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13話 一緒に
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学校が終わり、夕方。私のスマホのチャットアプリに一通の通知があった。
歌のコーチのアレックスからだった。
メッセージ内には音源のファイルが添付されてあった。
「ついにできたんだ……」
まだ私は学校の校舎近くのベンチにいた。真空も一緒だ。
「ほら! ルーシー早く聴いてみなよ!」
真空も早く聴きたいのか、急かしてくる。
「ねぇ、一緒に聴いてもらっていい?」
私はイヤホンを取り出し、ベンチの隣に座る真空に聞く。
「いいの!? だって今初めて出来上がった歌聴くんでしょ? 最初は自分一人で聴きたいんじゃないの?」
確かにそうかもしれないけど、なぜか一人で聴くのは怖かったので、二人で聴きたかった。
こういう体験は今までできなかった分、できる限り人と共有したい。独り占めしたい感覚・体験は、また別にあるから……。
「うん。真空に一緒に聴いてほしい。変だったら変ってちゃんと感想言ってね」
「アホぉ~。そんなこと言わないの。でも私の性格上率直には言うかもしれないね」
真空は私の頭を軽くチョップした。彼女は明るく元気で結構一直線なタイプだ。ここ一ヶ月でそう感じた。嘘は苦手な方だと思う。だからこそ彼女の意見は信頼できる。
私はBluetoothイヤホンの片方を真空に渡す。
「……じゃあ、流すね」
私は音源のファイルを開き、再生ボタンを押した。
「ーーーーー」
流れてくる、私の声。歌の練習では、スマホの録音機能で自分の声を聴いたけど、自分が歌っている時に聴こえる声とは全然違って聞こえた。凄い変な感覚だった。ただ、アレックスからもらった音源は、それとはまた違った声色をしていた。良い方向で。
私だけど、私じゃないような声。……でもやっぱり私。
編集って凄い。
真空と二人で静かに集中して、四分ほどで一つの曲を最後まで聴き切った。
「ーーーーー」
曲が終わると真空がイヤホンを耳から外す。同時に私もイヤホンを耳から外した。
彼女が私の顔を見て、まっすぐに目を見つめてくる。
「ルーシー!! すっっっっごい良い!!!! マジあんた天才かもっ!!!」
真空は目を見開いて絶賛してくれた。私の肩を両手で掴んでゆさゆさを揺らして興奮を伝えてくる。
私の頭はグラグラと前後に揺れて、彼女の気持ちを受け止める。
「ほんと……?」
真空のこの表情と行動で、本当の気持ちだとわかる。けど、私は心配でそう返事をするしかなかった。
「ほんとだよぉっ!! いや、なに!? この疾走感溢れるサビといい、高音の時の爽快感といい、まじで感動した! てか音源送ってほしい! リリースはもう少し先になるんでしょ? 繰り返し聴きたいんだけど!」
真空は早口で、もう私には何が言いたいのか聞き取ることはできなかった。
とにかく褒めてくれているということは伝わった。……嬉しい。
「ーー真空、ありがとう。褒めてくれてるんだよね。嬉しい」
「いやいや、褒めてるどころじゃないよ! 褒め褒めの褒めちぎりだよっ!! ちゃんとわかってる!? もうルーシーと出会ってからルーシーと光流くんのファンになったのに、またファンになるところ増えちゃったじゃ~ん」
ちょっと変な言い方ではあるが、とても嬉しい言葉だった。
こういう友達できて本当に良かったな……。
「ファンとか……私達は友達なんだから対等でしょ? ファンって変に上下関係あるみたいでなんかなぁ……」
「友達は友達だって! 別に上も下も思ってないよぉ! てかさ、なんか私も音楽に興味出てきたんだけど! どうしよう、身近にこんな人がいるから私も影響受けちゃうじゃんっ!」
私も音楽のコーラスの授業で歌が好きになった。それなら真空だって何かがきっかけに歌……音楽が好きになることだってあるだろう。私がそのきっかけになるのなら、こんなに嬉しいことはない。
「真空は歌とか音楽で何かしたいことあるの?」
私は真空が気になっていることを問いただしてみる。
彼女はどこに興味を持ったのだろうか。
「今はちょっとわからないなぁ。ただ私は歌を歌いたいとかじゃない気がする。カラオケくらいはしたことあるけどさ。でも歌じゃない感じだなぁ。私って、ガツンって感じの性格じゃん? ならそれを吐き出せる何かかなぁ……?」
"ガツン"か。私も歌しか知らないのでよくわからないけど、真空は楽器をしたいということなのだろうか。真空の楽器のイメージ。ギター? ベース? なんか"ガツン"じゃない。キーボード? ドラム……?
考えているうちに私は何かを感じた。ドラム、ドラム……なんか"ガツン"って感じだ。私のイメージ的には。
「歌じゃないってことは、楽器をやるって方向になるよね多分。真空がガツンってイメージなら、私はドラムが思い浮かんじゃったんだけど……」
「ドラムっ!! 確かに私っぽい……かも!? なんだっけ、あの金属の板みたいなやつ。あと太鼓のやつ。全然名前知らないけど、ぶっ叩くのめっちゃ爽快かもしれない!」
私は想像してみた。真空がドラムを叩く姿。美人で、綺麗で長い黒髪。ドラムを叩く度にその綺麗な髪が舞い上がって、楽しそうに笑顔で演奏している姿。……見惚れてしまう。
真空がドラムを叩きながら、歌っている私と目線を合わせて……アイコンタクト。互いに本気で楽しみながら大勢の人の前で音楽を奏でる……。
「あれ……なんで私、真空と一緒に音楽してるところ想像しちゃったんだろ……」
いつの間にか真空と一緒にバンド……? を組んで一緒に音楽をしているシーンを想像してしまっていた。ただ、その想像はとてもとても楽しくて。こんなに明るい真空と一緒に音楽ができたら、どんなに楽しいんだろう。私の胸は高鳴っていた。
ただ、あくまで想像だ。この先どうなっていくかはわからない。
「え? 何、一緒に私と音楽してるとこ? なにそれ、めっちゃ楽しそうじゃんっ! うわどうしよ。私、ルーシーの後ろでドラム叩くの? 絶対楽しいんだけどっ!!」
私が呟いたことで、真空も私と一緒にバンドをしている所を想像したようだった。
そう言ってくれて凄い嬉しい。
「ーーねぇ、真空って進路どうするの? 卒業まで大体半年とちょっとだよね。私は卒業したら日本に戻るって決めてる」
私はこの先も真空と一緒にいたくて、彼女の進路を聞いてみた。
ここで一緒にいられないと言われたらショックだけど……。
「ん~っ。お父さん次第かなぁ。今はずっとこっちで仕事してるしなぁ。日本には私の面倒見てくれる人そんないないし……」
そう、うまくはいかないか……。そうだよね。真空にも家族があって、子供だけじゃ進路なんて決められないよね。
でも、私の中で一つだけ、可能性が思い浮かんだ。でもこれは私の圧倒的なワガママで、もし真空と喧嘩してしまい、嫌いと言われてしまったら途中で難しくなる話でもあるかもしれない。
「ねぇ、もしだよ? 真空が私の家に一緒に住む……とかになったら、日本に来れたりしない……? 私、凄い勝手なこと言ってるよね。まだ出会って一ヶ月なのに……ごめん……」
私は少し、目線を落として言った。こういう時、光流みたいに明るく言えたら良かったんだけどな。
「ルーシー……それ、ほんと?」
今度はさっき私が言った時とは逆に、真空がほんと? と問いただしてくる。
「真空は私のこと大体話したからわかってると思うけど、本当の二番目の友達なの。たった一ヶ月だけど、もっと一緒にいたいって思っちゃったの。でも卒業まで半年くらいしかないし、卒業したら離れ離れになちゃう。さっきのバンドの話だってそう。一緒にできたら……絶対楽しい……」
言いたいことが多すぎて、本題まで辿り着けない。言い訳のような言い方、私はまだまだ変わってなかったようだ。
「うん……うん……」
それでも真空は私の話に横槍を入れずに、頷きながらずっと話を聞いてくれる。
「言いたいことはね。ーー私と一緒に日本に来て、私の家で一緒に住んでほしいってことなの!」
言った。今度は真空の目をはっきりと見て言った。最初に言った時は相手の顔色を伺うような態度だったが、今ははっきりと自分の願望を伝えた。
「ルーシーっっ!!!」
真空は突然私に抱きついてきた。ぎゅっと抱きしめられるこの感覚。
光流に抱きしめられた時、そして病室で目覚めた時に両親に優しく抱きしめられた時は、また違う感情が伝わってくるハグだった。
「真空っ!?」
真空はギューッと強めに私を抱きしめる。光流の時は、恥ずかしい感情、温かくて優しい感情、男の子としての何か情熱的な感情が伝わるハグ。両親の時は優しさ、心配、家族としての愛情が伝わってくるハグだった。
そして、真空のハグはーー。
「嬉しいっ!! ルーシー、私嬉しいっ! 私もルーシーとこの先も一緒にいたい! 人ってこんなに短い時間でこう思えるものなんだね! なんか凄いっ!」
ーーとびきりの喜びの感情だった。
私もニヤけてしまう。真空も私と同じこと思ってたんだ。一緒にいたいって。
こういうの、親友っていうのかな。普通の友達と親友の区別すらまだよくわからないけど、この先もずっと仲良くしていけるなら、多分真空は生涯の親友になると感じた。
「真空も私と同じ気持ちで嬉しい……。だから、できれば、もっと一緒にいたい……」
日本に戻った時、隣に真空がいないというのは、多分私にとってかなり寂しく思えるだろう。
そもそも私に日本の友達は光流と真空しかいないんだから。
「うん……。私、お父さんに話してみるよ。進路のこと。ついでにドラムのことも」
「ありがとう真空……。でも家族のこと優先してあげてね。例え遠くに住んでいてもずっとやりとりは続けるから……」
子供のワガママに付き合わされる大人も大変なはずだ。私達の一存では決められない。
そういう私だって家族に相談すらしていない。けど、多分真空のことを話せばオッケーになるはず。そう確信していた。あと、家に空き部屋たくさんあるし……。こればかりは家に感謝するしかないけど。
◇ ◇ ◇
その後、真空と別れて家に帰宅した。
コーチのアレックスに確認すると、最終チェックするからリリースは一週間後とのことだった。
なんか私の動画サイトのチャンネルを作ってくれており、アイコンや背景画像が既に設定されてあった。仮面で撮影した時のを良い感じに画像にしてくれている。
もちろんログイン情報も共有された。至れり尽くせりだ。
ちなみに今回の歌は、日本人……できれば光流にも聴いてもらえるように、日本人が好きそうな曲調にしてもらっていた。これは私のお願いだった。
ちなみに真空に音源を渡してもいいか聞いたらOKをもらったので、真空に音源を送っておいた。
真空はメッセージ上でわちゃわちゃ騒いで喜んでいた。
「ねぇ、お父さん。前に話した仲良くしてる真空って子いたでしょ?」
私は家で夕食時に真空のことを話していた。
「あぁ。日本人なんだってな。ルーシーと仲良くしてくれる子なんだよな」
「そうなの。それで一つ確認というかお願いがあって……」
私は父に、今日真空と話したことを話した。この先も一緒にいたいこと、音楽のこと、日本の家で一緒に住めないかということ、真空もこの事を親に話してくれるということ。
「そうか……俺としては問題ない。……リヴィはどうだ?」
リヴィとは私の母オリヴィアの愛称だ。父はリヴィと呼んでいる。一方母は父のことをお父さんとかあなたと呼ぶことが多い。
「そうね。一度その真空ちゃんって子をお家にご招待するのはどうかしら? もし一緒に住むことになったとしたら、私達ともうまくやっていかなければいけないし、最終的には真空ちゃんのご両親にも挨拶しないといけないわ」
そうだった。もし一緒に住むとなれば、両親同士が挨拶しなければいけなくなる。
信頼できる相手じゃないと子供を任せることなんてできないし。私だって真空の両親に挨拶しなければいけない。
「わかった……一度、真空に話してみるね。私のワガママ聞いてくれてありがとう」
そう私が言うと父と母は顔を見合わせて笑い出す。
「ははっ。ルーシーのワガママはできるだけ聞くつもりだぞ。常識の範疇でな」
「そうよ~? ルーシーのは、まだまだワガママとは言わないわ。もっと甘えて頂戴」
そう言ってもらえて嬉しい……。この家族はやっぱり温かい。
私がこれまでワガママを言える状態ではなかったからかもしれない。今病気が治って、やっとワガママを言える状態になったのだ。
「うん、本当にありがとう。ワガママは……適度にするね……」
真空とのことは、前向きに検討してもらえてとても安心した。
あとは、真空のほうが気になる。私のせいで両親と喧嘩とかしてないといいけど……。
ー☆ー☆ー☆ー
この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!
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歌のコーチのアレックスからだった。
メッセージ内には音源のファイルが添付されてあった。
「ついにできたんだ……」
まだ私は学校の校舎近くのベンチにいた。真空も一緒だ。
「ほら! ルーシー早く聴いてみなよ!」
真空も早く聴きたいのか、急かしてくる。
「ねぇ、一緒に聴いてもらっていい?」
私はイヤホンを取り出し、ベンチの隣に座る真空に聞く。
「いいの!? だって今初めて出来上がった歌聴くんでしょ? 最初は自分一人で聴きたいんじゃないの?」
確かにそうかもしれないけど、なぜか一人で聴くのは怖かったので、二人で聴きたかった。
こういう体験は今までできなかった分、できる限り人と共有したい。独り占めしたい感覚・体験は、また別にあるから……。
「うん。真空に一緒に聴いてほしい。変だったら変ってちゃんと感想言ってね」
「アホぉ~。そんなこと言わないの。でも私の性格上率直には言うかもしれないね」
真空は私の頭を軽くチョップした。彼女は明るく元気で結構一直線なタイプだ。ここ一ヶ月でそう感じた。嘘は苦手な方だと思う。だからこそ彼女の意見は信頼できる。
私はBluetoothイヤホンの片方を真空に渡す。
「……じゃあ、流すね」
私は音源のファイルを開き、再生ボタンを押した。
「ーーーーー」
流れてくる、私の声。歌の練習では、スマホの録音機能で自分の声を聴いたけど、自分が歌っている時に聴こえる声とは全然違って聞こえた。凄い変な感覚だった。ただ、アレックスからもらった音源は、それとはまた違った声色をしていた。良い方向で。
私だけど、私じゃないような声。……でもやっぱり私。
編集って凄い。
真空と二人で静かに集中して、四分ほどで一つの曲を最後まで聴き切った。
「ーーーーー」
曲が終わると真空がイヤホンを耳から外す。同時に私もイヤホンを耳から外した。
彼女が私の顔を見て、まっすぐに目を見つめてくる。
「ルーシー!! すっっっっごい良い!!!! マジあんた天才かもっ!!!」
真空は目を見開いて絶賛してくれた。私の肩を両手で掴んでゆさゆさを揺らして興奮を伝えてくる。
私の頭はグラグラと前後に揺れて、彼女の気持ちを受け止める。
「ほんと……?」
真空のこの表情と行動で、本当の気持ちだとわかる。けど、私は心配でそう返事をするしかなかった。
「ほんとだよぉっ!! いや、なに!? この疾走感溢れるサビといい、高音の時の爽快感といい、まじで感動した! てか音源送ってほしい! リリースはもう少し先になるんでしょ? 繰り返し聴きたいんだけど!」
真空は早口で、もう私には何が言いたいのか聞き取ることはできなかった。
とにかく褒めてくれているということは伝わった。……嬉しい。
「ーー真空、ありがとう。褒めてくれてるんだよね。嬉しい」
「いやいや、褒めてるどころじゃないよ! 褒め褒めの褒めちぎりだよっ!! ちゃんとわかってる!? もうルーシーと出会ってからルーシーと光流くんのファンになったのに、またファンになるところ増えちゃったじゃ~ん」
ちょっと変な言い方ではあるが、とても嬉しい言葉だった。
こういう友達できて本当に良かったな……。
「ファンとか……私達は友達なんだから対等でしょ? ファンって変に上下関係あるみたいでなんかなぁ……」
「友達は友達だって! 別に上も下も思ってないよぉ! てかさ、なんか私も音楽に興味出てきたんだけど! どうしよう、身近にこんな人がいるから私も影響受けちゃうじゃんっ!」
私も音楽のコーラスの授業で歌が好きになった。それなら真空だって何かがきっかけに歌……音楽が好きになることだってあるだろう。私がそのきっかけになるのなら、こんなに嬉しいことはない。
「真空は歌とか音楽で何かしたいことあるの?」
私は真空が気になっていることを問いただしてみる。
彼女はどこに興味を持ったのだろうか。
「今はちょっとわからないなぁ。ただ私は歌を歌いたいとかじゃない気がする。カラオケくらいはしたことあるけどさ。でも歌じゃない感じだなぁ。私って、ガツンって感じの性格じゃん? ならそれを吐き出せる何かかなぁ……?」
"ガツン"か。私も歌しか知らないのでよくわからないけど、真空は楽器をしたいということなのだろうか。真空の楽器のイメージ。ギター? ベース? なんか"ガツン"じゃない。キーボード? ドラム……?
考えているうちに私は何かを感じた。ドラム、ドラム……なんか"ガツン"って感じだ。私のイメージ的には。
「歌じゃないってことは、楽器をやるって方向になるよね多分。真空がガツンってイメージなら、私はドラムが思い浮かんじゃったんだけど……」
「ドラムっ!! 確かに私っぽい……かも!? なんだっけ、あの金属の板みたいなやつ。あと太鼓のやつ。全然名前知らないけど、ぶっ叩くのめっちゃ爽快かもしれない!」
私は想像してみた。真空がドラムを叩く姿。美人で、綺麗で長い黒髪。ドラムを叩く度にその綺麗な髪が舞い上がって、楽しそうに笑顔で演奏している姿。……見惚れてしまう。
真空がドラムを叩きながら、歌っている私と目線を合わせて……アイコンタクト。互いに本気で楽しみながら大勢の人の前で音楽を奏でる……。
「あれ……なんで私、真空と一緒に音楽してるところ想像しちゃったんだろ……」
いつの間にか真空と一緒にバンド……? を組んで一緒に音楽をしているシーンを想像してしまっていた。ただ、その想像はとてもとても楽しくて。こんなに明るい真空と一緒に音楽ができたら、どんなに楽しいんだろう。私の胸は高鳴っていた。
ただ、あくまで想像だ。この先どうなっていくかはわからない。
「え? 何、一緒に私と音楽してるとこ? なにそれ、めっちゃ楽しそうじゃんっ! うわどうしよ。私、ルーシーの後ろでドラム叩くの? 絶対楽しいんだけどっ!!」
私が呟いたことで、真空も私と一緒にバンドをしている所を想像したようだった。
そう言ってくれて凄い嬉しい。
「ーーねぇ、真空って進路どうするの? 卒業まで大体半年とちょっとだよね。私は卒業したら日本に戻るって決めてる」
私はこの先も真空と一緒にいたくて、彼女の進路を聞いてみた。
ここで一緒にいられないと言われたらショックだけど……。
「ん~っ。お父さん次第かなぁ。今はずっとこっちで仕事してるしなぁ。日本には私の面倒見てくれる人そんないないし……」
そう、うまくはいかないか……。そうだよね。真空にも家族があって、子供だけじゃ進路なんて決められないよね。
でも、私の中で一つだけ、可能性が思い浮かんだ。でもこれは私の圧倒的なワガママで、もし真空と喧嘩してしまい、嫌いと言われてしまったら途中で難しくなる話でもあるかもしれない。
「ねぇ、もしだよ? 真空が私の家に一緒に住む……とかになったら、日本に来れたりしない……? 私、凄い勝手なこと言ってるよね。まだ出会って一ヶ月なのに……ごめん……」
私は少し、目線を落として言った。こういう時、光流みたいに明るく言えたら良かったんだけどな。
「ルーシー……それ、ほんと?」
今度はさっき私が言った時とは逆に、真空がほんと? と問いただしてくる。
「真空は私のこと大体話したからわかってると思うけど、本当の二番目の友達なの。たった一ヶ月だけど、もっと一緒にいたいって思っちゃったの。でも卒業まで半年くらいしかないし、卒業したら離れ離れになちゃう。さっきのバンドの話だってそう。一緒にできたら……絶対楽しい……」
言いたいことが多すぎて、本題まで辿り着けない。言い訳のような言い方、私はまだまだ変わってなかったようだ。
「うん……うん……」
それでも真空は私の話に横槍を入れずに、頷きながらずっと話を聞いてくれる。
「言いたいことはね。ーー私と一緒に日本に来て、私の家で一緒に住んでほしいってことなの!」
言った。今度は真空の目をはっきりと見て言った。最初に言った時は相手の顔色を伺うような態度だったが、今ははっきりと自分の願望を伝えた。
「ルーシーっっ!!!」
真空は突然私に抱きついてきた。ぎゅっと抱きしめられるこの感覚。
光流に抱きしめられた時、そして病室で目覚めた時に両親に優しく抱きしめられた時は、また違う感情が伝わってくるハグだった。
「真空っ!?」
真空はギューッと強めに私を抱きしめる。光流の時は、恥ずかしい感情、温かくて優しい感情、男の子としての何か情熱的な感情が伝わるハグ。両親の時は優しさ、心配、家族としての愛情が伝わってくるハグだった。
そして、真空のハグはーー。
「嬉しいっ!! ルーシー、私嬉しいっ! 私もルーシーとこの先も一緒にいたい! 人ってこんなに短い時間でこう思えるものなんだね! なんか凄いっ!」
ーーとびきりの喜びの感情だった。
私もニヤけてしまう。真空も私と同じこと思ってたんだ。一緒にいたいって。
こういうの、親友っていうのかな。普通の友達と親友の区別すらまだよくわからないけど、この先もずっと仲良くしていけるなら、多分真空は生涯の親友になると感じた。
「真空も私と同じ気持ちで嬉しい……。だから、できれば、もっと一緒にいたい……」
日本に戻った時、隣に真空がいないというのは、多分私にとってかなり寂しく思えるだろう。
そもそも私に日本の友達は光流と真空しかいないんだから。
「うん……。私、お父さんに話してみるよ。進路のこと。ついでにドラムのことも」
「ありがとう真空……。でも家族のこと優先してあげてね。例え遠くに住んでいてもずっとやりとりは続けるから……」
子供のワガママに付き合わされる大人も大変なはずだ。私達の一存では決められない。
そういう私だって家族に相談すらしていない。けど、多分真空のことを話せばオッケーになるはず。そう確信していた。あと、家に空き部屋たくさんあるし……。こればかりは家に感謝するしかないけど。
◇ ◇ ◇
その後、真空と別れて家に帰宅した。
コーチのアレックスに確認すると、最終チェックするからリリースは一週間後とのことだった。
なんか私の動画サイトのチャンネルを作ってくれており、アイコンや背景画像が既に設定されてあった。仮面で撮影した時のを良い感じに画像にしてくれている。
もちろんログイン情報も共有された。至れり尽くせりだ。
ちなみに今回の歌は、日本人……できれば光流にも聴いてもらえるように、日本人が好きそうな曲調にしてもらっていた。これは私のお願いだった。
ちなみに真空に音源を渡してもいいか聞いたらOKをもらったので、真空に音源を送っておいた。
真空はメッセージ上でわちゃわちゃ騒いで喜んでいた。
「ねぇ、お父さん。前に話した仲良くしてる真空って子いたでしょ?」
私は家で夕食時に真空のことを話していた。
「あぁ。日本人なんだってな。ルーシーと仲良くしてくれる子なんだよな」
「そうなの。それで一つ確認というかお願いがあって……」
私は父に、今日真空と話したことを話した。この先も一緒にいたいこと、音楽のこと、日本の家で一緒に住めないかということ、真空もこの事を親に話してくれるということ。
「そうか……俺としては問題ない。……リヴィはどうだ?」
リヴィとは私の母オリヴィアの愛称だ。父はリヴィと呼んでいる。一方母は父のことをお父さんとかあなたと呼ぶことが多い。
「そうね。一度その真空ちゃんって子をお家にご招待するのはどうかしら? もし一緒に住むことになったとしたら、私達ともうまくやっていかなければいけないし、最終的には真空ちゃんのご両親にも挨拶しないといけないわ」
そうだった。もし一緒に住むとなれば、両親同士が挨拶しなければいけなくなる。
信頼できる相手じゃないと子供を任せることなんてできないし。私だって真空の両親に挨拶しなければいけない。
「わかった……一度、真空に話してみるね。私のワガママ聞いてくれてありがとう」
そう私が言うと父と母は顔を見合わせて笑い出す。
「ははっ。ルーシーのワガママはできるだけ聞くつもりだぞ。常識の範疇でな」
「そうよ~? ルーシーのは、まだまだワガママとは言わないわ。もっと甘えて頂戴」
そう言ってもらえて嬉しい……。この家族はやっぱり温かい。
私がこれまでワガママを言える状態ではなかったからかもしれない。今病気が治って、やっとワガママを言える状態になったのだ。
「うん、本当にありがとう。ワガママは……適度にするね……」
真空とのことは、前向きに検討してもらえてとても安心した。
あとは、真空のほうが気になる。私のせいで両親と喧嘩とかしてないといいけど……。
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