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プロローグ

作戦開始

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 公爵家のだだっ広い一室に、数人の年齢も性別も様々な6人が等間隔に並べられたベットの上で寝かされている。

  その部屋の隣に隣接している小部屋は談話室となっていて、ルルーと、モルーは今世で座ったこともない上等なソファーの上で公爵家のおもてなしを受けていた。

 「被害者の方達も全員保護出来ましたね。次はどうするつもりですか?」

 湯気の立つ紅茶をルイスが一口含むと優雅にカップを机に戻す。

 「6人全員、バーバリーさん達と手口も“黒の魔術師”が現れてダイスを呑ませろと指示してることも同じでしたね」

 ルイスの問いかけにモルーが被害者の家族、知人から聞いた内容を確認するように言った。これが意味することはつまり

 「全員、間違いなく同じ目的を持った者の仕業でしょう」

 ルルーがそうポツリと呟くと一旦カップを傾けて紅茶に口をつける。

 「被害者の保護を初めこの二日間、この領に邪悪な気配も怪しい感じもしません。考えられる理由としては気配を隠したか、領の外にいるか、です」

 「どちらにしても結界に気付いて目立った動きは取れないはず」

 「そう。モルーの言う通り、結界に気付いてこちらの様子を見ているのなら、それはそれで侮れない相手、という事です」

 ルルーとモルーが交互に言葉を重ねる。相手が結界に気付いて様子を見ているのなら侮れない。と言う考えはルイスも賛同する所だった。

 物理攻撃対策の結界ならばそこに結界があると分かり易いがこう言った特殊な結界の場合、見破るのに高位魔術師程の力を持っていないと見破れない。

 「かとて言ってこのままの状態を続けるのはルルーの体力的にも無理だし、事件は解決しないので、ルイス様」

 モルーは、ルイスを見た。

 「一旦結界を解きます」

 モルーの言葉にルイスが険しい表情を浮かべた。

 「結界を解けばきっと黒の魔術師は領に入ってくるはずです。そして、被害者の元に様子を見に来るはず」

 「...なるほど。こちらに来るかバーバリーさんの所に向かうか、確かにそれなら黒の魔術師も捕まえ易いですね。だけど、」

 ルイスは納得しながらも首を傾げた。

 「そんなに上手く行かないでしょうね」

 ルルーがキッパリと言う。

 「間違いなく相手もこれが罠だと言うことに気がついている筈です」

 モルーはソファーから立ち上がってゆっくりと窓辺まで歩き、窓の外に映る海辺の栄えた通りを見つめた。

 「それでも、黒の魔術師は必ず動きます。だって確認するしか無いですから。黒の魔術師本人が来るか、手下が来るか分からないですが」
 
 ルルーはモルーを気にすることなく話を続ける。

 「私達は黒の魔術師について何も知らない...単独行動なのか、組織なのか。被害者達の前に現れた黒の魔術師達が全員同一人物であるかどうかさえ分からない。ルイス様」

 モルーは険しい表情でルイスを見た。

 「はい。なんでしょうか、モルーさん」

 「私達の目的はバーバリーさん達を助ける事です。黒の魔術師捕縛についてはとりあえず二の次です」

 ルイスは、しっかりのモルーを見てコクリと頷いた。

 「はい。承知しています」

 「作戦は至ってシンプルです。両方に襲撃して来るとこを想定して二手に分かれましょう。勿論私達は、バーバリーさんの所に向かいます。ここにいる方達はルイス様に全面的にお任せします。黒の魔術師がこちらに姿を表したら知らせてください。術解方法を聞き出さなければなりません。それか術式の種類でも分かれば時間はかかりますが術解出来るかも知れませんし、出来れば会いたいです」


 ルルーが一気に内容を伝えると一度紅茶を含んで口の中を潤した。

 「ーー‥‥こちらも、黒の魔術師が、現れたらなんらかの方法でルイス様にお知らせします。その上でバーバリーさん達の安全を第一に捕縛にもなるべく協力させて貰います。勿論バーバリーさん達の術解を成功出来たら他の方達の術も解きましょう」
 
 ルルーが話終わると談話室は静まり返りった。コツ、コツ、コツ、と窓際から離れるモルーの足音が響く。モルーはそのまま机に準備された自分の緩くなった紅茶を手に取って一気に流し込む。

 やや長い考察に入ったらしいルイスは口を開いた。

 「その作戦に概ね賛同しましょう。しかし、そうなれば相手の本命はバーバリーさんの所になる可能性が高いですが、2人で大丈夫ですか?モルーさんはほとんど魔術を使えないのですよね?ルルーさんは見た目以上に今回の結界で相当体力も魔力も消費しているはずです。そんな状態で護りながら戦えるんですか?」

 「問題ありません。見ての通り私はピンピンしてますし、モルーの事もあまり見くびらないでください」

 ルイスの言葉にルルーはピクリと眉を動かし、少し棘のあるキツイ言い方でルイスに応えた。ずっと物腰が穏やかだったルルーが不機嫌を表した事にルイス一瞬戸惑いを見せたものの、直ぐに丁寧に謝罪する。

 「申し訳ありません。特に今の発言はモルーさんに対する侮辱に値するものでした」

 そう言ってルイスは再度モルーにも頭を下げる。

 「ちょっ、や、やめてください!!公爵とも有ろう方が平民に頭を下げないで下い!!別にルイス様の心配している事は事実ですから」

 ルイスに頭を下げられたモルーは急に慌てた。 

 モルーにとっての貴族、それも爵位が高ければ高いほど差別は厳しくプライドも高く傲慢なイメージだった。むしろ記憶の中の貴族達はそうだった。前世の神子ことして崇められ居た時と違い、今はただの町娘に過ぎない。そんな娘に頭を下げるルイスにモルーは少しばかり好感を抱いた。

 「ありがとうございます。…元々2人に協力すると言ったのは此方です。最後までお2人に全面的に協力致しましょう」

 ルイスは立ち上がると、ルルーと、モルーの前に手を差し伸ばす。ルルーとモルーはお互いに視線を交わす。先ほどまで刺すようにルイスに突きつけていたモルーの警戒心は単純ながらに和らいでいた。

 「ありがとうございます。此方も出来る限り協力したいと思います」

 ルルーも立ち上がるとにこやかに微笑みながらルイスの手を取った。
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