転生した気がするけど、たぶん意味はない。(完結)

exact

文字の大きさ
上 下
50 / 63
本編

50.終幕(2)

しおりを挟む
 
 そう見える場所に垂れてきただけかもしれない。目が合うと瑛士君はこちらに伸し掛かるように顔を伏せてしまったから、それが涙だったのかは分からないままだ。

「――ごめん、」

 何に謝られてるのか、ちっとも分からなかったけれど、力の入りにくい手を頑張って動かして瑛士君の後ろ頭を撫でる。お疲れ様って気持ちを込めて優しく優しく。俺の胸を占めるのは……長かったなぁって安堵だった。

 行為自体がじゃなくて、これまでの全部が。瑛士君と出会い、エイジと出会って、一つに繋がって、どこにかは分からないけど帰ってきたって感じがした。瑛士君も何となく同じように感じてくれていたら嬉しい。

 どちらともなく夢中になってキスをして、瑛士君のが内側を叩くのか、俺がキュウキュウ締め付けるのか、分からないけど気持ち良くて二人で腰を押し付け合う。

 眼の奥がチカチカするような強い快感はないけれど、緩やかな気持ち良さに浸るのは満たされる気がした。きっと今の俺の頭にはカラフルな綿あめがいっぱいに詰まっている。

「あー夢が全部叶ったんだなぁ」
「ん? なに?」
「卒業式に瑛士君ともっと親しくなりたかったって思って、こっちに来て瑛士君を幸せにしたいって思った。どっちも叶っちゃった……よね?」

 幸せにしてあげたよって言ってるみたいな物だからちょっと自信ないけど、すぐには瑛士君の肯定が返って来なくて余計不安になる。

「……俺も、あと一つだけ叶えて良い?」

 一回だけで良いからって、震えた声で言われて戸惑いながら頷いた。

「陽汰」
「……はい」
「っ、好きだった。違う、今も好き」
「俺も好きだよ、瑛士君」

 答えると今度は隠しようもない涙が伝った。苦しいくらい抱き締められて、陽汰陽汰って酷く懐かしい名前を繰り返された。

 ぴったりくっついて、中まで瑛士君の存在を感じて、ゆるゆるした動きにもどかしさが生まれる。吐息がぶつかって、首に吸い付かれて背筋からゾクゾク快感が走った。

「っふ、んん、っん」
「気持ちい? 顔蕩けてる。可愛い」
「い、いい……もっと」

 堪らず勝手に腰が動いて瑛士君の陰茎をもっと深く咥えようとする。掻き回すように動かされて、涙が滲んだ。何でこんな気持ち良いんだろ。

 抽挿が速くなると、熱に翻弄されて自分が何を言ってるのか分からなくなった。やらしい事を囁かれて、オウム返しみたいに答えた気がする。

「中すごいうねる……っは、気持ち良い」

 瑛士君の出ていこうとする動きに後孔が縋りついて食い締めてるのが分かる。その話し声さえ腹に響く。

 気持ち良いと勝手に内腿が瑛士君の身体を強く挟み込む。筋肉が悲鳴を上げる鈍い痛みすら快感に変換された。

「だ、めっ、ぁ、ぁあ……っく、いく、」

 過ぎた快楽に泣き言みたいな喘ぎを洩らし、したたかに奥を打ち付けられて我慢できずに先から精液を飛ばした。イってる間も追い打ちみたいにグリグリと前立腺を擦られ、身体を揺さぶられて、断続的に精液を撒き散らす。

 痙攣が止まらない内側を、強く圧迫する剛直が気持ち良いところを擦り上げながら出し入れされ、跳ね上がりそうなほど強く脈打った。

「――っく!」
「あ……ぁ、うぁ……ん」

 僅かな呻きを遠く聞きながら、勢いよく抜かれた直後に熱い飛沫が足の間を伝う感触に身体が震えた。中に出してくれない事を惜しく思うけれど、瑛士君の優しさだからそれもそれで嬉しい。

「フィー好き。頭おかしくなりそうなぐらい」
「っお、俺も、好き。ずっとずっと、好きだよ」

 馬鹿みたいに好き好き言い合うけど、他に表現できる言葉が思いつかないから仕方ない。後をひく余韻が落ち着くまで、頭に浮かんだ素直な言葉だけを抱き合って囁き続けた。

 セックスってこんなに気持ちが良い事なんだと感心した。瑛士君とだから特別なんだろうとは思うけれど、他に比べる相手が居ないので分からない。瑛士君なら分かるだろうか……と遠回しに聞いてみちゃう所が自分の悪い所だと知ってる。

「知らねーわ。俺も普通に初めてだし」

 予想外の告白に一瞬頭が真っ白になった。

「ないない。それはない」
「は? 田中が初恋だったんだよ。他の誰かとしようとも思わねーよ」

 ガチ? と思わず聞くと、真顔で頷かれる。

 そう……そうなんだ。いかにも女性経験豊富そうなのに。手慣れてるなんて俺の思い込みで、瑛士君はずっと俺としかしたくないって思ってくれてて……。うわ、うわわ。無理無理、嬉しくて雄叫びあげたい。

「おい、待て。どこ行くつもりだ」
「うん。ちょっと良さげな穴探して叫んでくる」
「それどこの童話?」

 徐に立ち上がったらすぐに瑛士君に捕獲された。裸のままに手足を器用に使って雁字搦めに拘束され、生肌が密着する感触に慌てふためく俺を笑われた。

「やる事やったら素っ気ない男は嫌われるらしいぞ。諦めて大人しくここで俺と寝よーな」

 そのまま、ぬいぐるみのように抱かれて眠ることになった。





「ママー。リクトー食べたい」
「買うよー。みんな好きだから三個買おうね」
「やったー明日? 明日食べる?」

 子連れのお客さん達の会話はとても微笑ましいものなのに、何となーく後ろめたい気持ちに襲われて、そっとそこから目を逸らす。

 原料隠してる訳でもないし堂々としてれば良いんだよ、と瑛士君は言うけれど、全く気にしないのは無理だと思う。にこにこ笑いながら会計に来てくれた親子の手には、最近売り出したパンがある。改良版ガーリックトーストである。

 日々、瑛士君と研究を重ね、ごく少量のライキ油を混ぜ込んだバターをこれまたごく薄く表面に塗ってある。適した香辛料も二人で地道に探し、火のそばで温めると美味しそうな匂いが漂う、異世界ガーリックトーストが完成した。最初はお試しにと少しだけ置いてみたところ、これが意外と評判良かったから驚きだ。

 安直に決めた「リクトー」なんて名前が微妙に恥ずかしい。

 田舎だからライキの匂いが浸透していない……という訳ではないらしく、娼館にお世話になった事のある男たちは気まずそうな顔を見せるが、食べてみれば案外ハマる。にんにくに中毒性があるのは俺も頷ける。

 とにかく、リクトーのまずまずの売り上げに、好評だったサンドイッチも定期販売して、資金が溜まったらまた王都に行こうと話している。その時はまだ見ぬ未知の食材探しも一緒にしたい。焼肉のたれだって俺はまだ諦めてはいないのだ。

「資金は多めに用意しときたいけど……いつ王都に呼ばれるか分かんないから早めに準備はしないとだよねー」
「呼ばれる? 兄ちゃんにか?」
「あ、そっちの可能性もなくはないよね」

 ピンと来てない瑛士君にニマニマ笑いかける。どっちにしろ、次に王都に行くのはきっと幸せな事が起きる時なのだ。

「兄ちゃんに子供が出来た時か、ローズさんの結婚式」
「……いやいや。兄ちゃんは分かる。結婚式? ないだろ」

 疑いの眼差しに、俺は首を振った。あります、全然あります。まだ具体的にそんな話が出るような段階ではないけれど、この予想には結構自信がある。

 定期的に続いている文通では、ローズさんからの被害を受けがちな騎士さんの事が頻繁に登場してきた。真面目でお人よしな騎士さんを憎からず思っているのは間違いないのだが「もう私の人生に男なんて必要ないわ」と断言しているので、どうなるかは分からない。

 でもきっと、十年後か二十年後か、逆に明日にはそうなるかもしれない。本気になったローズさんに屈しない男は居ないと思うから。

「エイジも楽しみにしておいてね」
「何だよ、その自信満々な顔。根拠ねー癖に」
「俺、結構直感には自信あるんだよ」
「フィーは今日も阿呆で可愛いな」

 腰を引き寄せられて、こめかみにチューされた。馬鹿にされたと怒るべきか、可愛いと言われた事を喜ぶべきか。まぁ、間近で瑛士君に笑いかけられたら秒でどうでもよくなるんだけど。何でこんな格好良いんだろう。好き。

 瑛士君が嬉しそうだから俺も笑う。
 今日も幸せだなーと思った。





【おわり】
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

処理中です...