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幽霊の出るホテル③あら、押しちゃった
しおりを挟む男は話し始めた。
出張の多いサラリーマンだったこと。
家にあまり帰れなかったので
だんだん家の中で居場所がなくなってきたこと。
働く自分のご褒美として
誕生日にここを予約したこと。
飲めないお酒を飲み過ぎて
思いがけず
この世の者でなくなってしまったこと。
お迎えがこの部屋に来たが
志し半ばで向こうに行けないと言ったら
「オマエは特別だ。猶予をやろう」と言われたこと。
「あの壁のボタンを見ろ。あれはオレがやり残したことを叶えたら
押すんだ。そうしたらあっちの世界に行けるんだ。」
男の指差した先には
この部屋には不自然な黒いボタンがあった。
「で、この世でまだやりたいことが、これなの?」
「つまんない男ね。」
「うるさい。黙れ。ちゃんと話を聞け」
男はもう一度家族に会いたかったが
人に見られると怖がられるので
出られなくなり
ここでコソコソいると。
「ちょっとはいい人だったのね。」
「コソコソしているうちに偏屈者になったのね。」
「幽霊なんだから、壁をすり抜けるとかできないの?」
「あっ、そうか。そうだね。」
男は幽霊になって初めて笑顔になった。
「ちょっとやってみるよ!」
そう言うと、壁の向こうに消えてしまった。
しばらくして
男は部屋に戻って来た。
「久しぶりに家族に会えたよ。会えたといっても
そばで見ただけだけどね。」
男は嬉しそうだった。
「私たちも少しはあなたのお役に立てたかしら?よかったわ。」
ナミが言った。
「じゃあ、もうこのボタン押しちゃっていいのか?」
マツが壁のボタンに手をかけようとしていた。
「あっ、ちょっと待って。オレはまだ」
何か言いながら男は消えてしまった。
「お姉ちゃん、ちょっと早かったんじゃないかしら?」
「あら、もう押しちゃったわよ。」
壁のボタンは消えていた。
「なんだ。こんなとこにいたんですか?そろそろ帰りますよ。」
レンと平次が部屋に入ってきた。
「平次さん、ここ買いましょう。破格のお値段なんでしょ?」
「私たちもまだまだ働けます。」
「幽霊なんて誰かの嫌がらせだったんじゃないの?」
「そうだといいですけど。」
こうして、破格のお値段で購入したのでした。
結婚後ずっと専業主婦だった平次の妻・トミも初めて働くことに。
改装の設計図は建築科を出たユウキが無料で担当しました。
ユウキと弟のマサキは小さい頃塾に行けなかったので
図書館に通い好きな本を読み漁っていました。
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