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98話 冬矢の家で
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――雪が降っていた。
地面に積もるほどではないが、肩や頭にかかる程度には雪が降っていた。
口から吐く息は白く舞い上がり夜空にふっと消え、それが繰り返されていく。
寒さでかじかむ手には手袋はつけてはおらず、そのせいでどんどん冷たくなる。
コートのポケットに手を突っ込み、少しだけでもと寒さに抵抗する。
四年前のあの頃の面影を少し残しながら少年は成長していた。
――今日は十二月二十四日。
"一生忘れられない日"となる、約束の日。
その日のちょうど一年前。
少年はそんな未来がくるとは微塵も想像できず、今日は別の目的で住宅街を一人歩いていた。
◇ ◇ ◇
――冬矢の家でクリスマスをする日だ。
プレゼント交換をするという話を聞いたので、俺は自分の買ったプレゼントを持って冬矢の家へと向かった。
深月が無事参加することになったので、しずはも参加する流れとなった。
俺達は十七時になると、冬矢の家の前で待ち合わせした。
「二人共、メリークリスマス」
向かい側から歩いてくる二人に手を振りながら俺はそう言った。
「光流、メリークリスマス」
「メリクリ」
やってきたしずはと深月がそう挨拶する。
今日は学校がお休みなので、二人共私服だった。
私服姿を見るのは久しぶりかもしれない。
深月は特に寒そうにしていて、首がマフラーの中に引っ込んでいた。
「じゃあ行こっか」
俺達は冬矢の家のインターホンを押した。
「――はいはーい!」
いつもの声がしたので中から冬矢が出迎えてくれた……と思いきや玄関から出てきたのは冬矢ではなかった。
冬矢も一応いたのだが、少し奥にいた。
まだうまく歩けないからか、その役目をしたのが別の人だった。
「「いらっしゃーい!」」
そう元気よく出迎えてくれたのは冬矢の妹二人だった。
小さい頃は何度か遊んだが、彼女たちを久しぶりに見た。
確か四歳年下だったろうか。つまり今は小学四年生になっている。
記憶にあった彼女たちよりも随分と成長したように感じた。
二人は同学年、つまり双子だった。
「わー、おっきくなってる」
「成長期ってやつか」
冬矢の妹たちは活発だ。
家の中で振り回された記憶しかない。
「久しぶりだね。雪羽ちゃん、氷美ちゃん」
「ひかる後で遊んでね!」
「遊んで!」
「わかったよ」
この家にくればいつも避けられなかったのが、この二人と遊ぶことだ。
でも今日はしずはも深月もいるから多少なり分散されるだろう。
「ほら、突っ立ってないで中に入んなよ」
冬矢にそう言われたので、俺達は服の雪を払って中に入った。
…………
「あら、光流くん! 冬矢のこといつもありがとう」
「おばさんお邪魔してます。いえ、お互い様なので」
「今日は楽しんでいってね!」
「はい」
リビングへ通されると、料理の準備をしていた冬矢の母親である池橋美雪さん。
美雪さんはハツラツとした性格で、長い茶髪をポニーテールにしてまとめている。
エプロン姿がとても似合う人だ。
「そちらのお嬢さんたちもお友達よね?」
「あっ、はじめまして。私は藤間しずはです」
「はじめまして。若林深月です」
美雪さんに声をかけられると軽く会釈をして二人が挨拶した。
「ほんっと可愛い子たちね。うちの子に引っかからないようにしてね?」
「母さん、余計な事言うんじゃんねぇよ」
「ふふ」
そんな冗談交じりの会話をしつつ、料理が用意されるまでの間、雪羽ちゃん、氷美ちゃんと遊んだ。
彼女達の遊びは成長しており、今はゲームをよくするようだった。
昔はおままごととか俺が乗り物になって背負ったりなどをしていた。
テレビゲームの他、トランプやUNO。あとは小学校で流行っているよくわからない遊びなどがあるらしい。
冬矢が今怪我をして動けないことから、トランプをすることになった。
「なんでぇ~~!?」
「また深月ちゃんのまけ~っ」
深月はババ抜きで三連続負けていたところ、冬矢の妹達から笑われた。
深月は表情に出やすい。ババがわかるのだ。
俺にもそれが見て取れた。
大敗を喫した深月をよそに料理の準備ができた。
…………
冬矢の父親も帰宅し、俺達はテーブルの前の椅子に座り、準備が整う。
「じゃあ……みんな、今日は集まってくれてありがとう!」
冬矢がジュースが入ったコップを持ちながら言う。
「光流、しずは、深月。楽しんでってくれ。メリークリスマス!」
「「「メリークリスマス!」」」
冬矢の掛け声でクリスマスパーティが始まった。
それぞれジュースを飲んで行く中、美雪さんと冬矢の父親はスパークリングワインを飲んでいた。
ちなみに冬矢の父親は池橋霜真。見た目はかなり若くて、イケイケな感じがする。冬矢を大人にしたような人物。つまりイケメンだ。
「光流くん。いつもうちの子が悪いね。助かってるよ」
「いえ、したくてしてることですから」
「本当に良い子だね」
「そんなことないですよ。冬矢のお陰で僕も助かってることがたくさんありますから」
霜真さんにそう言われて少し嬉しい。冬矢の両親はどちらも俺に感謝の言葉をくれる。
「いいって。そういうのは俺のいないところで言ってくれ。小っ恥ずかしい」
「いいじゃない。光流くんと話す機会がそんなにあるわけでもないんだから」
冬矢の親と話す機会は学校の行き帰りの時の挨拶くらいだったので、それほど会話する機会はなかった。
「それにしてもあんたが連れてきた子たちとんねもなく可愛いわね」
「俺もそう思うよ。な? 光流?」
なんで俺に振るんだよ!
しかもニヤニヤしてるし。
「そうだね。可愛いと思う」
「あらあら」
するとしずはも深月も、さすがに冬矢の家族の前でそう言われては恥ずかしかったのか二人とも顔が赤くなっていた。
「もう……」
「あんたら、後で覚悟しときなさいよ」
しずはも深月も赤い顔のまま俺たちを睨みつけてきた。
「まぁ、こんな感じのやつらだ。わかるだろ?」
「ふーん。あんたがたまに連れてくる女の子達よりは随分とキャラが違うみたいね」
普段どんな女の子とつるんでるんだ?
そこのところだけはあんまりわからないんだよな。
「はぁ? あんた女何人連れ込んでるのよ」
深月が引くような顔をして冬矢に聞いた。
「そりゃ何人もだ。悪いか?」
「……別に。あんたの自由だし」
よくそんな感じで言えるよな。
オープンな性格と言えば良くも見えるが、チャラさひけらかしてるとも言える。
そんなこんなで、料理も食べてケーキも食べて、プレゼント交換の時間になった。
冬矢が部屋にプレゼントとってくると言って妹二人が補助して一時的にリビングから離れた。
「あの、すみません。聞いてもいいですか?」
「いいわよ」
俺は冬矢の両親に聞きたいことがあった。
「サッカー、本当に辞めてしまっていいのでしょうか?」
俺と話してる時の冬矢の意見は理解した
だからこそ、家族に話していることと違うのではとも思った。
「私としてはもう辞めてもいいと思ってたの。怪我をした時のあの子の顔が見てられなくて」
「俺はあいつがしたいことすれば良いと思ってた。怪我のことはどうしても心配だけどな」
そうだよな。怪我は苦しかったよな。
試合中、練習中。心半ばにやりたいことができなくなるというのはかなり辛かったはずだ。
「あの子は怪我をしてから限界を感じてたみたいなの。どう頑張っても前より動けないって。だから私は希望として体を大切にしてほしいと言ったわ」
「それは俺も同意見だった。まだ中学生だ。進路なんていくらでも自由に決められるからな」
冬矢がサッカーを辞めることを強制したわけではなさそうだ。
昔からそんな両親ではないとわかってたけど。
「あいつは本当にサッカー辞めて良いと思ってると思いますか?」
できれば心残りは作って欲しくない。
いや、そんなことは無理なんだろうけどね。
「辞めたいとは多分思ってなかったわ。でも光流くんと音楽一緒にやるって言い出してからは違ったわ。なんだか前よりも元気な気がするもの」
「サッカーは好きでやってたろうけど、特にユースは厳しい世界だ。それだけじゃやっていけないだろう。でも、今のあいつは多少なりスッキリした顔してるよ」
「そうですか……」
バンドはサッカーを完全に諦めるきっかけにはなったということかな。
それはそれで微妙な気持ちでもあるけど、あいつが元気ならそれでいい。
「でもまたどこかでサッカーやることになったら、色々迷いがでるかもしれないわ。だからその時は助けてあげてほしいの」
「……はい。もちろんです」
そうは言われたが、なんとなく背中を押せるのは俺じゃないような気がした。
俺みたいな達観したような考えを持つ人より、ズバズバと嫌なことも言えてしまう相手。
そんな相手が冬矢の殻をぶち破ってくれるのではと思っていた。
「あなた方も良かったらこれからも仲良くしてあげてね」
美雪さんがしずはと深月にそう言う。
「私にできることなら」
「……少しだけなら」
後者の深月の言い方は、目の前にその人の親がいるにもかかわらず、微妙な言葉だった。
こういう深月のような裏表のない子が、冬矢には必要ではないかとも感じている。
「ふふ。面白い子ね」
美雪さんは微笑みながらそう言った。
多分深月のことだろう。
「プレゼントとってきたぞー! ……なんかあったか?」
すると冬矢が部屋から戻ってきた。
「なんでもないよ。冬矢遅いなって言ってたところだよ」
「わりぃわりぃ。どこしまったのか忘れちまっててさ」
俺は適当な嘘をついて誤魔化した。
そうして皆が揃ったので子供達だけでのプレゼント交換会が始まった。
プレゼント交換と言ってもただ適当に交換するわけではない。
ゲームをしてその勝者から割り当てられたトランプの番号のプレゼントをもらう形式だ。
そして今回のそのゲームとは大富豪だ。
ババ抜きでは深月が弱すぎたので、大富豪となった。
…………
「いえーい、俺いちばーん!」
すると冬矢が一番で上がった。
「私もこれで上がりー!」
二番はしずはだった。
「わたしもー」
「あがりー!」
すると冬矢の妹二人が次に上がった。
残るは俺と深月だった。
「あんた。わかってるでしょうね……」
「わかってるってなんだよ」
というかもう……。
「はい」
俺が出した数字は8のカード。
「は?」
「上がり」
8で強制的にその場が流れ、俺はもう一枚カードを出すことができる。
そして俺の手札は残り一枚だった。
「ぎゃあああ~~っ! なんなのよもうっ!」
「いやいや、これトランプを引く順番だから、勝ち負け関係ないよ」
「それでもこれはこれで勝負でしょうが!」
結局ババ抜きでも大富豪でも運がなかった深月。
「じゃあトランプめくっていこうぜ。じゃあ俺からな」
そうして裏になっている六人分のトランプが並べられ、冬矢から順番に引いていく。
「俺は五番か」
自分の番号が割り振られているプレゼントを受け取った。
ということで全員分、プレゼントが手元に渡った。
「順番に開けていこうぜ。俺から開けるな。ちなみにこの場ではどれが誰のプレゼントかは言わないこと」
冬矢がプレゼント包装された袋を開けていく。
すると出てきたのは手袋だった。
「おおー! 俺手袋持ってないから嬉しいわぁ。しっかりした作りだ。あったけぇ」
冬矢はさっそく手袋を装着していた。
それは俺も欲しい。最近外を歩くと手が冷たいからな。
「じゃあ私」
しずはが袋を開けていく。
出てきたのは二種類のシュシュだった。
このセンスは冬矢の妹のどちらかだろう。
というかこれ俺か冬矢に渡ってたらどうなってたんだ。使い道が……まぁ良いか。
「じゃあわたしー!」
次は雪羽ちゃん。
「えええ~~っ!! なにこれ可愛いっ!!!」
袋から出てきたのは小型のナイトランプだった。
しかも梨の形をした可愛いもの。
充電式で梨のへた部分を押し込むとぼんやりと暖色系の明かりがついた。
「雪羽ちゃん羨ましい~っ!」
まぁこれは俺のプレゼントだ。
というのも、プレゼントがわからなすぎて姉と一緒に買い物に行った。
こういう時の姉はとても役に立つ。
次は氷美ちゃん。
「わぁ~、これお洒落~っ。良い匂いする~」
出てきたのはアロマキャンドルだった。
その入れ物のデザインも可愛かった。
なんとなくしずはのものだと感じた。
そして俺の番。
袋を開けてみると出てきたのは……。
「筆箱だ」
多層式になっていて、ペンや消しゴムだけではなく細かいものも多数入れられるようになっていた。
ハサミやシャーペンの予備、マーカーなども複数入れられる大容量のものだった。
よく教科書に色や付箋をつける俺にとっては、とても実用的で良いものだった。
そして最後、深月だった。
「あ、あれ?」
すると出てきたのは手袋だった。
冬矢が受け取ったものと同じだった。
ただ、冬矢が受け取ったものはシンプルで男性女性どちらでも使えそうなデザイン。
一方深月が受け取った手袋は可愛らしいデザインで、モコモコでミトンの形をしている手袋だった。
「可愛い……」
深月がそう呟いた。
女子が良く使う"可愛い"という言葉。深月からはあまり聞いたことはなかったが、それを今聞くこととなった。
こうして、プレゼント交換が終わった。
「じゃああとは遊ぼー!!」
すると雪羽ちゃんが叫んだ。
俺達は皆で色々なゲームをしながら、クリスマスを楽しく過ごした。
◇ ◇ ◇
「今日は皆ありがとな」
「楽しかったよ」
「そうそう。妹さんたちも可愛かったし」
「まぁ、少しは?」
俺達は玄関で冬矢に見送ってもらっていた。
「深月はどのゲームでも弱すぎ」
「はぁ? うっさい!」
冬矢が茶化すと深月が怒る。
確かにどのゲームをしても深月は基本的に下位だった。逆にこれも才能なのかもしれない。
「じゃあお前ら気をつけて帰れよ」
「またな」
そうして俺達は冬矢の家をあとにした。
これは後からそれぞれに聞いたことだが、しずはが用意したのはアロマキャンドル。
そして深月と冬矢が用意したのが手袋だった。
つまり、冬矢と深月はお互いのプレゼントを交換したことになった。
これを本人達は知らないが、一つ凄い事実を聞いた。
どう見てもお店で買ったものにしか見えなかった冬矢がもらっていた手袋。
なんと深月の手作りだそうだ。
器用すぎだろ。
よくある太い毛糸で手編みしたものではなく、ミシンで作ったんだとか。
本格的過ぎる。
深月は料理やお菓子作りがある程度できるそうだが、そういう細かい作業も得意なようだった。
自分が用意したプレゼント同士を交換した変な因縁がある二人だが、これは何かのきっかけかもしれないと俺は思った。
ー☆ー☆ー☆ー
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地面に積もるほどではないが、肩や頭にかかる程度には雪が降っていた。
口から吐く息は白く舞い上がり夜空にふっと消え、それが繰り返されていく。
寒さでかじかむ手には手袋はつけてはおらず、そのせいでどんどん冷たくなる。
コートのポケットに手を突っ込み、少しだけでもと寒さに抵抗する。
四年前のあの頃の面影を少し残しながら少年は成長していた。
――今日は十二月二十四日。
"一生忘れられない日"となる、約束の日。
その日のちょうど一年前。
少年はそんな未来がくるとは微塵も想像できず、今日は別の目的で住宅街を一人歩いていた。
◇ ◇ ◇
――冬矢の家でクリスマスをする日だ。
プレゼント交換をするという話を聞いたので、俺は自分の買ったプレゼントを持って冬矢の家へと向かった。
深月が無事参加することになったので、しずはも参加する流れとなった。
俺達は十七時になると、冬矢の家の前で待ち合わせした。
「二人共、メリークリスマス」
向かい側から歩いてくる二人に手を振りながら俺はそう言った。
「光流、メリークリスマス」
「メリクリ」
やってきたしずはと深月がそう挨拶する。
今日は学校がお休みなので、二人共私服だった。
私服姿を見るのは久しぶりかもしれない。
深月は特に寒そうにしていて、首がマフラーの中に引っ込んでいた。
「じゃあ行こっか」
俺達は冬矢の家のインターホンを押した。
「――はいはーい!」
いつもの声がしたので中から冬矢が出迎えてくれた……と思いきや玄関から出てきたのは冬矢ではなかった。
冬矢も一応いたのだが、少し奥にいた。
まだうまく歩けないからか、その役目をしたのが別の人だった。
「「いらっしゃーい!」」
そう元気よく出迎えてくれたのは冬矢の妹二人だった。
小さい頃は何度か遊んだが、彼女たちを久しぶりに見た。
確か四歳年下だったろうか。つまり今は小学四年生になっている。
記憶にあった彼女たちよりも随分と成長したように感じた。
二人は同学年、つまり双子だった。
「わー、おっきくなってる」
「成長期ってやつか」
冬矢の妹たちは活発だ。
家の中で振り回された記憶しかない。
「久しぶりだね。雪羽ちゃん、氷美ちゃん」
「ひかる後で遊んでね!」
「遊んで!」
「わかったよ」
この家にくればいつも避けられなかったのが、この二人と遊ぶことだ。
でも今日はしずはも深月もいるから多少なり分散されるだろう。
「ほら、突っ立ってないで中に入んなよ」
冬矢にそう言われたので、俺達は服の雪を払って中に入った。
…………
「あら、光流くん! 冬矢のこといつもありがとう」
「おばさんお邪魔してます。いえ、お互い様なので」
「今日は楽しんでいってね!」
「はい」
リビングへ通されると、料理の準備をしていた冬矢の母親である池橋美雪さん。
美雪さんはハツラツとした性格で、長い茶髪をポニーテールにしてまとめている。
エプロン姿がとても似合う人だ。
「そちらのお嬢さんたちもお友達よね?」
「あっ、はじめまして。私は藤間しずはです」
「はじめまして。若林深月です」
美雪さんに声をかけられると軽く会釈をして二人が挨拶した。
「ほんっと可愛い子たちね。うちの子に引っかからないようにしてね?」
「母さん、余計な事言うんじゃんねぇよ」
「ふふ」
そんな冗談交じりの会話をしつつ、料理が用意されるまでの間、雪羽ちゃん、氷美ちゃんと遊んだ。
彼女達の遊びは成長しており、今はゲームをよくするようだった。
昔はおままごととか俺が乗り物になって背負ったりなどをしていた。
テレビゲームの他、トランプやUNO。あとは小学校で流行っているよくわからない遊びなどがあるらしい。
冬矢が今怪我をして動けないことから、トランプをすることになった。
「なんでぇ~~!?」
「また深月ちゃんのまけ~っ」
深月はババ抜きで三連続負けていたところ、冬矢の妹達から笑われた。
深月は表情に出やすい。ババがわかるのだ。
俺にもそれが見て取れた。
大敗を喫した深月をよそに料理の準備ができた。
…………
冬矢の父親も帰宅し、俺達はテーブルの前の椅子に座り、準備が整う。
「じゃあ……みんな、今日は集まってくれてありがとう!」
冬矢がジュースが入ったコップを持ちながら言う。
「光流、しずは、深月。楽しんでってくれ。メリークリスマス!」
「「「メリークリスマス!」」」
冬矢の掛け声でクリスマスパーティが始まった。
それぞれジュースを飲んで行く中、美雪さんと冬矢の父親はスパークリングワインを飲んでいた。
ちなみに冬矢の父親は池橋霜真。見た目はかなり若くて、イケイケな感じがする。冬矢を大人にしたような人物。つまりイケメンだ。
「光流くん。いつもうちの子が悪いね。助かってるよ」
「いえ、したくてしてることですから」
「本当に良い子だね」
「そんなことないですよ。冬矢のお陰で僕も助かってることがたくさんありますから」
霜真さんにそう言われて少し嬉しい。冬矢の両親はどちらも俺に感謝の言葉をくれる。
「いいって。そういうのは俺のいないところで言ってくれ。小っ恥ずかしい」
「いいじゃない。光流くんと話す機会がそんなにあるわけでもないんだから」
冬矢の親と話す機会は学校の行き帰りの時の挨拶くらいだったので、それほど会話する機会はなかった。
「それにしてもあんたが連れてきた子たちとんねもなく可愛いわね」
「俺もそう思うよ。な? 光流?」
なんで俺に振るんだよ!
しかもニヤニヤしてるし。
「そうだね。可愛いと思う」
「あらあら」
するとしずはも深月も、さすがに冬矢の家族の前でそう言われては恥ずかしかったのか二人とも顔が赤くなっていた。
「もう……」
「あんたら、後で覚悟しときなさいよ」
しずはも深月も赤い顔のまま俺たちを睨みつけてきた。
「まぁ、こんな感じのやつらだ。わかるだろ?」
「ふーん。あんたがたまに連れてくる女の子達よりは随分とキャラが違うみたいね」
普段どんな女の子とつるんでるんだ?
そこのところだけはあんまりわからないんだよな。
「はぁ? あんた女何人連れ込んでるのよ」
深月が引くような顔をして冬矢に聞いた。
「そりゃ何人もだ。悪いか?」
「……別に。あんたの自由だし」
よくそんな感じで言えるよな。
オープンな性格と言えば良くも見えるが、チャラさひけらかしてるとも言える。
そんなこんなで、料理も食べてケーキも食べて、プレゼント交換の時間になった。
冬矢が部屋にプレゼントとってくると言って妹二人が補助して一時的にリビングから離れた。
「あの、すみません。聞いてもいいですか?」
「いいわよ」
俺は冬矢の両親に聞きたいことがあった。
「サッカー、本当に辞めてしまっていいのでしょうか?」
俺と話してる時の冬矢の意見は理解した
だからこそ、家族に話していることと違うのではとも思った。
「私としてはもう辞めてもいいと思ってたの。怪我をした時のあの子の顔が見てられなくて」
「俺はあいつがしたいことすれば良いと思ってた。怪我のことはどうしても心配だけどな」
そうだよな。怪我は苦しかったよな。
試合中、練習中。心半ばにやりたいことができなくなるというのはかなり辛かったはずだ。
「あの子は怪我をしてから限界を感じてたみたいなの。どう頑張っても前より動けないって。だから私は希望として体を大切にしてほしいと言ったわ」
「それは俺も同意見だった。まだ中学生だ。進路なんていくらでも自由に決められるからな」
冬矢がサッカーを辞めることを強制したわけではなさそうだ。
昔からそんな両親ではないとわかってたけど。
「あいつは本当にサッカー辞めて良いと思ってると思いますか?」
できれば心残りは作って欲しくない。
いや、そんなことは無理なんだろうけどね。
「辞めたいとは多分思ってなかったわ。でも光流くんと音楽一緒にやるって言い出してからは違ったわ。なんだか前よりも元気な気がするもの」
「サッカーは好きでやってたろうけど、特にユースは厳しい世界だ。それだけじゃやっていけないだろう。でも、今のあいつは多少なりスッキリした顔してるよ」
「そうですか……」
バンドはサッカーを完全に諦めるきっかけにはなったということかな。
それはそれで微妙な気持ちでもあるけど、あいつが元気ならそれでいい。
「でもまたどこかでサッカーやることになったら、色々迷いがでるかもしれないわ。だからその時は助けてあげてほしいの」
「……はい。もちろんです」
そうは言われたが、なんとなく背中を押せるのは俺じゃないような気がした。
俺みたいな達観したような考えを持つ人より、ズバズバと嫌なことも言えてしまう相手。
そんな相手が冬矢の殻をぶち破ってくれるのではと思っていた。
「あなた方も良かったらこれからも仲良くしてあげてね」
美雪さんがしずはと深月にそう言う。
「私にできることなら」
「……少しだけなら」
後者の深月の言い方は、目の前にその人の親がいるにもかかわらず、微妙な言葉だった。
こういう深月のような裏表のない子が、冬矢には必要ではないかとも感じている。
「ふふ。面白い子ね」
美雪さんは微笑みながらそう言った。
多分深月のことだろう。
「プレゼントとってきたぞー! ……なんかあったか?」
すると冬矢が部屋から戻ってきた。
「なんでもないよ。冬矢遅いなって言ってたところだよ」
「わりぃわりぃ。どこしまったのか忘れちまっててさ」
俺は適当な嘘をついて誤魔化した。
そうして皆が揃ったので子供達だけでのプレゼント交換会が始まった。
プレゼント交換と言ってもただ適当に交換するわけではない。
ゲームをしてその勝者から割り当てられたトランプの番号のプレゼントをもらう形式だ。
そして今回のそのゲームとは大富豪だ。
ババ抜きでは深月が弱すぎたので、大富豪となった。
…………
「いえーい、俺いちばーん!」
すると冬矢が一番で上がった。
「私もこれで上がりー!」
二番はしずはだった。
「わたしもー」
「あがりー!」
すると冬矢の妹二人が次に上がった。
残るは俺と深月だった。
「あんた。わかってるでしょうね……」
「わかってるってなんだよ」
というかもう……。
「はい」
俺が出した数字は8のカード。
「は?」
「上がり」
8で強制的にその場が流れ、俺はもう一枚カードを出すことができる。
そして俺の手札は残り一枚だった。
「ぎゃあああ~~っ! なんなのよもうっ!」
「いやいや、これトランプを引く順番だから、勝ち負け関係ないよ」
「それでもこれはこれで勝負でしょうが!」
結局ババ抜きでも大富豪でも運がなかった深月。
「じゃあトランプめくっていこうぜ。じゃあ俺からな」
そうして裏になっている六人分のトランプが並べられ、冬矢から順番に引いていく。
「俺は五番か」
自分の番号が割り振られているプレゼントを受け取った。
ということで全員分、プレゼントが手元に渡った。
「順番に開けていこうぜ。俺から開けるな。ちなみにこの場ではどれが誰のプレゼントかは言わないこと」
冬矢がプレゼント包装された袋を開けていく。
すると出てきたのは手袋だった。
「おおー! 俺手袋持ってないから嬉しいわぁ。しっかりした作りだ。あったけぇ」
冬矢はさっそく手袋を装着していた。
それは俺も欲しい。最近外を歩くと手が冷たいからな。
「じゃあ私」
しずはが袋を開けていく。
出てきたのは二種類のシュシュだった。
このセンスは冬矢の妹のどちらかだろう。
というかこれ俺か冬矢に渡ってたらどうなってたんだ。使い道が……まぁ良いか。
「じゃあわたしー!」
次は雪羽ちゃん。
「えええ~~っ!! なにこれ可愛いっ!!!」
袋から出てきたのは小型のナイトランプだった。
しかも梨の形をした可愛いもの。
充電式で梨のへた部分を押し込むとぼんやりと暖色系の明かりがついた。
「雪羽ちゃん羨ましい~っ!」
まぁこれは俺のプレゼントだ。
というのも、プレゼントがわからなすぎて姉と一緒に買い物に行った。
こういう時の姉はとても役に立つ。
次は氷美ちゃん。
「わぁ~、これお洒落~っ。良い匂いする~」
出てきたのはアロマキャンドルだった。
その入れ物のデザインも可愛かった。
なんとなくしずはのものだと感じた。
そして俺の番。
袋を開けてみると出てきたのは……。
「筆箱だ」
多層式になっていて、ペンや消しゴムだけではなく細かいものも多数入れられるようになっていた。
ハサミやシャーペンの予備、マーカーなども複数入れられる大容量のものだった。
よく教科書に色や付箋をつける俺にとっては、とても実用的で良いものだった。
そして最後、深月だった。
「あ、あれ?」
すると出てきたのは手袋だった。
冬矢が受け取ったものと同じだった。
ただ、冬矢が受け取ったものはシンプルで男性女性どちらでも使えそうなデザイン。
一方深月が受け取った手袋は可愛らしいデザインで、モコモコでミトンの形をしている手袋だった。
「可愛い……」
深月がそう呟いた。
女子が良く使う"可愛い"という言葉。深月からはあまり聞いたことはなかったが、それを今聞くこととなった。
こうして、プレゼント交換が終わった。
「じゃああとは遊ぼー!!」
すると雪羽ちゃんが叫んだ。
俺達は皆で色々なゲームをしながら、クリスマスを楽しく過ごした。
◇ ◇ ◇
「今日は皆ありがとな」
「楽しかったよ」
「そうそう。妹さんたちも可愛かったし」
「まぁ、少しは?」
俺達は玄関で冬矢に見送ってもらっていた。
「深月はどのゲームでも弱すぎ」
「はぁ? うっさい!」
冬矢が茶化すと深月が怒る。
確かにどのゲームをしても深月は基本的に下位だった。逆にこれも才能なのかもしれない。
「じゃあお前ら気をつけて帰れよ」
「またな」
そうして俺達は冬矢の家をあとにした。
これは後からそれぞれに聞いたことだが、しずはが用意したのはアロマキャンドル。
そして深月と冬矢が用意したのが手袋だった。
つまり、冬矢と深月はお互いのプレゼントを交換したことになった。
これを本人達は知らないが、一つ凄い事実を聞いた。
どう見てもお店で買ったものにしか見えなかった冬矢がもらっていた手袋。
なんと深月の手作りだそうだ。
器用すぎだろ。
よくある太い毛糸で手編みしたものではなく、ミシンで作ったんだとか。
本格的過ぎる。
深月は料理やお菓子作りがある程度できるそうだが、そういう細かい作業も得意なようだった。
自分が用意したプレゼント同士を交換した変な因縁がある二人だが、これは何かのきっかけかもしれないと俺は思った。
ー☆ー☆ー☆ー
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