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翌日
ラムとスーは朝のルーティーンを終えた後
ラムとはなは先に社員寮へと帰って行きました。
入れ替わりにマツが商店街にやって来ます。
占いの館の鍵を開けると
マツと仔猫は中へと入って行きました。
予約のお客さんは断っていたので
今日は飛び込みのお客さんだけとなります。
お客さんは来るのでしょうか?
ここしばらくシャッターが閉まっていた
占いの館。
警察官の椿は営業再開したのだと思い
顔を出してみました。
「こんにちは。もう体調良くなったんですか?」
いつものように照明が落ちて薄暗いけれども
落ち着いた空間に見慣れない少年が座っていたのです。
「これは失礼いたしました。」
狭い店内。
店の奥が見えないように
のれんがかかっていました。
椿の声を聞いたマツが奥から顔を覗かせます。
「あら、椿ちゃん。ごめん。
今日は新人のこの子なんだわ。」
「マツさんは何故ここに?
インカムなんかしちゃって。どうしたんですか?」
「インカム?あ、これはちょっと音楽事務所から拝借したのさ。
この子に何かあったらいけないんでね。
今日は保護者代理さ。」
「はぁ。」
「パトロールご苦労様。」
椿は職務中だったことを思い出し
店をあとにしました。
『店は休業中だけど見習い占い師の練習台になってくれる人募集中』
インターネットの掲示板にはこう書かれていました。
食堂スタッフのヅケちゃんが協力していたのです。
皇子が退屈を持て余していると
店の出入口ドアが開きました。
高校生くらいの少女が店内に入って来ました。
「あ、あの、ネットで見たのですが。おいくらですか?」
皇子が首を傾げた瞬間に
マツからインカムを通して指令が入ります。
「どうぞ、おすわりください。」
皇子はインカムから聞こえて来たまま
言葉を口にするのでした。
「おいくらですか?」
「ボクは新人ですので百円です。」
「百円?本当ですか?」
少女は財布から百円玉を一枚出すと
机の上に置きました。
皇子はお金の概念がわからないので
百円玉には手を付けません。
「では、何を占って欲しいですか?」
皇子は悪魔の気配を消していたのですが
少女の後ろに付く何者かの気配を見逃しませんでした。
テレパシーで少女の後ろに話しかけます。
「お前はなぜそこにいる。」
魔界の皇子がまさかそこにいると思わなかった
その者は息を詰まらせました。
「何故って?皇子、これがオレたち悪魔の生業のひとつじゃありませんか?」
このまま今すぐにでも消されてしまうかも知れない。
気づかず同じ空間に入ってしまったことを後悔しました。
「このまま立ち去れ。」
「そんな!こいつは今までずっと探して続けてやっと見つけた上玉ですぞ。
皇子に譲れと言われればお譲りいたしますが。
しかし皇子がどうしてこんな所に。」
もちろんこのやり取りは
マツと少女には
聞こえもしなければ見えもしないのです。
少女が振り向いた時に
もし見えたとすれば
彼女はきっと腰を抜かすに違いないでしょう。
皇子は蝋燭の炎を消すように
口の前で人差し指の先に
そっと息をかけました。
その瞬間
少女の後ろについていた影は
諦めたように消えていきました。
値段のこともあり
今まで半信半疑で
俯いて椅子に座っていた少女は
突然身体が軽くなったような
頭痛が取れたような
不思議な感覚になり
表情が明るくなりました。
「ありがとうございます。」
少女は皇子に何度もお礼を言うと
店のドアを閉めました。
「何かよくわかんないけど
やったじゃん。スー。」
それから
三日間で十二体の悪魔を
皇子は追い払いました。
追い払われた悪魔からすれば
意味のわからない出来事でしたが
彼等にとって皇子は絶対的存在であったので
何も言えませんでした。
皇子は百円玉を十二枚もらいました。
部屋の使用料金は
三人のおばあちゃんたちが負担していました。
「そのお金でお母さんに何かお土産買ってあげな。」
最終日に
マツは商店街を案内し
皇子は母親に金平糖を買いました。
マツが見知らぬ少年を連れて歩いていたので
商店街ではちょっとした噂になってしまいました。
占いの館の占い師が
全快して仕事に復帰したのですが
口コミで広がった
『ミステリアスな少年占い師』
がひとり歩きし
お客さんから
「あの少年はいつ来るのか?」
と言われるばかりで
占い師はあまり良い気がしませんでした。
スーはひとまず魔界へと帰って行きました。
そんなある日
はなおばあちゃんが
街路樹周辺の草抜きをしていると
木の根元に
百円玉を一枚見つけます。
「みっちゃん、外に百円落ちてたの。」
正直なはなおばあちゃんは
拾って事務所に届けます。
その様子を
サーとシーは窓辺から見ていました。
「あの百円、スーがはなさんにって
置いて行ったのにね。」
ラムとスーは朝のルーティーンを終えた後
ラムとはなは先に社員寮へと帰って行きました。
入れ替わりにマツが商店街にやって来ます。
占いの館の鍵を開けると
マツと仔猫は中へと入って行きました。
予約のお客さんは断っていたので
今日は飛び込みのお客さんだけとなります。
お客さんは来るのでしょうか?
ここしばらくシャッターが閉まっていた
占いの館。
警察官の椿は営業再開したのだと思い
顔を出してみました。
「こんにちは。もう体調良くなったんですか?」
いつものように照明が落ちて薄暗いけれども
落ち着いた空間に見慣れない少年が座っていたのです。
「これは失礼いたしました。」
狭い店内。
店の奥が見えないように
のれんがかかっていました。
椿の声を聞いたマツが奥から顔を覗かせます。
「あら、椿ちゃん。ごめん。
今日は新人のこの子なんだわ。」
「マツさんは何故ここに?
インカムなんかしちゃって。どうしたんですか?」
「インカム?あ、これはちょっと音楽事務所から拝借したのさ。
この子に何かあったらいけないんでね。
今日は保護者代理さ。」
「はぁ。」
「パトロールご苦労様。」
椿は職務中だったことを思い出し
店をあとにしました。
『店は休業中だけど見習い占い師の練習台になってくれる人募集中』
インターネットの掲示板にはこう書かれていました。
食堂スタッフのヅケちゃんが協力していたのです。
皇子が退屈を持て余していると
店の出入口ドアが開きました。
高校生くらいの少女が店内に入って来ました。
「あ、あの、ネットで見たのですが。おいくらですか?」
皇子が首を傾げた瞬間に
マツからインカムを通して指令が入ります。
「どうぞ、おすわりください。」
皇子はインカムから聞こえて来たまま
言葉を口にするのでした。
「おいくらですか?」
「ボクは新人ですので百円です。」
「百円?本当ですか?」
少女は財布から百円玉を一枚出すと
机の上に置きました。
皇子はお金の概念がわからないので
百円玉には手を付けません。
「では、何を占って欲しいですか?」
皇子は悪魔の気配を消していたのですが
少女の後ろに付く何者かの気配を見逃しませんでした。
テレパシーで少女の後ろに話しかけます。
「お前はなぜそこにいる。」
魔界の皇子がまさかそこにいると思わなかった
その者は息を詰まらせました。
「何故って?皇子、これがオレたち悪魔の生業のひとつじゃありませんか?」
このまま今すぐにでも消されてしまうかも知れない。
気づかず同じ空間に入ってしまったことを後悔しました。
「このまま立ち去れ。」
「そんな!こいつは今までずっと探して続けてやっと見つけた上玉ですぞ。
皇子に譲れと言われればお譲りいたしますが。
しかし皇子がどうしてこんな所に。」
もちろんこのやり取りは
マツと少女には
聞こえもしなければ見えもしないのです。
少女が振り向いた時に
もし見えたとすれば
彼女はきっと腰を抜かすに違いないでしょう。
皇子は蝋燭の炎を消すように
口の前で人差し指の先に
そっと息をかけました。
その瞬間
少女の後ろについていた影は
諦めたように消えていきました。
値段のこともあり
今まで半信半疑で
俯いて椅子に座っていた少女は
突然身体が軽くなったような
頭痛が取れたような
不思議な感覚になり
表情が明るくなりました。
「ありがとうございます。」
少女は皇子に何度もお礼を言うと
店のドアを閉めました。
「何かよくわかんないけど
やったじゃん。スー。」
それから
三日間で十二体の悪魔を
皇子は追い払いました。
追い払われた悪魔からすれば
意味のわからない出来事でしたが
彼等にとって皇子は絶対的存在であったので
何も言えませんでした。
皇子は百円玉を十二枚もらいました。
部屋の使用料金は
三人のおばあちゃんたちが負担していました。
「そのお金でお母さんに何かお土産買ってあげな。」
最終日に
マツは商店街を案内し
皇子は母親に金平糖を買いました。
マツが見知らぬ少年を連れて歩いていたので
商店街ではちょっとした噂になってしまいました。
占いの館の占い師が
全快して仕事に復帰したのですが
口コミで広がった
『ミステリアスな少年占い師』
がひとり歩きし
お客さんから
「あの少年はいつ来るのか?」
と言われるばかりで
占い師はあまり良い気がしませんでした。
スーはひとまず魔界へと帰って行きました。
そんなある日
はなおばあちゃんが
街路樹周辺の草抜きをしていると
木の根元に
百円玉を一枚見つけます。
「みっちゃん、外に百円落ちてたの。」
正直なはなおばあちゃんは
拾って事務所に届けます。
その様子を
サーとシーは窓辺から見ていました。
「あの百円、スーがはなさんにって
置いて行ったのにね。」
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