199 / 247
第一部
兄として、姉として【6】
しおりを挟む
「それなら、大丈夫です。子供の頃から、マキウスは嫌な時ははっきり嫌と言います。耳を触らせてくれたのだって、モニカさんを信じていたからです。耐えていたのは、そうですね……。モニカさんが側にいて恥ずかしかったからでしょうか」
「そうなんですか……?」
「私はマキウスではないので、これはあくまでも私の推測になりますが……。マキウスはああ見えて、恥ずかしがり屋なところがあります。好きな女性が目の前にて、緊張してしまったというのもあると思います」
「好きな女性ですか……。あの、お姉様……」
モニカは胸を押さえると、目を伏せながら口を開く。
「マキウス様はどうして、私のことを愛してくれるのでしょうか? マキウス様は、私が『モニカ』じゃないって話した時から、私を大切に想ってくれました。今では、愛しているとも……。それは、どうしてでしょうか?」
最初に、モニカじゃないと明かした時から、マキウスは「貴女の様な素敵な方を失わなくて良かった」と言っていた。
それからも、ことあるごとにマキウスはモニカに優しくしてくれた。
あれはどうしてなのだろう。
モニカじゃないと明かすまで、マキウスとはさほど、話していなかったのに。
「モニカさん」
ヴィオーラはモニカの両頬に手を添えると、歳の離れた弟妹を慰めるように優しく話し出した。
「何故、『花嫁』に選ばれることが名誉なのか、知っていますか?」
モニカの義兄のリュドヴィックが、モニカが幸せになることを願ったことで、モニカは「花嫁」に加えてもらうという名誉を賜ったという話は聞いていた。
ただ、なぜ「花嫁」に選ばれることが名誉あることなのか、その理由をモニカは知らなかった。
モニカが首を振ると、ヴィオーラは柔和な笑みを浮かべた。
「私たちカーネ族は、一度愛した者を生涯愛し続ける種族です。たとえ、死が二人を分かつことになっても……」
「そうなんですか……?」
「我が国はガランツスや他の国に比べて、昔から離婚率が低いと聞いています。それは、私たちカーネ族は、愛であれ、信頼であれ、一度、情を向けた相手を生涯大切に想い、忠順になる傾向があるからと言われています。モニカさんたちの様なユマン族は知りませんが、私たちカーネ族は好きな人が出来ると直情的になる傾向があります。その人に見て欲しい、好きになって欲しいと、その人だけを熱愛します」
気のせいだろうか。いつも以上に、ヴィオーラのアメシストの様な目が光り輝いているようにも見えた。
「それは相手が『花嫁』でも同じなんですか? カーネ族同士だけではなく?」
「ええ。よほどのことがない限り、国が迎え入れた『花嫁』たちも、夫から離縁されることや、国に帰されることもありません。
勿論、中には複数人の異性を愛してしまう者もいますが……それでも、皆、平等に愛そうとします」
流星群の日、マキウスも言っていた。「最初は『モニカ』も今のモニカも、平等に愛そうとした」と。
あれは、カーネ族特有の愛情だったのだろうか。
「何かきっかけはありませんか? モニカさんからマキウスにしたこととか」
「きっかけになるかはわかりませんが……この世界に来たばかりの頃、マキウス様が馬車事故の調査をしていて、帰宅が遅くなったことがありました。私はマキウス様が事故に遭ったとばかり思って心配して……」
この世界に来て、まだマキウスとさほど仲が深まっていなかったばかりの頃、馬車事故に遭ったと勘違いして、帰宅したマキウスに縋り付いてしまったことがあった。
きっかけになるようなことといえば、これくらいしか思いつかなかった。
この話を聞いたヴィオーラは、どこか意味深に頷いただけであった。
「そうなんですか……?」
「私はマキウスではないので、これはあくまでも私の推測になりますが……。マキウスはああ見えて、恥ずかしがり屋なところがあります。好きな女性が目の前にて、緊張してしまったというのもあると思います」
「好きな女性ですか……。あの、お姉様……」
モニカは胸を押さえると、目を伏せながら口を開く。
「マキウス様はどうして、私のことを愛してくれるのでしょうか? マキウス様は、私が『モニカ』じゃないって話した時から、私を大切に想ってくれました。今では、愛しているとも……。それは、どうしてでしょうか?」
最初に、モニカじゃないと明かした時から、マキウスは「貴女の様な素敵な方を失わなくて良かった」と言っていた。
それからも、ことあるごとにマキウスはモニカに優しくしてくれた。
あれはどうしてなのだろう。
モニカじゃないと明かすまで、マキウスとはさほど、話していなかったのに。
「モニカさん」
ヴィオーラはモニカの両頬に手を添えると、歳の離れた弟妹を慰めるように優しく話し出した。
「何故、『花嫁』に選ばれることが名誉なのか、知っていますか?」
モニカの義兄のリュドヴィックが、モニカが幸せになることを願ったことで、モニカは「花嫁」に加えてもらうという名誉を賜ったという話は聞いていた。
ただ、なぜ「花嫁」に選ばれることが名誉あることなのか、その理由をモニカは知らなかった。
モニカが首を振ると、ヴィオーラは柔和な笑みを浮かべた。
「私たちカーネ族は、一度愛した者を生涯愛し続ける種族です。たとえ、死が二人を分かつことになっても……」
「そうなんですか……?」
「我が国はガランツスや他の国に比べて、昔から離婚率が低いと聞いています。それは、私たちカーネ族は、愛であれ、信頼であれ、一度、情を向けた相手を生涯大切に想い、忠順になる傾向があるからと言われています。モニカさんたちの様なユマン族は知りませんが、私たちカーネ族は好きな人が出来ると直情的になる傾向があります。その人に見て欲しい、好きになって欲しいと、その人だけを熱愛します」
気のせいだろうか。いつも以上に、ヴィオーラのアメシストの様な目が光り輝いているようにも見えた。
「それは相手が『花嫁』でも同じなんですか? カーネ族同士だけではなく?」
「ええ。よほどのことがない限り、国が迎え入れた『花嫁』たちも、夫から離縁されることや、国に帰されることもありません。
勿論、中には複数人の異性を愛してしまう者もいますが……それでも、皆、平等に愛そうとします」
流星群の日、マキウスも言っていた。「最初は『モニカ』も今のモニカも、平等に愛そうとした」と。
あれは、カーネ族特有の愛情だったのだろうか。
「何かきっかけはありませんか? モニカさんからマキウスにしたこととか」
「きっかけになるかはわかりませんが……この世界に来たばかりの頃、マキウス様が馬車事故の調査をしていて、帰宅が遅くなったことがありました。私はマキウス様が事故に遭ったとばかり思って心配して……」
この世界に来て、まだマキウスとさほど仲が深まっていなかったばかりの頃、馬車事故に遭ったと勘違いして、帰宅したマキウスに縋り付いてしまったことがあった。
きっかけになるようなことといえば、これくらいしか思いつかなかった。
この話を聞いたヴィオーラは、どこか意味深に頷いただけであった。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私の旦那に手を出したなんて許さない
ヘロディア
恋愛
夫には、かつて一度浮気した経験がある。ー
最近、夫との折り合いが悪い主人公。かつての浮気相手と同じ職場であるという噂を聞きつけて、不安は増大していくー
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【本編完結・R18】旦那様、子作りいたしましょう~悪評高きバツイチ侯爵は仔猫系令嬢に翻弄される~
とらやよい
恋愛
悪評高き侯爵の再婚相手に大抜擢されたのは多産家系の子爵令嬢エメリだった。
侯爵家の跡取りを産むため、子を産む道具として嫁いだエメリ。
お互い興味のない相手との政略結婚だったが……元来、生真面目な二人は子作りという目標に向け奮闘することに。
子作りという目標達成の為、二人は事件に立ち向かい距離は縮まったように思えたが…次第に互いの本心が見えずに苦しみ、すれ違うように……。
まだ恋を知らないエメリと外見と内面のギャップが激しい不器用で可愛い男ジョアキンの恋の物語。
❀第16回恋愛小説大賞に参加中です。
***補足説明***
R-18作品です。苦手な方はご注意ください。
R-18を含む話には※を付けてあります。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。
石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。
ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。
ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。
母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる