8 / 13
プロローグ
作戦開始
しおりを挟む公爵家のだだっ広い一室に、数人の年齢も性別も様々な6人が等間隔に並べられたベットの上で寝かされている。
その部屋の隣に隣接している小部屋は談話室となっていて、ルルーと、モルーは今世で座ったこともない上等なソファーの上で公爵家のおもてなしを受けていた。
「被害者の方達も全員保護出来ましたね。次はどうするつもりですか?」
湯気の立つ紅茶をルイスが一口含むと優雅にカップを机に戻す。
「6人全員、バーバリーさん達と手口も“黒の魔術師”が現れてダイスを呑ませろと指示してることも同じでしたね」
ルイスの問いかけにモルーが被害者の家族、知人から聞いた内容を確認するように言った。これが意味することはつまり
「全員、間違いなく同じ目的を持った者の仕業でしょう」
ルルーがそうポツリと呟くと一旦カップを傾けて紅茶に口をつける。
「被害者の保護を初めこの二日間、この領に邪悪な気配も怪しい感じもしません。考えられる理由としては気配を隠したか、領の外にいるか、です」
「どちらにしても結界に気付いて目立った動きは取れないはず」
「そう。モルーの言う通り、結界に気付いてこちらの様子を見ているのなら、それはそれで侮れない相手、という事です」
ルルーとモルーが交互に言葉を重ねる。相手が結界に気付いて様子を見ているのなら侮れない。と言う考えはルイスも賛同する所だった。
物理攻撃対策の結界ならばそこに結界があると分かり易いがこう言った特殊な結界の場合、見破るのに高位魔術師程の力を持っていないと見破れない。
「かとて言ってこのままの状態を続けるのはルルーの体力的にも無理だし、事件は解決しないので、ルイス様」
モルーは、ルイスを見た。
「一旦結界を解きます」
モルーの言葉にルイスが険しい表情を浮かべた。
「結界を解けばきっと黒の魔術師は領に入ってくるはずです。そして、被害者の元に様子を見に来るはず」
「...なるほど。こちらに来るかバーバリーさんの所に向かうか、確かにそれなら黒の魔術師も捕まえ易いですね。だけど、」
ルイスは納得しながらも首を傾げた。
「そんなに上手く行かないでしょうね」
ルルーがキッパリと言う。
「間違いなく相手もこれが罠だと言うことに気がついている筈です」
モルーはソファーから立ち上がってゆっくりと窓辺まで歩き、窓の外に映る海辺の栄えた通りを見つめた。
「それでも、黒の魔術師は必ず動きます。だって確認するしか無いですから。黒の魔術師本人が来るか、手下が来るか分からないですが」
ルルーはモルーを気にすることなく話を続ける。
「私達は黒の魔術師について何も知らない...単独行動なのか、組織なのか。被害者達の前に現れた黒の魔術師達が全員同一人物であるかどうかさえ分からない。ルイス様」
モルーは険しい表情でルイスを見た。
「はい。なんでしょうか、モルーさん」
「私達の目的はバーバリーさん達を助ける事です。黒の魔術師捕縛についてはとりあえず二の次です」
ルイスは、しっかりのモルーを見てコクリと頷いた。
「はい。承知しています」
「作戦は至ってシンプルです。両方に襲撃して来るとこを想定して二手に分かれましょう。勿論私達は、バーバリーさんの所に向かいます。ここにいる方達はルイス様に全面的にお任せします。黒の魔術師がこちらに姿を表したら知らせてください。術解方法を聞き出さなければなりません。それか術式の種類でも分かれば時間はかかりますが術解出来るかも知れませんし、出来れば会いたいです」
ルルーが一気に内容を伝えると一度紅茶を含んで口の中を潤した。
「ーー‥‥こちらも、黒の魔術師が、現れたらなんらかの方法でルイス様にお知らせします。その上でバーバリーさん達の安全を第一に捕縛にもなるべく協力させて貰います。勿論バーバリーさん達の術解を成功出来たら他の方達の術も解きましょう」
ルルーが話終わると談話室は静まり返りった。コツ、コツ、コツ、と窓際から離れるモルーの足音が響く。モルーはそのまま机に準備された自分の緩くなった紅茶を手に取って一気に流し込む。
やや長い考察に入ったらしいルイスは口を開いた。
「その作戦に概ね賛同しましょう。しかし、そうなれば相手の本命はバーバリーさんの所になる可能性が高いですが、2人で大丈夫ですか?モルーさんはほとんど魔術を使えないのですよね?ルルーさんは見た目以上に今回の結界で相当体力も魔力も消費しているはずです。そんな状態で護りながら戦えるんですか?」
「問題ありません。見ての通り私はピンピンしてますし、モルーの事もあまり見くびらないでください」
ルイスの言葉にルルーはピクリと眉を動かし、少し棘のあるキツイ言い方でルイスに応えた。ずっと物腰が穏やかだったルルーが不機嫌を表した事にルイス一瞬戸惑いを見せたものの、直ぐに丁寧に謝罪する。
「申し訳ありません。特に今の発言はモルーさんに対する侮辱に値するものでした」
そう言ってルイスは再度モルーにも頭を下げる。
「ちょっ、や、やめてください!!公爵とも有ろう方が平民に頭を下げないで下い!!別にルイス様の心配している事は事実ですから」
ルイスに頭を下げられたモルーは急に慌てた。
モルーにとっての貴族、それも爵位が高ければ高いほど差別は厳しくプライドも高く傲慢なイメージだった。むしろ記憶の中の貴族達はそうだった。前世の神子ことして崇められ居た時と違い、今はただの町娘に過ぎない。そんな娘に頭を下げるルイスにモルーは少しばかり好感を抱いた。
「ありがとうございます。…元々2人に協力すると言ったのは此方です。最後までお2人に全面的に協力致しましょう」
ルイスは立ち上がると、ルルーと、モルーの前に手を差し伸ばす。ルルーとモルーはお互いに視線を交わす。先ほどまで刺すようにルイスに突きつけていたモルーの警戒心は単純ながらに和らいでいた。
「ありがとうございます。此方も出来る限り協力したいと思います」
ルルーも立ち上がるとにこやかに微笑みながらルイスの手を取った。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
拝啓 私のことが大嫌いな旦那様。あなたがほんとうに愛する私の双子の姉との仲を取り持ちますので、もう私とは離縁してください
ぽんた
恋愛
ミカは、夫を心から愛している。しかし、夫はミカを嫌っている。そして、彼のほんとうに愛する人はミカの双子の姉。彼女は、夫のしあわせを願っている。それゆえ、彼女は誓う。夫に離縁してもらい、夫がほんとうに愛している双子の姉と結婚してしあわせになってもらいたい、と。そして、ついにその機会がやってきた。
※ハッピーエンド確約。タイトル通りです。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)
青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。
ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。
さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。
青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる