112 / 270
112話 大所帯のプール
しおりを挟む
――夏休みになった。
それまでの話を振り返る。
六月には深月の誕生日会、八月にはしずはの誕生日会を行い、俺の誕生日会に来てくれたお礼も兼ねて、冬矢やしずはたちとお家にお邪魔した。
深月の家はお嬢様という感じの綺麗なお家で、うちと同じくらいの家のサイズだった。
深月の母親の未喜さんが、深月の友達がこんなに集まってくれたのは初めてで嬉しいと感極まっていた。
こんなことで喜んでくれる母親も珍しいと思っていたが、深月の今までの性格から考えても友達が多いわけではなかったのは伺えた。深月は母親にとんでもなく愛されてるのだと感じた誕生日会だった。
一方しずはの誕生日会も似たようなメンバーで行った。ただ、新たに神代菜摘と沼尻舞香という友達も参加していた。
二年生の時に同じクラスになって、何度か遊んだことがあると聞いた。
誕生日プレゼントに悩んだが、しずはの方から欲しいものを言ってきた。
最初は冗談で水着だと言ってきたが、結局メガネを買った。
一緒にあらかじめ視力検査だけしてもらって、一緒にフレームを選んだ。
もちろんメガネ姿も似合っていた。
最近も教室でわざと見せつけるようにメガネをかけたりする。それを見たクラスの男子が「メガネ姿の藤間さんやべえ」とヒソヒソ話をしていたりした。
しずはの家で誕生日会をしたが、その日は奇跡的に兄の創司さんがいた。俺が初めて会った時同様にだらだらとくつろいでいたが、鞠也ちゃんがしつこくちょっかいをかけて、たじたじになっていたのがとても面白かった。
そういや俺たちって海で遊んだことがない。学校の授業でのプールはあるけど。
その話を冬矢にしたら海に行こうぜという話になった。
しかし、深月が超絶に嫌がった。
話を聞くと、水着というよりは海で水着になるのが嫌らしかった。
そこで、海ではなく都内のレジャープール施設で遊ぶことになった。
◇ ◇ ◇
八月のある日、俺たちは予定していた都内のプール施設へと遊びに来た。
メンバーは俺、冬矢、開渡、陸、しずは、深月、千彩都、鞠也ちゃん、奏ちゃん。
しずはの友達の神代さん、沼尻さん。そして陸の彼女である山崎さん。
さらに二年生の時に同じクラスだった松崎さんと石井さんと折木さんも参加することになった。
夏休み前からプールに行く話をしていたところ、冬矢が話を広めたからか、大所帯で行くことになっていた。
人が多すぎるので、現地集合とした。
「あっ、きたきた。蓮ちゃーん!」
陸が彼女の山崎さんに手を振って出迎える。
小学六年生ぶりの山崎さんだった。今日の参加者の中では唯一の他校の生徒だ。
さすがに二年半ほども経過すれば見た目も変わる。山崎さんは美少女になっていた。
小学生の時から髪を伸ばしていたからか現在はロングだ。
「バカっ! 大きな声で名前言うなっ!」
「いてっ」
山崎さんは陸に人前で大声で名前を呼ばれたためか、会ってすぐに頭を叩いた。
仲が良さそうで何よりだ。
「――山崎さん、久しぶり」
「よう、久しぶりだな」
陸が頭を抑えて痛がっている中、俺と冬矢が挨拶する。
「ええと、九藤くんと池橋くんだよね?」
「そうだよ」
久しぶりだからか、山崎さんが確認するように聞いてきた。
「久しぶり……なんかりっくんとバンド組んでるみたいだね。変なことしてたらぶっ叩いていいからね?」
「蓮ちゃん!?」
「あはは……上下関係ができてる」
山崎さんの方が陸を尻に敷いているようだった。
陸はその関係性を嫌がる様子は微塵も見せていないことから、この関係が二人にとって合っているのだろうと感じた。
「到着だー!」
「今日熱すぎだろ……」
「もう……朱利ちゃん今日はこれからだよ?」
一人は元気に。もう一人は既に疲れた様子で。さらにもう一人は心配する様子で。
「折木さん、石井さん、松崎さん……久しぶり」
別クラスになったために、そこから中々交流がない。
松崎さんに関しては、バンドについて協力してくれる話があったが、今は特にお願いすることはなかった。文化祭近くになればお願いすることも増えるだろう。
折木さんと石井さんは、ちょっとギャルっぽい女子なのだが、松崎さんはそういうタイプではない。
どちらかと言えば委員長タイプというか、真面目系だ。
あまり交流がなさそうな二人と一人だが、一緒に来たところを見ると仲良くなったらしい。
「みんな久しぶり~! 誘ってくれてありがとねっ」
「こっちこそ。来てくれてありがとう」
折木さんが明るく挨拶してくれる。
「はは。九藤は相変わらずだね。律儀くんっ」
「なんだよそのあだ名」
「クラス変わったけどさぁ、九藤みたいなやつはなかなかいないよ」
「それって、褒めてるの?」
「褒めてる褒めてる。面白いやつだってね」
「褒めてないだろ……」
どちらともとれない俺への評価。
とりあえず今日来てくれただけても嬉しい。
俺も友達が増えたものだ。
「ひーかーるーっ!」
わかりやすい元気な声が聞こえてきた。
彼女に勝る元気さを出してくる人はなかなかいない。
「鞠也ちゃん……奏ちゃんも」
二人一緒に来たようだ。
「今日はよろしくお願いしますっ」
奏ちゃんはいつもと変わらず礼儀正しい。
ぺこぺこと頭を下げて挨拶してくれた。
「こちらこそ」
自然と頭を撫でたくなるが、我慢した。
その後ろからデカい日除けの帽子を被った人物が歩いてきた。
「やっと着いた~。今日暑いね」
「うううう」
しずはと深月だった。
大きな帽子を被っていたのは深月。服装もお嬢様っぽくワンピースだ。
一方のしずはは、今日はボーイッシュな感じで、キャップを被っていた。
「お疲れ様。深月……今日はこれからだよ?」
「早く水に浸かりたい……」
干からびた魚のようになっていた。
「おいおい深月~。お前が楽しみにしてた『ちるかわ』のビーチボール持ってきたんだぞ?」
「はぁっ!? そんなの頼んでないしっ」
冬矢にそう言われて急に元気になった深月。顔が少し赤くなった。
二人の間に何があったのかわからないが、いつも通りだ。
「うわ~。ほんとに藤間さんいるよ……」
「ガチのガチだ」
「ほんと綺麗な子~」
折木さんたちがしずはを芸能人を見るような目で見ていた。
演奏家としてはもう芸能人に足を踏み入れてるけど。
「あっ、こんにちは。はじめまして……だよね?」
しずががその目線に気づいたのか、三人に挨拶した。
「藤間さんよろしく~! 私ら二年の時に九藤とかと一緒のクラスだったんだ~」
「私が石井朱利で、こっちが折木理沙。そんでこの委員長が松崎理帆だよ」
「私、委員長やったことないんだけど!?」
少し漫才を入れながらお互いに挨拶をした。
残るは四人。
「こんにちはーっ!」
「こんにちは」
おそらく俺が直接話したことがないのはこの二人だけ。
ということは、神代さんと沼尻さんだとわかった。
「菜摘ちゃんに舞香ちゃんっ」
しずはが二人に気づくと、ばっと近づいていって両手を出して二人にハイタッチしていた。
「いや~人数凄いね」
「……てか女子多くない?」
「そう、だよね。なんでこうなったのか」
沼尻さんの周囲を見渡しての感想。
男子四人に女子十一人。男女比がおかしなことになっている。
「みんなっ。神代菜摘ちゃんに沼尻舞香ちゃんだよ。よろしくね」
「皆さん今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
二人は丁寧に挨拶してくれた。
俺たちは揃ってよろしくと挨拶をした。
「――ごめんごめん遅れたっ」
「まだ時間内だろ。ゆっくりで大丈夫だったのに」
小走りで千彩都と開渡が一緒にやってきた。
「よっしゃ行くぞー!」
「ええ!?」
冬矢がみんなが揃うや否や施設の中に入ろうとする。
「いやいやまだ私たち皆に挨拶してないんだけど!?」
すると千彩都がストップをかけた。
「いいじゃねえか。あとは更衣室か着替えたあとに挨拶しようぜ」
「……まぁいいけど」
微妙に納得がいっていない顔をした千彩都だったが、ひとまず冬矢の言うことを聞いた。
そうして俺たちは皆プール施設の中に入っていった。
◇ ◇ ◇
「うわ~藤間さんの体えっぐ!」
「ちょっ……そんなに見ないでよ」
女子更衣室の中では、それぞれが水着に着替える中、折木や石井がしずはのスタイルを凝視していた。
「お腹とか全然出てないのに、胸もあるし……どうなってんの!?」
「胸は何もしてないけど、体はこれでも努力してるんだからね?」
しずはのお腹から胸へと自分の顔を移動させていく折木と石井。
どうしたらこの体型になれるのか。その秘密を知りたいという気持ちが全面に出ていた。
「二人とも私の体見てないで早く着替えなよ。皆もう着替え終わるよ?」
「だってなぁ……?」
「ねぇ……」
まだ離れようとしない二人。そこに。
「しずは先輩にちょっかいかけるやつはこうだーっ!!」
「うぎゃあ!?」
水着に着替え終わった鞠也が石井の胸を後ろから鷲掴みにした。
石井は突然のことに悲鳴を上げる。
「こっちもだーっ!!」
「きゃいん!?」
折木も同じように揉まれ、犬のように叫んだ。
「おらおらおらおら~~っ!」
「ちょっ!? やめてっ!?」
鞠也の凶行は止まらない。
しかし――、
「鞠也ちゃん脇腹弱いよ?」
「――へ?」
味方をしたはずのしずはから、弱点を言い渡される。
「へえ~~~~」
「九藤の親戚だからって手加減しないわよ? 鞠也ちゃん?」
折木が後ろから鞠也を羽交い締めにし、石井が前から鞠也の脇腹をこちょこちょしはじめる。
「あっ!? だめっ!? あはははははっ!?」
鞠也は抵抗できずに身悶えるしかなかった。
「深月……?」
すると、その様子を静かに見ていた深月が前に出た。
「――屋上での恨み晴らしてやるっ!!」
深月も鞠也のこちょこちょに参加しはじめた。
屋上の恨みとは、初めて奏がしずはと交流するために時間を作った昼食会。
その時、鞠也が従姉妹なのに光流の彼女だと嘘をつき、深月の逆鱗に触れた結果。深月が鞠也の脇腹をこちょこちょしたのだ。ただ最後には鞠也も深月の脇腹を攻撃していた。
嘘をついたのは鞠也だが、先にこちょこちょをしたのは深月だった。
そしてそれは、もう終わったはずのことだったのだが――、
「深月先輩っ!? あはっ!? あはははっ! 死ぬっ! 死ぬ死ぬっ!? プール入れなくなっちゃう!」
鞠也は石井と深月による攻撃に、もう瀕死状態だ。
「ふふっ、若林さんおもしろーいっ!」
「もっとやっちゃえっ!」
「あはははっ!? だめっ!? 死んでる! 私もう死んでるからっ!? あははははっ!?」
…………
「はぁ……はぁ……はぁ……」
石井、折木、深月、そして鞠也が更衣室の地べたに座り込み疲れていた。
鞠也の目には笑い転げて出た涙の跡が残っていて、満身創痍だった。
「なんでこうなったんだっけ……」
「まぁ……いっか」
ハイになっていた折木と石井がなぜこうなったのかを忘れていた。
しかし気にしないことにした。
「ま、鞠也ちゃん……っ」
鞠也の果てた様子を見て、奏が恐いものをみるような目で口を押さえていた。
「ほら、皆男子どもが待ってるわよ! 早く行こう!」
千彩都がリーダーシップをとって声をかける。
「かにゃでちゃん……肩貸して……」
「わ、わかった!」
力が抜けた鞠也が奏に助けを求めた。
体格的には鞠也のほうが大きいが、奏は必死に小さい体で肩を貸した。
ー☆ー☆ー☆ー
この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ下のハートのいいねやお気に入り登録などの応援をしていただけると嬉しいです。
それまでの話を振り返る。
六月には深月の誕生日会、八月にはしずはの誕生日会を行い、俺の誕生日会に来てくれたお礼も兼ねて、冬矢やしずはたちとお家にお邪魔した。
深月の家はお嬢様という感じの綺麗なお家で、うちと同じくらいの家のサイズだった。
深月の母親の未喜さんが、深月の友達がこんなに集まってくれたのは初めてで嬉しいと感極まっていた。
こんなことで喜んでくれる母親も珍しいと思っていたが、深月の今までの性格から考えても友達が多いわけではなかったのは伺えた。深月は母親にとんでもなく愛されてるのだと感じた誕生日会だった。
一方しずはの誕生日会も似たようなメンバーで行った。ただ、新たに神代菜摘と沼尻舞香という友達も参加していた。
二年生の時に同じクラスになって、何度か遊んだことがあると聞いた。
誕生日プレゼントに悩んだが、しずはの方から欲しいものを言ってきた。
最初は冗談で水着だと言ってきたが、結局メガネを買った。
一緒にあらかじめ視力検査だけしてもらって、一緒にフレームを選んだ。
もちろんメガネ姿も似合っていた。
最近も教室でわざと見せつけるようにメガネをかけたりする。それを見たクラスの男子が「メガネ姿の藤間さんやべえ」とヒソヒソ話をしていたりした。
しずはの家で誕生日会をしたが、その日は奇跡的に兄の創司さんがいた。俺が初めて会った時同様にだらだらとくつろいでいたが、鞠也ちゃんがしつこくちょっかいをかけて、たじたじになっていたのがとても面白かった。
そういや俺たちって海で遊んだことがない。学校の授業でのプールはあるけど。
その話を冬矢にしたら海に行こうぜという話になった。
しかし、深月が超絶に嫌がった。
話を聞くと、水着というよりは海で水着になるのが嫌らしかった。
そこで、海ではなく都内のレジャープール施設で遊ぶことになった。
◇ ◇ ◇
八月のある日、俺たちは予定していた都内のプール施設へと遊びに来た。
メンバーは俺、冬矢、開渡、陸、しずは、深月、千彩都、鞠也ちゃん、奏ちゃん。
しずはの友達の神代さん、沼尻さん。そして陸の彼女である山崎さん。
さらに二年生の時に同じクラスだった松崎さんと石井さんと折木さんも参加することになった。
夏休み前からプールに行く話をしていたところ、冬矢が話を広めたからか、大所帯で行くことになっていた。
人が多すぎるので、現地集合とした。
「あっ、きたきた。蓮ちゃーん!」
陸が彼女の山崎さんに手を振って出迎える。
小学六年生ぶりの山崎さんだった。今日の参加者の中では唯一の他校の生徒だ。
さすがに二年半ほども経過すれば見た目も変わる。山崎さんは美少女になっていた。
小学生の時から髪を伸ばしていたからか現在はロングだ。
「バカっ! 大きな声で名前言うなっ!」
「いてっ」
山崎さんは陸に人前で大声で名前を呼ばれたためか、会ってすぐに頭を叩いた。
仲が良さそうで何よりだ。
「――山崎さん、久しぶり」
「よう、久しぶりだな」
陸が頭を抑えて痛がっている中、俺と冬矢が挨拶する。
「ええと、九藤くんと池橋くんだよね?」
「そうだよ」
久しぶりだからか、山崎さんが確認するように聞いてきた。
「久しぶり……なんかりっくんとバンド組んでるみたいだね。変なことしてたらぶっ叩いていいからね?」
「蓮ちゃん!?」
「あはは……上下関係ができてる」
山崎さんの方が陸を尻に敷いているようだった。
陸はその関係性を嫌がる様子は微塵も見せていないことから、この関係が二人にとって合っているのだろうと感じた。
「到着だー!」
「今日熱すぎだろ……」
「もう……朱利ちゃん今日はこれからだよ?」
一人は元気に。もう一人は既に疲れた様子で。さらにもう一人は心配する様子で。
「折木さん、石井さん、松崎さん……久しぶり」
別クラスになったために、そこから中々交流がない。
松崎さんに関しては、バンドについて協力してくれる話があったが、今は特にお願いすることはなかった。文化祭近くになればお願いすることも増えるだろう。
折木さんと石井さんは、ちょっとギャルっぽい女子なのだが、松崎さんはそういうタイプではない。
どちらかと言えば委員長タイプというか、真面目系だ。
あまり交流がなさそうな二人と一人だが、一緒に来たところを見ると仲良くなったらしい。
「みんな久しぶり~! 誘ってくれてありがとねっ」
「こっちこそ。来てくれてありがとう」
折木さんが明るく挨拶してくれる。
「はは。九藤は相変わらずだね。律儀くんっ」
「なんだよそのあだ名」
「クラス変わったけどさぁ、九藤みたいなやつはなかなかいないよ」
「それって、褒めてるの?」
「褒めてる褒めてる。面白いやつだってね」
「褒めてないだろ……」
どちらともとれない俺への評価。
とりあえず今日来てくれただけても嬉しい。
俺も友達が増えたものだ。
「ひーかーるーっ!」
わかりやすい元気な声が聞こえてきた。
彼女に勝る元気さを出してくる人はなかなかいない。
「鞠也ちゃん……奏ちゃんも」
二人一緒に来たようだ。
「今日はよろしくお願いしますっ」
奏ちゃんはいつもと変わらず礼儀正しい。
ぺこぺこと頭を下げて挨拶してくれた。
「こちらこそ」
自然と頭を撫でたくなるが、我慢した。
その後ろからデカい日除けの帽子を被った人物が歩いてきた。
「やっと着いた~。今日暑いね」
「うううう」
しずはと深月だった。
大きな帽子を被っていたのは深月。服装もお嬢様っぽくワンピースだ。
一方のしずはは、今日はボーイッシュな感じで、キャップを被っていた。
「お疲れ様。深月……今日はこれからだよ?」
「早く水に浸かりたい……」
干からびた魚のようになっていた。
「おいおい深月~。お前が楽しみにしてた『ちるかわ』のビーチボール持ってきたんだぞ?」
「はぁっ!? そんなの頼んでないしっ」
冬矢にそう言われて急に元気になった深月。顔が少し赤くなった。
二人の間に何があったのかわからないが、いつも通りだ。
「うわ~。ほんとに藤間さんいるよ……」
「ガチのガチだ」
「ほんと綺麗な子~」
折木さんたちがしずはを芸能人を見るような目で見ていた。
演奏家としてはもう芸能人に足を踏み入れてるけど。
「あっ、こんにちは。はじめまして……だよね?」
しずががその目線に気づいたのか、三人に挨拶した。
「藤間さんよろしく~! 私ら二年の時に九藤とかと一緒のクラスだったんだ~」
「私が石井朱利で、こっちが折木理沙。そんでこの委員長が松崎理帆だよ」
「私、委員長やったことないんだけど!?」
少し漫才を入れながらお互いに挨拶をした。
残るは四人。
「こんにちはーっ!」
「こんにちは」
おそらく俺が直接話したことがないのはこの二人だけ。
ということは、神代さんと沼尻さんだとわかった。
「菜摘ちゃんに舞香ちゃんっ」
しずはが二人に気づくと、ばっと近づいていって両手を出して二人にハイタッチしていた。
「いや~人数凄いね」
「……てか女子多くない?」
「そう、だよね。なんでこうなったのか」
沼尻さんの周囲を見渡しての感想。
男子四人に女子十一人。男女比がおかしなことになっている。
「みんなっ。神代菜摘ちゃんに沼尻舞香ちゃんだよ。よろしくね」
「皆さん今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
二人は丁寧に挨拶してくれた。
俺たちは揃ってよろしくと挨拶をした。
「――ごめんごめん遅れたっ」
「まだ時間内だろ。ゆっくりで大丈夫だったのに」
小走りで千彩都と開渡が一緒にやってきた。
「よっしゃ行くぞー!」
「ええ!?」
冬矢がみんなが揃うや否や施設の中に入ろうとする。
「いやいやまだ私たち皆に挨拶してないんだけど!?」
すると千彩都がストップをかけた。
「いいじゃねえか。あとは更衣室か着替えたあとに挨拶しようぜ」
「……まぁいいけど」
微妙に納得がいっていない顔をした千彩都だったが、ひとまず冬矢の言うことを聞いた。
そうして俺たちは皆プール施設の中に入っていった。
◇ ◇ ◇
「うわ~藤間さんの体えっぐ!」
「ちょっ……そんなに見ないでよ」
女子更衣室の中では、それぞれが水着に着替える中、折木や石井がしずはのスタイルを凝視していた。
「お腹とか全然出てないのに、胸もあるし……どうなってんの!?」
「胸は何もしてないけど、体はこれでも努力してるんだからね?」
しずはのお腹から胸へと自分の顔を移動させていく折木と石井。
どうしたらこの体型になれるのか。その秘密を知りたいという気持ちが全面に出ていた。
「二人とも私の体見てないで早く着替えなよ。皆もう着替え終わるよ?」
「だってなぁ……?」
「ねぇ……」
まだ離れようとしない二人。そこに。
「しずは先輩にちょっかいかけるやつはこうだーっ!!」
「うぎゃあ!?」
水着に着替え終わった鞠也が石井の胸を後ろから鷲掴みにした。
石井は突然のことに悲鳴を上げる。
「こっちもだーっ!!」
「きゃいん!?」
折木も同じように揉まれ、犬のように叫んだ。
「おらおらおらおら~~っ!」
「ちょっ!? やめてっ!?」
鞠也の凶行は止まらない。
しかし――、
「鞠也ちゃん脇腹弱いよ?」
「――へ?」
味方をしたはずのしずはから、弱点を言い渡される。
「へえ~~~~」
「九藤の親戚だからって手加減しないわよ? 鞠也ちゃん?」
折木が後ろから鞠也を羽交い締めにし、石井が前から鞠也の脇腹をこちょこちょしはじめる。
「あっ!? だめっ!? あはははははっ!?」
鞠也は抵抗できずに身悶えるしかなかった。
「深月……?」
すると、その様子を静かに見ていた深月が前に出た。
「――屋上での恨み晴らしてやるっ!!」
深月も鞠也のこちょこちょに参加しはじめた。
屋上の恨みとは、初めて奏がしずはと交流するために時間を作った昼食会。
その時、鞠也が従姉妹なのに光流の彼女だと嘘をつき、深月の逆鱗に触れた結果。深月が鞠也の脇腹をこちょこちょしたのだ。ただ最後には鞠也も深月の脇腹を攻撃していた。
嘘をついたのは鞠也だが、先にこちょこちょをしたのは深月だった。
そしてそれは、もう終わったはずのことだったのだが――、
「深月先輩っ!? あはっ!? あはははっ! 死ぬっ! 死ぬ死ぬっ!? プール入れなくなっちゃう!」
鞠也は石井と深月による攻撃に、もう瀕死状態だ。
「ふふっ、若林さんおもしろーいっ!」
「もっとやっちゃえっ!」
「あはははっ!? だめっ!? 死んでる! 私もう死んでるからっ!? あははははっ!?」
…………
「はぁ……はぁ……はぁ……」
石井、折木、深月、そして鞠也が更衣室の地べたに座り込み疲れていた。
鞠也の目には笑い転げて出た涙の跡が残っていて、満身創痍だった。
「なんでこうなったんだっけ……」
「まぁ……いっか」
ハイになっていた折木と石井がなぜこうなったのかを忘れていた。
しかし気にしないことにした。
「ま、鞠也ちゃん……っ」
鞠也の果てた様子を見て、奏が恐いものをみるような目で口を押さえていた。
「ほら、皆男子どもが待ってるわよ! 早く行こう!」
千彩都がリーダーシップをとって声をかける。
「かにゃでちゃん……肩貸して……」
「わ、わかった!」
力が抜けた鞠也が奏に助けを求めた。
体格的には鞠也のほうが大きいが、奏は必死に小さい体で肩を貸した。
ー☆ー☆ー☆ー
この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ下のハートのいいねやお気に入り登録などの応援をしていただけると嬉しいです。
10
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる