上 下
4 / 13
プロローグ

2人の秘密

しおりを挟む

 突然ですがみなさん、こんにちは。モルーです。今回は私モルーにお付き合い下さい。

 ルイス様とバーバリーさんにお引き取り願った後に私達もお店を上がらせて貰った。

 今は酒場の上にある2階の居住区スペースにある一番奥の部屋…私達2人の部屋に戻ってきた。

 狭い部屋に少し大きめのベットと窓際に二つ並べられた小さな机。ここが私達2人の拠点だ。

 先にベットのふちに腰をかけたルルーに寄り添うように私も腰を下ろした。私達はずっと2人寄り添って生きてきた。私達は2人で1人なのだ。…いや、大昔私達は確かに1人の人間だった。

 「ごめん、ルルー。迂闊だった」

 黙り込むルルーに私は素直に謝った。

 「仕方ないよ。まさか精霊魔法の気配を感じ取れる程の高度な魔術使いが居ると思わなかったし」
 

 ルルーの言葉に私は何も反応出来なかった。仕方ない。で済まされる結果じゃない。私達は前世の散々神子として酷使され人とは見て貰えない“生贄”になりたくなかった。普通の町娘として普通に幸せに暮らしたくて神子の力を隠してきたのに。

 それなのに

 「よりによって、貴族…領主様にバレるなんて」

 思わず口から出た自分の声は情けなくも震えていた。双子の姉であるルルーは、領主に自分こそが神子であると、神子の力の一つである結界魔法を掛けたのは自分だと言ったのだ。

 「でも、遅かれ早かれきっとバレてた。前世の神子は私…私達1人。私1人が神子だと名乗りを上げれば万事解決でしょ」

 「馬鹿じゃないの?」

 馬鹿だ。ルルーは。それで私を守れると守ったと思ってるんだから。大馬鹿者だ。

 前世で神子である私が使えた魔術は私が得意とする結界魔法とルルーが得意とする攻撃魔法。そして今世で私が2人に別れた事で私は攻撃魔法が全く使えない。それはルルーも同じ事でルルーは攻撃魔法以外一切使えないのだ。


いや、正確に言えば同じでは無いだろう。私は確かに結界魔法が得意。だけど攻撃魔法が使えないだけで、治癒魔法や、他のサポート魔法もそこいらの魔術師なんかよりも強い。

 「だけど、私に攻撃魔法以外が使えない限り、モルーには何処までも私について来てもらうからね」

 自分でも気付かないうちに大泣きしていた私の肩をルルーがそっと抱きしめてくれる。その力は力強く、そしてルルーの心情が伝わってくる気がする。

 だからこそ、私はルルーが最前線で戦うのをあくまでもサポートする事しか出来ない。それがどれほど自分が非力だと悔やんだか、きっとルルーは知らないし、知られたくも無い。

 「寧ろルルーが、本気で怒った時に止められるのは私だけでしょ」

 私は涙をゴシゴシと拭った。きっとこの事件に一区切りついたらルルーは神子として王都に連れて行かれるだろう。その時に私は双子の妹としてルルーの隣を歩こう。私はいつも守ってくれるルルーのサポートしか出来ないんだから。

 「さぁ、モルー。そろそろ仕事にとりかかりましょうか。もちろん行けるよね?」

 私が涙を拭くとルルーがニヤッと口角を上げた。

 「余裕」

 私もルルーと同じ様に笑ってやった。

 私もルルーも元々1人の神子の魂が分裂して2人にそれぞれの神子の力が宿った。

 前世の時のように光の攻撃魔法は使えないけれど、その代わりに…それ以上に結界魔法の威力は爆発的に上がった。

 それも一重に幼い頃からの猛特訓の成果でもあるが、2つの力を使えていた頃はどんなに訓練してもある一定で成長しなくなった。

 私はベットから立ち上がり深く深呼吸して集中する。

 自分が立っているこの部屋を中心に意識を徐々に広げていけば、意識が広げただけそこに居る人々の息遣いを感じる事が出来る。

 領地の半分まで結界を広げた所で体にふわっと不快感が襲ってきた。フラッと足元が揺らぐも、そこは気合で持ち堪える。

 強く出来ると言ったものの、いや今の自分の力だと出来るのだけど流石に実践するのは初めてなので中々にキツいものがあった。

 どんどん冷え切っていく自分の手先に温もりが包み込む。

 「しくじるんじゃないよ」

 ルルーの声が鮮明に聴こえた。

 全く。この心配性な姉は。

 私は再度精霊たちに呼びかける。

 エピリール地方に居る全ての精霊達よ。私に応えよ。そして力を

 結界の膨張スピードが一気に上がり瞬く間に領地全体に行き渡たる。

 「この領地に住む人々を護り、潜む闇をあばきだせっ!!」

 結果の膨張、強化が完了した所で私は眼を見開いて結界に込める力を口頭で示した。

 こうする事で結界は保定され、力強く声を出す事で威力も込めやすく結界はさらに強固なモノが出来上がる。

 気を許した途端に私の身体に激しい不快感が襲い掛かって私は自力では立って居られなくなった。

 「お疲れ様」

 その場に崩れ込む私をすんでの所でルルーが支えてくれた。

 「へへっ、ちょっと、ヤバい…」

 「上出来だよ。取り敢えず休んで」

 ルルーの言葉に私は素直に意識を手放した。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

拝啓 私のことが大嫌いな旦那様。あなたがほんとうに愛する私の双子の姉との仲を取り持ちますので、もう私とは離縁してください

ぽんた
恋愛
ミカは、夫を心から愛している。しかし、夫はミカを嫌っている。そして、彼のほんとうに愛する人はミカの双子の姉。彼女は、夫のしあわせを願っている。それゆえ、彼女は誓う。夫に離縁してもらい、夫がほんとうに愛している双子の姉と結婚してしあわせになってもらいたい、と。そして、ついにその機会がやってきた。 ※ハッピーエンド確約。タイトル通りです。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...