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37話 真空と冬矢

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 私と光流は、リムジンに乗り込んだ。
 うちの車だけど、光流が先に乗り込み、手を取って中に引き上げてくれた。ジェントルマンだ。

「真空……」
「……ッ!? ルーシーっ!!!」

 中に入った途端、真空が私に抱きついてきた。

「ルーシーっ……ルーシーっ!! 顔が……顔が……っ!! 私、わたし……っ」
「よしよし……」

 いつもはどちらかと言えば、私が真空に抱き締められるほうだけど、今回ばかりは逆になっていた。

 真空は泣きながら私の顔をむにっと掴んでこれでもかというほどに触っていく。

「こんなに……綺麗で……可愛くてっ……本当に……良かった、良かったよ……ルーシー……」
「待たせてごめんね。私、こんな顔だったんだ……」

 やっと真空に見せることができた。……本当に嬉しい。
 素顔を見せるだけで、こんなにも喜んでもらえるなんて、なんて私は幸せなんだろう。

「こんなの……私なんか目じゃないよっ……ルーシーの方が百万倍かわいいっ……!!」
「そんなことない……真空の方がずっと、ずっとかわいいよ……」

 お互いを褒め合った。私も少し涙が出てきた。
 真空と本当に友達になれてよかった……。

「冬矢……なんでここに……」

 すると、私と真空が抱き締め合っていたところに、光流が疑問を投げかける。

「あれ……知らない人……」

 今気づいた。私の知らない人が、車に乗っている。

「あぁ、氷室さんって人に車に乗って待つように言われてさ」
「わざわざ来てくれたんだ……」
「そりゃお前のこと心配で様子見に来てやったんだよ……」
「お前も面倒見がいいな……ありがとな」

 長年の友達のようなやりとり。この人がおそらくさっき光流が話していた冬矢という友達なんだろう。

「ルーシー、俺の友達の池橋冬矢いけはしとうや。小学校の時からの付き合いで同い年」
「どうも……って、めちゃめちゃ美人じゃねーかっ!!! お前前世でどんな徳積んだらこんなに美人な二人と知り合えるんだよ……あ、池橋冬矢です。よろしく」
「えっ……片方は俺知り合いじゃ……」

 ちょっと軽い感じの喋り方。関わったことのない人……とは言わない。どちらかと言えば、アメリカのクラスでは彼のような人の方が多い気がしていた。

「はじめまして。宝条ほうじょう・ルーシー・凛奈りんなです。私も光流と同い年なので、よろしくお願いします」
「はーっ……こんな良い子を三十分も待たせてさぁ……バチが当たればいいのにっ」

 丁寧に挨拶すると、冬矢くんは、光流に対して愚痴をぶつけた。これが彼らのスキンシップなんだろう。

「てかっ、ルーシーの顔見るなぁぁぁっ!!!」
「真空っ!?」

 真空は冬矢くんの目を隠すように殴りかかる。

「どういう状況……?」
「私が知りたい……」

 光流も私も二人の関係が読めなかった。いきなり喧嘩のようになっているし、どうなっているんだろう。

「おっ、おい! やめろっ! 痛いっ、痛いって……! 初対面なのにっ! こ、このっ、暴力女っ!!」
「うるさいっ!! お前にはまだルーシーの綺麗な顔を見るには早いっ!! 見れないように目を潰してやるっ!!」



 ◇ ◇ ◇



 しばらく二人の格闘が続いたあと、真空は私の包帯を要求した。
 外したばかりの包帯は大事に持っておきたかったので、予備で持っていた別の包帯を渡した。

 真空が何をしたいのかよくわからなかったけど、包帯を手に取ると冬矢くんの目を縛って目隠しをした。

「ひとまずこれでよし……お前、包帯とるなよ」
「へいへい……わーったよ」

 一応、一段落したようだ。

「光流……こちら、私の友達の朝比奈真空あさひなまそらっ!」
「はじめまして、光流くんっ! もうルーシーからずっと話聞いてて、会いたかったんだっ! その様子を見るに、良い感じになったみたいだねっ」

 真空は満面の笑みで、光流に挨拶した。

「朝比奈さん、はじめまして。九藤光流くどうひかるです。ルーシーがこうやって人に紹介するってことは、すごい仲が良いんだろうね」
「そーね、すごく仲いいよっ! でもルーシーとはまだ三ヶ月ちょっとくらい。そのうち光流くんに超されちゃうだろうな~っ。てか、真空でいいよっ!」

 真空特有のコミュニケーション能力で、すぐに光流と打ち解ける感じに話していく。

「じゃあ……真空、で……」
「よしっ」

 真空は凄いなぁ。初対面でこうやって相手に近づけるんだもん。
 目隠しで放置されている冬矢くんとも、喧嘩はしたみたいだけど、多少は打ち解けてたみたいだし。

「真空……ええと、その冬矢くんの目隠し取ってもいいよ? 私、光流と真空に顔見せれたから満足してるし……」

 ちなみに遠目で運転席からバックミラーで、須崎が私の顔を覗いているのがわかった。
 サングラスをとって、ハンカチで目を拭っているのが見えた。

「ほら、その子も言ってるだろ? とってくれよぉ~」
「その態度。なんか取りたくないっ」
「いいよ、気にしないで……」
「ルーシー甘い~~~っ」

 そう言いながら、真空は冬矢くんの顔に手をかけて包帯を外す。

「あ~、すっきりっ」
「余計なこと喋るなよ?」
「へいへ~い」

 毎日教室で喧嘩をする友達のような会話を繰り広げる真空と冬矢くん。

「ねぇ、二人に何があったの? 初対面だよね?」

 疑問に思ったので聞いてみた。

「なんか見た目チャラそうだし、喋り方とかムカつくし、最初にルーシーのことルーシーって呼ぼうとしたし、とにかく気に食わないっ!」
「半分はお前の主観じゃねーか!」
「おまえ~~?」
「真空さん……?」
「あ?」
「朝比奈、さん?」
「それでいい……」

 なんか初対面なのにもう上下関係が出来てる。
 いつも以上に口が悪い。こういう男の子に対してはそうなっちゃうのかな真空は。なんかまた別の真空の一面が見れて楽しい。

「ルーシーって呼び方の件も……もういいかな……」
「えっ!? いいの……?」
「うん……これだって、私の変なエゴだし……いくらでも別の呼び方も……できるし……」
「なになに!? ルールー!? しーちゃん!? るーりん!? きゃ~っ! 光流くんなんて呼ぶの!?」
「お、俺っ!?」

 突然話を振られた光流が困惑する。さすがに真空の勢いにはついていけてないようだ。

「ええと……るーちゃん、とか?」
「きゃあ~っ!! 聞いた!? ルーシー聞いたっ!? るーちゃんだって!! やばいっやばいよっ!」
「光流っ!?」

 私は顔が真っ赤になった。光流が私のことを『るーちゃん』。ダメだ、恥ずかしすぎる。
 こう、呼び方だけで、こんなにも特別な何かを感じるんだ。

「それで、これからどうする? 今日はクリスマスイブだぜ?」

 冬矢くんが、話を切り出す。

「あ……私たち、邪魔だよね……? ほら、冬矢、出るぞっ」
「は、はぁっ!?」

 冬矢くんの名前を呼び捨てで呼んだ真空は、腕を引っ張って車の外で出ようとする。

「みんなでっ! できれば、みんなでお祝いしない!?」
「うん……俺も、それが良いと思う」

 私と光流が同じように言う。
 すると真空と冬矢くんが顔を見合わせて……

「ほんとに良いの……?」
「そうだそうだ、俺らなんて邪魔だろ?」

 二人的には、私と光流を二人っきりにさせたいようだ。
 さっきは光流とは何とか喋れていたけど、やっぱりまだドキドキはしていて、うまく喋れる気がしない。私的にはこの二人がいたら、もっと会話がしやすいような気がしていた。

「私は、ワイワイ楽しい方がいい……」
「俺も、るーち……シーと同じだ」
「ふふっ……」
「何笑ってんだよルーシー」

 多分るーちゃんと言おうとして、やめた。光流の顔が赤くなっている。
 ……すごい可愛い。

「二人が良いならいいけど」
「俺もそれでいいなら……」

 ということで、四人でクリスマスパーティーをすることになった。




 ー☆ー☆ー☆ー

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