決めていた。
それは、今まで言ってこなかった感謝。
光流の判断で私に腎臓をくれたということは聞いていたけど、その最終判断をしたのは光流の家族。
自分たちの大事な子供が臓器を一つ失うことになるのに、私に腎臓を渡す判断をしてくれた光流の家族には感謝してもしきれない。
ただ、アメリカに行ってからは光流のことばかりで、光流の家族に目が行かなかった。
光流のことばかりという割には、自分のエゴで連絡をしなかったりして、ともかく私は自分ばかりでワガママな子だった。
私の代わりに父と母はたくさん光流の両親に感謝を伝えていたんだろうと今になって気づいた。
だから挨拶したあとに、感謝を伝えようと言葉にしたけど、うまく口が動かなくて……。
薄情者だと罵られてもおかしくなかった。それくらいの覚悟はしていた。
でも、光流のお母さんの言葉が優しくて嬉しくて、ちゃんと感謝を伝えられていないのに、涙を流してしまった。
抱き締められて『もう一人の家族』だと言われた時には、もう我慢ができなかった。
光流のお母さんの優しさ、温かさ、包容力、全てに包まれて抑えきれない感情が溢れるまま大泣きした。
光流のお姉さんも同じく抱き締めてくれて、仲良くしてねとも言われた。
光流のお父さんに至っては、この家を自分の家だと思って良いとも言ってくれて、光流の家族の底しれない優しさに触れた。
私は思った。
こんなに素敵な家族のもとで育てられた光流。
この家族がいつも近くにいたからこそ、光流は優しくて素敵な人に育ったんだと思った。
まだちゃんと話せていないのに、私は光流の家族のことが大好きになった。
私のことを温かく迎えてくれて、嬉しくて、幸せで……。
光流の家族のことを一生大切にしたい――いや、しようと心に決めた。
ー☆ー☆ー☆ー
この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ下のハートのいいねやお気に入り登録などの応援をしていただけると嬉しいです。
カクヨムと小説家になろうでも同じタイトルで投稿しているのですが、他の読者のコメントが見たい方はカクヨムがお勧めです。
俺に出迎えられたルーシーはゆっくりと玄関の中へ足を進めた。
「うええええええっ!? こっ、この人がルーシーちゃん!?」
すると俺のすぐ後ろに控えていた鞠也ちゃんが、驚きの声を漏らす。
「ワン!」
同時にノワちゃんもルーシーの存在を認識。軽く吠えた。
「光流っ? この子は?」
戸惑いを見せるなか、ルーシーが俺に質問をする。
「俺の従姉妹の鞠也ちゃん。一つ年下だよ」
俺はノワちゃんを抱えながらそう説明した。
「ワンちゃんもいる……」
「ノワちゃんです」
そういえばルーシーの家はあれだけ広いのに動物はいなかった。
犬くらいは飼っていてもいいくらいなのに。
「ぬうううううう」
「わっ」
すると突然、謎の唸り声を上げた鞠也ちゃんが俺の前で出ると、そのままルーシーの胸へとダイブした。
「鞠也ちゃん!?」
俺と久々に再会した時も同じように飛びつかれたことを思い出した。
鞠也ちゃんを見ていると、ルーシーの胸あたりに顔を埋めくんくんと匂いを嗅いでいるようだった。
「この世のものとは思えないほど良い匂い~」
褒めてるのか褒めていないのかよくわからない感想を述べた。
「ひ、ひかる? 私どうすれば……」
「ごめんごめん。ほら鞠也ちゃんルーシー困惑してるよ」
「もうちょっと~」
さっきまで見極めてやるとか言っていた鞠也ちゃんはどこに……。
「まりやちゃんっ……力強いなっ」
「むううううう」
数秒後、なんとか鞠也ちゃんを引き剥がし、ひとまず落ち着く。
すると、リビングにいた両親と姉も玄関までやってくる。
「あなたが、ルーシーちゃんなのね……?」
包帯を巻いていない状態のルーシーを初めて見ることになった母が、確認するようにそう聞いた。
「あっ……あの! 私……宝条・ルーシー・凛奈と申しますっ! 光流のお母さんですよね? 私、今まで……ずっと……お礼を言っていなくて……だから……」
挨拶をしたルーシーだったが、言葉を続けていくうちにどんどん声が震えていった。
顔がどんどん俯いていき、イブに再会した時のようにルーシーは謝ろうとしているのがわかった。
「良いのよ。お礼はあなたのお母さんとお父さんから十分に言われているから。ほら、ちゃんと顔を見せて?」
「えっ……あ……」
顔を上げたルーシーの目には涙が溜まっていた。
「あら、本当に綺麗な子じゃない。今まで頑張ったのね。元気に生きててくれて嬉しいわ」
「あぁ……ぁ……」
母の母性溢れるような優しい言葉に包みこまれ、ルーシーは声が出せないでいた。
「ほら、こっちにきなさい?」
「ぁ……っ」
母が玄関にいるルーシーを引き寄せ、抱き締めた。
「あなたの中に、光流の一部が入っているのね。……温かい。ちゃんと生きてる」
「うぅ……うぅ……」
ルーシーの体温を感じ、生きていることを確認した母。
その優しい包容と言葉にルーシーの目に溜まっていた涙は既に溢れていた。
「――ルーシーちゃん。目覚めている状態では初めて会ったけど、光流の腎臓があなたの中に移植された日から、ずっとあなたのことをもう一人の家族だと思ってるわ」
「……あぁ……ぁぁっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
少し前まで恥ずかしそうにしながら俺の家の敷居をまたいだルーシーだったが、母から抱き締められ、優しい言葉を聞かされると、ただただ大泣きした。
俺の隣にいた鞠也ちゃんの目にも涙があった。
鞠也ちゃんの涙を見たのは文化祭のライブの時以来。今回は涙の意味は違うとは思うが、母とルーシーとのやりとりを見てもらい泣きをしたようだった。
「ルーシーちゃんっ」
今度は姉の灯莉がルーシーを抱き締める。
「私、光流のお姉ちゃんだよ。本当によく来たね。歓迎するから、私とも仲良くしてねっ」
昨日、遠くからではあるが、ルーシーの姿を見たはずの姉。
今日も少し前まで俺と同じく早く来ないかなと息を巻いてワクワクしていたのだが、今の母とのやりとりを見て、鞠也ちゃん同様にもらい泣きをしていた。
「はいっ……はいっ……仲良く、しますっ……」
ルーシーは涙を流しながらも必死に姉の言葉に返事をした。
「ルーシーさん。光流と仲良くしてくれてありがとう。ここを自分の家だと思って良いからね。ゆっくりくつろいでいってくれ」
父も震える口を結び、なんとか声を絞り出していた。
「はいっ……ありがとう、ございます……」
俺は改めて、この家族の下に生まれて良かったと感じた。
もしかすると人によっては、ルーシー本人からずっと連絡がなかったことに対して、怒る人もいるかもしれない。
けど、俺の家族は露ほどもそうは思っていなかった。
どこまでも優しくて、相手の事を思える最高の家族だ。
「ひかるぅ~~~」
もらい泣きしていた鞠也ちゃんが俺の腰辺りに抱き着いてくる。
俺はその頭を軽く撫でた。
「鞠也ちゃんが泣くことないじゃん」
「うるさい~っ。ひかるだって泣いてるくせにぃ」
俺も皆の様子につられて、いつの間にか目に涙が溜まっていた。
この状況で泣かない人はほとんどいないだろう。
『ピンポーン』
すると、今日三度目のチャイムが鳴った。
「俺出るよ」
不思議に思いつつも、俺はサンダルを履いて再び玄関の扉を開けた。
「あっ……」
「失礼します。娘が本日、九藤さんのお宅に伺うと聞いて、せっかくですので挨拶しておこうと思いまして」
「突然すみません。娘がお世話になっています」
そこにいたのは、ルーシーの父の勇務さん、そして母のオリヴィアさんだった。
その後方には氷室さんが控えていて、軽く礼をしていた。
さらに家の前の路地を見ると、リムジンではない黒塗りの高級車が停車しており、運転手は須崎さんだった。
須崎さんはサングラスを軽く上げて俺に挨拶をした。
「あら、わざわざ足を運んでいただいて……」
「ご無沙汰してます。どうぞ上がってください」
すると母と父が二人を招き入れるように話した。
「ルーシー、父さんと母さんは少し話したら帰るから安心してくれ」
「うん……大丈夫……」
母と姉と抱き合っていたルーシーはその抱擁を解くと、勇務さんにそう返した。
…………
その後、言っていた通り鞠也ちゃんがすぐに帰ると、一旦、全員がリビングに集まることになった。
「この度は娘のこと、本当にありがとうございました」
勇務さんがそう言って頭を下げるとオリヴィアさんも同じく頭を下げた。
続いてルーシーも一緒に頭を下げた。
多分、ルーシーの両親はルーシーも一緒にいるこの場でちゃんとお礼を言いたかったんだと思う。
「いいえ、もう大丈夫ですよ。十分感謝いただきましたから」
「そう言っていただき恐縮です」
「さあ、とりあえずテーブルに座ってください」
勇務さんと母がそうやりとりをすると、ダイニングテーブルに父と勇務さん、オリヴィアさんが座る。
母はコーヒーを用意するのか、台所へと向かった。
「光流とルーシーちゃんは夕食まで部屋で遊ぶ予定なんでしょ? こっちは良いから二階行っていいわよ」
「母さんありがとう」
俺とルーシーがその場に立ち尽くしていただけになっていたので、母が気を利かせてくれた。
姉はノワちゃんを膝に乗せながらソファに座っていて、ひとまずリビングで過ごすようだった。
「じゃ、ルーシー行こっか」
「……うん」
ルーシーは既に泣き止んでいたが、目元は赤くなっていた。
「ごゆっくり~」
姉はソファからこちらに手を振っていた。
先ほどまで泣いていた姉も今では普段通りに戻っていた。
そうして俺たちはリビングから出て二階へと上がった。
◇ ◇ ◇
光流のお家。
まさかこの私が異性のお家にお邪魔することになるなんて思いもしなかった。
だから緊張してどうしようかと思っていた。
インターホンを押すと光流が出迎えてくれた。
私は初めての光流の家に少し恥ずかしくなり、モジモジしながら挨拶した。
そんな時、光流の従姉妹だという鞠也ちゃんが飛びついてきた。
年下の女の子に飛びつかれるのは初めてだったので驚いてしまったが光流の従姉妹ということもあり、とても可愛く見えた。
そうして次に出迎えてくれたのは光流の家族。
私は初めに言う事を決めていた。
それは、今まで言ってこなかった感謝。
光流の判断で私に腎臓をくれたということは聞いていたけど、その最終判断をしたのは光流の家族。
自分たちの大事な子供が臓器を一つ失うことになるのに、私に腎臓を渡す判断をしてくれた光流の家族には感謝してもしきれない。
ただ、アメリカに行ってからは光流のことばかりで、光流の家族に目が行かなかった。
光流のことばかりという割には、自分のエゴで連絡をしなかったりして、ともかく私は自分ばかりでワガママな子だった。
私の代わりに父と母はたくさん光流の両親に感謝を伝えていたんだろうと今になって気づいた。
だから挨拶したあとに、感謝を伝えようと言葉にしたけど、うまく口が動かなくて……。
薄情者だと罵られてもおかしくなかった。それくらいの覚悟はしていた。
でも、光流のお母さんの言葉が優しくて嬉しくて、ちゃんと感謝を伝えられていないのに、涙を流してしまった。
抱き締められて『もう一人の家族』だと言われた時には、もう我慢ができなかった。
光流のお母さんの優しさ、温かさ、包容力、全てに包まれて抑えきれない感情が溢れるまま大泣きした。
光流のお姉さんも同じく抱き締めてくれて、仲良くしてねとも言われた。
光流のお父さんに至っては、この家を自分の家だと思って良いとも言ってくれて、光流の家族の底しれない優しさに触れた。
私は思った。
こんなに素敵な家族のもとで育てられた光流。
この家族がいつも近くにいたからこそ、光流は優しくて素敵な人に育ったんだと思った。
まだちゃんと話せていないのに、私は光流の家族のことが大好きになった。
私のことを温かく迎えてくれて、嬉しくて、幸せで……。
光流の家族のことを一生大切にしたい――いや、しようと心に決めた。
ー☆ー☆ー☆ー
この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ下のハートのいいねやお気に入り登録などの応援をしていただけると嬉しいです。
カクヨムと小説家になろうでも同じタイトルで投稿しているのですが、他の読者のコメントが見たい方はカクヨムがお勧めです。
10
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。



先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる