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120話 文化祭準備

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 日中はまだ温かく、夜は風が吹くと少し肌寒い。木の葉も太陽の光を吸いきって暗褐色に変わってゆき、秋の匂いを感じはじめる季節。

 十月になった。

 文化祭まで、ちょうどあと一ヶ月。
 そして、今日から文化祭の準備期間が始まった。

 放課後は文化祭準備のため、多くの生徒がいつもより遅くまで学校に残ることになる。

 かく言う俺も去年同様に文化祭の準備で残っていた。
 去年は『超巨大ウィーリーを探せ』を作るために、たくさんのウィーリーを模造紙に書き込んだ。

 クラス替えも行われたことから、クラスメイトの趣向も変わる。

 今回の俺たちのクラスの出し物は『段ボールパズル』。

 成績が良い人がクラスに集まったからか、少しだけ頭を使った出し物となった。
『段ボールパズル』は段ボールを様々な形に加工し、それを組み合わせてあるキャラを完成させるというもの。

 時間内に段ボールを組み合わせ、その完成度で勝負を競い、景品が与えられることになる。

 全てのクラスの分を作るには時間がないので、五つ――予備も入れて六つ作ることとなり、五チームずつ参加して競ってもらうことにした。


 もちろん俺も放課後に居残りをして、段ボールを加工し一部のパーツを作っていく。

 ハサミ、テープ、マジックを使いながら、なんとか作っていく。
 こういう細かい作業はどちらかと言えば女子の方が得意だと思っている。男はガサツなやつが多いからな。
 ちなみに俺はO型。よく大雑把だとか言われる血液型ではあるが、自分ではそうは思っていない。ただ、器用ではないとは思っている。

 そういえば思い出した。ルーシーもO型だった。腎臓が適合するか調べた時に血液型を知った。
 なんとなくルーシーは天才型っぽいイメージだと勝手に思っているのだが、それはAB型やB型に多いと聞く。でも、そんなの関係ないか。

 俺もクラスメイトの女子に何度か「もっと丁寧に切って」と言われることもしばしばだ。

 千彩都には「光流だっさー」と言われ、しずはには「ギターやって指の動き滑らかになってるはずなんだけどね」とか言われたりもした。
 ギターの指の動きと段ボールをハサミで切る行為は全然違うだろと思ったが、そう言ってくるしずはも全然できていなかった。
 ちなみにしずははB型らしい。本人は天才型ではなく努力型だと言っているらしいが、努力も天才ができる才能だろう。

 しずはは元々ピアノ以外は不器用で、見た目の改善や料理・お菓子作りなどは彼女の努力によってできるようになったこと。
 小学生の時に初めてしずはの家に行った時、あいつのクローゼットがパンパンになっていて、無理やり押し込んだものが飛び出してきて押しつぶされた記憶が蘇る。

 元々そういうタイプなのだ。
 多分、クラスの男子の誰もがその事実を知らないだろう。

『藤間さんって以外と不器用なんだね』『不器用なところもいいっ』と言った声もちらほらと聞こえてくる。
 美人ならなんでもプラスに働く。セコイことだ。

 このように、毎日ではないが放課後は約二時間ほど学校に残って、文化祭の準備を進めていった。




 ◇ ◇ ◇




 そして、もう一つ。

 文化祭準備が始まったということで、小さな……いや、大きな出来事があった。

 文化祭にバンドをエントリーさせるためにエントリー表を先生に提出したのだが、それが文化祭実行委員の手に渡り、スケジュールについての会議も行われたことで、俺達がバンドに出ることが露見したのだ。

 そこで文化祭実行委員の誰かが漏らしたのか、しずはがバンドに参加するということが同学年、そして後輩たちにも広まってしまった。

 もちろん俺と冬矢と陸もメンバーということも一緒に広まったために、クラスメイトからも色々と聞かれた。

 俺としずはは、今回同じクラス。
 今では俺たちがしずはと小学校が一緒だったということを知る人が多くなったために、それほど面倒なことは言われなくなったのが救いだ。

 そして、おそらくはしずは目当ての人が大多数だが、「絶対バンド見に行く!」という声も増えてきた。

 しずはは、三年生に上がってからも、すぐに新一年生に美人の先輩として認知され有名になっているようだった。
 なので、新一年生も見に来るだろうとは思っている。

 人が集まることは嬉しい。
 それだけ俺たちがやってきたことを披露できる相手が増えるということなんだから。


 生徒たちが中心となって出す出し物は二日目だ。
 だからバンドも二日目に出場することに決まっている。

 まだ詳細なスケジュールは決まってはいないが、生徒が好きな出し物を見て回れる自由時間にやることになるだろう。

 なので、バンドを見に来る人もいれば、見に来ない人もいるというわけだ。

 文化祭は体育館か校庭のどちらかで出し物が行われるために、人がそこで分かれるだろう。
 競合相手はまだわからないが、どんな舞台になるのか全くイメージできていなかった。


 ただ、やはり文化祭が近づいてくると、俺も緊張度が上がってきていた。
 一番の心配はちゃんと歌えるのか、ちゃんと演奏できるのだろうかということ。

 大勢の前で歌ったことなんてないし、しずはや深月のように大勢の前で演奏したこともない。
 全てが初めてなのだ。

 なるようにしかならないが、とても怖い。


 リハーサルは、文化祭一日目の前日。

 そこで、演奏のイメージが掴めるはず。

 担任の牛窪先生が言っていた通り、演奏は体育館でやることになった。
 なので、体育館が俺たちのステージになるのだ。

 しずはにも陸にも感謝している。今回限りの参加だが、かなりの時間をとって一緒に練習してくれた。
 バンドの練習の間もしずははコンクールに参加していたらしいが、支障なかったと言っていた。いや……一つに集中していない人が突き抜けた結果を出すことは至難だ。隠してはいるが、しずはも裏ではもっと努力していたのかもしれない。



 ◇ ◇ ◇



 文化祭準備に追われる毎日を過ごしていくうちに、その日になった。

 ルーシーの誕生日である十月十日だ。

 多分問題なく、届いているはず。
 住所も母にちゃんとチェックしてもらった。あとは、ルーシーが俺のプレゼントと手紙を受け取って、どんな反応をしてくれるのか。そして、手紙か何かで返事をくれるのかどうか。

 今度こそ待つことしかできない状況。
 これが本当の"待つ"なのだ。

 学校帰り、一人であの公園に向かい、ドーム型遊具に入る。

 既に俺の身長は百七〇センチを超えており、遊具の中に入るのも一苦労になってきていた。
 入れないことはないが、かなり中腰にしないと入れない。

 自分が成長したことを実感した。

 確か、ルーシーの両親は結構背が高かったような気がする。
 病院で会った時、俺の家族よりも背が高かった記憶がぼんやりとある。

 なら、ルーシーもある程度身長が高くなるのではないか。
 外人は背が高い印象がある。ルーシーはハーフだから、やはり大きくなりそうな気はしていた。

「もしかして、俺ルーシーに身長抜かされたりして……」

 それはそれで、彼女の成長を喜びたいが、なんとなく俺より少しは低いほうが色々と良いなとは思った。

 色々と、というのは俺の勝手な妄想だ。

 もし成長したルーシーを抱きしめることができたなら、ルーシーが俺の胸の中に顔を埋め、俺がルーシーの頭の上に顔を乗せる。そんな身長差が理想的なような気がした。
 でも女の子はヒール付きの靴をよく履くし、その点はどうしようもないとは思う。

 男だし、好きな相手のことを色々と妄想はするよね。

 しない男って、世の中に存在しない気がする。
 だって、好きな相手と触れたいって、誰もが思うことだと思うから――。


 ひんやりとしたドーム型遊具の硬い壁。

 ただ、この中だけは外よりも少しだけ温かい気がする。
 外からの風は入ってこず、冬は雪も中にはほとんど入らない。

 元々、一人で何かを考え込むには、最高のスポットだ。


 俺は立ち上がり、遊具から出て家へと向かう。
 そうして、ギターや歌の練習のラストスパートにかかる。








 ー☆ー☆ー☆ー

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