包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜

藤白ぺるか

文字の大きさ
上 下
59 / 270

59話 サンドイッチ

しおりを挟む
 お風呂に入っていた所、希咲さんと鞠也ちゃんが浴室まで入ってきて、俺は驚いた。
 出ようとしたのに、希咲さんに止められて一緒に入らなくては行けない状況になってしまった。

「これ、母さんとか姉ちゃんに言ってるんですか?」
「希沙良には言ってるわよ。灯莉ちゃんにはまだね」
「そうですか……」

 こういうの聞いたらお姉ちゃんも一緒に入るとか言わないだろうか。
 今は一緒に寝ることは許してはいるけど、もしそうなれば一人の時間がなくなってしまう。
 姉と一緒にお風呂に入っていたのは小学二年生くらいまでだったろうか。今は一緒に入っていない。

「ひかる、体洗ってね~」
「俺が!?」
「うん!」

 俺は希咲さんの方に顔を向ける。目を瞑ったままだが、俺が何を言いたいのかわかってもらえるだろう。

「目瞑ってるならいいんじゃない?」
「自分の娘さん大事にしてくださいよぉ~」
「鞠也がしてほしいって言うなら私はさせてあげるだけ」
「俺と一歳しか変わらないのに」
「まぁまぁ気にせず一緒にお風呂楽しみましょ」
「そうだぞひかる~」

 どうやっても一緒に入ることは変わらないようなので、もう諦めるしかない。

「誰から洗います?」
「先に光流ちゃん洗っていいわよ」
「じゃあ浴槽で温まっててください」

 俺はまだ頭も体も洗っていなかった。
 それなら先にさせてもらおう。

 タオルなんか持って入らないので、とりあえず股間を片手で隠しながら、風呂椅子を探す。
 隣でザバンと風呂に入る音が聞こえたので、無事に浴槽に入ったらしい。

「光流ちゃん、何か変わったわよね?」

 俺が頭を洗っている途中に希咲さんが聞いてきた。

「入院して何か変わったのかもしれませんね」
「こっちだって希沙良から色々と聞いてるのよ? そういうことじゃなくてね」

 ルーシーのことも少なからずバレているということだろうか。

「そういうことなら、少しは変わったでしょうね」
「どう変わったと思う?」

 どう変わった?
 今までそれは考えたことはなかった気がする。ルーシーのことが好きって気持ちは多分あるんだろうけど、他に俺の何が変わったというのだろうか。

「どうでしょう。自分ではあまりわからないです」
「小学生だとまだ自分の変化は気づきにくいかもね」
「そうかもしれません」

 俺は頭を洗ってから洗顔を始める。
 大体の場所はわかっているが、一瞬だけちらっと目を開けて洗顔フォームに手を出す。
 鏡が曇っていたので、余計なものが見えなくてよかった。

「じゃあ、退院してから始めたことってある?」
「それならあります。勉強を前より頑張ってるのと、筋トレとジョギングですね」
「いいじゃなーい。鞠也なんて何にもしてないんだから」
「俺だって前まで何もしてませんでしたよ」
「ふふ、それって何の為に始めたの?」

 何のために……それは一つしかない。何に役に立つかはわからないけど、きっかけは全てルーシーだ。ルーシーのため、これしかない。

「ええと、なんて言ったらいいか。ある人の、ためですかね……」
「……そう。その子のためなのね」

 やっぱり少しはルーシーのことを聞いていたみたいだ。

「その子ってだーれー?」

 鞠也ちゃんが聞いてきた。

「光流ちゃんの大切な人よ」
「光流は鞠也のこと大切じゃないの?」
「それとはまた別ね。あなたはあなたで大切だと思うわよ」

 さすがに従姉妹にルーシーと同じ気持ちは持てないと思う。可愛い従姉妹ではあるけど。

 俺が顔を洗い終えると次に体を洗い始める。しかしーー、

「ほら、鞠也背中洗ってあげなさい」
「!?」

 いや、早まるな俺。背中は背中だ。背中だけなら……いいか。

「背中だけなら……」

 ザバンと浴槽から出てきたらしい鞠也ちゃんが、ボディソープを取ってゴシゴシとボディタオルで泡立てているようだ。

「ひかる、じゃあ洗うね」
「う、うん、お願い」

 肩の辺りからボディタオルが触れて、俺の背中へと上下に擦られていく。
 他人にされるとなんか変な気分だ。力の入れ具合がわからないからか、気持ちいいとは言えない。

「鞠也ちゃん、もうちょっと強めにしていいよ?」 
「わかった」

 すると鞠也ちゃんの力が強まり、背中が気持ちよくなっていく。
 汚れが落ち、背中が綺麗になっていく感覚になる。ただ、力は収まる所をしらずーー、

「いだだだだっ! もうちょっと弱めで!」
「痛かった? ごめんね。こうかな?」
「う、うん。いい感じ……」

 これは気を遣う。なんてことをしてくれるんだ希咲さん。
 せっかくしてくれる鞠也ちゃんを落ち込まないようにしないといけない。

「大体いいよ。あとは俺がやるから、タオルもらえる?」
「はい」

 鞠也ちゃんからタオルを渡される。
 ふう。特にトラブルは起きないようだ。良かった。トラブルが起きるならルーシーがいい……って、なんてこと俺は考えてるんだ!

 ルーシーとお風呂かぁ。楽しそう。いや、変な意図はなく。普通の意味で。

 俺は最速で前側や足などを洗ってシャワーで洗い流した。

「じゃあ、次は希咲さんと鞠也ちゃんどうぞ」
「何言ってるのよ。タオルは一つしかないんだから一人ずつしか洗えないでしょ?」
「え……」
「ほら、先に鞠也洗いなさい」
「はーい」

 え。てことは俺はどうすれば? 浴槽に入るつもりだったんだけど、まだ浴槽の中には希咲さんがいるし。風呂椅子の後ろ辺りで待機しておけば良い?

「光流ちゃん、何してるの。そこだと邪魔じゃない。早く中に入りなさい?」
「い、いや。さすがにそれはぁ……」
「もう、親戚なんだから気にすることないのに、ほらっ」
「わっ、わわわ」

 急に希咲さんに腕を引っ張られ、浴槽へと誘導される。
 俺はまだ目を瞑っているので、どんな感じで浴槽に入るのかわかっていない。とりあえずなんとか浴槽の縁を跨いでお湯に浸かった。

『ふにょ……』

「ーーーー!?」

 これ、絶対……! 俺の足の左右に足のようなものが触れている。俺の肩から胸に向かって腕のようなものが伸びている。そして、俺の背中には何か柔かいものがーー当たっている。

 やばいやばい。俺の下半身、耐えろ。耐えてくれ。

「やっぱり、鞠也とは違うわね。小さいけど男の子の体なのね」
「き、希咲さん。さすがにこの体勢は……」
「もう……いつまで気にしてるの? もう浸かっちゃってるんだから気にしないの」

 大人というものはこういう事は気にしないのだろうか。確かに俺はまだ子供だけど、気にしないというのは難しい。

「そういえば、どこらへんに住む予定なんですか?」

 俺は無心になって質問をした。

「せっかくだからこのお家の近くにしようかなって思ってるの。そうしたらお互いに協力し合えるでしょ?」
「協力とは?」
「例えば、両親が旅行とかどこか行きたい時とかは、家に子供だけ待たせるのは親としては心配でしょ? それなら様子を見たり、互いの家に子供をお願いしたりね。親戚くらいしかこういうのは頼みづらいからね」

 そういえば、俺達が生まれてから、母さん達は二人きりで旅行などに行っただろうか? 少し家を空けることはあったけど、二人きりの旅行はないように思える。確かにそれなら、協力し合うというのはいいかもしれない。

「それは良いですね。そういう時はお世話になるかもしれません」
「まぁ、光流くんは友達もいそうだし、私のお家じゃなくてもお泊りとかあるかもしれないけどね」

 お泊りか。昔一度だけ冬矢の家に泊まった経験はある。あの時はお泊りは楽しすぎた。
 あるあるかもしれないけど、普通に夜ふかししてゲームをしまくった。
 夜中に大きな声を出してしまい、冬矢の母に注意されたっけ。

 そうしているうちに鞠矢ちゃんが頭も体も洗い終わったみたいだ。

「ざばーん!」
「鞠矢ちゃん!?」

 すると間髪入れずに既に二人が入っている浴槽に飛び込んできた。

 空いているのは俺の前だけ。背中には希咲さん。前には鞠也ちゃん。
 鞠也ちゃんの小さな背中が、俺の上半身に触れてしまう。俺は今、親戚親子に完全にサンドイッチ状態にされている。

「狭いね!」
「ちょ、俺出る!」
「はいはい~。せっかくなんだし、三人で温まりましょ」
「希咲さん!?」

 希咲さんに両腕と足を絡ませられ、立ち上がろうにもそれはできなかった。
 片手は股間を抑えているために。鞠也ちゃんのお尻が少しだけ俺の手に触れてしまう。

「あったかーい」
「ちょっとさすがにこの状況は……」
「なに? その子に悪い?」
「そういうわけではなくてぇ……」

 俺はルーシーに悪いと思っているのだろうか。確かにこういう初めて経験することはできればルーシーと体験していきたい。ルーシーが俺を忘れていなければ。

 ルーシーのことを考えると、いつも会いたいという気持ちになってしまう。ただ、なんとも言えないその気持ちになぜか心が安らぐ。

 今こうやって希咲さんや鞠也ちゃんと裸で接触はしているけど、ルーシーと抱き締めあった時の感覚とはとは比べ物にならない。

「やっぱりでます!!」

 ルーシーのことを想ったせいか、俺はもう気にせず両手で力いっぱいに浴槽の縁を掴んだ。上を向いて目を開き、浴槽を跨ぎ濡れた体のまま扉を開けた。すぐにタオルで体を拭いた。

「もっとゆっくりすればいいのにね」
「ひかるのひかるが少し見えた……」

 なんだか浴室から声が漏れてきたが気にしないことにした。
 遠坂親子に挟まれたせいか体が熱い。

 二人が出てくる前に急いでパジャマを着て、部屋に戻った。



 ーー翌朝、熱が出て俺は学校を休んだ。




 ー☆ー☆ー☆ー

この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ★評価やブックマーク登録などの応援をしていただけると嬉しいです。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

処理中です...