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第一部

甘い読み聞かせ【3】

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「日々の生活や環境に問題があるわけではないんです。ただ、毎日同じことの繰り返しで、だんだん気が滅入ってきていたんです。
 鬱鬱とした気分になっていたと言えばいいのでしょうか……」

 人は同じことを繰り返すだけの日々だと、ストレスが溜まってきてだんだん気落ちしてしまう。
 最初はストレスフリーの生活を送っていても、やがてその生活の中で不安や心配を抱き、やがて気が滅入ってしまうという話を、御國だった頃に聞いたことがあった。

 モニカから詳細は聞いたマキウスは、顎に手を当てて、何やら考え込んでいるようだった。
 
「刺激ですか……。それなら」

 マキウスは呟くと、モニカの腰の辺りに腕を回すと、身体を引き寄せた。
 顔を近づけると、モニカの耳朶を甘噛みしたのだった。

「ま、マキウス様!?」
「じっとしていて下さい。顔が近いので、頭に声が響きます」

 眉間に皺を寄せたマキウスは、またモニカの耳朶を甘噛みした。

「ん~!」

 モニカは身を捩って離れようとしたが、マキウスの力はなかなか緩まなかった。
 諦めると、マキウスの気が済むまで、そのままにしておくことにしたのだった。
 
 マキウスとモニカがお互いの気持ちを告白した日から、このようにマキウスからモニカに甘えて、身体を密着させてくる日が増えたような気がした。
 モニカがマキウスの告白を受け入れ、またマキウスもモニカに無限の愛を囁くと宣言した通り、顔を合わせる度にこれまでなかなか見せなかった笑みを浮かべ、ところ構わず甘い言葉を囁き、口説いてくるようになったのだった。

 このマキウスの変わりようには、モニカだけではなく、使用人たちも驚愕していた。
 さすがにマキウスの乳母だったペルラの前では怒られるからか、控え目ではあったが、それでもモニカが照れてしまう様な言葉を囁いてくるのだった。

 それか、モニカから口づけされたのが悔しかったのか、男としてのプライドを傷つけてしまったのだろう。
 特にマキウスはニコラや使用人たちが居ない、二人きりになる夜に、こうして甘えてくることが多かったのだった。
 
「ん……」

 クチュと耳朶を吸われる音が聞こえてきて、心臓が飛び跳ねる。
 腰に回されたマキウスの腕に力が入る。ますます強く抱きしめられて、モニカの心臓が高鳴ったのだった。

 モニカ自身は恥ずかしいが、マキウスの話によると、これまではモニカが元いた世界に想い人がいると思って、ずっと我慢していたらしい。
 つまり、マキウスは随分前からモニカを好いてくれていたことになる。
 今のモニカと出会ってからは、さほど時間は経っていないはずだが、一体、いつからーー?

 耳朶から口を離したマキウスが、今度はうなじに口づけてきた。
 首筋に唇が触れた瞬間、びくりとモニカの身体に衝撃が走ったのだった。

「んっ! あっ……」

 マキウスの柔らかな唇がくすぐったくて、思わず声を上げたのだった。

「くすぐったいですか?」
「くすぐったいです……」

 首筋から口を離したマキウスが耳元で囁いてくる。
 蜂蜜の様な甘いテノールボイスに、耳まで真っ赤になりながら何度も頷く。
 すると、マキウスが漏らした小さな吐息が、モニカの耳元にかかったのだった。

「もっと、貴女の声を聞かせ下さい」
「えっ?」
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