包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜

藤白ぺるか

文字の大きさ
上 下
105 / 270

105話 歌詞の書き方

しおりを挟む
 ――バンドの曲が二曲決まった翌日。

 学校に松崎さんが来ていた。
 風邪は治ったようだ。

 俺は教室で松崎さんの姿を見つけるなり、他の机の間をすり抜けて彼女の机の前まで向かった。

「――松崎さん、ちょっといい?」
「く、九藤くん!?」

 少し驚きすぎなような気もしたが、気にせずいこう。

「もしかして……あの時のこと……?」
「うん。ちょっと、教室の外に出よう?」
「あ……うん」

 俺は松崎さんを教室の外まで連れ出した。
 と言っても、生徒が多数通っている廊下だ。

 わざわざ歩いている最中に聞き耳を立てるやつはいないだろう。

「――松崎さん、カラオケ屋の前で俺とくっついてた人、俺の彼女だと思ってるでしょ?」

 単刀直入に聞いた。

「そうだよ? だってあんなに腕を……」

 普段ならもっと快活に会話する松崎さんは、なぜかこういう話になると少しオドオドしていた。

「あれ、本当に姉なんだよね。リアルに」

 しつこく強調する。

「……え?」

 俺はスマホを開き、写真を見せた。
 四人と一匹の家族写真だ。

「よく見れば、俺の母さんと似てると思うんだけど」
「…………」

 松崎さんは、俺のスマホの写真をじーっと見つめた。

「……ほんと?」
「ほんとのほんと」

「…………」

 少しだけ静寂が流れた。

「ごっ、ごめんなさい! 変な勘違いしてて!」
「誤解が解けたならよかった。俺、今彼女本当にいないから……」

 松崎さんはちゃんと姉だと理解してくれたようだ。

「できれば、友達に言ったことも訂正して回ってくれると嬉しいんだけど……」
「――!?」

 驚く松崎さん。

「俺の友達経由で彼女と歩いてたって聞かされたからさ」
「あ……ごめんなさいっ!」
「それだけはお願いね」
「うん。わかった……」

 よし、これで色々と大丈夫なはずだ。
 ただ、一度広がってしまった噂は止まらないっていうし、少しだけ心配になる。

「じゃあ教室戻ろっか」
「うん。……バンドの事については何でも言ってね!」
「あ、そうだ。連絡先交換しよう。そのことについても相談する時あるかもしれないしさ」
「うん!」

 こうして俺と松崎さんは連絡先を交換した。


 ただ、このあと教室に戻ると、俺が松崎さんを呼び出したために、しばらく変な噂が立った。
 しかし俺も松崎さんも否定したことから、数日後にはその変な噂も鳴りを潜めた。



 ◇ ◇ ◇



 ――放課後。

 今日は事前に連絡していた透柳さんにバンドのことについて相談する日だ。

 俺はもう行き慣れたしずはの家へ道のりを、スマホの地図も見ずに歩いていく。

 そうして到着すると、透柳さんが家に招き入れてくれた。
 その後、ギター部屋に通され二人きりになった。


「――バンドするんだって?」
「はい」

 バンドを組んだことはチャットで予め言っていた。

「良いじゃないか。やっぱギターやるならバンドが良い。そもそもエレキを渡したのもいずれそうしてほしいと思ってのことだからな」
「そうなんですか?」
「あぁ。一人で歌ったり弾いたりするのは大抵アコギだしな」
「そう言われればそうかもしれません」

 全く気づいてはいなかったが、確かにアコギを使っているバンドはなかなか思いつかない。

「それで、聞きたいことはなんだ?」
「はい。今まで練習してきた曲あったじゃないですか。でも文化祭に向けて三曲も演奏することになったので、そっちの曲を練習しようと思っていて」

 せっかく教えてもらっているのだから、ちゃんと報告しておきたかった。

「そんなことか。それならもちろん曲を切り替えても良いぞ」
「ありがとうございます。それで……しずはからは聞いていますか?」
「んん? 何がだ?」

 あれ。もしかして……言ってない?

「今回の文化祭だけ、しずはがうちのバンドでキーボードやってくれるって言ってて」
「なにっ!? ほんとか!!」
「はい」

 座っていた椅子から飛び上がり、驚く透柳さん。

「ええと。どういうことだ。しずはがバンド? いや……大変だ! はな! はなーっ!!!」

 立ち上がったと思ったら、俺を一人を置いて、ギター部屋を飛び出しリビングに向かった透柳さん。

「…………」

「はな! 知ってるか! しずはがバンドやるらしいぞ!!」
「あら、聞いてなかったのね。そうよ」

 扉が開けっ放しだったので、少し遠くからではあるが、二人の会話が聞こえてきた。

「なんだよ~教えてくれよ」
「ふふ。準備期間も長いし、ピアノの練習にはさほど影響はないと思って許可したわ」

 そういえば、しずはのあの判断は、既に花理さんに許可をとっていたのだろうか。
 それとも、ファミレスでの突発的な発言だったのだろうか。
 自分のピアノのコンクールもあるだろうし。

「なぁ、もちろん観に行くよな!」
「…………うちの中学の文化祭は外部の人は参加できないのよ」
「ええええ~~!!!! なんだよ! 家族なのにか!? どういうことだよ!!」
「透柳ちゃんの中学もそうだったでしょう……」
「昔過ぎて覚えてないよ!」

 微笑ましい会話が繰り広げられていた。

 しばらくすると透柳さんが、ギター部屋にトボトボと戻ってきた。

「はぁ……」
「ええと。ビデオで撮る予定なので……いります?」
「ほんとか! 光流くん! ぜひもらえるかっ!?」
「もちろんです」

 ……いいよな、しずは?
 あいつは父に見られるのは嫌がりそうだけど。

「本当ならライブで見たかったんだけどなぁ」
「そうですよね。僕もできれば家族とかに見て欲しかったかもです」
「そういう行事なら仕方ないか」
「仕方ないですね……」

 高校生の文化祭と違い、ほとんどの生徒が同じ場所でゲームや競技に取り組むことになる。
 正直あの密集地帯に保護者や外部の客が来てしまえば、あまりにもカオスな状況になるだろう。
 高校の文化祭は様々な場所に人が分散されるからな。

「それで? 曲は何をやるんだ? もう決まってるのか?」
「あ、はい。実はもう決まっていて――」

 俺は既に決まっている二つの曲を話し、さらに一つはオリジナル曲だと説明した。

「中学生でオリジナルか~。レベル高いなー!」
「そうなんですか?」
「あまり聞いたことないな。そもそもパソコンも使えないと曲作れないしな」

 そういえば、冬矢は打ち込みとかしてくれるなどと言っていたけど、どうするんだろうか。

「多分それしずはに協力してもらったほう早いぞ。ピアノで良い感じに作ってくれるはずだ」
「それ、迷惑じゃないですかね?」
「ん~。文化祭まで十ヶ月もあるし、大丈夫だろう」
「確かにしずはに任せれば良い曲ができそうですね」
「だろ? あいつは天才だからな」

 親バカだ。
 でも俺も透柳さんの立場だったら、しずはをとことん可愛がるんだろうなとは思ってしまう。

「ちょっとしずはに相談してみますね」
「そうしたほうが良い」
「それと……歌詞を考えないといけなくて。どんな感じで作ればいいんでしょうか?」

 これが今回一番聞きたかった質問だった。
 そこで透柳さんのなりの考えを聞くことができた。

「――俺は歌詞ってのは感情だと思ってる。誰のためなのか、誰への想いなのか。……心の中で思ってることをぶつけるのが歌詞だ」
「感情、ですか……」

 俺の中にある感情。どんなものなんだろう。

「世の中には意味のわからない歌詞だってたくさんあるだろ? でもそいつにとっては意味のある言葉なんだよ。怒りのままに書いてるやつもいるだろうさ『うるせえ』とか『ムカつく』とかな」
「そういう歌詞の歌も結構ありますもんね」

 特に激しめのロックバンドやアーティストの歌にはこういった感情的な歌詞が多い気がする。

「俺が高校の文化祭で、はなに歌った歌。もちろんあいつに向けての曲だ」

 段々と透柳さんの言いたいことがわかってきた。

「だから光流くんも、その誰かに向けてどんな感情を持ってるか考えてみればいい。そいつとの思い出を振り返るのもいい」
「思い出、ですか……」

 ルーシーとの思い出はかなり少ない。一週間と病院で一緒にいた一ヶ月。
 でも、ルーシーへの想いはいくらでも出てきそうな気がしていた。

「思いついた単語からでもいい。思い出の場所に足を運んでみてもいい。一つだけいうとな、歌は自由だ」
「自由、ですか?」
「まぁ、プロになると売れそうな曲を書けだの面倒事を言われることも多いが、光流くんの今の立場は違う。これを書いたらだめってのはない」

 お金が絡むプロならそういうこともあるだろう。
 でも今はただの学生。そもそもプロなんて考えたこともない。
 だから自由に書いて良いのか。

「ひとまず周りの目は気にしないで書いてみろ」
「はい……」
「といっても、最終的にはちゃんと曲にならないといけないから、歌詞ができたら俺にも見せてくれ」
「わかりました」

 確かに曲というのはメロがあったりサビがあったりする。
 ごちゃごちゃでは、曲としては完成しないだろう。

 まずは自由に歌詞を考えて、あとで透柳さんに校正してもらおう。

「よし。なら、せっかくだし今まで練習してた曲、ちょっと弾いてみてくれるか?」
「あっ……わかりました!」

『Mr.Olderen』の『名がない詩』。
 とりあえず前半部分はなんとか弾けるようになっていたので、それを披露することにした。


「――――」


「――とりあえず、ここまでくらいしか弾けないですけど……」

 俺は今弾けるところまでを透柳さんに弾いて見せた。

「光流くん、ギター初めてどのくらいだっけ?」
「文化祭のあとからなので、二ヶ月くらいだと思います」

 透柳さんは顎に手をあて、少し考え込む。

「ふむ……確かに最後までは弾けてないけど、今弾いてもらったところまではほぼ完璧だね……(普通二ヶ月でここまで弾けるもんだっけ……?)」
「ありがとうございますっ!」

 プロにそう言われると、嘘だとしても嬉しい。

「ここまで弾けてるから曲も最後まで練習してほしいけど、今はしょうがないな。文化祭終わってからだな」
「そうですね」

 やることが増えた今、色々することがある。
 できれば集中したいからな。

「そういや皆で練習する時に、演奏する場所困ったら言ってくれ。最悪うち使ってもいいぞ」
「ありがとうございます。でも、ドラムは……」
「あぁ、そうだったな。それなら適当に誰かから借りておくよ」
「何から何まですみません……」
「しずはの演奏を家で見たいってのもあるけどな」

 そっちが本心か。
 けど、しずはなら見せることを拒否しそうだ……。

「じゃあ、また困ったことがあったら何でも聞いてくれ。バンドの練習曲もギターソロあるだろうしな」
「はいっ! ぜひお願いします!」

 こうして、透柳さんへの相談を終え、俺は家へと帰宅した。


 一つ、歌詞を考えるためにやるべきことが決まった。

 最近はあまり行けてはいなかったが、ルーシーとの思い出の地を巡ろう。
 その地を巡りながら、俺がどんな感情を持っているのか、どんな単語が思い浮かぶのか。
 感じたままにメモしていこうと決めた。




 ー☆ー☆ー☆ー

この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ下のハートのいいねやお気に入り登録などの応援をしていただけると嬉しいです。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

三角関係にオタクで平凡な俺が巻き込まれた件!?

モモ
恋愛
俺、八神誠は平凡な少年、脇役だったはずなのに何故三角関係に巻き込まれてしまう。 何故、こんな事に。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

処理中です...