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151話 リムジンパーティー
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四人でクリスマスイブを一緒に過ごす……と言っても何をするのだろうと思っていた。
誰か考えている人はいるのだろうか、それともこれから考えるのだろうか。
誰もこんな展開になるとは思っていなかったはずなので、まず何をするのか考えることになるはずだ。
ふと、そんなことを考えていた時――、
「――お嬢様、こちらをどうぞ」
氷室さんの声だ。
声がした方向をみるとリムジンの中に設置されていた小型冷蔵庫を開いている氷室さん。するとそこから出てきたのはホールケーキだった。なんて用意が良いんだ。
そうしてケーキを俺たちの目の前まで持ってくると――、
「うおっ、これフランスの高級洋菓子店『ファン・シャルマン』の最高級クリスマスケーキじゃねーか!」
冬矢がケーキを見ただけでそのブランドがわかったようだった。
さすがとも言えるが、ケーキにまで詳しいとは……。俺も甘いもの好きではあるが知らないものは知らなかった。
「あんた、よく知ってるね」
真空が目を細める。
「あぁ、こういう知識は女を喜ばす為に必要だろ? 当たり前だ」
すると冬矢がとんでもないことを言い出した。
真空に対してはいつも以上に口が滑っているように思えた。
「はぁ……?」
「ちなみにな『ファン・シャルマン』ってのは、フランス語で可愛い子鹿って意味なんだ。ほら、モチーフの子鹿がケーキの上に乗ってるだろ?」
真空がゴミを見るような視線を送ったが、冬矢は気にせず知識を披露した。
――めちゃめちゃ詳しい。
「ふーん……」
「反応悪いな……とりあえず早く食おうぜっ」
「なんであんたが仕切ってるのよ。ここはルーシーか光流くんでしょ」
「それもそうだな。二人に任せるよ」
「なによ……聞き分けがいいわね……」
この二人の会話の感じがよくわからない。仲が良いようで仲が悪いような。
少しだけ深月のことが頭に浮かんだが、俺としては少し複雑だ。
そうして氷室さんがテーブルに置いたケーキを切り分けてくれた。
しかもコーヒーも淹れてくるサービス。
五年前もリムジンの中には色々と揃っていて驚いた記憶があるが、久しぶりに体験するとやはりとんでもない車だと感じる。
コーヒーが出てきた時にはさすがの冬矢も驚いていた。
車内なのにテーブルが用意された状態でコーヒータイムを堪能できるのだから。
「せっかくだから、氷室と須崎もどう?」
するとルーシーが氷室さんと運転手――須崎さんに声をかけた。
「――――ぁ」
今まで全く気づかなかったが、このリムジンの運転席にいたのはあの須崎さんだったのだ。
氷室さん同様に須崎さんも俺とルーシーを一緒に見守ってくれていた使用人の一人だった。
事故が起きたあの日の運転手も須崎さんがしてくれていた。
俺は軽く会釈をすると、トレードマークのサングラスを軽く上げてニヤッと歯を見せてくれた。
そう言えば、氷室さんも須崎さんも意識を失う直前に何か声をかけてくれていたような気がする。
それからぱったりと二人には会うことはなかったけど、須崎さんも元気そうで良かった。
「じゃあいただきますか、氷室さん」
「老体に甘いものはつらいので、少しだけなら……」
ルーシーの誘いで氷室さんと須崎さんも一緒にケーキを食べることになった。
「クリスマスケーキ食べる時に掛け声とかないよね?」
「ない、かも……」
「でもクリスマスといえば、これしかないよね……メリークリスマスっ!」
皆の目の前にケーキとコーヒーが揃い、ルーシーが声掛けをしてくれた。
俺たちも一緒に「メリークリスマス!」と言い、本当のクリスマスイブが始まった気分になった。
「んん~~っ! 美味しいっ!!」
するとケーキを口に運んだ真空が眉を上げて美味しさを表現した。
俺も一口ケーキを口に入れてみた。
「ルーシーこれ凄く美味しいよっ!」
俺は目を見開いて美味しさが伝わるようルーシーにそう言った。
冬矢が話したブランドの通り、かなり美味しかった。
特に生クリーム。通常ならずっと食べていれば気持ち悪くなるが、この生クリームはかなりさっぱりしていていくらでも口に運べてしまう魔力があった。
「うっめええええっ! なんだこれ……最高じゃねえか。生クリームだけでも相当うまいぞ」
すると、冬矢もケーキを口に入れて美味しさを叫んだ。
俺と同じく生クリームの評価が高いようだった。
そんな中、真空が一旦フォークを置いて自分のカバンを漁りだした。
そして何かを取り出すと――、
「ルーシー。二回目だけど、メリークリスマスっ」
「あっ……用意してくれたの?」
ルーシーへのクリスマスプレゼントだったらしい。
当人ももらえると思っていなかったのか、驚きの表情を見せた。
「実は言うとね、用意してなかったんだ。クリスマスプレゼントって、私達くらいの年齢になると、男女で贈り合うものかなって思っちゃって……」
「ちょっとわかるかも。家族は別だけど、友達にクリスマスプレゼントって中々イメージつかないかも」
そういえば、俺たちだってクリスマスパーティーがないと同性同士でプレゼントを渡したりしなかったな。
「昨日、鷹村屋を一緒に見て回ったでしょ? ルーシーがトイレ行ってる間に……ね?」
「そうだったんだ……ありがとう……」
既にルーシーは商業施設を歩き回ったらしい。
俺よりも先に……まぁこれはしょうがないよな。
そうして真空が渡した紙袋をルーシーが開ける。
「あっ! これクリスマス限定のリップ……!」
ルーシーは驚いたように目を大きく開けた。
表情の変化一つ一つに見惚れてしまう。
本当に色々な表情をするなぁ……。
あの頃は目元や口元でなんとなくわかっていたルーシーの表情。
でも今はパッと見ただけでルーシーの表情がわかる。
「これ、欲しかったんだ……! 本当にありがとうっ」
「どういたしましてっ」
満足する品だったようだ。
「実はね……私も昨日まで用意してなかったんだけど……」
「えっ!?」
すると今度はルーシーが紙袋を取り出して、それを真空に渡す。
「私にっ!?」
「うんっ」
真空ももらえると思っていなかったらしい。
「開けてみるね……」
そうして紙袋に手をかける。
「……えっ……ええっ!? ええええええっ!?」
すると、ルーシー以上に驚いた表情になった真空。
「こっ、これ! 私がルーシーにあげたリップと同じやつじゃんっ!!」
「まさか同じものをプレゼントすることになるなんて……私も驚いちゃった」
同じプレゼントとか俺とルーシーと一緒じゃん!
……なんだか真空に嫉妬してきたような気がする。
「ねー、なにこれ! プレゼントもらったこと自体も嬉しいけど、お揃いだなんてもっと嬉しいっ!」
「私も……真空とは性格全然違うのに、こういう所はどこかで通じてるのかもね」
「ルーシーっ!!」
すると、またもや真空はルーシーに抱きついた。
一緒のプレゼントということが相当嬉しかったようだ。
「おいおい、光流。どうなってんだよ。ここは天国か? 美少女同士が抱き合ってるぞ……?」
すると冬矢がそんなことを言い出す。
確かに眼福ではある……レベルが高い二人だとこう見えるのか。
「俺だって、二人が友達だって今日知ったばかりだし。女の子同士って距離感近いらしいから、ありえることなんじゃないか?」
「そうだけどよ……どっちも美少女ってのが中々見られないだろ……」
冬矢の言う通りだった。
しずはと千彩都が抱き合っている場面は見たことはあるが、この二人が抱き合っている姿はまた違った印象に見えた。
一歩間違えてもおかしくない距離感というか……。
「はいっ、これ。光流くんにも」
するとルーシーとの抱擁を解いた真空が俺に対して紙袋を渡してくれた。
「えっ、俺にも!?」
「今日のことルーシーから聞いてたからね。だから渡せるなら渡そうと思って」
真空からのクリスマスプレゼントだったようだ。
初対面なのに用意しているなんて、律儀な子だ。
俺はその紙袋を開けて中身を取り出す。
すると――、
「写真……立て……?」
「そうそう、お洒落な感じでいうとフォトフレームね。それでルーシーと撮った写真飾りなよ」
これはすごく嬉しい。
早速今日撮った写真を現像して飾ろうかな。
「真空……なんかまだ呼び慣れないけど……とにかくありがとうっ! ルーシーとの写真飾るよっ」
「……光流」
俺が真空への感謝とルーシーの写真を飾ることを話すと、ルーシーが嬉しそうな目でこちらを見てきた。
「お前よくそんなセリフ吐けるな。あちーあちー。暖房効きすぎか?」
「だって……そのための写真立てだし……」
そう言えば、俺がここまで女子にデレているというか積極的な姿を見せるのは初めてかもしれない。
他の女子にはこんなことできないからね。
「ってことはさ、俺にもなんかあるんじゃ!?」
「ないわよっ!!」
そんな中、冬矢は自分にもプレゼントが用意されているのではないかと言ったのだが、その言葉に被せるようにして真空に否定された。
「そもそも今日あんたがここに来るだなんて知らなかったし、用意できるわけないじゃん」
「え……もし来ることがわかってたら、くれたの……?」
「あげるわけないでしょっ!!」
「そんなぁ~~~っ」
確かに冬矢がここに来たのはたまたまだと思う。
俺が呼ばなければ来ることはなかっただろうし。となれば、プレゼントを用意することはできないだろう。
「ふふふっ」
「はははっ」
冬矢と真空のやりとりが面白くて俺とルーシーは一緒になって笑った。
ルーシーの笑顔が素敵だ。
「おいおい、お前ら笑うなよ。俺は悲しいんだぜ……?」
「じゃあ、あんたはこれでも食べてなさい」
笑っていると冬矢は眉間に皺を寄せながらそう言った。
そんな冬矢に対して真空はケーキの上に乗っていたキウイを一つフォークでとって、それを冬矢のお皿の上に置いた。
「あっ……あっ……」
「ふんっ。そんなに嬉しかったか。チョロい男ね……」
その行為に嬉しかったのか、冬矢が少し動揺した。
真空は冬矢の表情にチョロいと言ったが、冬矢はそうチョロくはない。
「俺、酸っぱいフルーツ苦手なんだよね……」
「死ねえぇぇぇぇっ!!!!」
「いだぁぁぁぁっ!!!!」
ほら、やっぱり。
真空が冬矢に向けて、怒りの拳を頬にぶち込んだ。
でも、こうやって冬矢に直接手を出す女子は本当に初めてだ。
これまでも軽くはあったが、痛いほどではない。真空は海外で過ごしてきたからか、そういう部分がぶっ飛んでいる可能性もある。
「ぼう、りょく……おん、な……」
冬矢がソファに寄り掛かるようにしてダウンした。
「待って……ふふっ……面白すぎるっ……だめっ……まそら……っ」
「ははははっ、冬矢……自業自得だなっ」
ルーシーが笑ったことに合わせて、俺も一緒になって笑った。
冬矢のこんな姿を見られるのは新鮮だった。
こうやって真空は、ずっとルーシーを笑顔にさせてきたのだろうか。
本当なら俺がそうしてあげたかったが、異性と同性ではまた違うだろう。
真空だからこそルーシーはここまでやってこれたのかもしれない。
俺に冬矢がいたように……。
そう思ったのだが、確か付き合いは三ヶ月だと言っていたような気がする。
よく三ヶ月でここまで仲良くなったものだ。
恐らくずっと包帯を巻いていたはずのルーシーにも優しく接していたのだろう。
こんな友達が日本にいた時からルーシーの傍にいたら、もしかするとまた違った未来があったのかもしれない。
「氷室さん……皆さん楽しそうですね」
「ああ、お嬢様にここまで笑い合えるほどのお友達ができるなんて……」
俺たちが騒いでいる端で須崎さんと氷室さんが、微笑ましそうにこちらを見ていた。
…………
「この後どうする……?」
俺たちはしばらくケーキを食べたり会話したりして、楽しんだ。
そうしてケーキを食べ終えたところで冬矢が切り出した。
現在の時間を確認してみると夜七時を過ぎた頃だった
「みんなご飯はどうする予定なの?」
するとルーシーは夕食の話を切り出す。
ケーキは食べたけど、お腹は空いていると言えば空いていた。
「俺はルーシーと会う為に時間とってたからこの後も空いてるんだけど、ご飯のこと全然考えてなかった……」
「俺も日中に予定終わらせたからな。夜は空いてる」
俺はもちろんこの後は空いている。ただ、ご飯についてはどうすれば良いかは考えていなかった。
同じく冬矢も空いているとのことだった。
やはり今日の予定は終わらせてきたようだ。
「良かったら、うちでご飯食べる……?」
ルーシーがお家に誘ってきたことに驚いた。
いつかは行ってみたいと思っていたルーシーの家。
めちゃめちゃ行きたい。
「ルーシー良いの?」
「氷室、大丈夫……よね?」
真空が心配そうな顔で聞くと、ルーシーは氷室さんに確認をとった。
「ええ、問題ありませんよ。奥様方には連絡しておきます」
問題ないそうだ。
つまり、ルーシーの家に行けるということになった。
「光流と冬矢くん、それで大丈夫かな……?」
ルーシーは顔色を伺うように俺たちに聞いてくる。
もちろんOKに決まってる。
「俺は問題ないよ!」
「俺も良いのか? 初対面なのに……」
冬矢は少し遠慮するような感じでルーシーに聞いた。
「うんっ! 大丈夫! 光流の友達だもんっ」
ルーシーは問題なくOKをした。
その明るい感じのルーシーの言葉を聞いていると、同年代の子に対してもうまく接している様子が伺えた。
冬矢とも普通に会話できているし、少しはあの頃のトラウマは薄れたのだろうか。
アメリカは日本とは環境が違う。
同じようにいじめだって発生するだろう。でも今のルーシーを見ると日本にいた頃とは全く環境が違っていたのだとわかる。
凄いな、ルーシー。全然違う環境でも今まで頑張ってきたんだな。
俺はスマホを取り出し、今日はルーシーの家でご飯を食べてくると母にメッセージで連絡した。
すると直後に簡単なスタンプでOKと返事が帰ってきた。
そうして、俺たちは現在乗っているリムジンでルーシーの家まで移動した。
ー☆ー☆ー☆ー
この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
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誰か考えている人はいるのだろうか、それともこれから考えるのだろうか。
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ふと、そんなことを考えていた時――、
「――お嬢様、こちらをどうぞ」
氷室さんの声だ。
声がした方向をみるとリムジンの中に設置されていた小型冷蔵庫を開いている氷室さん。するとそこから出てきたのはホールケーキだった。なんて用意が良いんだ。
そうしてケーキを俺たちの目の前まで持ってくると――、
「うおっ、これフランスの高級洋菓子店『ファン・シャルマン』の最高級クリスマスケーキじゃねーか!」
冬矢がケーキを見ただけでそのブランドがわかったようだった。
さすがとも言えるが、ケーキにまで詳しいとは……。俺も甘いもの好きではあるが知らないものは知らなかった。
「あんた、よく知ってるね」
真空が目を細める。
「あぁ、こういう知識は女を喜ばす為に必要だろ? 当たり前だ」
すると冬矢がとんでもないことを言い出した。
真空に対してはいつも以上に口が滑っているように思えた。
「はぁ……?」
「ちなみにな『ファン・シャルマン』ってのは、フランス語で可愛い子鹿って意味なんだ。ほら、モチーフの子鹿がケーキの上に乗ってるだろ?」
真空がゴミを見るような視線を送ったが、冬矢は気にせず知識を披露した。
――めちゃめちゃ詳しい。
「ふーん……」
「反応悪いな……とりあえず早く食おうぜっ」
「なんであんたが仕切ってるのよ。ここはルーシーか光流くんでしょ」
「それもそうだな。二人に任せるよ」
「なによ……聞き分けがいいわね……」
この二人の会話の感じがよくわからない。仲が良いようで仲が悪いような。
少しだけ深月のことが頭に浮かんだが、俺としては少し複雑だ。
そうして氷室さんがテーブルに置いたケーキを切り分けてくれた。
しかもコーヒーも淹れてくるサービス。
五年前もリムジンの中には色々と揃っていて驚いた記憶があるが、久しぶりに体験するとやはりとんでもない車だと感じる。
コーヒーが出てきた時にはさすがの冬矢も驚いていた。
車内なのにテーブルが用意された状態でコーヒータイムを堪能できるのだから。
「せっかくだから、氷室と須崎もどう?」
するとルーシーが氷室さんと運転手――須崎さんに声をかけた。
「――――ぁ」
今まで全く気づかなかったが、このリムジンの運転席にいたのはあの須崎さんだったのだ。
氷室さん同様に須崎さんも俺とルーシーを一緒に見守ってくれていた使用人の一人だった。
事故が起きたあの日の運転手も須崎さんがしてくれていた。
俺は軽く会釈をすると、トレードマークのサングラスを軽く上げてニヤッと歯を見せてくれた。
そう言えば、氷室さんも須崎さんも意識を失う直前に何か声をかけてくれていたような気がする。
それからぱったりと二人には会うことはなかったけど、須崎さんも元気そうで良かった。
「じゃあいただきますか、氷室さん」
「老体に甘いものはつらいので、少しだけなら……」
ルーシーの誘いで氷室さんと須崎さんも一緒にケーキを食べることになった。
「クリスマスケーキ食べる時に掛け声とかないよね?」
「ない、かも……」
「でもクリスマスといえば、これしかないよね……メリークリスマスっ!」
皆の目の前にケーキとコーヒーが揃い、ルーシーが声掛けをしてくれた。
俺たちも一緒に「メリークリスマス!」と言い、本当のクリスマスイブが始まった気分になった。
「んん~~っ! 美味しいっ!!」
するとケーキを口に運んだ真空が眉を上げて美味しさを表現した。
俺も一口ケーキを口に入れてみた。
「ルーシーこれ凄く美味しいよっ!」
俺は目を見開いて美味しさが伝わるようルーシーにそう言った。
冬矢が話したブランドの通り、かなり美味しかった。
特に生クリーム。通常ならずっと食べていれば気持ち悪くなるが、この生クリームはかなりさっぱりしていていくらでも口に運べてしまう魔力があった。
「うっめええええっ! なんだこれ……最高じゃねえか。生クリームだけでも相当うまいぞ」
すると、冬矢もケーキを口に入れて美味しさを叫んだ。
俺と同じく生クリームの評価が高いようだった。
そんな中、真空が一旦フォークを置いて自分のカバンを漁りだした。
そして何かを取り出すと――、
「ルーシー。二回目だけど、メリークリスマスっ」
「あっ……用意してくれたの?」
ルーシーへのクリスマスプレゼントだったらしい。
当人ももらえると思っていなかったのか、驚きの表情を見せた。
「実は言うとね、用意してなかったんだ。クリスマスプレゼントって、私達くらいの年齢になると、男女で贈り合うものかなって思っちゃって……」
「ちょっとわかるかも。家族は別だけど、友達にクリスマスプレゼントって中々イメージつかないかも」
そういえば、俺たちだってクリスマスパーティーがないと同性同士でプレゼントを渡したりしなかったな。
「昨日、鷹村屋を一緒に見て回ったでしょ? ルーシーがトイレ行ってる間に……ね?」
「そうだったんだ……ありがとう……」
既にルーシーは商業施設を歩き回ったらしい。
俺よりも先に……まぁこれはしょうがないよな。
そうして真空が渡した紙袋をルーシーが開ける。
「あっ! これクリスマス限定のリップ……!」
ルーシーは驚いたように目を大きく開けた。
表情の変化一つ一つに見惚れてしまう。
本当に色々な表情をするなぁ……。
あの頃は目元や口元でなんとなくわかっていたルーシーの表情。
でも今はパッと見ただけでルーシーの表情がわかる。
「これ、欲しかったんだ……! 本当にありがとうっ」
「どういたしましてっ」
満足する品だったようだ。
「実はね……私も昨日まで用意してなかったんだけど……」
「えっ!?」
すると今度はルーシーが紙袋を取り出して、それを真空に渡す。
「私にっ!?」
「うんっ」
真空ももらえると思っていなかったらしい。
「開けてみるね……」
そうして紙袋に手をかける。
「……えっ……ええっ!? ええええええっ!?」
すると、ルーシー以上に驚いた表情になった真空。
「こっ、これ! 私がルーシーにあげたリップと同じやつじゃんっ!!」
「まさか同じものをプレゼントすることになるなんて……私も驚いちゃった」
同じプレゼントとか俺とルーシーと一緒じゃん!
……なんだか真空に嫉妬してきたような気がする。
「ねー、なにこれ! プレゼントもらったこと自体も嬉しいけど、お揃いだなんてもっと嬉しいっ!」
「私も……真空とは性格全然違うのに、こういう所はどこかで通じてるのかもね」
「ルーシーっ!!」
すると、またもや真空はルーシーに抱きついた。
一緒のプレゼントということが相当嬉しかったようだ。
「おいおい、光流。どうなってんだよ。ここは天国か? 美少女同士が抱き合ってるぞ……?」
すると冬矢がそんなことを言い出す。
確かに眼福ではある……レベルが高い二人だとこう見えるのか。
「俺だって、二人が友達だって今日知ったばかりだし。女の子同士って距離感近いらしいから、ありえることなんじゃないか?」
「そうだけどよ……どっちも美少女ってのが中々見られないだろ……」
冬矢の言う通りだった。
しずはと千彩都が抱き合っている場面は見たことはあるが、この二人が抱き合っている姿はまた違った印象に見えた。
一歩間違えてもおかしくない距離感というか……。
「はいっ、これ。光流くんにも」
するとルーシーとの抱擁を解いた真空が俺に対して紙袋を渡してくれた。
「えっ、俺にも!?」
「今日のことルーシーから聞いてたからね。だから渡せるなら渡そうと思って」
真空からのクリスマスプレゼントだったようだ。
初対面なのに用意しているなんて、律儀な子だ。
俺はその紙袋を開けて中身を取り出す。
すると――、
「写真……立て……?」
「そうそう、お洒落な感じでいうとフォトフレームね。それでルーシーと撮った写真飾りなよ」
これはすごく嬉しい。
早速今日撮った写真を現像して飾ろうかな。
「真空……なんかまだ呼び慣れないけど……とにかくありがとうっ! ルーシーとの写真飾るよっ」
「……光流」
俺が真空への感謝とルーシーの写真を飾ることを話すと、ルーシーが嬉しそうな目でこちらを見てきた。
「お前よくそんなセリフ吐けるな。あちーあちー。暖房効きすぎか?」
「だって……そのための写真立てだし……」
そう言えば、俺がここまで女子にデレているというか積極的な姿を見せるのは初めてかもしれない。
他の女子にはこんなことできないからね。
「ってことはさ、俺にもなんかあるんじゃ!?」
「ないわよっ!!」
そんな中、冬矢は自分にもプレゼントが用意されているのではないかと言ったのだが、その言葉に被せるようにして真空に否定された。
「そもそも今日あんたがここに来るだなんて知らなかったし、用意できるわけないじゃん」
「え……もし来ることがわかってたら、くれたの……?」
「あげるわけないでしょっ!!」
「そんなぁ~~~っ」
確かに冬矢がここに来たのはたまたまだと思う。
俺が呼ばなければ来ることはなかっただろうし。となれば、プレゼントを用意することはできないだろう。
「ふふふっ」
「はははっ」
冬矢と真空のやりとりが面白くて俺とルーシーは一緒になって笑った。
ルーシーの笑顔が素敵だ。
「おいおい、お前ら笑うなよ。俺は悲しいんだぜ……?」
「じゃあ、あんたはこれでも食べてなさい」
笑っていると冬矢は眉間に皺を寄せながらそう言った。
そんな冬矢に対して真空はケーキの上に乗っていたキウイを一つフォークでとって、それを冬矢のお皿の上に置いた。
「あっ……あっ……」
「ふんっ。そんなに嬉しかったか。チョロい男ね……」
その行為に嬉しかったのか、冬矢が少し動揺した。
真空は冬矢の表情にチョロいと言ったが、冬矢はそうチョロくはない。
「俺、酸っぱいフルーツ苦手なんだよね……」
「死ねえぇぇぇぇっ!!!!」
「いだぁぁぁぁっ!!!!」
ほら、やっぱり。
真空が冬矢に向けて、怒りの拳を頬にぶち込んだ。
でも、こうやって冬矢に直接手を出す女子は本当に初めてだ。
これまでも軽くはあったが、痛いほどではない。真空は海外で過ごしてきたからか、そういう部分がぶっ飛んでいる可能性もある。
「ぼう、りょく……おん、な……」
冬矢がソファに寄り掛かるようにしてダウンした。
「待って……ふふっ……面白すぎるっ……だめっ……まそら……っ」
「ははははっ、冬矢……自業自得だなっ」
ルーシーが笑ったことに合わせて、俺も一緒になって笑った。
冬矢のこんな姿を見られるのは新鮮だった。
こうやって真空は、ずっとルーシーを笑顔にさせてきたのだろうか。
本当なら俺がそうしてあげたかったが、異性と同性ではまた違うだろう。
真空だからこそルーシーはここまでやってこれたのかもしれない。
俺に冬矢がいたように……。
そう思ったのだが、確か付き合いは三ヶ月だと言っていたような気がする。
よく三ヶ月でここまで仲良くなったものだ。
恐らくずっと包帯を巻いていたはずのルーシーにも優しく接していたのだろう。
こんな友達が日本にいた時からルーシーの傍にいたら、もしかするとまた違った未来があったのかもしれない。
「氷室さん……皆さん楽しそうですね」
「ああ、お嬢様にここまで笑い合えるほどのお友達ができるなんて……」
俺たちが騒いでいる端で須崎さんと氷室さんが、微笑ましそうにこちらを見ていた。
…………
「この後どうする……?」
俺たちはしばらくケーキを食べたり会話したりして、楽しんだ。
そうしてケーキを食べ終えたところで冬矢が切り出した。
現在の時間を確認してみると夜七時を過ぎた頃だった
「みんなご飯はどうする予定なの?」
するとルーシーは夕食の話を切り出す。
ケーキは食べたけど、お腹は空いていると言えば空いていた。
「俺はルーシーと会う為に時間とってたからこの後も空いてるんだけど、ご飯のこと全然考えてなかった……」
「俺も日中に予定終わらせたからな。夜は空いてる」
俺はもちろんこの後は空いている。ただ、ご飯についてはどうすれば良いかは考えていなかった。
同じく冬矢も空いているとのことだった。
やはり今日の予定は終わらせてきたようだ。
「良かったら、うちでご飯食べる……?」
ルーシーがお家に誘ってきたことに驚いた。
いつかは行ってみたいと思っていたルーシーの家。
めちゃめちゃ行きたい。
「ルーシー良いの?」
「氷室、大丈夫……よね?」
真空が心配そうな顔で聞くと、ルーシーは氷室さんに確認をとった。
「ええ、問題ありませんよ。奥様方には連絡しておきます」
問題ないそうだ。
つまり、ルーシーの家に行けるということになった。
「光流と冬矢くん、それで大丈夫かな……?」
ルーシーは顔色を伺うように俺たちに聞いてくる。
もちろんOKに決まってる。
「俺は問題ないよ!」
「俺も良いのか? 初対面なのに……」
冬矢は少し遠慮するような感じでルーシーに聞いた。
「うんっ! 大丈夫! 光流の友達だもんっ」
ルーシーは問題なくOKをした。
その明るい感じのルーシーの言葉を聞いていると、同年代の子に対してもうまく接している様子が伺えた。
冬矢とも普通に会話できているし、少しはあの頃のトラウマは薄れたのだろうか。
アメリカは日本とは環境が違う。
同じようにいじめだって発生するだろう。でも今のルーシーを見ると日本にいた頃とは全く環境が違っていたのだとわかる。
凄いな、ルーシー。全然違う環境でも今まで頑張ってきたんだな。
俺はスマホを取り出し、今日はルーシーの家でご飯を食べてくると母にメッセージで連絡した。
すると直後に簡単なスタンプでOKと返事が帰ってきた。
そうして、俺たちは現在乗っているリムジンでルーシーの家まで移動した。
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この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ下のハートのいいねやお気に入り登録などの応援をしていただけると嬉しいです。
カクヨムと小説家になろうでも同じタイトルで投稿しているのですが、カクヨムだとコメントが多いので、他の読者のコメントが見たい方はカクヨムがお勧めです。
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しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
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