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本編
しおりを挟む――そこは普通のマンションだった。
いや普通ではないか。入口にコンシェルジュが常駐するラグジュアリー感溢れるマンションだ。四十過ぎの独身男が侘しく暮らすマンションとはだいぶ格が違う。一応はオーダーメイドとはいえ、とうの昔に草臥れてしまったスーツでは立ち入るのに多少の勇気が必要だった。
「こんばんは」
「こんばんは。ええと……これをお願いできますか?」
「はい、失礼いたします」
パリッとした印象のコンシェルジュに品良く挨拶され、狼狽えつつメールに添付されたバーコードを提示すると流れるような所作でバーコードを読み取られる。ピッという電子音とともにコンシェルジュの笑顔が深まり、綺麗に三十度の角度で恭しく頭を下げられた。
「――おかえりなさいませ」
その言葉に不思議とテーマパークに入場した時のような高揚感が沸き上がってきた。夢の国というには随分と生々しいけれどこの先に広がる、人を魅力してやまないという非日常に期待が高まってしまう。わくわくしたのなんて何年ぶりだろう。
ロビーを抜け内廊下を進み、開いていたエレベーターに乗り込むと触れる事なく勝手に動きだした。バーコードとともにメールで送られてきた部屋番号に向かうと、インターフォンを押すまでもなく内側から扉が開く。
「――あなた、おかえりなさい」
本当に嬉しそうに……けれどたおやかな笑顔を浮かべた青年に迎えられる。白い肌や赤い唇、サラッとした黒髪は女性のショートカットのようだが女性っぽいとは感じない。あくまで中性的。むしろ男性寄りの美人さんだ。
「どうかしました? 早く中に……」
「あ、ああ。そうだな、お邪魔しよう」
「お邪魔って……自分の家なのに」
くすくすと笑いながら話す顔がまた……もう堪らない。元の垂れ目が更に優しげに綻び、見つめられるだけで猛烈に抱きしめたくなる。逸る気持ちを抑えながら何とか青年の横をすり抜け玄関に入ると、扉が閉まったと同時に背中にトンと軽い衝撃をうけた。
「……ずっと、ずっと待ってたんですよ?」
労るようにふんわりと腕を身体に回され、背中に仄かな体温を感じるともう駄目だった。会ったばかりの青年を振り返りながらきつく抱きしめる。こんなのもう反則だ。出会って五秒で陥落だ。
「ただいま、絃」
メールで知っただけの名前を恐る恐る口にすると、絃はまた至極嬉しそうに笑ってくれた。絃はまさに俺が長年思い描いていた理想を具現化したような存在だった。それが半日だけとはいえ俺の……俺の嫁だなんてあって良いわけがない。
しかし、そんな夢が叶う場所に俺は立っている。
「言ってしまえばイメクラの一種」だとこの場所を紹介してくれた上司は語っていた。要は客の求めるロールプレイを提供するゲイ専門の風俗店なのだが、ここが他と違うのは「限りなく本物に近い家族になれる」という謳い文句だろう。無論ここでは家族以外のロールプレイには対応していない。
だが、家族構成は自由に選べる。
事前に驚くほど詳細な質問事項に答えさせられた。価格設定がエグい上に予約だけで半年以上も待たされたからと、俺もここぞとばかりに高望みしてみたのだが……流石は人気店。文句のつけようがない。
これまでにも後腐れのない関係はあったが、その中に関係を続けようと思える相手は居なかった。俺が好きなタイプはきっとゲイバーなんかに立ち入りはしないし、職場なんかの昼間に出会う人々はノンケばかり……乾ききった日常に潤いを求めたくもなるだろう。例え高い金を払おうとも。
「お腹すいてますか? 先にお風呂に入ります?」
嫁が嫁っぽい事を言っているだけで、顔がにやけて仕方ない。まだ玄関から数歩進んだなのにまた抱きしめたくなるのだからキリがない。自然な手つきでスーツの上着を脱がせてくれる絃に腕を伸ばそうとしたところで、遠くから騒々しく走ってくる足音にハッとする。
「パパー」
「パパーおかえりー」
腰に向かってダブルでタックルしてくる少年たち。飛びっきりの笑顔で腹にぐりぐりと顔を擦り付けてこられ、思わぬ勢いにアタフタしていたら、少し離れた場所で絃が微笑ましく見守っていた。
「ただいま……ハル、ソラ」
動揺した頭から何とか引っ張り出してきた名前を呼べば、よく似た二つの顔が眩しいほど輝く。小学生くらいの年に見えるが、その頃特有の生意気さを微塵も感じさせないひたすら可愛いだけの子どもたちが懐っこく腰に纏わりついてくる。正直、可愛いが過ぎて息が苦しい。
ゲイに生まれついた以上、自分の子どもを持てるとは思っていない。けれど望んだことがない訳もないのだ。
家族を持てるというのは俺みたいな人種からすれば本当に夢でしかなくて、それがどんな形だろうと叶うなら感謝しかない。
「ちゃんと起きて待ってたんだよ?」
「お風呂! 一緒に入ろ! はやくはやく!」
込み上げてくるものがあってギュッと眉を寄せる俺に構わず、子ども達は仲良く両サイドから無邪気に手を引っ張ってくる。ちっこくて温かい手だ。
「こら。急かさないの。パパがダメって言ったら二人で入る約束したよね? ちゃんと覚えてる?」
嫁がパパと言う……パパなんだ、俺。絃の口から出てきた言葉でこの子ども達が自分と絃の子どもなんだと変な感動を覚えて身体が震えてしまった。
そんな時、軽やかに玄関が開く。
「……ただいま」
「お、おかえり」
条件反射のように返しながら玄関に目を向けると、中学生……いや高校生くらいの男の子が不機嫌そうにこちらを見ていた。誰だ、なんて思わない。家に入ってきた時点で俺が希望したもう一人の子どもだとすぐに気づいた。
「……蓉は随分帰りが遅いんだな」
絃たちと接して良い気になっていたんだろう。自分から積極的に声を掛けてみたのだが、蓉は煩わしそうに眼を逸らしただけで何も言わず靴を脱ぎ、そのまま自室と思われる方へ消えてしまった。絃も声を掛けていたが蓉からの返事はない。
なんだこれ、リアリティーがあり過ぎてへこむ。
年頃の息子を持つ親御さんにすればこんなもんだと笑われるかもしれないが、絃たちのように好意的に接して貰えると信じていたから少しばかり辛かった。
もし俺がノーマルで早いうちに結婚していたら有り得なくもない年頃の子どもだ。ハルやソラとは別に、純粋な好奇心から希望してみたくなった。絃とは違い子ども達には細かい指定などしなかった事をこんな風に後悔するとは思わなかった。
「パパ、元気だして?」
「身体洗ってあげるからね、お風呂一緒に入ろ?」
左右からじーっと上目遣いでハルとソラが返事を待っている。優しくて可愛いばかりの子ども達の姿に、萎んだ気持ちも少し浮上してきた。
「入ろうか……絃、ご飯は後でいただくよ。悪いな」
「いえ、ゆっくりしてきてください。ハル、ソラ、はしゃぎ過ぎてパパを困らせないようにね」
絃に見送られ、張り切る子ども達に先導されてヨタヨタとバスルームに向かう。全体的に白く、華美ではないが機能的で全体に余裕のある造りの洗面所にはホテルばりにバスタオルなどが並べられている。俺一人なら腰が引けていたかもしれないが、元気な子ども達がキャッキャとはしゃぎながらポイポイ服を脱ぐので気が抜けた。
「パパー先行くよー! はやく来てー」
「待て待て、走るな。転ぶぞ」
「ハル、待って。僕も僕も」
待ちきれずに浴室に飛び込んで行ったハルを追いかけ、ソラもわたわた後を追う。二人はよく似ているがハルの方が少し身体が大きく活発で、ソラはおっとりしている。楽しそうな声を聞きながら俺も早く行かなきゃと急いで服を脱いだ。
「絃がねー最初に頭洗いなさいって言うのー」
俺はパパだが、絃は絃らしい。どこか誇らしげなハルに教えられた通り三人仲良く髪を洗う。やたらと泡を飛ばしてくるのは困ったものだが、シャワーをかけてやっただけできゃーきゃー喜ばれるのでこちらまで楽しくなってくる。
「ハルがパパの背中洗うー」
「う、えっとじゃあソラが足洗う」
それぞれが力一杯泡立てたネット片手に、ハルは背後にソラは足元にまわる。やたらともこもこした泡が身体を滑っていくのも、ペタペタ触れる小さな手の感触も心地好い。夢中で洗うせいで自分たちまで泡にまみれているのが微笑ましくて、脇から前に潜り込んで来ようとするハルにも好きにさせていた。
腕をくぐって回り込んだハルは当たり前のように俺の足に座る。気を抜けば泡でつるっと滑ってしまいそうで、その小さな腰に手を添えた。
「パパ、パパ。見て、おっぱい」
薄い胸に泡を乗せてハルが言う。小振りなおっぱいが乗せたそばから落下していくのが気にくわないのか、俺の手を取ると勝手にストッパーにされてしまった。
「パパー乳首どこでしょ?」
無邪気な問いに知らず喉が鳴る。泡に塗れていてもその隙間からは可愛らしい乳首が顔を覗かせていたから。しかし……これはどうなんだろうと、かろうじて冷静さを残した頭が疑問を唱える。いくら風俗とはいえ、ハルやソラは顧客が家族感を味わう為のマスコット的な存在だと思っていたのだ。
「……そこだろ? 見えちゃってるよ」
「嘘だー。ちゃんと当てないとダメー」
逃げをうち指だけ差そうとする俺をくすくすと笑うハルが小悪魔に見える。あるかも微妙な薄い桃色の小さな小さな突起に目が吸い寄せられ、どくどく脈打つ指先が勝手に向かっていく。
「――ふ、あっ」
触れた瞬間、膝の上でハルが跳ねる。甘いミルクのような声に俺の心臓も忙しなく騒ぎだした。もう一度聞きたい。触ってみたい。こんな小さな子に……という背徳感が自分の中の知らなかった欲望を煽ってくる。
「パパ、今のも一回して?」
顔を俺の肩に擦り寄せながらハルに乞われるともう止められなかった。親指の腹ですりすりと撫でながら、いじらしくも反発してくる弾力を楽しむ。
「あっ、ふぁ……パパ……パパ、っあ」
「ああ可愛いよ、ハル」
耳元にハルの甘い吐息が吹き込まれると、もう隠しようもなく俺の陰茎は頭をもたげていた。こんなのは駄目だと思えば思うほど興奮は高まっていく。
熱に浮かされるようにハルの乳首に没頭していたものの、足の甲に不慣れな感触がして意識をソラに向ける。
「っん、くぅ……ふっふっ」
驚いた。足に纏わりついていたソラは夢中で幼気な陰茎を俺の足に擦りつけていた。ぷにぷにとした小さな性器だが一丁前に勃起しているのか中に芯があり、そのすぐ下のぷりっとした陰嚢が足の甲に柔らかく当たる。感じた事のない初めての感触だった。
「パパぁ……気持ち良いのして」
「ビリビリーってなるの、したい」
子ども達が訴えてくるのを聞くに射精はまだ出来ない癖に達する事は覚えてしまっているようだった。ハルなんかは咥え込む事なんて到底無理そうな後孔にも指を入れれば気持ち良い事だけは知っているようで、入れて入れてと甘く強請ってくる。
ソラをハルとは反対側の足に乗せ、難なく回ってしまう細い腰に片腕を回して幼い性器を掌で優しく揉みこむ。腹に勝手に陰茎を擦り付けてくるハルには小さな双丘を割って指先で後孔を押してやる。
自分の快感を追うより気持ち良くしてやりたい一心だった。パパ、パパと甘える声に愛しさが募る。
いまにも壊してしまいそうなソラの陰茎を大人の真似ごとみたく指先だけで扱く。ソラも乳首で感じられるのか自分ですりすりしているのが堪らなく可愛かった。
ちょっと大人びたハルは後ろ手に手を回して、俺の手を尻に押し付けて催促してくる。いくらか細めの薬指を第一関節の半分くらい控えめに抜き差ししてやると腰を前後に揺らしていた。二人分の甘い声が浴室に反響する。
「っくる……ん、っんんん、ふぁっ、あっ」
「パパ、パパっ……あっんぁぁ」
ソラのいうビリビリってなるのがソラに来た後、ハルの泡に塗れた乳首にそっと歯をたてるとハルの身体もピクピクと数度痙攣した。可愛くて愛しくて二人をギュッと抱え込む。
間違っていようがこれも幸せだと確かに感じた。
逆上せ気味の二人の身体を洗ってやり、申し訳程度に風呂に浸かってから浴室を出ると俺とハルソラの着替えがそっと置かれていた。
絃に……聞かれたんだろうな、たぶん。向こうは気にも留めないと分かっていても若干のバツの悪さを抱きつつ、二人に服を着せてリビングに向かった。
「ゆっくりし過ぎですよ、逆上せた顔しちゃって……」
食事の良い匂いを漂わせながら絃が冷えたタオルを渡してくれる。椅子を引いてくれたので、そのまま座って額に冷たいタオルを押し当てた。ああ気持ち良い。なんて出来た嫁なんだ。結婚したい。いやもう嫁なんだ。呆けた頭で絃が甲斐甲斐しくハルソラの世話をしているのを眺めてしばらく浸った。
「ビール飲みますか? ご飯は?」
「喉が渇いたからビール飲みたい。美味しそうな匂いで腹も減ったからご飯も……手伝おうか?」
何を至れり尽くせりする気なんだと立ち上がりかけたが絃に「大丈夫ですから」と笑われた。絃に言われて競うようにぐりぐり髪を拭いていたチビ達も絃からOKをもらってこちらに走ってくる。
ビールは美味いし食事も美味しい。両サイドに座った子ども達は先に済ませていたのか、あれこれ話しかけてくるので賑やかだ。正面では絃が見惚れるような綺麗さで食事を口に運び、目が合うとニコリと微笑んでくれる。
「ああ美味しい。こんなに美味い飯は初めてだ」
「なんです? そんな泣きそうな顔で」
「幸せ過ぎて辛い。ありがとう、絃……」
「美味しそうに食べて貰えて私も幸せですよ」
ここは桃源郷なんだと確信を持った辺りで食事も終わり、絃がちび達を寝かしつけてくると席をたった。
「パパーおやすみー」
「また明日ね。ソラ早起きするから」
「おやすみ。ハル、ソラ」
見送るとリビングが途端に静かになる。そういえば絃はチビ達に「ダメと言われたら風呂は二人で入れ」と言っていた……あれは子ども達を性の対象にせず純粋に可愛がる為の布石だったのかもしれない。風呂を断ればチビ達は無邪気なだけの子どもとして振る舞ってくれていたのか。思いの外楽しんでしまっておいて今さらだが。
物思いに耽りながら手持ち無沙汰で食べ終わった食器を洗っていると、静かにリビングに入ってきた少年と目が合った。蓉だ。蓉の存在をすっかり忘れていた。
「――チビ達は?」
「ああ、今さっき絃が寝かしつけに行ったよ」
「そう」
出会って早々すげない態度をとられたのがトラウマで、こちらからは話しかけないでおこうと思っていたのだが予想に反して蓉は話しながら俺の背後を抜けて冷蔵庫に向かう。
「蓉、ご飯は?」
「外で食ってきた」
答えはするものの態度は悪い。俺なんか眼中にないという雰囲気で素っ気なく棚からコップを取り出し、スポドリを注いでいく。一応は客商売だろうがと窘めてやたい所だがロールプレイ上そうもいかない。
「……義母さんの飯をだらしない顔で食ってる父さんなんて見たくないしな」
そうもいかないけれど、これはどうなんだ。図星をさされて頭に血が昇る。ロールプレイは壊さないままに父親として一言文句を言ってやっても許されるだろう。
「おい、その態度はなんだ」
「触んな。親父ヅラしてくんなよ」
「親父じゃなきゃもっと失礼だろ」
振り向き様に肩を掴むとはね除けられたので余計に苛立って蓉を取り囲むように腕を付く。流しの裏側、食器棚に挟むようにして逃げを打つ蓉を追い詰めた。
「なんだよ……俺の事なんか興味ねー癖に。若い嫁に鼻の下伸ばしてろよ、チビ達が居れば満足だろ?」
必死に身を捩って顔を隠すように背中を向けながら蓉に言われ、キョトンとなった。思わぬ言葉に咄嗟には返せず黙ってしまうと焦れた蓉が追撃してくる。
「どうせ俺は可愛くねーし。別に良い……もう離せよ」
「待て、蓉。誰も可愛くないとは言ってない」
正直言えば可愛げはないし扱いに困ると思っていたけれど、今の蓉は少し違う。俺の言葉にジタバタするのを止めて作業台に縮こまる蓉は可愛くなくもない。
「……なんだ、蓉は構って欲しかったのか」
勢いで抱き締めてやると大人しく腕に収まりつつも「そんなんじゃない」と嘯く蓉は素直じゃなくても十分可愛かった。Tシャツにスウェットというラフな蓉を抱きしめるバスローブの俺。通報されても仕方ない感じだが、服の下のまだ成長途中の蓉の身体を間近に感じられる。
「身体は大きくなっても蓉もまだ子どもなんだな」
大人になりきれないのは心も身体も同じなんだろう。絃に骨抜きにされ、無邪気に懐いてくるチビ達を構っていたら蓉の入る隙間はなかったかもしれない。
「俺が悪かった」と囁くと蓉の身体がビクリと反応した。密着した身体が熱を発しているような気がして、探るように手を動かすと蓉のどこか堪えるような吐息が聞こえてきた。
「蓉?」
「なんだ……よ」
予感めいたものは蓉の薄っすら艶を帯びた声で確信に変わり、今度は確かな手付きで薄い胸をまさぐる。左手をTシャツに潜り込ませて腹を撫でながら、右手で胸の辺りを擽れば平らな胸にそこだけ引っ掛かる部分があった。服の上から引っ掛かりだけに指を往復させると蓉の息が上がっていく。
「蓉、これはなんだ?」
「っ知らない……触ん、なよ」
「素直じゃないな」
右手でカリカリ引っ掻きながら左手はそっとズボンの中に差し込み、浮いた恥骨を撫でる。蓉はもう作業台の上に倒れこみそうに身体を預けていた。密着した身体はとても熱い。
「父親に抱きしめられただけで、ここをこんなに腫らすなんて悪い子だ」
「あっ、あ、」
触れる前から勃っているのは分かっていたが、確認するように右手でスウェットの上から屹立を撫でると蓉の口からは堪えきれない甘い声があがった。先の方に指を滑らせると濡れた感触がする。
蓉ばかりでなく俺のバスローブも内側から押し上げられている。風呂場でチビ達と戯れはしたが射精まではしなかったせいで半端な熱が燻っていた。
「父さん……やだ、あっ……そんなしたら、んっ」
「嫌か? こんなに濡らして?」
「だ、からっ……だめだって……っあ」
嫌だ嫌だと言いながら堪らなさそうに腰を揺らす蓉が可愛くてつい苛めたくなってしまう。揶揄しながら陰茎を擦り、左手を後ろに向ける。狭間を辿ってたどり着いた後孔はしとどに濡れていて、触れればくちゅりと音が鳴りそうだった。
「っ、本当に悪い子だ。そんなに期待してたのか」
皆で食事をしている間、蓉だけは一人部屋に籠って準備をしていたのかと思うと可哀想なのに滾る。勢いよくズボンを下ろすのに抵抗はなかった。飛び出してきた硬い屹立が引き出しを打ち、その取っ手に滴が垂れた。
「涎を垂らしてみっともないな……そのまま自分で立ってなさい。やらしい蓉にお仕置きだ」
震える足で必死に立つ蓉の剥き出しの尻に手をかける。より羞恥を感じられるように後孔の辺りだけを両方の親指でグイーと引っ張り、ひくつく孔だけを無言で観察した。内側からしっかり濡らされている、いつでも男を受け入れられる厭らしい孔だった。
「父さん……父さん……見ないで、やだっ」
蓉がいやいやと頭を振るので尻が誘うように揺れる。それを咎めるように尻をカプリと甘噛みしてやれば、陰茎からまた粘度の濃い滴が吐き出された。
起き上がりながらバスローブの紐を解く。
「望み通り可愛がってやろう。蓉はどうされたい?」
「っあ、あ、指っ……ああっ」
「気持ち良い? 随分と美味しそうに咥えるな」
覆い被さりながら指を挿し込めば、待ちかねたように中がうねる。ぐちゅぐちゅ音をたてた方が蓉の反応が良いのでかき回しながら、服の中から直に乳首をギュッと摘む。指先が痛いくらいに締め上げられ、笑みが溢れた。
「蓉は気持ち良い所ばかりだな。可愛い」
「父さん……父さ、んっ、んっあ」
憎まれ口を叩かれた分、快感に酔う蓉の姿が可愛く見えた。後孔が十分に解れているのを確かめられると、蓉の中に入りたくて仕方なくなった。
「もっと気持ち良くなりたいだろ?」
背後から蓉の腰を支えつつ慎重に挿入し、苦しそうではない蓉の様子に安心して奥へ奥へと腰を進めた。やわやわと締め付けてくる中は気持ち良く、既にガチガチの陰茎がいつまで持つか不安が過る。
ゆっくりと抜き差ししながら蓉の良い所を探った。下から突き上げるように腰を使うと気持ち良さそうな声を出す。人によっては痛いだろうと思うんだが蓉は演技以外でも少し被虐嗜好があるらしい。
「もっ、もうイく……父さん……イきたい」
「もうちょっと。根本押さえててやるから」
「っあ、ああ、イきたい……イきたいっ」
腰を折った蓉の身体を引き起こし、より深い奥の行き止まりにガツガツとぶつける。中で結腸が口を開きたそうにしている気がして、ついつい力が入ってしまう。
「あ、あ、ダメダメダメっあ、ああーー」
クポッとほんの僅かに入り込んだと同時に蓉の全身が硬直した。次いで引き攣れたように細かく動く蠕動に歯噛みしても耐えきれず中に吐き出す。
根本の締め付けを解いてやるとすぐに精をタラタラと吐き出しはじめた陰茎を宥めるように擦ってから、ぐったりした蓉を後ろから抱え、キッチンに座り込んだ。
「蓉、ごめん。無理させたな……」
謝ると蓉は何も言わず、ふらふらと振り向いてギュッと首に腕を回してくる。蓉の甘えた仕草に眦が下がるのを自覚した。可愛い。ものすごく可愛い。ギャップで余計に頭がやられて鼻血さえ出そうに感じる。
「……父さん、俺、気持ち良かった。またして」
ポツリと呟くから尚更心臓を掴まれた。蓉が離れてさえくれれば今すぐ床に拳を叩きつけたい衝動に駆られる。息子たちが可愛くて寿命が縮みそうだ。
幸いにも水場が近かったので蓉の身体を綺麗に拭き、自分もキッチンも手早く片付けた後、ふらつく蓉を支えながら自室に送り届けてやった。
ここへ来て短時間のあいだに身も心も満たされてしまっている。こんなに幸せでいいんだろうか。むしろ明日からの空虚な日々が辛い。
「あなた? こんな所に居たんですね」
「ああ、絃か……チビ達は寝た?」
「今日は中々眠らなくて。やっとさっき」
そうか、と返しながら顔を拭く。汚れた洗濯物を持ってきてそのまま顔を洗っていたところに絃がやって来た。
本当に寝つきが悪かったのか、絃がタイミングを見計らっていたのかは分からない。けれど俺もそれを確かめようとは思わなかった。
「食器片づけてくれたんですね。ありがとう」
そろそろ寝ましょうかと優しく腕を引く絃に身を任せ、寝室へと向かう。絃の声は穏やかでとても落ち着く。いつの間にか風呂も済ませたのか、ボディーソープの良い香りも漂っている。
「……幸せ過ぎて、ちょっと怖くなったよ」
「落差が? 浮き沈みがあるから、幸せを感じられると思いませんか?」
柔らかなベッドに促されて腰をかけると絃も隣に並んでくれる。労るような絃の雰囲気に癒されているなーと思っていたら、頭を引かれそのまま膝に乗せられた。
「絃にもある……よな、沈む事とか」
「もちろん。でも……今日は結構幸せです」
「ああもう! 嫁が可愛くて死にそう」
膝枕された上にこの一言。この場だけのリップサービスと分かっていても顔が熱くて両手で覆った。絃が控えめに笑いながら頭を撫でてくるから……駄目だ。一生顔を上げられそうにない。
「美味しいって私の作るご飯食べてくれたり、手伝おうとしてくれたり。食器まで洗って貰って……」
「っ、ちょっと待ってくれ。絃が作ったのか? あれ」
衝撃でカバッと起き上がった俺に絃がびっくりしている。しかしこっちも驚いているのだ。さすがに食事は誰かが用意してくれた物だと思っていた。絃の手作りだと分かっていたら……もっと……一口一口を噛みしめていたのに。
「……そうゆう所、ホントに……」
心底悔しそうにする俺に絃は幸せそうに笑って、けれど最後までは言わなかった。本当に、何なんだろう。敢えて濁すのも手練手管なのか?
絃が俺を見つめる。絃は本当に綺麗で、何もかもが俺好み過ぎて夢のように一瞬で消えてしまいそうだ。確かめたくてそっと頬に手を当てると、絃の垂れた目が閉じられた。
心臓が痛い。触れてしまっても良いんだろうか。今日だけでも随分な事をしているというのに、絃を相手にすると童貞みたく緊張した。
「絃……」
顔を寄せても絃は目を閉じたまま。息を止めてその赤い唇にそっと口をつけると、その感触を味わう余裕もなく唇を離した。はぁはぁと必死に呼吸しても酸素が足りない。
絃が静かに目を開く。弧を描いた唇が魅惑的で物欲しそうに見ていたら、絃に押し倒されて唇を奪われていた。数度啄まれてペロリと唇を舐められて、絃が顔を上げる。
「こうゆうのは……はしたない、ですか?」
「いや最高」
言うなり性急に唇を重ね、絃の身体を抱きしめながら舌を差し込む。舌を絡ませると流れ込んでくる唾液まで甘くて夢中で吸った。絃……絃……もっと絃を感じたくて、絃の頭を引き寄せる。息継ぎするのも惜しい。
絃の耳許から首筋に舌を這わせると、快感の滲む声を漏らす。首に顔を突っ込み、絃のバスローブを煩わしげにしていたからか自分から紐をほどいて開けてくれた。
「夢みてるみたいだ」
「現実ですよ、私を抱くあなたはここに居る」
「絃って意外とリアリストだよな」
見た目を裏切るそうゆう所も良い。絃を転がして上に覆い被さると、儚そうな肢体に貪りついた。舌で嬲るとピンと尖る乳首に吸い付き、左も右もふやけそうなほど愛撫する。刺激に戦慄く身体が愛おしい。
絃の胸を舐めしゃぶりながら陰茎を絃の物に擦り付ける。甘い声をあげながらも、焦れた絃の手が両方合わせて緩やかに擦ってきた。
「我慢できない? ……ああ、本当に可愛いな」
「あっ、んん、んっんっきもちい、」
舌を腹に沿わせたまま下に降り、勿体つけた後で陰茎を舐め上げる。思わず腰をつき出す絃が堪らない。隅々まで舌を這わせて裏スジを通り、先まで辿ってパクリと食いつくと絃の腰が浮き上がった。
絃は陰茎まで綺麗だ、なんて思いながら追い上げるように強く吸いながら上下に扱く。絃のガクガク震える腰は俺の口を使ってセックスしているみたいな動きだ。
「っだめ、出して……出るからっ、もうーーああっ」
切羽詰まった絃の声に吸い上げを強めると、どこか悔しそうに絃が精を吐き出した。ちゅうちゅう吸って残った分も全部綺麗に回収する。味より何より絃の物を与えてもらったという達成感に満ち溢れながら飲み込むと、絃が小さく悲鳴をあげた。
「ああっ何して……もう、やだ何で飲むの……」
「え? 駄目だった? ごめんな」
「良いんですけど。別に良いんですけど」
口のなかでぶつぶつ言う絃は不満そうだがハッキリ言ってくれないので困る。暗黙のルール的なものだろうか。先に言っておいてくれれば考慮したんだが……。
「旦那様にやたら好かれ過ぎて困るって話です」
「それは……絃が可愛いのが悪いと思うぞ」
話は平行線になりそうなので、二人して笑った後は続きをした。絃とキスしながら後孔を探る。絃も既に準備してくれていたのか中からローションが溢れ、それを中に戻すように指を挿し入れる。
数度出し入れした所で絃に止められた。
「待ちきれないんです。入れてくれますか? 旦那様」
誂うように脚を大きく広げ、後孔を自分の指で開きながら問われる。答えなんて決まっていた。
「あっ、ゆっくり……んんっ」
「うん……うん……」
興奮し過ぎてズプッと入れてしまう。絃に諭されて勢いは弱めたものの全て入れ終わるまで落ち着けず、生返事がやっとだった。煽られて年上の余裕で躱せない自分が情けない。
全部収まったら収まったで今度は次の欲が沸いてくる。
「絃……どうしよう。もう二度と抜きたくない」
絃にやや呆れた顔を向けられるが本音だからどうしようもない。一度繋がってしまえば絃を離したくなくて、ずっとこのまま包まれて居たかった。
だいぶ年上の癖に情けない俺に絃が仕方なさそうに笑って抱き締めてくれる。繋がりが深くなった心地よさに軽く揺らしながら長くキスをした。
絃が急かさないのを良いことに、何度も何度もキスをして、時折思い出すように腰を揺らす。身体より心が満たされるセックスを初めて知った。
「あなたは幻想に夢中なだけですよ」と情事の合間に絃が洩らす。確かにそうかもしれない。けれど幻想ばかりではないと俺は思う。
「この年にもなると見れば何となく人となり位は分かる。取り繕っても隠せる物と隠せない物はあるから」
絃にどんな一面があっても俺はきっと惹かれる。容姿にだって性格は滲み出るのだ。咄嗟の表情にも仕事だと割り切っていようが本音は透けて見える。
「絃……信じてもらえないのは分かるけど、今は俺だけの嫁で居てくれ。好きだ、絃」
思いが高ぶってくるとスローセックスも続けられず、絃の気持ち良さそうな場所を激しく擦り上げた。背中に爪をたてられる痛みに煽られて、絃の陰茎を扱きながら同時に達した。
「旦那様はどうしようもない人ですね」
眠りにつく前に絃が囁くように言った。心当たりがありすぎて何と返していいか考えているうちに眠ってしまったようだ。身体が底に沈み込んでいくような気持ち良い眠りだった。
「パーパ、朝だよー。遊んで遊んで」
「絃ー。ソラお腹空いたよぉ」
弾けるような明るい声に目覚めを促され、目を開ければハルのどアップで笑いが洩れた。チビ達は今日も可愛い。隣を見れば絃もソラに襲われたのか似たような光景が広がっている。
「こら、チビども。飯は俺が作ってやるから、もう少し寝かせてやれ」
「あー! 蓉だー!」
「朝から蓉が機嫌が良いー! すごいねー」
うるせぇ黙れと怒鳴られても笑い続けるハルソラは神経が太い。蓉がチラッとこっちを見た気がしたが、すぐにリビングに消えてしまった。
「朝から騒がしくて……ごめんなさい」
まだ眠そうに絃が謝るのに、気にしなくて良いと頭を撫でる。蓉に甘えて、もう少しだけ絃を独占しても良いだろうか。絃の形の良い額を自分のと合わせて目を閉じた。
蓉の声に目を覚ます。ドタドタ元気に走り回るのはチビ達だろうか。起き上がってリビングに向かうと、温かいコーヒーと簡単な朝食が出てきた。
「蓉が作ってくれたんだな、ありがとう」
「……別に。大したもんじゃないし」
礼を言ってもプイッとそっぽを向かれてしまうが、それはそれで可愛いと思ってしまう。今度は蓉の手作りだと分かっているからゆっくりと味わって食べた。
軽くシャワーを浴びて身支度してからリビングに戻ると、既に絃も起きて待っていた。来た時と同じように自然な仕草で上着を羽織らせてもらう。
そろそろ夢の終わる時間だった。
子ども達の顔を一人一人眺めて、最後に絃を見る。仮初めでも本来は体験することすら出来なかった大切な家族だ。みんな愛おしい。
「みんな、ありがとう。こんな家族を持てて俺は幸せ者だ……仕事頑張ってしっかり金稼いでくるからな」
一家の大黒柱の役割は働いて家族を養う事だろう。なら俺もここで出会えた家族の為に、しっかり働いて再会するとしよう。
明るく言ったのに、らしくもなくハルソラが黙って脚に纏わりついてきた。何も口にはしないが、駄々を捏ねるようにグイグイ引っ張る。少し位は別れを惜しんでくれているんだろうか。
「……いってらっしゃい」
目も合わせず、床を睨み付けて蓉が言う。不満そうに尖った唇が可愛くて指で摘まみそうになったけれど、何とか理性で抑え込んだ。
ハルソラをくっつけたまま玄関に向かう。絃は隣に、蓉も何か言いたげに後ろをついてくる。
「本当にありがとう、絃」
「いえ……また……早く帰ってきてくださいね」
靴を履こうとすると渋々チビ達も手を離したので、名残惜しく絃を見つめ……振り切るように玄関を開いた。
コンシェルジュに別れをつげ、表に出ると一気に現実が押し寄せてくるように感じた。半日とは思えない充実っぷりにその場でネットを開いて最高評価のレビューをした。文句のつけようもないほど最高に幸せだった。
現実に戻ればもっと絶望するかと思ったが「家族を養わなくては」とかいう端から見れば結構ヤバい生き甲斐みたいなものが俺を支えている。熱狂的なアイドルオタクか、キャバ嬢に入れ込む親父か……当人が幸せならそれで良いと思うのだ。
「さー働くぞ。ボーナスつぎ込めば二回は行けるか」
疑似家族にやる気を貰い、今日も俺はバリバリ働く。
――その後、
チビ達を喜ばせたいが為に女子社員から新作スイーツ情報をかき集めて妙な勘繰りをされ、根も葉もない噂が流れたり。
次の予約を待たず仏頂面全開で何も言わない蓉が突然会社に押し掛けてきてアタフタしたり。
何度も何度も飽きずにしつこく通いつめるうちに絃からプライベートな番号を渡されて狂喜乱舞したりするのはまた別の話だ。
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