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本編
50.終幕(2)
しおりを挟むそう見える場所に垂れてきただけかもしれない。目が合うと瑛士君はこちらに伸し掛かるように顔を伏せてしまったから、それが涙だったのかは分からないままだ。
「――ごめん、」
何に謝られてるのか、ちっとも分からなかったけれど、力の入りにくい手を頑張って動かして瑛士君の後ろ頭を撫でる。お疲れ様って気持ちを込めて優しく優しく。俺の胸を占めるのは……長かったなぁって安堵だった。
行為自体がじゃなくて、これまでの全部が。瑛士君と出会い、エイジと出会って、一つに繋がって、どこにかは分からないけど帰ってきたって感じがした。瑛士君も何となく同じように感じてくれていたら嬉しい。
どちらともなく夢中になってキスをして、瑛士君のが内側を叩くのか、俺がキュウキュウ締め付けるのか、分からないけど気持ち良くて二人で腰を押し付け合う。
眼の奥がチカチカするような強い快感はないけれど、緩やかな気持ち良さに浸るのは満たされる気がした。きっと今の俺の頭にはカラフルな綿あめがいっぱいに詰まっている。
「あー夢が全部叶ったんだなぁ」
「ん? なに?」
「卒業式に瑛士君ともっと親しくなりたかったって思って、こっちに来て瑛士君を幸せにしたいって思った。どっちも叶っちゃった……よね?」
幸せにしてあげたよって言ってるみたいな物だからちょっと自信ないけど、すぐには瑛士君の肯定が返って来なくて余計不安になる。
「……俺も、あと一つだけ叶えて良い?」
一回だけで良いからって、震えた声で言われて戸惑いながら頷いた。
「陽汰」
「……はい」
「っ、好きだった。違う、今も好き」
「俺も好きだよ、瑛士君」
答えると今度は隠しようもない涙が伝った。苦しいくらい抱き締められて、陽汰陽汰って酷く懐かしい名前を繰り返された。
ぴったりくっついて、中まで瑛士君の存在を感じて、ゆるゆるした動きにもどかしさが生まれる。吐息がぶつかって、首に吸い付かれて背筋からゾクゾク快感が走った。
「っふ、んん、っん」
「気持ちい? 顔蕩けてる。可愛い」
「い、いい……もっと」
堪らず勝手に腰が動いて瑛士君の陰茎をもっと深く咥えようとする。掻き回すように動かされて、涙が滲んだ。何でこんな気持ち良いんだろ。
抽挿が速くなると、熱に翻弄されて自分が何を言ってるのか分からなくなった。やらしい事を囁かれて、オウム返しみたいに答えた気がする。
「中すごいうねる……っは、気持ち良い」
瑛士君の出ていこうとする動きに後孔が縋りついて食い締めてるのが分かる。その話し声さえ腹に響く。
気持ち良いと勝手に内腿が瑛士君の身体を強く挟み込む。筋肉が悲鳴を上げる鈍い痛みすら快感に変換された。
「だ、めっ、ぁ、ぁあ……っく、いく、」
過ぎた快楽に泣き言みたいな喘ぎを洩らし、したたかに奥を打ち付けられて我慢できずに先から精液を飛ばした。イってる間も追い打ちみたいにグリグリと前立腺を擦られ、身体を揺さぶられて、断続的に精液を撒き散らす。
痙攣が止まらない内側を、強く圧迫する剛直が気持ち良いところを擦り上げながら出し入れされ、跳ね上がりそうなほど強く脈打った。
「――っく!」
「あ……ぁ、うぁ……ん」
僅かな呻きを遠く聞きながら、勢いよく抜かれた直後に熱い飛沫が足の間を伝う感触に身体が震えた。中に出してくれない事を惜しく思うけれど、瑛士君の優しさだからそれもそれで嬉しい。
「フィー好き。頭おかしくなりそうなぐらい」
「っお、俺も、好き。ずっとずっと、好きだよ」
馬鹿みたいに好き好き言い合うけど、他に表現できる言葉が思いつかないから仕方ない。後をひく余韻が落ち着くまで、頭に浮かんだ素直な言葉だけを抱き合って囁き続けた。
セックスってこんなに気持ちが良い事なんだと感心した。瑛士君とだから特別なんだろうとは思うけれど、他に比べる相手が居ないので分からない。瑛士君なら分かるだろうか……と遠回しに聞いてみちゃう所が自分の悪い所だと知ってる。
「知らねーわ。俺も普通に初めてだし」
予想外の告白に一瞬頭が真っ白になった。
「ないない。それはない」
「は? 田中が初恋だったんだよ。他の誰かとしようとも思わねーよ」
ガチ? と思わず聞くと、真顔で頷かれる。
そう……そうなんだ。いかにも女性経験豊富そうなのに。手慣れてるなんて俺の思い込みで、瑛士君はずっと俺としかしたくないって思ってくれてて……。うわ、うわわ。無理無理、嬉しくて雄叫びあげたい。
「おい、待て。どこ行くつもりだ」
「うん。ちょっと良さげな穴探して叫んでくる」
「それどこの童話?」
徐に立ち上がったらすぐに瑛士君に捕獲された。裸のままに手足を器用に使って雁字搦めに拘束され、生肌が密着する感触に慌てふためく俺を笑われた。
「やる事やったら素っ気ない男は嫌われるらしいぞ。諦めて大人しくここで俺と寝よーな」
そのまま、ぬいぐるみのように抱かれて眠ることになった。
「ママー。リクトー食べたい」
「買うよー。みんな好きだから三個買おうね」
「やったー明日? 明日食べる?」
子連れのお客さん達の会話はとても微笑ましいものなのに、何となーく後ろめたい気持ちに襲われて、そっとそこから目を逸らす。
原料隠してる訳でもないし堂々としてれば良いんだよ、と瑛士君は言うけれど、全く気にしないのは無理だと思う。にこにこ笑いながら会計に来てくれた親子の手には、最近売り出したパンがある。改良版ガーリックトーストである。
日々、瑛士君と研究を重ね、ごく少量のライキ油を混ぜ込んだバターをこれまたごく薄く表面に塗ってある。適した香辛料も二人で地道に探し、火のそばで温めると美味しそうな匂いが漂う、異世界ガーリックトーストが完成した。最初はお試しにと少しだけ置いてみたところ、これが意外と評判良かったから驚きだ。
安直に決めた「リクトー」なんて名前が微妙に恥ずかしい。
田舎だからライキの匂いが浸透していない……という訳ではないらしく、娼館にお世話になった事のある男たちは気まずそうな顔を見せるが、食べてみれば案外ハマる。にんにくに中毒性があるのは俺も頷ける。
とにかく、リクトーのまずまずの売り上げに、好評だったサンドイッチも定期販売して、資金が溜まったらまた王都に行こうと話している。その時はまだ見ぬ未知の食材探しも一緒にしたい。焼肉のたれだって俺はまだ諦めてはいないのだ。
「資金は多めに用意しときたいけど……いつ王都に呼ばれるか分かんないから早めに準備はしないとだよねー」
「呼ばれる? 兄ちゃんにか?」
「あ、そっちの可能性もなくはないよね」
ピンと来てない瑛士君にニマニマ笑いかける。どっちにしろ、次に王都に行くのはきっと幸せな事が起きる時なのだ。
「兄ちゃんに子供が出来た時か、ローズさんの結婚式」
「……いやいや。兄ちゃんは分かる。結婚式? ないだろ」
疑いの眼差しに、俺は首を振った。あります、全然あります。まだ具体的にそんな話が出るような段階ではないけれど、この予想には結構自信がある。
定期的に続いている文通では、ローズさんからの被害を受けがちな騎士さんの事が頻繁に登場してきた。真面目でお人よしな騎士さんを憎からず思っているのは間違いないのだが「もう私の人生に男なんて必要ないわ」と断言しているので、どうなるかは分からない。
でもきっと、十年後か二十年後か、逆に明日にはそうなるかもしれない。本気になったローズさんに屈しない男は居ないと思うから。
「エイジも楽しみにしておいてね」
「何だよ、その自信満々な顔。根拠ねー癖に」
「俺、結構直感には自信あるんだよ」
「フィーは今日も阿呆で可愛いな」
腰を引き寄せられて、こめかみにチューされた。馬鹿にされたと怒るべきか、可愛いと言われた事を喜ぶべきか。まぁ、間近で瑛士君に笑いかけられたら秒でどうでもよくなるんだけど。何でこんな格好良いんだろう。好き。
瑛士君が嬉しそうだから俺も笑う。
今日も幸せだなーと思った。
【おわり】
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