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おまけ
しおりを挟む※攻めが出ていった数秒後なので攻め不在。キャスト達の裏側です。
*蓉視点*
パタンと扉が閉まり、今日の仕事が終わった。
「……行っちゃったね」
「……もうちょっと遊びたかったね」
ハルとソラは不満そうだ。仕事でチビ達と一緒になる事は多いけれど、その中でもこの二人はわりとドライな印象なので少し意外だった。大抵「ばいばーい」と客を元気に見送った後はそそくさ二人でご褒美の相談をしてる事が多い。
「お前ら、何がそんなに気に入ったんだ?」
気になって聞いてみると二人して勢いよくこちらを振り仰ぎ、妙にハイテンションで両サイドからグイグイ交互に引っ張ってくる。ああウザい。軽い気持ちで聞くんじゃなかった。
「蓉はサボってたから分かんないんだよー!」
「は? サボってねーし」
「蓉は部屋でいじいじしてたもんね!」
「誰がだよ、ふざけんな」
夕食に付き合わなかった事をこんな風に弄られると思わなかった。チビ達が言うには今日の父は飯を食いながらも終始嬉しそうにチビ達の話を聞いてくれたらしい。
「好きなお菓子買ってくれるって言ったし」
「あーしろこーしろって言わないもんねー」
あの親父は上手いことチビ達を手懐けたようだ。幼いながらも感情の機微に聡い奴らだ。単に自己満足で可愛がりたいだけなのかそうでないかの区別はつくらしい。
あーだこうだと捲し立て続けるチビ達に適当な返事をしていると、壁に凭れたままじっと玄関を見ていた絃が気だるげに溜め息を吐く。意外なのはチビ達よりもこっちかもしれない。
「随分怠そうだな、絃。あんたは何の気まぐれだ?」
揶揄するように言うが絃は少しも動じずに曖昧な笑みを浮かべるだけ。たおやかとか言われる笑顔だが中身は結構えげつないんじゃないかと俺は疑っている。
この店の太客の多くが絃の客だからと、客は選り好みするし性行為すら適当に躱したりしているようだ。それでも人気なのだから店も絃には強くは言えないんだろうが、絃ばかり贔屓されていては正直面白くない。
「本番までは義務でもないのに、昨日は夜通し付き合ってやったんだろ? なんで?」
「……蓉こそ今日は何でそんなにつっかかるの」
「別に。それより答えろよ」
困った子だなぁって顔で見られても、答えを聞くまで引く気がないのが分かったのか絃が苦笑した。そんな何気ない表情も、数秒思案する間に髪を耳にかける姿すら艶っぽい。だから客が骨抜きになるのは仕方ないとしても、その逆はおかしいだろ。
「うーん。優しくしてもらったし……ああ、そうだ。蓉が随分と気持ち良さそうだったから羨ましくて」
「――っ、茶化してんじゃねーよ!」
「あ、否定はしないんだね」
誂われても「あれは演技だった!」とは言えない自分が悔しくて力いっぱい唇を噛む俺に対し、絃はくすくす微笑ってどこまでも余裕を崩さない。まぁ絃が取り乱す所なんか見た事ないし想像もできないけど。
「後は……母性本能とか擽られちゃったかな」
冗談めかして言うから、また適当な事言ってんなよって怒ろうとしたのに、絃の顔を見たら毒気が抜かれた。いつもの笑顔じゃなくて、初めて見るちょっと弱ってるみたいな素の表情だったから。
それも一瞬のうちに消えてしまったけれど。
「そうだ。蓉、朝食ありがと。ハルとソラも食べた?」
「食べたー! ふわふわパンケーキ!」
「いちご乗ってた! おいしかった!」
「えっ、二人もトーストじゃないの? 蓉すごい」
まだ絃に聞きたかったのにサラッと流されてしまった。その上、こんな風に普通の事を褒められるとどう返していいか分からないから焦る。ありがとうとか美味しかったとか、この仕事でしか言われた覚えがなくて、言葉が思いつかないままに目ばかり泳いでしまう。
「別に。じゃチビども帰るぞ。絃はまだ寝るんだろ?」
不思議な話だが……現実の冷めきった家庭より偽物のこちらを家族だと感じる事が多い。ただの仕事なのにたまに錯覚しそうになるから、バツが悪くてぶっきらぼうにもなる。終われば現実に帰らなくてはいけないのは俺達も客と一緒だというのに。
「……ねぇ、蓉。また会えるかなぁ」
準備を終えて帰りしなになって、ソラが不安そうに言うから頭を撫でてやった。誰にとは言われなくても分かる。
「会えるに決まってんだろ、バカ」
「何で蓉がそんなに自信満々なの」
横からハルが噛みついてくるが不敵に笑ってみせてやった。こいつらにも況してや絃にも教えてやる気はないけれど根拠ならある。もしも向こうが会いに来ないなら、こちらから引っ張ってきてやれば良いだけだ。
中学の頃、俺はあの父と同じ電車で通学していた。向こうはサッパリ覚えていないようで腹が立ったけれど。今度は仮にも息子になったんだ、誰かも分からない中学生とは違う。
「んじゃあ、絃――」
「いってらっしゃい」
お疲れさまって言おうと思ったのに。笑顔で遮られて口を噤む。ごっこ遊びをまだ続けたいらしい。まぁいいや、俺も今日はそういう気分だから。
「――いってきます」
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一番面白いです。別サイトさんで、一目惚れしてまさか続きが見られてとっても感激しています
カナタさん、感想ありがとうございます!
他サイトで読んでいただいてたのに、再読してくれたんですか?!うわーありがとうございます。短いおまけで申し訳ないんですが、キャスト達の内情を少しでも楽しんでいただけてたら嬉しいです。お仕事抜きでも父は結構気に入られています。読んでくださって本当にありがとうございました!
コメント失礼します!
とても面白かったです!わくわく展開で一気に読んでしまいました!おまけまで面白くてお気に入りに追加しました!
このお話は続編があったりするんでしょうか?とても面白い作品ありがとうございました😊😊
いえいえ、こちらこそ!読んでいただいた上に感想まで、本当にありがとうございます!!すごく嬉しいです。
今のところ続編はないんですが、書きたいなーとは思ってます。他作品書くのに必死でもう全然書けてませんけど。妙な形のラブしかない話を楽しんでくれて、ありがとうございました。