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本編
48.閑話/瑛士
しおりを挟むフィーの事を可愛いと思ったのは、出会ってすぐの事だった。悪い人間につけ込まれそうな危なっかしいヤツだなーと気づいた時には既に惹かれ始めていたのかもしれない。
彷徨っていた所を拾われて、一緒に暮らし始めて、妙に視線を感じるなと思ったら、決まってフィーがこっちをぼけーっと眺めていた。間違いなく俺を見ているのだけれど、俺とは認識して見ていないような何とも不可思議な視線だ。
熱に浮かされたような顔をしている癖に、どこか俺を人間とも思ってない気がする。幻想相手だとしても好意だけは如実に伝わってくるので悪い気はしなかったのだけれど。
細くて癖のあるふわふわのベージュの髪は、撫でれば手に懐っこく絡んでくる。フィーはよくプレーリードッグみたいな動きをするので無性に頭を撫でたくなるのは俺だけではないだろう。
潤んで光る赤い眼も、陽の下の木苺みたいに艶々して美味しそうなのだ。垂れた目元は威圧感ゼロだが、俺を眺めている時はろくに瞬きも忘れて熱心に視線を向けてくるので中々に圧を感じる。これで本人は盗み見してるつもりなのが本当に可愛い。
――そう、可愛いのだ。
周囲の反応を気にせず自由に振る舞う所も好きだが、何に置いても俺を優先させる所も可愛い。晴れて両思いになったら尚更だ。抱きしめてもキスしても、たぶん俺が何をしようと全肯定で身を委ねて来る。ふわふわした幸せそうな顔で。
「フィー」
キスした後に名前を読んだら、寝ぼけたみたいな顔してぽやんと見上げてくるのが好きだ。目を離すとどっかに行ってしまいそうな雰囲気が付き纏うフィーをぎゅーぎゅー腕の中に囲っている瞬間が一番安心する。
真面目にこいつ手離したら死ねる。
身体を繋げればもっと安心出来る気がして、つい気が逸ってしまう。王都でローズから口酸っぱく注意されたから、焦ってフィーを傷つけてしまわないように一応気をつけてはいるのだが。
「……今日も、する?」
「したい。けど、きつくね? 休んでも良いよ」
「何で、するよ。全然きつくない」
何でも受け入れんなよ。なんて昔にも思ったような理不尽が胸を過るけれど、誘惑に抗えない俺が一番悪い。
早くフィーの中に入りたくて、日夜しつこく拡張に励む俺をフィーは嬉しそうに受け入れる。どうにも勝手が分からなくてぎこちないしちっとも上手く出来てないだろうに。
「じゃあ、しんどくなったら寝て」
「ええーそんな勿体ない事したくないよ」
そんな事を悲壮感を漂わせて腕を掴んでまで訴えてくるフィーは阿呆だ。一体どこに惜しむ必要があるのかはフィーにしか分からないんだろう。ほんと阿呆で可愛い。
顔中にキスして、尖った唇を柔く食んで、隙しかない唇の間に舌を差し込む。毎度律儀にビクッと身を震わせられるが、どう考えてもキスするタイミングだったろ。
舌を絡ませつつ、腰から背中を撫で上げながら服を捲る。フィーがか細く舌を吸い返して来たのに簡単に煽られて、息を荒くしながらフィーの上着を奪い取って二人して寝台に転がった。
「っふぁ、エイジ手慣れてる」
「慣れねーわ。めっちゃ頑張ってんだろ」
願望が尽きないから勝手に身体が動くだけで、余裕なんて全くない。覆いかぶさりながら首筋に舌を這わせれば、フィーの腰がもどかしそうに揺れて、イラッとするほど煽られた。
小柄で細身だけど全身に薄く筋肉が乗ってるフィーの身体が好きだ。自分の店持って、人の分までちょこちょこよく動いて、ぽやーっとしてない時のフィーは働き者で格好良い。
「――あっ、だめ、擽ったい」
控え目な胸の粒も可愛い。唇で吸い付けないほど小さい先端を舌で転がすと擽ったがって身を捩られる。絶対ここを性感帯に仕上げるって決意してるけど、下ではちゃんと陰茎がぴくぴく動くから反応は悪くない。
舌でグリグリ抉ると、堪らなそうに無意識にか俺の頭を強く抱え込んでくるのが好きだ。抱くのも抱かれるのも好き。壊れそうな位に早鐘を打つ心臓の音聞きながら、ズボン剥くのは最高に興奮した。
「うわぁー結構ぐっしょりイってんね」
「ごめ……きもち、いくて、っ」
「いや、俺も大概キてるよ。ほら」
血が集まり過ぎてビリビリ痛む陰茎を擦り付けると、フィーは顔を真っ赤にさせながらもちゃっかりガン見してくる。
「あーもう本当可愛い。何なの、お前」
これで萎えないどころか、逆に滾るのは自分でも頭おかしい気はするけど、フィーがフィーらしいとそれだけで嬉しいから仕方ない。期待に応えるべく俺も脱ぎつつボトルを手に取る。
生の実はとっくに消費したけど、帰る時に色んな人が押し付けてきたから潤滑油には困らない。気前良くドパーっと垂らして、脚の間全部に手を滑らせながら塗り拡げていく。
後孔には特に念入りに。つつくと怯えたみたいにキュッと締まるから、陰茎もくちくち弄りながら綻ぶのを待つ。
「……うう、まだ?」
「フィーが急かすのおかしいだろ。緊張するならこっちに集中しろよ、どうされんのが気持ち良い?」
「あ、っそこ、やだ、んん」
「先っちょ駄目? 裏スジは?」
カウパー絡めた指の腹で先端をくるくる弄るとフィーが手を伸ばして制止してこようとするので、裏スジぬろーっと擦ったら足をジタバタされた。随分良いらしい。
きゅうきゅう収縮する後孔にタイミング合わせて指を入れれば、食むように蠢かれてちょっとキた。指一本でキツキツの癖に、内側に引き込むみたいな動きをされると、我慢するのがマジで辛い。未練がましくチンコ擦り付ける位は許して欲しい。
最近やっと見つけたイイ所を擦ると、フィーの陰茎から動きに合わせて先走りと嬌声が洩れる。あーエロい。普段は年齢より幼い癖に淫らに腰を揺らして、陰茎を手のひらに擦りつけてくんのも卑猥で、堪らず揺れる内腿にキスをした。
「――えい、っえいじく、んん」
気持ち良くて頭が馬鹿になると、フィーは俺を瑛士君って呼ぶ。呼びやすいなら別にそれでも構わないのに、いっぱいいっぱいにならないと呼ばない。
前世と今をどこで線引きしてるのか分からないけれど、俺もフィーを田中とは呼ばないようにしている。前世も含めて全部がフィーだし、俺の初恋は間違いなく成就したのだけれど、胸の中には小さなしこりがある。
元の世界に帰らないと決めた時、俺はフィーと生きる事を選んだ。何を言おうと、一度は田中を諦めたのだ。例え同じ魂を持った同一人物だとしても、良かったと素直に喜べない自分が居る。フィーが瑛士君と呼ばないのもそのせいかもしれない。
「フィー、好きだよ」
本当に大好きだ。だから早く繋がりたい。
何とか指を三本は咥えられるようになった。バラバラに動かすと入り口はきつく食い締めながら、奥がうねうねと蠢く。痛いくらいガチガチの陰茎を挿れたらどんなに気持ち良いだろう。
「んっ、ん、好き、ぃい」
「俺も。ずっと、ずっと好き」
「あ、っあっあんん――!」
精液を吐き出しながら千切られそうに絞られて、自分のを強く握った。入れたい、入れたいと願いをぶつけるように強く扱くけれど、本当の欲求は少し違うと思う。俺はフィーとの間の少しの隙間も埋めたいのだ。あと少し、ほんの少し。
適当に出して、ぐでーっと手足を投げうって脱力するフィーの横に寝転ぶ。寝てるかと思ったら、こっちにコロリと身体ごと向けてきた。まだ頬が上気していて身体も熱っちい。
「もうすぐ入るかな?」
「え、あぁ……もうちょっと」
フィーは俺の答えを聞いて、そっか……と呟き、こっそり小鼻を膨らませてニヨニヨしていた。何だこいつやっぱクソ可愛いだろ。大事に大事に胸に抱え直して、ぎゅーっとしながら目を閉じる。
「――はー幸せ」
その小さな呟きには激しく同意だ。
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