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101話 ドラム担当
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――冬休みが明けた。
当初の予定通り、同じクラスの東元陸をバンドに誘うため話しかけることにした。
「――ってことなんだけどよ。陸、やってくれないか?」
「いいよ!」
「少しは悩めよ」
始業式の朝、ホームルーム前に教室で俺と冬矢と陸で話していたところ、二つ返事でバンドに参加してくれることになった。
「ドラムだけは用意しなくちゃなんないからさ、俺達でお金出し合って買おうぜ」
これは当初より冬矢と話していたことだ。
俺と冬矢はしずはの家族から楽器を借りていて、今のところ一切お金がかかっていない。
しかし、しずはの家でドラムをしている人間がいないので、借りるということも不可能なわけだ。
「いいっていいって。そんくらい自分で出すから」
「いや……ドラムって結構値段するだろ?」
「んー、どんくらいするの?」
調べてみると安いもので五万ほどするようだった。
「そんくらいなら大丈夫だろ」
「お前んちお金持ちなわけ?」
「あー、うち医者の家系だから。金はある」
「まじか……」
医者か。俺とルーシーの移植手術を担当してくれた天王寺先生はまだ元気にしているかな。
「でもな。俺できるのはこの一年までだと思う。高校からはマジで勉強させられるから」
「医大目指すとか?」
「あぁ、俺も医者になるからな。って言っても目指すのは歯医者だけどな」
確かに医者にも色々な種類があるもんな。
「俺達はそれで問題ないよな?」
「うん。文化祭が目標だからね」
「なら良いよ」
これで決まった。ただ別の問題も発生してくる。
「なぁ、練習場所ってどうするんだ? 家でもできなくはないけど」
「ドラムって凄い音するよな……」
確かに。毎回スタジオを借りてやるわけにも行かないだろうし。
「『ドラム 家で練習』で検索っと……」
すると冬矢がスマホで検索し始めた。
「……あ。なんか電子ドラムってのあるみたいだぞ。普通のドラムより音が静からしい」
「しかも三万くらいで買えるのあるじゃん」
「ほ~。ならとりあえずそれ買うわ。うるさいって言われたら防音対策でもしてみるわ」
陸は話が早い。将来は仕事ができる人間になるだろう。
「でもいつかはちゃんとしたドラムで練習しないといけないだろ? その時はドラムがあるスタジオ借りて合わせようぜ」
「そうだな。本番だけドラムをレンタルすればお金もかからないだろ」
家にお金があるといってもできるだけ安く済ませたほうが俺達も心に負担がかからなくて済む。
「そういや言ってなかったけど、しずはがキーボードだから」
「はぁ~~~って!? いやいや! あの藤間しずはか? お前ら仲良いのは知ってるけどよ……」
冬矢がそう言うと、陸が驚く。
そういえば、陸ってしずはのことどこまで知ってるんだろう。
「確かピアノはやってるって聞いたことはあるけど」
「一応やってるぞ」
この感じ、しずはの実力は知らない感じだ。
「一緒に演奏したら、しずはに惚れちゃうか?」
「はは。確かに美人ではあるけど、俺は蓮ちゃん一筋だから」
「ほーん。つまんねーの」
蓮ちゃんとは山崎さんのことだ。
山崎さんは他校なのでこの学校にはいないが、陸がぞっこんの相手だ。
「てか文化祭どうにかして連れてこられねーかなぁ」
せっかくやるのだから、演奏している姿を見せたいよな。
「ジャージでも貸せばわかんないんじゃない?」
「あ~。確かにな。ちょっと今度俺のジャージ着せてみるわ」
「うわ~、何そのプレイ。好きな男子のジャージを借りるとか漫画によくあるやつじゃん」
「はは。いーだろ~。男物の服でブカブカになる感じ良いよな」
こいつ。ジャージでなくとも他の服で試したことがあるな?
「ま、マジで呼ぶならうまくやれよ」
「あぁ、時間はあるからな。抜け道他にも探してみるよ」
◇ ◇ ◇
陸の参加が決まってから、俺達四人のバンドメンバーで打ち合わせをすることになった。
「とりあえず三曲はできる時間あると思うから、一曲はオリジナルだとして、他はどうする?」
冬矢が切り出した。
「私は何でも良いよ。光流が歌いたいものにすれば?」
しずはは基本的にこちらに任せてくれる意見のようだ。
「陸はどうだ?」
「俺も特に決まりはないけど、盛り上げるなら皆が知ってる最近の曲とかが良いんじゃないか?」
「それは俺も思った」
陸の意見は正しい。誰も知らない曲を演奏して、拍手すらなかったら落ち込んでしまうかもしれない。
「俺はロックが好きだからそっち系の曲が良いとは思ってる」
「じゃあ一曲は光流の好きな曲にして、もう一曲は皆が知ってる曲にするってのはどうだ?」
俺の意見に冬矢が同意し、まとめていく。
すると俺を含めて全員がその内容に同意した。
「じゃあ最近の曲調べていこうぜ」
俺達はファミレスで飲み放題のドリンクを飲みながら打ち合わせを進めていった。
それぞれ今話題の曲を調べるためにスマホを操作していく。
「なぁ、藤間さんはなんでバンドに参加することになったんだ?」
陸はしずはに質問をした。
「私は光流がボーカルやるなら参加するって言ったの。冬矢が歌うとありきたりでつまんないでしょ?」
「はは。確かにな。無駄に女子からの注目集めちゃうな。面白くねぇ」
「なんだよお前ら。ベースでも目立ってやるからな俺は」
たまに見かけるロックバンドのベース。
めちゃめちゃ頭を振ったり動いたりしているのを見たことがある。
ただ、俺達のバンドではあんな感じで暴れないでほしい。
「逆に俺がボーカルやってさ、なんで冬矢じゃないんだよって冬矢ガールズから怒られない?」
「そんなことないよ。俺が舞台に上がってるだけで喜ぶだろ」
サッカー辞めてもこれまでの女子との関係は途切れていないんだな。
こういうところはさすがだ。
「そういや冬矢ってさ、俺達に彼女とか他の女子とか紹介したことないよな」
「まぁな。今まで紹介したいって思うやつがいなかっただけ」
「それでも付き合ったりはするんだ?」
「あぁ。付き合わないとわからないことってあるからな」
大人だ。経験者は語るってか。
ちょうど恋人がいたことある組といたことない組でテーブルを挟んでいる。
冬矢と陸。俺としずはだ。
しずはについては俺が断ってしまったのだが……。
「藤間さんはどうなんだ?」
「なにが?」
すると陸は突っ込んで話をしてきた。
「好きな人とか。だって少し前にも告白されてたんだろ?」
「まぁね。私に釣り合う人がいなかっただけ」
「あれ。……藤間さんってこんなこと言う人だったっけ?」
「ははっ。そうだよ……なっ、光流?」
だからこういう時に限って俺に振るなよ。
「さ、さぁ……」
適当に誤魔化した。
「それで好きな人はいないの?」
陸もしつこいな。
「いるよ」
「マジで!?」
「うん。大好き」
ちょお~~っと。マジでやめてくれ~~~。
いや、でも。少しずつ時間が過ぎて、俺なんか眼中になくなっているかもしれない。だとしたら俺はなんて勘違いをしてるんだ。
「おおおお~!! 誰なの!?」
「陸、お前なぁ。少しは気を遣えよ」
陸がどんどんしずはに質問をしていく。
さすがに冬矢も止めに入ってきたが――、
「こいつ」
「…………マジ?」
するとしずはが俺を親指で指差してきた。
今日のしずはは特に顔が赤くなることもなく、淡々と発言していた。
逆に俺の顔が少し熱くなっているのを感じてきていた。
「……ってことは、やっぱそうか。髪切ったのもそうだとしたら、辻褄が合う……」
陸は独り言を呟いていて、勝手に納得したようだった。
「考えてみれば藤間さんと仲良くしてる男子って光流と冬矢しかいないもんな。ぽっと出の男子じゃあり得ないか。薄々気づいてたけどな」
「ちなみにこの話、他の誰かにしたら殺すから。山崎さんにも話したらダメだよ」
自分から暴露したくせに、しずはは陸をもの凄い目つきで睨みつけていた。
「わかってるって。言わないよ。でも今も仲良くしてるってところも面白いんだよな」
「普通はなかなかこうはならないからな」
空になりかけているジュースのコップの氷をストローでくるくると回しながら陸がそう言うと、冬矢もそれに同意した。
「だって小学生の時から仲良くしてたんだよ? いきなり友達じゃなくなるなんて、俺にはできないよ」
「…………」
これはしずはも一緒だったはずだ。
嫌いになったわけでもない。ただ最初は少し顔を合わせることに恥ずかしさを感じていたけど、今はそうならずとも会話できる。
「――やっぱ光流は特別なやつだよ。陸、お前も少しずつわかってきただろ?」
「はは。そうかもな。光流みたいなやつはそうそういないかもな」
「どういうことだよ」
こいつらの言っていることが全くわからない。
「逃げたり避けたり、正面から向き合えなかったりできるやつって意外といないもんだ。その点お前は前を向いてる」
「光流の近くにいる女子は、仲良くなればなるほどそういう点に気づいて、好きになるのかもな」
「そんなの自覚ないから……」
正直俺からすれば、一言に尽きる。『人による』。
しずはじゃなかったら、こうやって今も仲良くできなかったと思う。
だから俺は大切だと思えるその一人の人間に対して向き合ってるだけ。
「無自覚系主人公ムカつくわ~」
「いいぞ藤間さん、もっと言ってやれ」
「いや……もうめっちゃ言われてるから……」
「なんだよ。もしかして光流の誕生日の話か? それ全然聞いてないから詳しく教えろよー!」
そういや冬矢にはカオスな誕生日会の話はしていなかったっけ。
しずはもノリに流されて叫んでしまってたからな。
「教えるわけないでしょ! 光流、言ったらあんたも殺す!」
「その言い方だと、俺もう殺されてるんですけど?」
しずはが凶暴になりかけてきた。
陸はもう殺されているようだ。
「とりあえず、曲についてはそれぞれ宿題な。一週間後にまた集まって案出し合おうぜ」
「おっけー」
楽器の練習、曲決め、オリジナル曲に至っては歌詞も考えないといけない。
文化祭に向けてやることが決まっていき、俺達のバンドは、バンドっぽくなっていった。
「あ、そういや俺達のバンド名考えたんだけど『リオネルクリスティ』どうだ!?」
「冬矢の好きなサッカー選手の名前組み合わせただけだろ……」
「却下! もっと可愛いのにして!」
「じゃあ「しずはと愉快な仲間たち」でいいんじゃね? 俺達の中でしずは以上に学校で有名なやついないだろ」
「あんたも殺すわよ?」
「なら『藤九』はどうだ? 藤間さんと光流の名字。なんかジェットコースターっぽくて勢いありそうじゃん」
「却下!」
俺達はこの後、しばらくの間バンド名で揉めることになった。
ー☆ー☆ー☆ー
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当初の予定通り、同じクラスの東元陸をバンドに誘うため話しかけることにした。
「――ってことなんだけどよ。陸、やってくれないか?」
「いいよ!」
「少しは悩めよ」
始業式の朝、ホームルーム前に教室で俺と冬矢と陸で話していたところ、二つ返事でバンドに参加してくれることになった。
「ドラムだけは用意しなくちゃなんないからさ、俺達でお金出し合って買おうぜ」
これは当初より冬矢と話していたことだ。
俺と冬矢はしずはの家族から楽器を借りていて、今のところ一切お金がかかっていない。
しかし、しずはの家でドラムをしている人間がいないので、借りるということも不可能なわけだ。
「いいっていいって。そんくらい自分で出すから」
「いや……ドラムって結構値段するだろ?」
「んー、どんくらいするの?」
調べてみると安いもので五万ほどするようだった。
「そんくらいなら大丈夫だろ」
「お前んちお金持ちなわけ?」
「あー、うち医者の家系だから。金はある」
「まじか……」
医者か。俺とルーシーの移植手術を担当してくれた天王寺先生はまだ元気にしているかな。
「でもな。俺できるのはこの一年までだと思う。高校からはマジで勉強させられるから」
「医大目指すとか?」
「あぁ、俺も医者になるからな。って言っても目指すのは歯医者だけどな」
確かに医者にも色々な種類があるもんな。
「俺達はそれで問題ないよな?」
「うん。文化祭が目標だからね」
「なら良いよ」
これで決まった。ただ別の問題も発生してくる。
「なぁ、練習場所ってどうするんだ? 家でもできなくはないけど」
「ドラムって凄い音するよな……」
確かに。毎回スタジオを借りてやるわけにも行かないだろうし。
「『ドラム 家で練習』で検索っと……」
すると冬矢がスマホで検索し始めた。
「……あ。なんか電子ドラムってのあるみたいだぞ。普通のドラムより音が静からしい」
「しかも三万くらいで買えるのあるじゃん」
「ほ~。ならとりあえずそれ買うわ。うるさいって言われたら防音対策でもしてみるわ」
陸は話が早い。将来は仕事ができる人間になるだろう。
「でもいつかはちゃんとしたドラムで練習しないといけないだろ? その時はドラムがあるスタジオ借りて合わせようぜ」
「そうだな。本番だけドラムをレンタルすればお金もかからないだろ」
家にお金があるといってもできるだけ安く済ませたほうが俺達も心に負担がかからなくて済む。
「そういや言ってなかったけど、しずはがキーボードだから」
「はぁ~~~って!? いやいや! あの藤間しずはか? お前ら仲良いのは知ってるけどよ……」
冬矢がそう言うと、陸が驚く。
そういえば、陸ってしずはのことどこまで知ってるんだろう。
「確かピアノはやってるって聞いたことはあるけど」
「一応やってるぞ」
この感じ、しずはの実力は知らない感じだ。
「一緒に演奏したら、しずはに惚れちゃうか?」
「はは。確かに美人ではあるけど、俺は蓮ちゃん一筋だから」
「ほーん。つまんねーの」
蓮ちゃんとは山崎さんのことだ。
山崎さんは他校なのでこの学校にはいないが、陸がぞっこんの相手だ。
「てか文化祭どうにかして連れてこられねーかなぁ」
せっかくやるのだから、演奏している姿を見せたいよな。
「ジャージでも貸せばわかんないんじゃない?」
「あ~。確かにな。ちょっと今度俺のジャージ着せてみるわ」
「うわ~、何そのプレイ。好きな男子のジャージを借りるとか漫画によくあるやつじゃん」
「はは。いーだろ~。男物の服でブカブカになる感じ良いよな」
こいつ。ジャージでなくとも他の服で試したことがあるな?
「ま、マジで呼ぶならうまくやれよ」
「あぁ、時間はあるからな。抜け道他にも探してみるよ」
◇ ◇ ◇
陸の参加が決まってから、俺達四人のバンドメンバーで打ち合わせをすることになった。
「とりあえず三曲はできる時間あると思うから、一曲はオリジナルだとして、他はどうする?」
冬矢が切り出した。
「私は何でも良いよ。光流が歌いたいものにすれば?」
しずはは基本的にこちらに任せてくれる意見のようだ。
「陸はどうだ?」
「俺も特に決まりはないけど、盛り上げるなら皆が知ってる最近の曲とかが良いんじゃないか?」
「それは俺も思った」
陸の意見は正しい。誰も知らない曲を演奏して、拍手すらなかったら落ち込んでしまうかもしれない。
「俺はロックが好きだからそっち系の曲が良いとは思ってる」
「じゃあ一曲は光流の好きな曲にして、もう一曲は皆が知ってる曲にするってのはどうだ?」
俺の意見に冬矢が同意し、まとめていく。
すると俺を含めて全員がその内容に同意した。
「じゃあ最近の曲調べていこうぜ」
俺達はファミレスで飲み放題のドリンクを飲みながら打ち合わせを進めていった。
それぞれ今話題の曲を調べるためにスマホを操作していく。
「なぁ、藤間さんはなんでバンドに参加することになったんだ?」
陸はしずはに質問をした。
「私は光流がボーカルやるなら参加するって言ったの。冬矢が歌うとありきたりでつまんないでしょ?」
「はは。確かにな。無駄に女子からの注目集めちゃうな。面白くねぇ」
「なんだよお前ら。ベースでも目立ってやるからな俺は」
たまに見かけるロックバンドのベース。
めちゃめちゃ頭を振ったり動いたりしているのを見たことがある。
ただ、俺達のバンドではあんな感じで暴れないでほしい。
「逆に俺がボーカルやってさ、なんで冬矢じゃないんだよって冬矢ガールズから怒られない?」
「そんなことないよ。俺が舞台に上がってるだけで喜ぶだろ」
サッカー辞めてもこれまでの女子との関係は途切れていないんだな。
こういうところはさすがだ。
「そういや冬矢ってさ、俺達に彼女とか他の女子とか紹介したことないよな」
「まぁな。今まで紹介したいって思うやつがいなかっただけ」
「それでも付き合ったりはするんだ?」
「あぁ。付き合わないとわからないことってあるからな」
大人だ。経験者は語るってか。
ちょうど恋人がいたことある組といたことない組でテーブルを挟んでいる。
冬矢と陸。俺としずはだ。
しずはについては俺が断ってしまったのだが……。
「藤間さんはどうなんだ?」
「なにが?」
すると陸は突っ込んで話をしてきた。
「好きな人とか。だって少し前にも告白されてたんだろ?」
「まぁね。私に釣り合う人がいなかっただけ」
「あれ。……藤間さんってこんなこと言う人だったっけ?」
「ははっ。そうだよ……なっ、光流?」
だからこういう時に限って俺に振るなよ。
「さ、さぁ……」
適当に誤魔化した。
「それで好きな人はいないの?」
陸もしつこいな。
「いるよ」
「マジで!?」
「うん。大好き」
ちょお~~っと。マジでやめてくれ~~~。
いや、でも。少しずつ時間が過ぎて、俺なんか眼中になくなっているかもしれない。だとしたら俺はなんて勘違いをしてるんだ。
「おおおお~!! 誰なの!?」
「陸、お前なぁ。少しは気を遣えよ」
陸がどんどんしずはに質問をしていく。
さすがに冬矢も止めに入ってきたが――、
「こいつ」
「…………マジ?」
するとしずはが俺を親指で指差してきた。
今日のしずはは特に顔が赤くなることもなく、淡々と発言していた。
逆に俺の顔が少し熱くなっているのを感じてきていた。
「……ってことは、やっぱそうか。髪切ったのもそうだとしたら、辻褄が合う……」
陸は独り言を呟いていて、勝手に納得したようだった。
「考えてみれば藤間さんと仲良くしてる男子って光流と冬矢しかいないもんな。ぽっと出の男子じゃあり得ないか。薄々気づいてたけどな」
「ちなみにこの話、他の誰かにしたら殺すから。山崎さんにも話したらダメだよ」
自分から暴露したくせに、しずはは陸をもの凄い目つきで睨みつけていた。
「わかってるって。言わないよ。でも今も仲良くしてるってところも面白いんだよな」
「普通はなかなかこうはならないからな」
空になりかけているジュースのコップの氷をストローでくるくると回しながら陸がそう言うと、冬矢もそれに同意した。
「だって小学生の時から仲良くしてたんだよ? いきなり友達じゃなくなるなんて、俺にはできないよ」
「…………」
これはしずはも一緒だったはずだ。
嫌いになったわけでもない。ただ最初は少し顔を合わせることに恥ずかしさを感じていたけど、今はそうならずとも会話できる。
「――やっぱ光流は特別なやつだよ。陸、お前も少しずつわかってきただろ?」
「はは。そうかもな。光流みたいなやつはそうそういないかもな」
「どういうことだよ」
こいつらの言っていることが全くわからない。
「逃げたり避けたり、正面から向き合えなかったりできるやつって意外といないもんだ。その点お前は前を向いてる」
「光流の近くにいる女子は、仲良くなればなるほどそういう点に気づいて、好きになるのかもな」
「そんなの自覚ないから……」
正直俺からすれば、一言に尽きる。『人による』。
しずはじゃなかったら、こうやって今も仲良くできなかったと思う。
だから俺は大切だと思えるその一人の人間に対して向き合ってるだけ。
「無自覚系主人公ムカつくわ~」
「いいぞ藤間さん、もっと言ってやれ」
「いや……もうめっちゃ言われてるから……」
「なんだよ。もしかして光流の誕生日の話か? それ全然聞いてないから詳しく教えろよー!」
そういや冬矢にはカオスな誕生日会の話はしていなかったっけ。
しずはもノリに流されて叫んでしまってたからな。
「教えるわけないでしょ! 光流、言ったらあんたも殺す!」
「その言い方だと、俺もう殺されてるんですけど?」
しずはが凶暴になりかけてきた。
陸はもう殺されているようだ。
「とりあえず、曲についてはそれぞれ宿題な。一週間後にまた集まって案出し合おうぜ」
「おっけー」
楽器の練習、曲決め、オリジナル曲に至っては歌詞も考えないといけない。
文化祭に向けてやることが決まっていき、俺達のバンドは、バンドっぽくなっていった。
「あ、そういや俺達のバンド名考えたんだけど『リオネルクリスティ』どうだ!?」
「冬矢の好きなサッカー選手の名前組み合わせただけだろ……」
「却下! もっと可愛いのにして!」
「じゃあ「しずはと愉快な仲間たち」でいいんじゃね? 俺達の中でしずは以上に学校で有名なやついないだろ」
「あんたも殺すわよ?」
「なら『藤九』はどうだ? 藤間さんと光流の名字。なんかジェットコースターっぽくて勢いありそうじゃん」
「却下!」
俺達はこの後、しばらくの間バンド名で揉めることになった。
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