転生した気がするけど、たぶん意味はない。(完結)

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番外編

12.甘味(1)

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※中学時代。田中視点。





 
 あ……やってしまった。

 今日が何の日か、完全に忘れていた俺は、抜いた朝食代わりにコンビニでお菓子を購入していた。いそいそと教室で食べ始めたあたりで、何やら周囲の浮足立っている空気に触れ、ようやく今日がバレンタインだったと思い出したのだ。

「田中? それって……もしかして……」

 違う。全然違う。

 自分で買った物だと九割確信している癖にニヤけた面で確認してくる友人たち。俺は純粋に、ただ大好物のダルボを食べたいだけなのに、何故こんなに肩身が狭い思いをしながらこそこそ隠すように食べなきゃならないのか。

 しかし男子はともかく、女子からは「何か田中……地味にチョコ好きアピールしてない? あいつ痛くない?」なんて邪推されている可能性もある。こんなブツは早く片してしまった方が身の為だな。

「――あ、田中ダルボ食ってる」

 全て口の中に放り込んで証拠隠滅を図ろうしたタイミングで、運悪く今日の主役に見つかった。心なしかいつもより眩しく感じるのは気のせいだろうか。

「違う。これ、ただの朝ご飯だから。そういうのとはちっとも関係ない独立したダルボだから、ね?」
「独立したダルボって何だよ」

 何だろうね。俺にも分かんない。

 含み笑いで指摘されて、消え入りたいほど恥ずかしい。普段から注目される瑛士君だが、今日は一段と……そう瑛士君の一挙手一投足に教室中の視線が集まっている気がする。彼の為にあるイベントなのは間違いない。

 ついでに俺の阿呆な発言までしっかり皆の耳に届き、そして皆が疑問に思っているはずだ。

「寂しそうだから俺のも混ぜてやろう。交換な」
「わ、フランキーだ。美味しいよね」

 瑛士君がポケットからチョコを取り出し、パラパラとダルボの袋の中に粒が落ちていく。ひと目で貰い物ではないと分かる、俺と同じコンビニ仕様のチョコだ。

「好き?俺も好き」

 瑛士君が笑って「田中のもチョコちょうだい」って言うから、何か妙にそわそわしながら、ひと粒チョコを指で摘んだ。袋に入れようと指を彷徨わせたのだが、チョコはその場でパクリと瑛士君の口の中に消えて行く。

「あっ……」
「うま。ありがと、田中」

 もぐもぐしながら背を向けてしまった瑛士君に俺はあうあう言うばかりで言葉にはならなかった。撃沈。何だか分からないが陽の気に当てられた俺は脱力してそのまま机に丸まった。

 何だ、あれ。罪作りにも程がある。俺だから良かったものの、あんなの女の子相手にやったら……いや、俺相手だから何の気がねもなくやれたのか。じゃあ良いのか。

 仲間が出来て膨れた袋の中に手を突っ込み、チョコを噛る。逆に瑛士君ともなると一周回ってバレンタインに興味もなくなるんだなぁなんて思いながら。ちょっと得した気分でチョコを味わった。

 そんな中学の甘い思い出。




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